ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~   作:S・TOM

30 / 49
第28話 尾行

プラネテューヌの活気ある街並み。第三班のソルはカメラを手に、とある人物を尾行していた。

尾行と言っても、その相手が危険因子という訳ではない。指令という訳でもなく、ソル個人による尾行だった。

 

「よし、上手く撮れてるぜ……」

 

気付かれないよう、歩行者の中に紛れ、カメラで尾行している相手を撮る。

カメラに映る相手。小学生ほどの体型に長い黒髪。中性的で整った顔立ち。青のタンクトップにショートパンツというラフな服装。

名前は(おおとり)蒼依(あおい)。特命隊のメンバーで第一班の所属だ。

 

「撮ってねぇのはあいつだけだ。沢山撮ってやるぜ」

 

女子を盗撮する事はソルにとって日課だった。特命隊に入り、サクラ、凛、エリナ、マシロ、楓……と、周囲にいる女子は概ねカメラに収めた。

後は蒼依だけ。そう思っていたソルはこの日、街で蒼依を発見し盗撮に踏み切った。

 

「それにしても……あいつ、普段何やってやがる?」

 

蒼依の生活について、ソルは何も知らなかった。分かっているのは朝食を食べた後、寮から出ていって夕暮れには帰ってくる事のみ。外で何をしているかは分からず、帰ってきた後はすぐに部屋に籠ってしまう。この事から蒼依が普段、何をしているのかまったく分からなかった。

しかし今。蒼依を見つけた事でそれを知る事が可能になった。

 

せっかくのチャンスだ、これを思う存分生かしてやる。ソルは心の中でそう意気込んだ。

 

「ソルさん」

 

いざカメラを構えると、背後から声をかけられる。盗撮がバレたら不味い。急いでカメラを隠し、振り返るとそこには第二班の黒斗と第一班の焔がいた。

 

「なんだ、テメェらかよ……」

 

「なんだって何ですか……ところで、カメラで何を撮ってるんですか?」

 

黒斗に聞かれ、ソルは動揺する。しまった、見られてた。

 

「決まってるじゃねぇか。街の風景だよ、街の。俺はカメラで色んなのを撮るのが好きなんだ」

 

特に女子はな。ソルはそこまでは口に出さず、心の中で言った。

 

「そうなのか。ソルが撮る事が好きなのは薄々気づいてたけど、何で隠れてるんだ?」

 

焔が指摘する。ソルは今、郵便ポストに身を隠している状態だった。周りから見れば不審者であり、下手すれば通報されかねない。

 

「これが俺の捕り方だ。こうやると良いのが撮れるんだよ」

 

二人にそう言うものの、やや無理のある誤魔化し方だった。ソルはつくづく二人に見られた事を後悔する。

話を変えるべく、あれこれ考えていると二人が持っている給料袋に気づいた。

 

「それよりもお前ら、その給料何に使うんだ?」

 

「ああ、これか? 村に送ろうと思ってな」

 

焔が質問に答える。

 

「村……そういえばお前、どこから来たんだ?」

 

「俺か? まだ言ってなかったな。俺はルウィーの辺境にある村から来たんだ。村に人が少なくなってきて、限界集落みたいになっててな……それを止めるために特命隊に入ったんだ」

 

ソルに故郷の事を話す焔。その表情は決して暗くなく、むしろ明るかった。

 

「そうか……で? お前も何処かに送るのか? 黒斗」

 

「僕はずっと住んでた孤児院にですよ。経営が困難になっていたのでね、特命隊に入る事に決めたんです」

 

黒斗の話を聞いたソルは少し戸惑った。孤児院……黒斗はそんな所で過ごしてたのか。時々、暗そうな顔してたがそれも仕方ないのかもな。……いや待て。

 

「蒼依、あいつ何処行った?」

 

当初の目的を思い出し、ソルは蒼依を探す。なんてこった。二人に気を取られて蒼依を見失った。クソッ、何処行った?

 

「蒼依なら、あそこの商店街に行ったぜ」

 

焔は指をさし、蒼依を探すソルに行先を教えた。ソルはその方向を見ると一目散に走り出す。

 

「んじゃあ、俺はこれで行くぜ! テメェらも頑張れよ!」

 

そう言って走り去るソルを二人は無言で見送った。

ソルの姿が見えなくなってから数秒後、黙っていた黒斗が口を開いた。

 

「蒼依さん……でしたっけ。ソルさん、随分彼女に熱心でしたね」

 

「ああ、黒斗。その事なんだが――――」

 

――――――――――――――――――――――

 

場所は変わって、ゲームショップから二人の青年が出てくる。一人は第四班の界人、もう一人は第五班のノアだった。

 

「買った買った~! 噂には聞いてたけど、ゲイムギョウ界には色んなゲームがあるんだな!」

 

そう言って嬉しそうに袋の中をのぞき見る界人。袋には携帯機の箱と数本のソフトが入っていた。

 

「そりゃあ女神様が大のゲーム好きだからな。そのゲーム機だって、ルウィーの女神様が造った物なんだぜ」

 

「おいおい、マジかよ」

 

ノアの説明を聞いて界人は驚いた。知らなかった……まさか女神がゲーム好きで、ゲーム機も造ってるなんて。

 

「ああ。今まで何百個のゲームをやってきたけど、女神様が造るゲームは格別に面白かったぜ。カイトもプレイしたら絶対ハマるぜ」

 

「そうか。お前が言うなら間違いないな」

 

界人はノアの絶賛を聞き、プレイするのがますます楽しみになった。

そこへ偶然、蒼依が二人の前を通りかかった。

 

「おっ、おーい蒼依!」

 

気づいたノアは元気よく蒼依を呼んだ。

呼ばれた蒼依は振り向くと二人がいる事に気づく。

 

「ノア? それに……」

 

「カイトだ。そういえば、お前とは話した事なかったな」

 

ノアと一緒にいるのが誰か分からない蒼依に対し、界人が名乗った。

 

「蒼依、これから一緒にゲームやらないか? ゲーム機持ってないなら俺の貸すぜ」

 

そう言って蒼依を誘うノア。ゲームを通して仲良くなりたいというのがノアの考えだった。

 

「別にいい」

 

しかし蒼依はノアの誘いをアッサリ断った。

断られるとは思っていなかったノアは面食らってしまう。

 

「な、何で?」

 

「……ゲームなんかするよりも、木の下で風の音を聞いてる方が幸せだから」

 

蒼依はそう答えた後、二人の前から立ち去る。

その姿を見届ける界人。しばらくすると猛然と走るソルの姿が目に映った。

 

「おい、あれってソルじゃないか?」

 

界人が言うも返事は返ってこなかった。見るとノアは落ち込んでおり、その場にうずくまっていた。蒼依に断られた事に相当ショックを受けてる様だった。

それを見た界人は戸惑い、何て声をかければいいのか悩んだ。

 

「あーと、えっと…………ノア、一緒にゲームやろうぜ」

 

考えた末にかけた言葉はそれだった。

ノアは静かに頷いた。

 

――――――――――――――――――――――

 

いた、見つけたぞ。蒼依を見つけたソルは全力で追いかけていた。

ここで逃したらもうチャンスは無い。カメラの録画ボタンを押し、蒼依の盗撮を再開した。

 

「おっ、喫茶店か」

 

カメラに喫茶店が映し出された。外の席には数人の少女達が座っている。

そこで蒼依は薄紫の長髪の少女が座ってるテーブルに腰掛けた。

 

「……って!?」

 

蒼依と一緒に映る少女を見てソルは驚愕する。ピンクのストレートヘアに白のセーラー服……ソルはその姿に見覚えがあった。

 

「ね、ネプギアじゃねぇか!」

 

プラネテューヌの女神候補生、パープルシスターことネプギアだった。

ソルにとって、ネプギアは愛しの女神様だった。ラステイションでその可憐な姿に心を奪われ、以来ネプギアの事を片時も忘れる事は無かった。

そのネプギアが今、目の前にいる。ソルは驚きのあまり、頭の中が混乱してしまう。

 

「君は……蒼依君?」

 

ネプギアが隣に座った蒼依に驚く。

それを聞いたソルは引っ掛かりを感じた。

 

「蒼依君……だと?」

 

ネプギアはさっき、蒼依を君付けで呼んだ。蒼依は女だろ? それなのに蒼依君……蒼依君?

 

「ちょっとアンタ、何やってるのよ」

 

声をかけられたソルは我に返る。気がつけば喫茶店の前に立っており、堂々と姿を見せていた。

 

「お兄さん、誰ですか?」

 

「なになに~、どったの?」

 

何とかしようにも時すでに遅し。周りから注目され、ソルは頭の中が真っ白になりかけていた。マズイ、どうにかして誤魔化さねぇと。

 

「……ハハハ、この喫茶店良いな!」

 

窮地に陥ったソルは笑顔を作って誤魔化す。無理があるのは分かっているが、今はこの手しか無かった。

 

「ここの喫茶店、スイーツがとても美味くて人気なんだってな……特製パフェ一つ!」

 

「えっ、私の隣?」

 

さりげなくネプギアの隣に座り、パフェを注文した。何やってんだ俺。泣きそうなのを堪え、自分に声をかけた少女を見る。

茶色の長髪に双葉のリボン。黒のベアトップとショートパンツの上には青のロングコートを着ている。

そういえばあいつ、前にネプギアと一緒にいたっけな。名前は確か……アイエフ、だったっけな。

 

「あからさまに怪しいわね。まさかストーカーじゃないでしょうね?」

 

「いやいや、違うぜ。俺は蒼依がいたから寄っただけだ」

 

「あれ? お兄さん、蒼依君のお友達なんですか?」

 

もう一人の少女がソルに質問する。ピンクの髪に、セーターとスカートを着ていた。見るからにほわほわしてそうな雰囲気だった。

 

「その人はソルよ、コンパ」

 

ソルより先に誰かが答えた。聞き覚えがある声だった。

 

「私やマシロと同じ特命隊で、第三班に所属しているわ。ここに来るなんて珍しいわね」

 

見るとテーブルに座っている三人の内、二人がソルが知ってる少女だった。

茶髪のロングヘアが第四班のエリナ。濡れ羽色の髪にヘルメットが第二班のマシロだった。

 

「なぁんだ、不審者じゃなったんだね。何か怪しかったから通報しちゃおうかと思ったよ」

 

満面の笑みで恐ろしい事を言う、二人と一緒のテーブルにいる少女。紫髪のショートカットに十字の髪飾りが二つ。服はパーカーを着ていた。

ネプギアに似ているな。ソルは一瞬そう思ったが、その理由はすぐに分かった。

あの少女はネプギアの妹……ではなく姉だからだ。パープルハートことネプテューヌ。ソルがネプギアについて、自分で調べて知った事だ。

 

「ソルは私達の仲間なのでご安心を。……今のところは」

 

おい、それはどういう意味だ?

マシロにそう言いたかったが、直後に殺気立った目で威圧され、声を出す事が出来なかった。

エリナの方も表情こそ笑っているが、その目は険しい物だった。

 

「ソルさん、エリナさんとマシロさんのお友達なんですね。怪しい人じゃなくて良かったです」

 

「……いや、それでも怪しくない?」

 

エリナとマシロの表情を見て、アイエフが疑問を溢す。

 

「まぁまぁ、あいちゃん。別にいいじゃない。もしソルが何かしたら、皆で襲い掛かっちゃえばいいんだし」

 

「そうね、この人数なら楽に」

 

さっきからネプテューヌが恐ろしい事しか言っていない。会話を聞いていたソルは身体にとてつもない悪寒が走るのを感じた。

 

「大丈夫ですか、ソルさん? お姉ちゃん、そんな怖い事を言うのはやめてあげて!」

 

「そうですよ! あいちゃんもねぷねぷもやめるです!」

 

怯えているソルを見たネプギアとコンパが二人を窘める。

 

「ううっ……悪かったわね、ソル」

 

「いやぁ~ごめんごめん。冗談のつもりで言ったたんだけど、怖がらせちゃったね」

 

ネプテューヌとアイエフがそう言って謝るが、ソルはさっきの言葉が冗談に聞こえなかった。

 

「まぁ、別に気にしてねぇから……」

 

思う所はあるが二人に言葉を返し、気持ちを切り替えるソル。

蒼依の方を見ると周りを気にせず、黙々とパフェを頬張っていた。

 

「美味しい、ネプギアもどう?」

 

苺が乗っかった生クリームをスプーンですくい、それをネプギアへと差し出した。

 

「へっ? 蒼依君、恥ずかしいよ。皆が見てるのに……」

 

「大丈夫、ボクはそんなの気にしないから。食べて」

 

困惑するネプギアに対し、蒼依はスプーンをツンツンと突きつけて急かす。

 

「ボクっ娘か……可愛いじゃねぇか」

 

隣で見ていたソルは会話を聞いて、ボソッと小さく呟いた。

差し出されたスプーンを見つめていたネプギアは決心し、パクッと口に入れた。

 

「はあぁ~、甘くてとっても美味しい!」

 

ネプギアは生クリームと苺を口の中で味わうと輝くような笑顔を見せた。すると蒼依も笑みを浮かべ、互いに笑いあう。

二人の笑顔にソルは心を奪われ、我を忘れてじっと見ていた。

 

「おぉ~、これは甘々な展開になってきてますな~。……ちょっと複雑」

 

「パープルハート様、どうぞ召し上がってください」

 

ネプギアと蒼依を見てニヤニヤするネプテューヌ。

そして彼女にも、プリンがすくわれたスプーンが二つ差し出された。差し出したのはエリナとマシロだった。

 

「おい、エリナ。私がパープルハート様に食べさせるんだ。引っ込め、邪魔をするな」

 

「それはこっちの台詞よ。昨日だけじゃなく今日もパープルハート様とご一緒してる上に、食べさせようだなんておこがましいわ」

 

「もう~! 私のために争うのは止めてよ!」

 

プリンを食べさせる事を巡って、言い争いを始めるエリナとマシロ。

そこをネプテューヌが割って入り、言い争う二人を止めた。

 

「パープルハート様……」

 

「大丈夫、両方食べて上げるから!」

 

そう言ってネプテューヌは差し出された二つのスプーンを口に入れる。大好物のプリンをよく味わうネプテューヌは、幸せそうな表情を浮かべる。

 

「うん、エリナのもマシロのも美味しいよ!」

 

プリンを食べた後、エリナとマシロに満面の笑顔を見せた。

二人は驚くと同時に恥ずかしくなり、照れてそっぽを向いた。

 

「今度は私が食べさせてあげるね。はい、あ~んして」

 

お返しとしてネプテューヌはプリンをすくい、二人に差し出した。

それを見るなり二人は、

 

「私が先に食べるわ。貴女は後よ」

 

「おまっ、ふざけるな! 私が先だ」

 

「いいえ私よ。欲張るのは良くないわよ」

 

とまた言い争いを始めた。

 

「ねぷぅ! また始まったぁ!?」

 

ネプテューヌは驚き、二人の喧嘩を止めようとする。しかしその勢いはさっきより激しくなり、ネプテューヌの声は聞こえていなかった。

 

「お姉ちゃん!」

 

ネプギアが姉を助けようと席を立ち上がるが、蒼依が裾を引っ張って止めた。

 

「ここにいて、僕の側に居て」

 

「あ、蒼依君……?」

 

蒼依は顔を赤らめ、そっぽを向きながら懇願する。

それを聞いたネプギアは唯々戸惑うだけだった。

 

「……ねぷねぷもギアちゃんも、愛され過ぎてちょっと困っているですね」

 

「ちょっといいか?」

 

アイエフとコンパの元にソルが聞きに来た。蒼依についての事だった。

 

「コンパ、ネプギアもそうだが……何故あいつを蒼依君って呼ぶんだ? 女だろ、ボクッ娘だが」

 

「知らないの? 蒼依の事」

 

アイエフが聞き返す。知らない? どういうことだ? ソルは少し考えると、とても恐ろしい結論が頭の中に思い浮かんだ。

 

「蒼依君、女の子に見えますが実は男の子なんですよ」

 

……ソルにはコンパが言った事が信じられなかった。信じたくなかった。嘘だ。あんなに綺麗で可愛らしい奴が男な訳がない。

思い切って蒼依の方を振り向き、答えを聞く。

 

「蒼依……お前男じゃねぇよな? 女だよな? というか女だろ!」

 

「えっ? 僕は男だけど」

 

蒼依が答えた瞬間、ソルの中にある何かが音を立てて崩れた。

 

「…………ぁぁああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

全てに絶望した様な叫び声を上げ、喫茶店を飛び出すソル。街の中を必死で走り抜け、逃げる様に去った。

 

「……ソルさん」

 

一方、喫茶店にいたネプギア達は呆然としていた。誰も彼も走り去ったソルに驚き、言葉を発する事が出来なかった。

 

「はむっ……うん、最高」

 

その中で蒼依だけはソルを気にせず、マイペースにパフェを食べていた。




今回、初登場したオリキャラ
「鳳蒼依」は容疑者・山田健二さん(ID:45473)
が考えてくださいました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。