ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~   作:S・TOM

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第27話 日の終わり

「えぇーーっ!?」

 

第二班達が凶暴化モンスターと八百禍津日神を討伐した夜。エリナの叫び声が部屋に響いた。

 

「マシロ! 貴女、今日パープルハート様と一緒に食事したの!?」

 

エリナは声を荒げ、テーブル越しに座っているマシロに問い詰める。パープルハートを心酔するエリナにとって、この事はとても看過できない物だった。

 

「ああ、したさ。それがどうした?」

 

「どうしたじゃないわよ!」

 

無愛想ながらもどこか誇らしげに答えるマシロ。それに対してエリナは興奮し、机をバンッと叩いた。

 

「貴女、指令でプラネテューヌから離れた街に行ったはずよね? それなのにパープルハート様と一緒だったなんてありえないわ!」

 

「パープルハート様も同行したからだ」

 

「ど、同行!?」

 

マシロの言葉にエリナはショックを受ける。身体をわなわなと震わせ、手を強く握りしめていた。

 

「ずるいわよずるいわよ! どうしてパープルハート様が貴女達と同行したの!? 私も行きたかったわ!」

 

「私に聞くな。こっちにも何故パープルハート様が同行してくれたのか分からないんだからな……というか喚くな」

 

子供の様にごねるエリナを見て、マシロはうんざりする。

 

「落ち着きなさい、エリナ。何もマシロはパープルハート様を奪った訳じゃないわ」

 

「楓……。そ、それもそうね」

 

二人の会話を隣で見ていた楓がエリナを宥める。

宥められた事で少し落ち着いたエリナは涙を拭い、椅子に座った。

 

「でも納得いかないわよ、マシロがパープルハート様と一緒に食事したなんて……私なんて身体を密着したり、一緒にお茶したり、抱きかかえられたりされただけなのに」

 

「……はっ?」

 

大いにズレたエリナの発言にマシロは呆然とする。そこまでやってまだ足りないのか……こいつ、パープルハート様の事となるとどうしてああもおかしくなるんだ?

 

「なら私が頼んでみようかしら」

 

頭を抱えるエリナに楓はそう提案した。エリナは目を丸くして、楓の顔を見つめる。

 

「楓? 今なんて……」

 

「私の方からお願いしてみるわ。大きいネプテューヌがパープルハート様と住んでるって言ってたから、彼女に聞いてみればパープルハート様に会えるかも」

 

楓は自分の端末をエリナに見せる。画面には大きいネプテューヌの名前が登録されていた。

 

「本当!? ……いえ、だからってパープルハート様のお仕事の邪魔をする訳にはいかないわ」

 

「それなら大丈夫よ。パープルハート様、明日は仕事無いって」

 

エリナは楓の言葉を聞いて、俯きかけた顔を上げる。沈鬱になっていた表情は明るくなり、嬉し涙を流していた。

 

「楓……!」

 

感謝の念を表し、楓の両手を繋ぐエリナ。愛しのパープルハートに会える様にしてくれる楓に、エリナは感謝しきれない程の想いを抱いた。

楓の方は少し戸惑っていたが、そっとエリナに微笑み返した。

 

「…………フン」

 

仲睦まじい雰囲気を漂わせる二人を見て、そっぽを向くマシロ。一見、不機嫌そうに見えるが、その表情は満更でもなさそうだった。

 

「本当にパープルハートの事が大好きなんだね、エリナ」

 

別のテーブルにいる白華が三人を見て呟く。白華の他に黒斗、アリス、ソルが同じテーブルに座っていた。

 

「エリナさんの信仰心は筋金入りだからな。女神の事で激昂した時のエリナさんは、それはもう凄まじい物です」

 

「怒った時のエリナさん、とても怖かったです……」

 

喫茶店での出来事を思いだし、怯えるアリス。間近で見たあの時のエリナは、アリスにとって軽くトラウマになりそうな物だった。

 

「キレたら手に負えねぇからな、あいつは。騒ぎを起こす前に抑えられたから良かったけどよ」

 

同じ喫茶店にいたソルが話す。ソルがエリナを静めたおかげで大事にはならず、エリナの方も喫茶店での出来事を忘れていた。

 

「もしソルさんがいなかったら、どうなっていた事やら……ところで、いつまで落ち込んでいるんですか? カイトさん」

 

黒斗は隣のテーブルに座る界人に見る。界人は目に見えて落ち込んでおり、深い溜息を吐き出した。

 

「今日の俺、全然ついてねぇ……」

 

「あぁ? カイトの奴、何をあんなに落ち込んでやがる?」

 

「カイトさん、ババ抜きで全敗した様なんです。それでああして落ち込んでるという訳です」

 

疑問に思うソルに黒斗が説明する。黒斗が抜けたあの後、界人は挽回できずそのまま負けてしまったのだ。その後もメンバーを入れ替えながらババ抜きに挑んだものの、一回も勝つ事ができなかった。その事でショックを受けた界人は自信を無くしてしまい、今に至っている。

 

「何回もやっててか? そりゃあ自信無くすぜ……」

 

理由を聞いたソルは界人に同情した。

落ち込む界人をじっと見ていた白華は立って、こっそりと界人に近づく。

 

「カーイトさん♪」

 

「うおおっ!?」

 

そして明るい声で名前を呼び、背後から抱き着いた。突然の出来事に界人は驚き、沈鬱な気分は一気に吹っ飛んだ。

 

「な、何だ! 何が起こってんだ!? 何か背中に、柔らかい物が!」

 

「駄目ですよーカイトさん。そうやって落ち込んでても良い事ないですよ?」

 

慌てふためく界人にはお構いなしに、白華は自分の身体を密着させた。白華の胸が界人の背中に当たり、それがさらに界人を混乱させる。

 

「この声、白華!? おまっ! お前なんで!?」

 

「何でって、カイトさんの元気な顔が見たいからですよ。いつまでも辛気臭い顔してたら、心まで暗くなっちゃいます」

 

界人の反応を楽しみながら白華は答える。界人に抱き着いた理由は彼を元気づけるためだった。

 

「だからっていきなり抱き着く事はないだろ! ちょっ、もういいから離れろ!」

 

「カイトさんの中の嫌な気分が消えるまで離しませんよ、ホラホラ~!」

 

界人は懇願するが白華はそう言って聞き入れない。白華の奔放さに界人は振り回されるだけだった。

 

「あ、あ……!」

 

「はうぅ、白華さん大胆……」

 

界人と白華を隣で見ていた三人。その内ソルとアリスは呆気にとられ、アリスに至っては赤面していた。

 

「相変わらず形振り構わないな、白華」

 

ただ一人、黒斗は動じないで二人を見つめる。その表情は段々と緩み、穏やかな笑顔を浮かべた。

あの様子だとカイトさんは大丈夫そうだな。白華に遊ばれる界人を見て、黒斗は安心した。

 

「カイトの野郎……う、羨ましすぎる」

 

「へえっ?」

 

「……何ですって?」

 

ソルが無意識に呟いた一言に黒斗とアリスが反応した。二人が自分を見ている事に気づき、ソルは咄嗟に咳払いして誤魔化す。

 

「ゴホンゴホン。……あんなに振り回されまくって、カイトの奴は大変だな」

 

そう言うものの、全然誤魔化せていなかった。

 

――――――――――――――――――――――

 

「隊長、プラネテューヌ周辺に派遣した諜報員の一人から目撃情報を得ました」

 

隊長室にて、レイがグラウトに報告する。

報告を聞いたグラウトは紅茶を飲み、一息ついてからレイを見た。

 

「何を目撃した?」

 

「ロボット、機体名〆タルギアです。森林……第二班とパープルハート様達が出動した市街地近くで目撃したそうです」

 

「市街地近く……」

 

グラウトは思考する。今回のモンスター襲撃、これは〆タルギアが率いて行った物だろう。

思えば何故、市街地の被害が少なく済んだのか。凶暴化モンスターは容易に対処できる物ではない。何重にも張った防衛網を容易に突破し、瞬く間に被害を広げる。本来なら街が壊滅しても可笑しくなかったのだが、〆タルギアが進撃を止めさせたのだろう。だとすると――

 

「あの襲撃は、特命隊をおびき寄せる罠だったのだろうか……」

 

そう考えると、パープルハート達が第二班と同行したのは幸運だった。

第二班はこう報告した。凶暴化モンスターの他に二体の八百禍津日神と遭遇した、と。もしもパープルハートが同行せず、第二班だけだったならばどうなっていた事か……。

 

グラウトは研究所のリストを手に取る。リストに記載された研究所の内、一件が〆タルギアを目撃した森林に建てられている事が記されていた。おそらく〆タルギアはここを拠点にしており、手近にあった市街地に襲撃をかけたのだろう。

 

「森林を調べる必要がある。諜報員に伝えろ、森の中にある研究所を探せと」

 

レイに命令すると身に着けている端末が鳴った。グラウト個人に対する電話だ。グラウトはおもむろに端末を取り出し、電話に出た。

 

――――――――――――――――――――――

 

森の中。日はとっくに落ち、空は黒く染まっている。その中で燃え盛る、焚き火の炎が一人の少女を照らしていた。金髪のツインテールに黒の軍服。そして右目に眼帯を付けているその少女は、携帯電話を耳に当て、相手が出るのを静かに待った。

 

「グラウト、久しぶりだな」

 

相手が出ると開口一番、少女は相手の名前を呼んだ。少女が電話をかけた相手はプラネテューヌに属する騎士、グラウトだった。

 

『お前は……セリスか?』

 

グラウトは少女の声を聞き、その名前を言う。少女の名は『セリス』。グラウトとは古くからの友人であり、ゲイムギョウ界を旅する冒険家である。

 

『一年ぶりだな。こうしてお前と話すのは』

 

「そうだな。すまない、長い間連絡を寄越さないでいて」

 

『構わないさ。お前なら心配ないと思っていたからな。もうすぐプラネテューヌに帰ってくるのか?』

 

「ああ、一通り各地を回ったからな。ネプテューヌ達の顔も見てみたい事だし、何より……モンスターが凶暴化しているそうだからな」

 

その一言から一転、セリスの表情が引き締まる。モンスター凶暴化の現象は既に、セリスの耳に入っていた。

 

『知っているのか、その通りだ。ゲイムギョウ界は今、かなり深刻な事態に陥っている。凶暴化現象のせいで尋常ではない数の重傷者が出ている』

 

「そうらしいな。数日前に立ち寄った村でも、凶暴化モンスターに襲われて怪我をした者が大勢いたからな。その時は私も戦ったが、モンスターの襲撃は三日間続いた物だ……思ったよりも厄介だ」

 

『今プラネテューヌでは、私主導で特命隊を結成している。それでも対処できるかどうかだ……凶暴化モンスターの他に八百禍津日神も出現している』

 

セリスの目つきが鋭くなる。八百禍津日神、上位危険種に分類されるモンスターだ。そんな物まで出現しているとは。

 

「そうか、分かった。できるだけ早く戻ってこよう」

 

『お前がいれば心強い、セリス。待ってるぞ』

 

グラウトとの通信が切れた。セリスは携帯をしまい、夜空を見上げる。無数の星が輝いており、その綺麗な景色がセリスを魅了した。

 

「……明日に備えて寝るか」

 

セリスは焚き火の炎を消し、木に吊るしたハンモックに預ける。そしてゆっくりと目を瞑り、そのまま深い眠りについた。




今回、初登場したオリキャラ
「セリス」はうる虎さん(ID:125970)
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