ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~   作:S・TOM

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第33話 モンスター殲滅戦3

「皆、教会へ避難して!」

 

アイエフは街で逃げ惑う市民を誘導していた。市民はアイエフの声を聞き、教会のある方角へ走る。モンスターがここに来ない内に、一人残らず誘導しなくてはならなかった。

 

「ショウ! ショウ!」

 

殆どが逃げる中、母親らしき女性が子供の名前を呼んで彷徨いていた。アイエフは母親に駆け込み、声をかける。

 

「何をしてるの!? 何時ここにモンスターが来るか分からないわ、襲われる前に今すぐ逃げなさい!」

 

「うちの子が迷子になっているんです! あの子を見つけないで私だけ逃げるなんて出来ません!」

 

迷子? まずい、こんな時に迷子なんて。母親の話に動揺するアイエフだが、すぐに落ち着いて決心する。

 

「そういう事なら尚更よ。もしここで母親が死ねば、子供はとっても悲しむわ」

 

「で、でも!!」

 

「子供の事は私達に任せて。必ず見つけるわ。だから教会へ避難して」

 

女性は不安そうな表情をするも、アイエフの言葉を聞いて教会へ逃げていく。

 

「アイエフ!」

 

突然、誰か名前を呼ばれた。危険を感じたアイエフは咄嗟にダガーを出し、振り向く。そこにいたのは見覚えのある人物だった。

 

「……トレビス、あなただったのね」

 

「そうだ、俺だ」

 

真っ赤な髪、黒のロングコート。一見不審に見える男は諜報員のトレビスだった。

トレビスの姿を見たアイエフは深呼吸し、ダガーを降ろす。

 

「ごめんなさい、モンスターの襲撃のせいで神経が過敏になっていたわ」

 

「いや、いい。こういう事は何度もあるし、この非常時だ。ナイーブになっても仕方ない」

 

アイエフに言った後、トレビスは微かな声で溜息をついた。

大勢の足跡が街の奥から響いてくる。もう来たか。二人は武器を取り出し、モンスターを待ち構える。

 

「来るわよトレビス、凶暴化モンスターの群れに戦えるかしら?」

 

「仕事上、危険な場面には何度も出くわしている。この程度はどうってことはない」

 

「そう、問題ないわね。なら行くわよ!」

 

街の奥からモンスターの群れが現れた。それを合図にアイエフはダガーを両手に駆け出し、トレビスは拳銃で狙いを定める。

 

――――――――――――――――――――――

 

迷子のなった子供、ショウは喫茶店の隅で震えていた。親とはぐれ、何処に行けばいいか分からない上、外には凶暴なモンスターがいる。今でもモンスターの咆哮が轟き、ショウを恐怖させる。

 

ママ、何処にいるの? 僕はここだよ、助けて。

 

そう思い続けるもママは来ない。ここには自分以外、誰もいない。それが自分が一人だという事を実感させ、ショウは押しつぶされそうになる。

 

お兄さん、どうしてるのかな。

 

ママの次に思い浮かんだのは。迷子になった自分を慰めてくれた金髪のお兄さん。頼りがいのある表情、はつらつとした声。あのお兄さんが声をかけてくれたおかげで、折れそうになったショウの心は救われた。

だが今、彼はモンスターが蔓延っている街の外に出ていってしまった。ショウをここに隠れさせて。

 

怖いよ、寂しいよ。涙がにじんてくる。このまま一人ぼっちになってしまうのだろうか。ショウにはモンスターよりもその事が一番怖かった。

 

――――ドオオオォォン!

 

何かがぶつかる音が聞こえる。まさかモンスターがここに来る? 嫌だ、あっちいって。ショウは陰に隠れて蹲る。

 

「――ここに手を出すな!」

 

勇ましい声がショウの耳に入った。まさかお兄さん? そっと陰から顔を出して見ると、金色のスーツを着たお兄さん、アルドがモンスターを押さえつけていた。

アルドは喫茶店からモンスターを押し退けると、無数のパンチをモンスターに叩き込む。その衝撃でモンスターは吹き飛び、瓦礫の中に突っ込んだ。

 

「うおおおおおぉ!」

 

次々と襲い掛かるモンスター。アルドはそれを返り討ちにして、ショウが隠れる喫茶店を死守する。入り込もうとするモンスターを見逃さず、行手を遮って追い払う。

たとえ何匹来ようと。たとえ強そうなのが来ようと。アルドは絶対に退かなかった。

 

「こっちだモンスター!」

 

アルドは喫茶店から注意を逸らすため、大声でモンスターを誘き寄せる。その声に応じて、モンスターの群れがアルドを追いかける。怒涛の如く喫茶店を横切るモンスターに気圧され、ショウは慌てて物陰に隠れた。

 

「はあああああぁっ!!」

 

アルドの力強い声が聞こえる。お兄さん、あの怖いモンスター達と戦っているんだ。そう思うとさっきまで抱いていた恐怖が薄れた。代わりに力強い気持ちがショウの中から湧き上がる。

 

頑張って、お兄さん! 怖いモンスターなんてやっつけちゃって!

 

「あっ、いたいた!」

 

声が聞こえた。それはモンスターのともお兄さんのとも違った、元気な女の子の声だった。

恐る恐る顔を出すと、黄髪のツーサイドアップに黄色のワンピースを着た、ショウと同い年ぐらいの少女がいた。よく見ると少女は仮面を被っている。

 

「君、怪我はない? ここはモンスターがいて危険だから、私と一緒に来なさい!」

 

「……誰?」

 

お兄さんと同じ感じ……。ショウは少女に聞く。

 

「私かい? 私はビー……いやいやいや! ゴホン」

 

少女はすぐに誤魔化し、再度名乗る。

 

「わた……我は正義のヒーロー、プレスト仮面!」

 

プレスト仮面、またの名をビーシャ。

英雄と呼ばれるゴールドサァドの一人であった。

 

――――――――――――――――――――――

 

セリスは息を切らしていた。ルーガスが次々と繰り出す凶暴化モンスターによる連戦で、休む暇もなく体力を奪われ続けていた。凶暴化と言っても一体一体はそれほど苦にならない。しかし絶える事のない物量攻撃により、たとえ倒せても劣勢に追いやられていた。

そしてそれはうずめとネプテューヌも同じだった。

 

「はぁ、はぁ……も、もう疲れたよ~」

 

「倒しても倒しても増える一方だ……やはりルーガスを叩かなくては!」

 

「卑怯だぞー! 正々堂々戦えー!」

 

ぜいぜいと喉を鳴らす三人をルーガスはあざ笑う。

 

「ヴァーーカ!! 戦いは勝つ事が全てなんだよ! 誰かお行儀よく戦うかっての! ぬるま湯に浸かってたテメェらにはそれが分からねぇみたいだなぁオイ!」

 

「……好き勝手言ってくれるな、腹立たしい」

 

「むぅ~! うずめはいっぱい苦労したもん!」

 

このままでは埒が明かない。三人はモンスターから距離を取り、作戦を考える。

 

「うずめ、ネプテューヌ。モンスターを相手にしていてもこちらが疲労するだけだ。この事態を打開するには、ルーガスを倒す他ない。何かいい策はないか?」

 

「いきなりそれ言われたって困るよ~……沢山のモンスターをドカーンと吹き飛ばせたらいいんだけどそんな事、私には無理だよ」

 

「……出来るよ」

 

うずめが呟く様に言った。モンスターを一掃する手段がうずめにあるのか。

 

「うずめ、出来るのか?」

 

「うん。うずめが本気を出せばあんなモンスターイチコロだよ。でも準備に時間かかっちゃうし、出した後は女神化が解けちゃうの」

 

「じゃあもし失敗したら私達、一貫の終わりって事になるね」

 

「そうだな……だが最早この手しかない」

 

意を決する三人。セリスとネプテューヌは前衛に立ち、うずめは後衛で必殺技の準備を始める。

 

「モンスターは倒さなくともいい。重要なのはこちらに寄せ付けさせない事だ。いいな?」

 

「イエッサー!」

 

「前に出過ぎるな。うずめの防衛を最優先にしろ。いいな?」

 

「イエッサー!」

 

「合図があったらすぐに離脱しろ。この三つが勝利への鍵だ。いいな?」

 

「イエッサー!」

 

「よし、では行くぞ!」

 

セリスとネプテューヌは一歩前に出て、向かってくるモンスターを迎え撃つ。

まずネプテューヌが拳銃で牽制し、そこへセリスが飛び出す。囮の意味も兼ね、出過ぎない程度に動き回り、モンスターの注意を引き寄せる。隙を見計らってセリスはナイフで攻撃し、モンスターから離れた。

 

「サウザントナイフ!」

 

セリスの後方に雷で形成されたナイフが無数に現れた。ナイフはモンスターに向けて一斉発射し、雷の刃で貫いていく。

 

「ガゴオオオオォォ!」

 

襲い掛かるモンスターが全滅すると、今度は他より一回り大きい獣が攻めてくる。フェンリルだ。他にモンスターがいないのを見て、セリスとネプテューヌは足並みを揃えて飛び出す。

双剣のネプテューヌがフェンリルの攻撃を防ぐ。その隙にセリスが懐へ潜り、両目を斬った。

 

「散れ!」

 

ナイフに雷を纏わせ、大きく振り払う。セリスの前に火花が散りばめる一線が描かれ、フェンリルは線に沿い綺麗に割れた。

 

「準備かんりょーだよ! 二人とも下がって!」

 

うずめが合図した。セリスとネプテューヌは迫り来るモンスターに目をくれず、素早く退散する。

うずめの左右には魔方陣が展開され、そこからオレンジ色のエネルギーが球体となって集まっていた。

メガホンを構え、うずめは深く息を吸う。

 

「わああああああああああああああああぁ!!」

 

メガホンからの叫び声と共に、集まったエネルギーがビームとして放たれた。そのビームはあまりに大きく、モンスターだけでなく街までも包み込んでいく。

 

「なんだ、あ――?」

 

勝利を過信し、三人を侮っていたルーガスはうずめが放った特大ビームを見て呆気に取られる。何が起こったのか、全然理解できなかった。

ルーガスは茫然と立ち尽くし、ビームの中に飲まれていった。

 

「……やったか」

 

目の前を覆っていたビームが消え、街の景色が再び眼に映る。荒れ果てた瓦礫の集まりには誰もいなかった。

モンスターも、ルーガスも。うずめの全力を込めた一撃によって全て消滅したのだった。

 

「よっしゃー! 私達の作戦勝ちだね!」

 

「あぁ……俺が身体を張った甲斐があったぜ」

 

全力を出しきったうずめは息を切らす。さっきの言葉の通り女神化は解け、いつもの男勝りな性格に戻っていた。

そんなうずめを見てセリスは微笑む。

 

「ふふっ、やはり敵わないな」

 

常日頃、鍛練を怠らなかったつもりだが、うずめ――女神はそれを更に上を行く。その事にセリスはちょっとした悔しさと安心感を感じた。

 

女神に手が届かないのは残念だが、それで良いのかもしれない。何故ならこのゲイムギョウ界を守り抜く女神なのだから。

 

「教会へ帰ろう。ネプテュ……いや、パープルハートに会わなくてはな」

 

「そうだな。俺達が倒した事を言って、海男やねぷっち達を安心させてやるか」

 

「それならこのねぷのーとで教会にひとっ飛びするよ~! セリスも寄って寄って!」

 

ルーガス達を倒し、役目を終えた三人は和気藹々として帰っていく。

 

 

 

 

 

 

 

…………はずだった。

 

「おい、待てよゴラ」

 

『!!?』

 

振り返る一瞬、常人より一回りも二回りも大きな握り拳が三人に下ろされる。

拳がぶつかると地面が砕け、至るところに岩の破片が散らばった。

 

「やってくれたじゃねぇか……死ぬかと思ったぞ。死なねぇけどよォ? この俺が死ぬかと思ったんだぜェ?」

 

「ルーガス……うっ!」

 

セリスは崩れ落ちる。途方もないダメージがセリスの身体に襲いかかった。うずめとネプテューヌを守るため、魔法で防壁を張ったが、とても防ぎきれる物ではなく、ルーガスの攻撃を一身に受けてしまったのだ。

 

『セリス!!』

 

「女神共が来てからなるつもりだったが……テメェらのおかげで気が変わったぜ」

 

「……ルーガス! その姿は!?」

 

二人はルーガスの姿に驚愕する。凶暴そうな形相の人間体から一変、真っ黒な巨人の物に変わっていた。そして深紅に染まる眼が三人を見下ろす。

今のルーガスの形相はまさに悪鬼だった。

 

「ぜってぇ~に殺す……テメェらを殺して、見せしめにその死骸を晒し上げてやるぜ!」

 

「うずめ! ここは逃げるよ!」

 

ルーガスを前にワープする時間はない。そう考えたネプテューヌは重症のセリスを担ぐ。

うずめも自分の頬をバシバシ叩き、活を入れる。

 

「……悔しいけど、今の俺に戦える力は残っていないか」

 

「逃がすかカスがァ!!」

 

ルーガスの拳が振り上げられた。二人は攻撃が来る前に走り出し、セリスを担いで逃げる。

三人が逃げる様をルーガスは嗤った。

 

「テメェらを殴る……と思うか? 違うね!」

 

三人にでは無く、地面に向かって拳を振り下ろした。拳は用意に地面を砕き、そこから発した衝撃波が三人を追いかける。

 

「あぶねぇ!」

 

今度はうずめが二人の前に立ち、迫り来る衝撃波を殴る。

殴られたそれは爆発を起こし、三人を吹き飛ばした。

 

「うあっ、あああああああ!」

 

二人と離れ、勢いよく地面に激突したうずめ。何とか立ち上がるものの、満身創痍になってしまっていた。

 

「おうおう、命懸けでお仲間を庇うなんて美しいなぁ~。仲間には手を出すな、か? ククク……」

 

ルーガスはうずめの方を向いて不敵に笑う。もはや戦える状態ではない。

 

「心配すんなよ……仲間にはすぐテメェの後を追わせてやるぜ!」

 

ルーガスは拳を振るった。

 

 

 

 

 

 

だが、それがうずめに届く事は無かった。

 

「――――何だとォ!?」

 

振るった拳がバラバラになり、 片腕を失った。

驚きと戸惑いが入り交じるルーガスだが、間髪いれずに明後日の方向へ吹き飛んだ。

 

「あいつら……」

 

その時、うずめは見た。

 

ルーガスの腕を微塵に切り刻む、グリーンハートの姿を。

ルーガスの腹に思いっきり大斧を叩き込む、ホワイトハートの姿を。

 

「クソが、何なんだよ今のは!?」

 

場所は離れ、予期せぬ攻撃を受けて吹き飛ぶルーガス。受け身を取って体勢を立て直し、見上げるとそこには四人の女神がいた。

 

「テメェがルーガスか。話に聞いていたのとは随分違うみたいだがな」

 

ホワイトハートが大斧を背負って呟く。コイツ……俺の腹をやりやがった。

 

「まぁいいじゃありませんか、ブラン。こうしてやっとボスと対面したのですから」

 

グリーンハートが槍を自在に回して睨む。お高くとまりやがって……ムカつくぜ。

 

「でもホント、しばらく見ない間に結構変わったわね~……大した事は無さそうだけど」

 

唯一面識があるブラックハートは以前と違うルーガスの姿をまじまじと見る。大した事がない? どいつもこいつも、さっきから図に乗ってんじゃねぇぞ。

 

「姿が違うのはどうでもいいわ……まさかここで会えるなんて思っていなかったわ」

 

四人の中から一人、前に出た。ここの女神だな。そうだ、コイツをぶっ殺すんだ。

ルーガスは斬られた片手を再生させ、殺気を漲らせる。

 

「初めましてね、ルーガス」

 

プラネテューヌの女神、パープルハートはそう挨拶をした。




ジマリスさんが第三班のサクラ・S・ハルケンを描いてくださいました!

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