ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~   作:S・TOM

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第一章、これにで終了です。


番外編2 ゲイムギョウ界に来る前

「お疲れ様でした!」

 

 八月の午後八時。夏の太陽がぎらぎらと輝き、街を熱く照らしていた。

 今年の春、高校を卒業した界人は運送業の会社に入社した。先輩と一緒にトラックを走らせ、様々な場所に荷物を送り届けていた。

 そして運送業の仕事を順調にこなし、二日間の休みを貰った。

 

「おう、お疲れさん。明日明後日、お前は休みだからしっかり休んでこいよ」

 

「はい! 俺はこれで帰ります!」

 

 先輩と別れた後、会社を出て帰路につく。街は未だに賑やかで、人の姿があちこちに見えていた。この街が静まり返るにはもうしばらく、時間がかかるだろう。

 

「ただいま~」

 

 歩いて十数分。界人は住宅街に建つ自分の家にたどり着いた。

 玄関の戸を開けて、家の中に入ると騒がしい音が界人の耳に入り込む。通りかかったリビングを見てみると、四つ年下の弟がテレビゲームにのめり込んでいた。

 

「よっ、晴人。こんな時期にゲームなんてしてて大丈夫か?」

 

「煩いなぁ。兄ちゃんだって遊び呆けてただろ?」

 

 界人の言葉にうんざりした様に答える弟、晴人。界人の四つ年下の中学三年。現在受験に向けて勉強中……の筈だがほっぽりだしてゲームに夢中になっていた。

 まっ、晴人なら大丈夫か。界人は持ち前の楽観思考を発揮し、特に咎めずリビングを通り過ぎた。

 

「そうだ、久し振りに晴人とゲームするか」

 

 唐突に界人はそんな事を呟いた。

 

 

 自分の部屋に戻った界人はベッドに寝転がる。部屋の中は物が乱雑し、まったくといいほど整理されていなかった。

 いい加減、部屋を片付けよう。そう思うも仕事の疲れがあって片付ける気になれなかった。

 

「ふぁぁ~……眠くなってきた……寝るかぁ」

 

 スマホが音を立てて振動する。

 眠りにつこうとした界人はバイブレーションに眠気を吹き飛ばされた。完全に目が覚め、直ぐにスマホを取って通話に出る。

 

「はい、もしもし…………お前か。ひさしぶりだなぁ~!」

 

 相手の声を聞いた界人の顔が綻ぶ。高校の頃に仲良くしていた友人だった。

 数ヶ月ぶりに会話した友人と一緒に、界人は高校時代の思い出話で盛り上がった。高校で初めて出会った事。家で集まって徹夜で遊びまくった事。どれもこれも、界人にとって忘れられない良い思い出だった。

 

「……えっ? 明後日の日曜空いてるかって?」

 

 思い出話で盛り上がった後、友人から遊びの誘いが来た。今はもう夏休みの時期。大学が休みになったので皆を誘って遊びに行こうという事だった。

 場所は今月開設された遊園地。日程は明後日の日曜。

 

「おう良いぜ! こっちもちょうど休みなんだ!」

 

 その誘いを受けて、界人は喜んで承諾した。

 

 

「みんな揃ったね、それじゃあ入ろっか!」

 

 遊園地の入口付近。集まった八人の中からツーサイドアップの少女が元気な声で入口を通った。

 

 一二三(うたたね)綾音(あやね)。活発な性格で身体を動かすのが大好き。運動神経が抜群であり、大学ではバレー部に属している。

 

「よっしゃー! 今日は思いっきり遊ぶぞー!」

 

「いつになっても騒がしいな……やれやれ」

 

 眼鏡をかけた長身の男が静かに笑い、綾音の後に着いていく。

 

 梅原(うめはら)総一朗(そういちろう)。頭脳明晰で落ち着いた性格。現在は経済学という物を学んでおり、夏休み中も猛勉強している模様。

 

「遊園地って言ったらやっぱあれでしょ! 乗ろうよ皆ー!」

 

 そういって綾音が指したのはジェットコースター。定番中の定番だ。それを見て綾音の様にはしゃぐ者がいれば戸惑う者もいる。

 

「じぇ……ジェットコースター……私、苦手なんですけど」

 

 綾音に対して不安ありげに言う眼鏡でボブヘアーの少女。

 

 高橋(たかはし)桐依(きりえ)。温和で礼儀正しい性格の一方、ちょっととした事で怯える小動物の様な一面を持つ。漫画家を目指しており、漫研部に属していた事もある。

 

「そんな事言わずに! 部屋で漫画書いてばっかじゃ身体に悪いよ!」

 

「漫画は関係な――きゃあっ!?」

 

 綾音に引っ張られ、桐依はジェットコースターへ連れていかれる。

 

「ひゃっほぉぉぉぉーー!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁーー!!」

 

 全員でジェットコースターで乗った結果。楽したり悲鳴を上げたり動じなかったりと様々だったが、特に綾音と桐依はひとつ抜けていた。

 前者はエキサイトし奇声を、後者は恐怖の余り悲鳴を最初から最後まで上げていた。凄い二人だ。

 

「ね? 楽しかったでしょ?」

 

「あ、あっ……異次元に飛んだ様な感覚でした」

 

 持ち前の明るさでエキサイトする綾音とそれに振り回される桐依。

 正反対な二人だが、仲はとても良かった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「大丈夫……うぷっ、じゃない。すまん」

 

 一方、寄ってしまった総一朗は急いで公衆トイレに駆け込んだ。そういえばあいつ、乗り物酔いしやすいタイプだったな……。界人は思い出して笑った。

 

 

「うりゃああああ!」

 

バッティングセンター。バットに打たれたボールが気持ちの良い音を出して高く飛ぶ。

 

「ホームラン! よぉし、これで五回目!」

 

 谷口(たにぐち)(わたる)。リーゼント頭が特徴の男で、直情的な性格。家が貧乏だったため、昔は荒れていたが、友達の助けを受けて立ち直り、今は建築業の仕事をしている。

 野球が好きで、腕もホームランを数度となく打てるほど。

 

「よし……うりゃ!」

 

 界人がホームランを打つべくバットを振るう。しかしボールはかすりもせずにカイトの横を通り過ぎた。

 

「おいおい、さっきから全然当たってねぇじゃねぇか!」

 

「はははは、仕事仕事で野球とかやってなかったからな……渉は今もやってんのか?」

 

「当たり前だろ、っと!」

 

 射出されたボールを正確に打つ。またしても高く飛び、六回目のホームランを出した。

 

「暇さえありゃ家でもバット振ってるぜ。仕事は大変だがこれを欠かした事はねぇ。気持ちいいしな」

 

「そうか……ふっ、お前はそうだったな」

 

「俺の事はいいんだよ! 今はお前の事を言ってるんだぜ、界人! 一回でもホームラン出さねぇと帰さねぇぞ」

 

「うわっ、それマジか! ……来た!」

 

 痛快な音が鳴り響く。界人が打ったボールが空高くへ飛んだ。

 言ったそばからホームランを打ち出した事に渉は呆気にとられるが、一番驚いているのは打った界人本人だった。

 

「おまっ……す、すげぇな!」

 

「いや、渉ほどじゃねぇよ」

 

 謙遜こそするものの、界人は少し自慢げに笑った。

 

 

「期間限定、超激辛カレー……ですか」

 

 食堂前の立て看板を見て綺麗な長髪の少女が呟いた。

 

 立花(たちばな)沙織(さおり)。おっとりとした性格で、誰に対しても礼儀正しい。知識や教養に長け、高校時代には界人らに勉強を教えていた。

 ……そして渉が卒業できたのは彼女のおかげで言って良いだろう。

 

「この夏ピッタリ、辛さの限界に挑戦してみよう……カ。どこがぴったりダ?」

 

 金髪ロングの少女が容赦なく言い放つ。

 

 セーラ・タンストール。海外から引っ越してきた少女であり、自由気ままな性格。猫が好きであり、持ち物にはいつも猫のアクセサリーを付けている。

 ちなみに今、身に着けているパーカーも猫耳仕様である。

 

「挑戦します……超激辛カレー、必ずや完食して見せましょう!」

 

「オォ、やる気だナ。ガンバレー」

 

 拳を握りしめて意気込む沙織と、ニヤニヤと面白そうに応援するセーラ。

 さっそく注文し、テーブルの上でカレーと対峙する。

 

「……いただきます」

 

 静かに手を合わせ、まず始めに一口目を食べる。

 スプーンですくったカレーを口に含んだ瞬間、沙織の目が見開いた。

 

「~~~~~~~~!!」

 

 辛い、何という辛さだ。

 尋常でない辛さに身体が震えだし、苦しむ沙織。

 その苦しみに何とか耐え、ごくりと飲み込んだ。

 

「ふぅ……」

 

 一息つき、二口目。やはり悶えるが、さっきまでの苦しさはない。そのため一口目よりも速く、カレーを喉奥に押し込んだ。

 

「サオリの奴、えらくガンバってるナー」

 

 悪戦苦闘する沙織を見て、セーラは他人事の様に呟く。

 

 三口目、四口目。辛さに適応してきたのか、段々と飲み込むペースが上がっていく。

そして五口目には難なく食べられるようになっていた。

 

「……ご馳走さまでした」

 

 完食。

 超激辛カレーを食べきった沙織は手を合わせ、宣言した。

 

「オオ、まさか食べきるなんて思ってなかったゾ。凄いナー」

 

 セーラが拍手し、沙織を誉める。それを受けてか、沙織の顔が少しだけ赤くなっていた。

 

「おかわり、よろしいでしょうか?」

 

「……サオリのその食欲が、時々羨ましくなるヨ」

 

 しばらくして、沙織の横には数枚の皿が重ねられていた。

 

 

「はぁ~、今日は楽しかったね!」

 

 夕方。遊園地を遊びつくした綾音は満足そうに言った。

 その笑顔はとても元気そうで、まるで太陽の様だった。疲れがまったく見えず、むしろまだまだ遊び足らなそうだ。

 

「はぁ……はぁ……つ、疲れましたね、今日は」

 

 桐依の方は綾音に振り回されていたからか、息を切らしていた。

 まったく、綾音とは正反対だった。

 

「渉は凄かったな、ホームランを何本も打っちまうからな~」

 

「なに言ってやがる、あれぐらい出来て当然だろ」

 

「サオリも凄いゾー。超激辛カレーを十皿を平らげたんだからナー。流石はピンクの悪魔」

 

「その渾名で呼ぶのは止めてください! ……恥ずかしいですから」

 

 そう言って沙織は持っていたカレーパンを一気に食べる。

 見かけからは想像つかないが、沙織は大食いだった。

 

「はははは、皆を呼んだ甲斐があったよ」

 

 その風景を見て地味目の男が微笑んだ。

 

 島崎(しまざき)拓也(たくや)。あまり目立たないが皆の中心的存在。交友関係も広く、界人らが今集まっているのも彼のおかげである。

 現在は夢に向かって日々勉強中との事。

 

「ねぇねぇ! 今度は皆で海行こうよ!」

 

「う、海ですか!?」

 

「海……そうだな。遊園地とは違ってとても落ち着けそうな所だ」

 

 綾音の提案に総一郎が乗った。

 そう言えばあいつ、姿を余り見てなかったな……。界人は思った後、海の風景を想像する。

 

「分かった。じゃあ皆の都合がいい時に行こう。いつ行けるか教えてくれ」

 

 拓也は皆に聞き、予定を立てる。

 ……時々、無性にあいつが羨ましくなる。界人は一瞬、羨望の目で拓也を見ていた。

 

 

「ふぅ、疲れた~!」

 

 帰宅。自分の部屋に戻った界人はさっそく、ベッドに飛び込む。

 

 今日は楽しかった。半年ぶりに友人に会えたし、遊園地のアトラクションも楽しかった。

 そして次は海だ。予定が決まったらまた連絡すると拓也は言っていた。何時になるやら、とても楽しみだ。

 

「……ん、んん」

 

 眠気が来る。一日中遊んだ疲れからか、すぐにでも寝てしまいそうだった。

 

 寝よう。また明日から仕事だ。

 界人は瞼を閉じ、眠りについた。

 

 

「ふぁぁぁぁ~……?」

 

 ふと、目が覚めるとカイトは寮の中にいた。二段ベッドから降り、隣を見るとデビッドがいびきをかき、まだ寝ていた。

 

「……夢か」

 

 そう、夢だった。カイトがさっきまで見ていたのは、ゲイムギョウ界に来る前日の出来事だった。

 思い出せば自分の部屋で疲れて眠りにつき、目が覚めたらいつの間にか、バーチャフォレストにいたのだった。

 

「…………どうなっているかな」

 

 カイトは元居た地球の事を思い浮かべる。あいつら、今なにしてるかな。仕事の方は大丈夫かな、何日も休んじゃってるし。

 

「あら、起きていたのね」

 

 扉が開いて、エリナが部屋に入ってきた。

 そう言えばとまだ思い出す。戦い方がなってない界人を見かねたエリナが、毎日早朝に特訓する事に決めていた。特訓は厳しいものの、そのおかげで戦い方が身に着き、段々と強くなっていくのが手に取る様に分かった。

 

「貴方を起こしに来たけど、どうやら必要なかったみたいね。さぁ、今日も特訓行くわよ」

 

「……あぁ」

 

 まぁ、何とかなるさ。

 持ち前の楽観思考を発揮し、カイトは特訓に励んだ。

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