ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~ 作:S・TOM
「うずめ、大丈夫!?」
傷だらけのうずめの元にネプテューヌが駆け寄る。うずめ、セリスと比べ、大した怪我は見当たらなかった。
「あ、あぁ……すまねぇ。俺が不甲斐ないばかりにこんな様だ」
「いや、不甲斐ないのは私だ」
セリスが言う。ルーガスの攻撃で大きく負傷した身体だが、精神力で何とか立たせていた。
「お前達を窮地に追いやったのは私の油断だ。もしあの時、気を抜いていなければ……」
「そういうのはどうだっていいよ! 二人とも、教会へワープするから捕まって!」
この危険地帯から二人を逃そうと、ネプテューヌはねぷのーとを開く。
しかし、うずめは立ち上がって静かに言う。
「お前らだけで逃げてくれ。俺は良い。ルーガスを倒し損ねた尻拭いをあいつらに任せる訳には――」
「はいはい! 良いから行くよ!」
「えぇっ!? ちょっと――」
有無を言わさずネプテューヌはうずめの手を掴み、三人で教会へワープした。三人が消えたそこには、大小の瓦礫だけが散らばっていた。
「随分と余裕だな~。アァ?」
一方、ルーガスと四女神。
ルーガスはにやけ面を浮かべ、四女神に言う。
「不意を突いた程度で勝った気でいるみてぇだが、俺はこの通りピンピンしている。テメェらの攻撃の痕なんざぁ残っちゃあいねぇ。これがどういう意味が分かるか?」
「倒すのが少し手こずるって事ね」
「ぶん殴る手間が増えただけで、結局雑魚に変わりねぇな」
「それをボスと呼ぶにはあんまりですわね」
ブラックハート、ホワイトハート、グリーンハートの三人は熟考し、それぞれ答えた。
その緊張を欠いた、小馬鹿にした物言いにルーガスは苛つく。
「ちげぇよ! 倒せねぇんだよ!」
声を荒げさせながら続ける。
「まだ分かんねぇのか!? うんざりするぜ、どいつもこいつもよォォ! 俺が本気出せばテメェらごとき――」
「勘違いをなされている様ですが――」
グリーンハートが遮った。
「私達はまだ全力を出していませんわ。先ほどの攻撃も言ってみればほんの小手調べ。それを知らずに勝ち誇るのは浅はかですわよ」
「……んだとォ?」
どこまで俺をコケにしやがるんだ?
わなわなと身体を震わせ、頭に血が上っていく。
今にも爆発しそうなルーガスを見て、今度はパープルハートが口を開く。
「ルーガス。もし本気を出していないのなら、今すぐ出しなさい」
真っ直ぐとルーガスを見据え、剣を構えた。
「私は頭に来てるの。大群を率いてプラネテューヌを襲った以上、容赦はしないわ。覚悟しなさい」
それが引き金となり、ルーガスの怒りが頂点に達した。
上等だ、やってやらァ!
「ガアアアアアアァァ!!」
拳を大きく振り上げ、パープルハートを殴りつける。
その攻撃は余りにも強く、広範囲の衝撃波が周囲を襲う。
「ウグッ……!?」
……衝撃波が止むと辺り一面はまっさらな跡地となり、建物などは完全に消えていた。
しかし、相手には通用しなかった。
パープルハートの剣がその拳を防ぎ、一ミリも動かなかった。
「グ、グウウゥゥ!!」
負けじと拳に力を入れるも状態は変わらず。
逆に一瞬の隙を突き、パープルハートが拳を弾き飛ばした。
「はぁぁぁぁ!」
動き出したパープルハート。怯んだルーガスに接近し、斬撃を繰り出す。
対するルーガスは崩れた体勢を立て直す。迫り来る斬撃を防ぐと、距離を置こうと空中に逃げる。
「私も忘れないで!」
空中にはブラックハートが待ち構えていた。
逃げてきたルーガスの顔面にドロップキックを喰らわすと、そこから力を入れて吹き飛ばす。
「グハッ……アマァァ!」
不意打ちを受けて憤るルーガス。ブラックハートに怒りをぶつけるべく、一直線に突き進む。
「……フン」
ブラックハートの大剣が七色に光る。
待ってました。そう言わんばかりに口元を緩ませ、ブラックハートは大きく大剣を振るった。
「トルネードソード!」
次の瞬間、とても強大な斬撃がルーガスを襲った。
斬撃が当たると身体の大部分が削り取られ、上下に二分される。
「オ、オォォォォ……」
大ダメージを受けたルーガスの口から黒い煙が吐き出される。ネガディブエネルギーね。それがあるのは前のエンシェントドラゴンで知ったわ。
ブラックハートは一気に方を付けるべく、ルーガスへと飛ぶ。
「来るんじゃねェ!」
ルーガスが離れた下半身を動かし、ブラックハートに蹴りかかる。蹴りが防がれる間、頭部を含む上半身を移動させて地上へと降下する。
「この程度……俺にはァ!」
削られた下半身を再生させ、ダメージを回復する。
ふざけた事しやがって……。下半身を切り捨てたブラックハートを見上げ、高く飛び上がろうとした。しかし――――
「ウオアァァ!?」
まるで地面に打ち付けられたかのごとく、足がぴくりとも動かず、失敗した勢いで転倒してしまった。
見ると足に氷が張り付いていた。直ぐに抜こうとするも強度が強く、びくともしない状態になっていた。
「な……何だこりゃァ!?」
「おぉうりゃあぁぁ!!」
荒々しい雄叫び声を聞き、顔を上げると同時にホワイトハートの鉄拳がルーガスの頭に叩き込まれる。
「まだだ!」
ホワイトハートは大斧を持ってルーガスを打ち上げる。強い一撃をもらい、宙に浮かぶルーガス。ホワイトハートはそれを追尾すると、今度は地面へ強く打ち落とした。
「この程度じゃあ私の怒りは治まらねぇ!!」
凶暴化の事象もあり、ホワイトハートはキレていた。
大斧を勢い良く振り下ろし、地面にめり込んだルーガスに追い打ちをかける。衝撃で地面は崩れ、ルーガスはさらに深くめり込んでいく。
「アガァァァ……クソォ!」
痛みに耐え、地面に向けてエネルギー弾を放つルーガス。その反発を利用して地面から抜け出し、空高く飛躍した。
「ハァ、ハァ……ッ、次はテメェか!」
向かってくる女神の存在に気づき、その方向へ振り向く。グリーンハートだった。得物の槍を持ち、超音速でルーガスに接近していた。
「バカが……お見通しなんだよ!」
ゆっくり構えを取り、近づくグリーンハートを待ち構えるルーガス。
そして至近距離まで近づいた時、二人は同時に攻撃に移った。
「はあああぁぁ!」
「ぶっ潰れろォォォ!」
槍を振りぬくより先に、ルーガスの拳がグリーンハートに付着した。
仕留めた、ざまあみろ。攻撃を当てたルーガスはそう確信した。
「――甘いですわよ」
しかし、そのグリーンハートは残像だった。
質量を持たない像に拳は当たらない。気を抜いたルーガスは攻撃が空振りし、大きくよろけるのだった。
「ぬおっ、おぉぉ……?」
そして本物はルーガスの真上を飛び、瞬間、槍で頭を縦に切り裂いた。
「怒っているのは私もですわ!」
飛び超えたグリーンハートはすぐ次の攻撃に移る。
槍を持ち直し、狙いを定め、背後からルーガスに突きを繰り出す。
「グオ、オオオオォォォ……」
何回も、何十回も連続し、胴を貫かれる。馬鹿な。こんなはずは。苦しげに呻くルーガスの思考はそれらに押しつぶされていった。
思考停止に追い込まれていくルーガス。そこへグリーンハートが突きの手を止め、目の前に瞬間移動した。
「逃れる事は出来ませんわ!」
満身の力を槍に込め、縦、横と十字に薙ぎ払った。それがグリーンハートがルーガスに放った、会心の斬撃。
「グアアアアアァァ!」
斬撃の余波で発される衝撃波。ルーガスは衝撃波によって派手に吹き飛び、地面に叩きつけられた。
激しく横転し、倒れこむルーガス。今まで受けたダメージを回復させ、起き上がるも息を切らしていた。
「ゼェ……ゼェ…………クソッタレがあああぁぁ!!」
逆上し、猛獣の様な雄叫びと共にドス黒い靄を四方八方に放出した。
その靄は徐々に広がり、プラネテューヌ全体へと流れこもうとする。
「ルーガスの奴、完璧にキレたみたいね」
黒い靄から離れ、四女神が一ヶ所に集まる。
ルーガスは自身が放出した黒い靄の中に包まれ、姿を隠していった。
「思った以上にやるわね。私達の攻撃に耐えるなんて……ちょっとびっくりしたわ」
「ですがネプテューヌ、倒せない敵ではないのは変わりませんわよ」
「ああ、その通りだ!」
四女神は一斉に武器を構えた。黒い靄に紛れるルーガスをしっかり見据え、パープルハートは言う。
「ここから一気に決めるわ。皆、いいわね?」
「当然!」
「言うまでもねぇ!」
「無論ですわ!」
ブラックハート、ホワイトハート、グリーンハートが飛び出し、パープルハートも後に続いて出撃した。
四女神の身体が輝き、光の軌跡を描く。人々からの信仰を力に変えた、シェアエネルギーだ。ルーガスを倒すべく、シェアエネルギーを開放した四女神は黒い靄へと突撃する。
ブラックハートの剣さばき。
ホワイトハートの斧技。
グリーンハートの槍術。
それらの攻撃からシェアエネルギーが流れ、黒い靄を綺麗に掻き消していく。
そうして三人が切り開いた道をパープルハートが進む。
「覚悟!」
ネガティブエネルギーが最も濃い位置にルーガスがいる。
パープルハートは片を付けるべく、さらに加速してその塊に近づいた。
「くたばれェェ!」
靄を突き抜け、暗黒色の特大ビームがパープルハートを呑み込む。
そこから爆風が起こり、散っていく靄の中心にルーガスが腕を突き出して立っていた。
「油断したな単細胞! 最後の最後で勝ったと思ったのがテメェの死因だ!」
ビームが当たった場所から吹き上がる煙幕を見て、ルーガスは心の底から笑う。
「ッハッハッハッハ! 笑いが止まらねぇ! 馬鹿正直に突っ込んできたおかげで楽に殺せたからなァ! これで残るは――――」
パープルハートが輝きを放ち、煙幕の中から現れた。
ルーガスがそれに気づいた時には、既に目と鼻の先に位置していた。
「ネプテューンブレイク!」
刹那。無数の斬撃がルーガスを襲った。
巨体は四散し、その小さな一片一片が黒い靄を出して散る。
「アガッ……そ、そんな――」
その呻きを最後に、ルーガスはシェアエネルギー中に消えていった。
「最後の最後で油断したのは、あなたの方だったわね」
一息をついて、誰もいなくなった場所を見つめ、パープルハートは言った。
「やっとくたばったな」
ルーガスとの決着が終わり、ホワイトハートが最初に口を開く。
「思ったよりしぶとい野郎だったぜ。私達の全力全壊を食らってもピンピンしてられるなんてな」
グリーンハート、ブラックハートも続く。
「確かに、生命力はモンスターの比ではありませんね。私一人では倒せなかった……とまでは行きませんが手間取るのは確実でしたわ」
「ホント、しつこい奴だったわね。けど倒しちゃえば何て事はないわ」
「そうね。けれど、ルーガスを倒せたのは貴女達のおかげよ。ありがとう、ノワール、ブラン、ベール」
パープルハートのお礼に三人は笑って返した。
「――さて」
これで終わりな訳ではない。
四女神は気を引き締め、来た道を振り返った。
建物の残骸が並ぶあそこでは、まだ
「私達も行って、市民を安心させないといけないわね」
パープルハートの一言を皮切りに、四女神は街の中心部へ飛び立った。
次回で一章が終わります。