ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~ 作:S・TOM
「お疲れ様でした!」
八月の午後八時。夏の太陽がぎらぎらと輝き、街を熱く照らしていた。
今年の春、高校を卒業した界人は運送業の会社に入社した。先輩と一緒にトラックを走らせ、様々な場所に荷物を送り届けていた。
そして運送業の仕事を順調にこなし、二日間の休みを貰った。
「おう、お疲れさん。明日明後日、お前は休みだからしっかり休んでこいよ」
「はい! 俺はこれで帰ります!」
先輩と別れた後、会社を出て帰路につく。街は未だに賑やかで、人の姿があちこちに見えていた。この街が静まり返るにはもうしばらく、時間がかかるだろう。
「ただいま~」
歩いて十数分。界人は住宅街に建つ自分の家にたどり着いた。
玄関の戸を開けて、家の中に入ると騒がしい音が界人の耳に入り込む。通りかかったリビングを見てみると、四つ年下の弟がテレビゲームにのめり込んでいた。
「よっ、晴人。こんな時期にゲームなんてしてて大丈夫か?」
「煩いなぁ。兄ちゃんだって遊び呆けてただろ?」
界人の言葉にうんざりした様に答える弟、晴人。界人の四つ年下の中学三年。現在受験に向けて勉強中……の筈だがほっぽりだしてゲームに夢中になっていた。
まっ、晴人なら大丈夫か。界人は持ち前の楽観思考を発揮し、特に咎めずリビングを通り過ぎた。
「そうだ、久し振りに晴人とゲームするか」
唐突に界人はそんな事を呟いた。
※
自分の部屋に戻った界人はベッドに寝転がる。部屋の中は物が乱雑し、まったくといいほど整理されていなかった。
いい加減、部屋を片付けよう。そう思うも仕事の疲れがあって片付ける気になれなかった。
「ふぁぁ~……眠くなってきた……寝るかぁ」
スマホが音を立てて振動する。
眠りにつこうとした界人はバイブレーションに眠気を吹き飛ばされた。完全に目が覚め、直ぐにスマホを取って通話に出る。
「はい、もしもし…………お前か。ひさしぶりだなぁ~!」
相手の声を聞いた界人の顔が綻ぶ。高校の頃に仲良くしていた友人だった。
数ヶ月ぶりに会話した友人と一緒に、界人は高校時代の思い出話で盛り上がった。高校で初めて出会った事。家で集まって徹夜で遊びまくった事。どれもこれも、界人にとって忘れられない良い思い出だった。
「……えっ? 明後日の日曜空いてるかって?」
思い出話で盛り上がった後、友人から遊びの誘いが来た。今はもう夏休みの時期。大学が休みになったので皆を誘って遊びに行こうという事だった。
場所は今月開設された遊園地。日程は明後日の日曜。
「おう良いぜ! こっちもちょうど休みなんだ!」
その誘いを受けて、界人は喜んで承諾した。
※
「みんな揃ったね、それじゃあ入ろっか!」
遊園地の入口付近。集まった八人の中からツーサイドアップの少女が元気な声で入口を通った。
「よっしゃー! 今日は思いっきり遊ぶぞー!」
「いつになっても騒がしいな……やれやれ」
眼鏡をかけた長身の男が静かに笑い、綾音の後に着いていく。
「遊園地って言ったらやっぱあれでしょ! 乗ろうよ皆ー!」
そういって綾音が指したのはジェットコースター。定番中の定番だ。それを見て綾音の様にはしゃぐ者がいれば戸惑う者もいる。
「じぇ……ジェットコースター……私、苦手なんですけど」
綾音に対して不安ありげに言う眼鏡でボブヘアーの少女。
「そんな事言わずに! 部屋で漫画書いてばっかじゃ身体に悪いよ!」
「漫画は関係な――きゃあっ!?」
綾音に引っ張られ、桐依はジェットコースターへ連れていかれる。
「ひゃっほぉぉぉぉーー!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁーー!!」
全員でジェットコースターで乗った結果。楽したり悲鳴を上げたり動じなかったりと様々だったが、特に綾音と桐依はひとつ抜けていた。
前者はエキサイトし奇声を、後者は恐怖の余り悲鳴を最初から最後まで上げていた。凄い二人だ。
「ね? 楽しかったでしょ?」
「あ、あっ……異次元に飛んだ様な感覚でした」
持ち前の明るさでエキサイトする綾音とそれに振り回される桐依。
正反対な二人だが、仲はとても良かった。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫……うぷっ、じゃない。すまん」
一方、寄ってしまった総一朗は急いで公衆トイレに駆け込んだ。そういえばあいつ、乗り物酔いしやすいタイプだったな……。界人は思い出して笑った。
※
「うりゃああああ!」
バッティングセンター。バットに打たれたボールが気持ちの良い音を出して高く飛ぶ。
「ホームラン! よぉし、これで五回目!」
野球が好きで、腕もホームランを数度となく打てるほど。
「よし……うりゃ!」
界人がホームランを打つべくバットを振るう。しかしボールはかすりもせずにカイトの横を通り過ぎた。
「おいおい、さっきから全然当たってねぇじゃねぇか!」
「はははは、仕事仕事で野球とかやってなかったからな……渉は今もやってんのか?」
「当たり前だろ、っと!」
射出されたボールを正確に打つ。またしても高く飛び、六回目のホームランを出した。
「暇さえありゃ家でもバット振ってるぜ。仕事は大変だがこれを欠かした事はねぇ。気持ちいいしな」
「そうか……ふっ、お前はそうだったな」
「俺の事はいいんだよ! 今はお前の事を言ってるんだぜ、界人! 一回でもホームラン出さねぇと帰さねぇぞ」
「うわっ、それマジか! ……来た!」
痛快な音が鳴り響く。界人が打ったボールが空高くへ飛んだ。
言ったそばからホームランを打ち出した事に渉は呆気にとられるが、一番驚いているのは打った界人本人だった。
「おまっ……す、すげぇな!」
「いや、渉ほどじゃねぇよ」
謙遜こそするものの、界人は少し自慢げに笑った。
※
「期間限定、超激辛カレー……ですか」
食堂前の立て看板を見て綺麗な長髪の少女が呟いた。
……そして渉が卒業できたのは彼女のおかげで言って良いだろう。
「この夏ピッタリ、辛さの限界に挑戦してみよう……カ。どこがぴったりダ?」
金髪ロングの少女が容赦なく言い放つ。
セーラ・タンストール。海外から引っ越してきた少女であり、自由気ままな性格。猫が好きであり、持ち物にはいつも猫のアクセサリーを付けている。
ちなみに今、身に着けているパーカーも猫耳仕様である。
「挑戦します……超激辛カレー、必ずや完食して見せましょう!」
「オォ、やる気だナ。ガンバレー」
拳を握りしめて意気込む沙織と、ニヤニヤと面白そうに応援するセーラ。
さっそく注文し、テーブルの上でカレーと対峙する。
「……いただきます」
静かに手を合わせ、まず始めに一口目を食べる。
スプーンですくったカレーを口に含んだ瞬間、沙織の目が見開いた。
「~~~~~~~~!!」
辛い、何という辛さだ。
尋常でない辛さに身体が震えだし、苦しむ沙織。
その苦しみに何とか耐え、ごくりと飲み込んだ。
「ふぅ……」
一息つき、二口目。やはり悶えるが、さっきまでの苦しさはない。そのため一口目よりも速く、カレーを喉奥に押し込んだ。
「サオリの奴、えらくガンバってるナー」
悪戦苦闘する沙織を見て、セーラは他人事の様に呟く。
三口目、四口目。辛さに適応してきたのか、段々と飲み込むペースが上がっていく。
そして五口目には難なく食べられるようになっていた。
「……ご馳走さまでした」
完食。
超激辛カレーを食べきった沙織は手を合わせ、宣言した。
「オオ、まさか食べきるなんて思ってなかったゾ。凄いナー」
セーラが拍手し、沙織を誉める。それを受けてか、沙織の顔が少しだけ赤くなっていた。
「おかわり、よろしいでしょうか?」
「……サオリのその食欲が、時々羨ましくなるヨ」
しばらくして、沙織の横には数枚の皿が重ねられていた。
※
「はぁ~、今日は楽しかったね!」
夕方。遊園地を遊びつくした綾音は満足そうに言った。
その笑顔はとても元気そうで、まるで太陽の様だった。疲れがまったく見えず、むしろまだまだ遊び足らなそうだ。
「はぁ……はぁ……つ、疲れましたね、今日は」
桐依の方は綾音に振り回されていたからか、息を切らしていた。
まったく、綾音とは正反対だった。
「渉は凄かったな、ホームランを何本も打っちまうからな~」
「なに言ってやがる、あれぐらい出来て当然だろ」
「サオリも凄いゾー。超激辛カレーを十皿を平らげたんだからナー。流石はピンクの悪魔」
「その渾名で呼ぶのは止めてください! ……恥ずかしいですから」
そう言って沙織は持っていたカレーパンを一気に食べる。
見かけからは想像つかないが、沙織は大食いだった。
「はははは、皆を呼んだ甲斐があったよ」
その風景を見て地味目の男が微笑んだ。
現在は夢に向かって日々勉強中との事。
「ねぇねぇ! 今度は皆で海行こうよ!」
「う、海ですか!?」
「海……そうだな。遊園地とは違ってとても落ち着けそうな所だ」
綾音の提案に総一郎が乗った。
そう言えばあいつ、姿を余り見てなかったな……。界人は思った後、海の風景を想像する。
「分かった。じゃあ皆の都合がいい時に行こう。いつ行けるか教えてくれ」
拓也は皆に聞き、予定を立てる。
……時々、無性にあいつが羨ましくなる。界人は一瞬、羨望の目で拓也を見ていた。
※
「ふぅ、疲れた~!」
帰宅。自分の部屋に戻った界人はさっそく、ベッドに飛び込む。
今日は楽しかった。半年ぶりに友人に会えたし、遊園地のアトラクションも楽しかった。
そして次は海だ。予定が決まったらまた連絡すると拓也は言っていた。何時になるやら、とても楽しみだ。
「……ん、んん」
眠気が来る。一日中遊んだ疲れからか、すぐにでも寝てしまいそうだった。
寝よう。また明日から仕事だ。
界人は瞼を閉じ、眠りについた。
※
「ふぁぁぁぁ~……?」
ふと、目が覚めるとカイトは寮の中にいた。二段ベッドから降り、隣を見るとデビッドがいびきをかき、まだ寝ていた。
「……夢か」
そう、夢だった。カイトがさっきまで見ていたのは、ゲイムギョウ界に来る前日の出来事だった。
思い出せば自分の部屋で疲れて眠りにつき、目が覚めたらいつの間にか、バーチャフォレストにいたのだった。
「…………どうなっているかな」
カイトは元居た地球の事を思い浮かべる。あいつら、今なにしてるかな。仕事の方は大丈夫かな、何日も休んじゃってるし。
「あら、起きていたのね」
扉が開いて、エリナが部屋に入ってきた。
そう言えばとまだ思い出す。戦い方がなってない界人を見かねたエリナが、毎日早朝に特訓する事に決めていた。特訓は厳しいものの、そのおかげで戦い方が身に着き、段々と強くなっていくのが手に取る様に分かった。
「貴方を起こしに来たけど、どうやら必要なかったみたいね。さぁ、今日も特訓行くわよ」
「……あぁ」
まぁ、何とかなるさ。
持ち前の楽観思考を発揮し、カイトは特訓に励んだ。