ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~ 作:S・TOM
37話の投稿が遅れてしまい、誠に申し訳ございません。
「おい、また凶暴化モンスターが増えてるみてぇじゃねぇか」
プラネテューヌにあるスーパー。この日、第五班のヴァトリは同期だったジェイスと一緒にいた。街を出歩いていた時に偶然出会い、半ば強引な形でここへ連れてこられた。
スーパーに入ったジェイスはすぐさまカップ麺の棚に行き、それらを次々買い物カゴに入れていった。隣にいる男を無視し、カップ麺を沢山買う事に集中していた。果たして自分が一緒でなきゃならない事なのか。カップ麺にお熱のジェイスを見てヴァトリは疑問に思った。
そして買い物カゴが満杯になった所でやっとジェイスはヴァトリに話しかけたのだった。
「そうだね。
「まだ少ないか……お前が羨ましいぜ。今んとこ暇そうだし」
そうは言うけど、君が思うほど気楽じゃないぞ。思わずそう言いだしそうになった。
自分とジェイスには決定的な違いがある。それは趣味の有無。バイクを弄る事がジェイスの趣味だった。昔は暇さえあればバイクを弄り、自分好みの愛車に仕上げていた。休日には愛車に乗り、ゲイムギョウ界各地をツーリングしていたのは良く覚えていた。ヴァトリにはそういう趣味が無かった。今まで色んな事を試してきたものの、結局は仕事している時が一番楽しいという悲しい帰結に辿り着いた。泣きたい。
仕事が無くて嘆いているヴァトリと仕事が溜まっていて嘆いているジェイス。両者の差は歴然としている様で全く同じだった。
「まっ、こっちも暇してたし、別に良いんだけどな。今夜鍋食うか?」
ズボンのポケットからスーパーのチラシを出し、ジェイスが聞く。チラシには鶏もも肉の写真がどんと載っており、その隣に手頃な値段が記されていた。
「タイムセールだ。今なら高級肉が100gで77円、こりゃあ買うしかねぇだろ! なぁヴァトリ!」
「……う、うん。そうだね」
「それでお前来るか? 来るよな! 絶対来いよ! 沢山食わせてやるぜ! よし決まり!」
ヴァトリの返事を聞かず、勝手に決めてしまうジェイス。タイムセールに対する彼のテンションの高さと持ち前の強引さにヴァトリは着いていけなかった。
まったく、昔から変わってないな……。
「うん? ちょっと待って」
身に着けていた端末が鳴り、ヴァトリは手に取って確認する。
特命隊全員に告ぐ、ただちに寮へ集合せよ。通知のメールにはそう書かれていた。
「悪いヴァトリ、急ぎの用事が出来た。それじゃあ僕はこれで!」
「はぁ!? おい、ちょっと待てヴァトリ!」
慌てるジェイスに目をくれず、ヴァトリは走ってスーパーから出ていった。
同期で友人のヴァトリが行ってしまい、一人、途方に暮れるジェイス。わなわなと身体を震わせ、手に持っていたタイムセールのチラシを強く握りしめる。
「何なんだよもう! 今日暇だって言ってたじゃねぇか! クソ、クソォ!」
子供みたいに喚き散らすジェイスの姿を、周囲は奇異の目で見ていた。
※
「お前達にはこれから、隊を分断して行動してもらう」
特命隊を集結させ、第一声を放つグラウト。ここにいるのは皆、自身が認めた実力者だ。プラネテューヌで発生した凶暴化モンスター大量発生。親玉のルーガスこそ四女神が倒した物の、モンスターの侵攻を食い止める事が出来たのは特命隊のおかげで言っていい。
そして昨今、他の三国で凶暴化モンスターによる被害が多発している。現状、このまま特命隊を
「第三班はラステイション。第四班はルウィー。そして第二班と第一班はリーンボックスへ異動せよ。残った第五班はここに留まり、プラネテューヌ周辺を担当しろ」
「隊長。私達はどうすればいい?」
セリスが問う。セリス、うずめ、ネプテューヌ……そして海男。彼女らはどの班にも属さない、特別メンバーだった。
「セリス、うずめ、ネプテューヌは第一班と同じだ。この地で待機し、各国へすぐに駆け付ける事が出来る様に準備しろ」
「ふむふむ、なる……ていう事はクロちゃんの出番だね! クロちゃん、これから一緒に頑張ろう!」
「やだよ! それよりいい加減ここから出せよな!」
「……ちなみに俺は何をすればいいんだい?」
プカプカと浮き、グラウトの前に行って聞く海男。一体彼(?)が何なのか、それなりに関わった今でもさっぱり分からない。
「海男は私と共に情報の処理だ。人手が多い方がやりやすい。頼まれてくれるか?」
「お安い御用さ。君やうずめ達の支えになれる様、精進するよ」
海男の了承を聞いた後、グラウトは再び特命隊に顔を向ける。
「それでは諸君! 移動手段は手配済だ。私物は自身が持てる範囲に絞り、総員目的地へ向かえ!」
グラウトの一声で、特命隊は解散した。
※
「デビッド? 何だその恰好」
グラウトの指令でルウィーに行く事になった第四班。荷物をまとめ、支度を済ましたカイトは何枚も重ね着したデビッドを見て驚いていた。
「はぁ、はぁ……ルウィーって確か雪国だろ? だから寒いかなって思って暖かい恰好にしたんだ」
「それはそうだけど……暑くねぇか?」
「ああ……物凄ぇ暑い!」
度が過ぎた厚着が原因でデビッドの顔が真っ赤になっていた。熱でも出てるかの様な状態だ。そのせいで身体がよろめき、今にも倒れそうになっていた。というか倒れた。
「ハハハハ。安心しろ、幾万もの衣類を重ねる必要はない」
その様子を微笑ましげに見ていたウェインが話す。
「ルウィーは四女神の一人、ホワイトハート様の加護を施された聖域だ。大切な国の民を温もりのない冷ややかな寒気に晒す訳が無いだろう。ルウィーという国は、女神様の温もりに満ちている」
「そうよ! このゲイムギョウ界は偉大な四女神様が守護してくださっているのよ! それを疑うだなんて……デビッド、女神様を信じる心が足りないわ!」
ウェインに同調してエリナもビシッと言い放つ。
そこまで言わなくても……。度の過ぎたエリナの発言にカイトは心の中で呟いた。
「……デビッド?」
そう言えばデビッドからの反応が無い。カイトが声をかけるも返事がない。
もしや。デビッドの顔を覗くと完全にのぼせており、気絶寸前にまでなっていた。
「ヤバいウェイン! 早く氷を!」
すぐにデビッドの熱を治し、第四班はプラネテューヌを出発した。
※
ケーブルカーを降りた先にはウェインの言葉に違わぬ、暖かなルウィーの街々だった。
「おぉ……暖かい!」
街の空気を体感したデビッドは思わず感嘆する。所々に雪が積もっているが、全くと良いほど寒さを感じなかった。初めて来たデビッドにとって、ルウィーは非常に新鮮な場所だった。
「女神様の教会はここから直進すれば到達する。長く待たせるのは失礼だ、行こう」
ウェインの案内を受け、第四班はホワイトハートがいるルウィーの教会に到着した。
もうすぐ女神に会えるんだな……楽しみだぜ。カイトは胸を躍らせ、一番に扉を開ける。
「失礼しま――」
教会に入った第四班に、真上から大量の本が降り注ぐ。完全に油断していた四人は膨大すぎる書物の雪崩になすすべもなく埋もれてしまった。
「わーい! 引っかかったぁー!」
「イタズラ、大成功……」(キャッキャ)
部屋の陰に隠れていた双子が姿を現し、無邪気に喜ぶ。
ルウィーの女神候補生、ロムとラム。ホワイトハート、ブランの妹であるこの二人は、困った事に大のイタズラ好きだった。
「やったねロムちゃん! トクメータイに私達二人のイタズラ、見せつけてやったわ!」
「うん! トクメータイの人達、凄くビックリしたよね! ラムちゃん」
「当然よ! 私達のイタズラだもの! よぉし、逃っげろー!」
イタズラの成功を喜んだ二人はすぐに捕まらない様に逃げ出す。しかし、そう上手くいく筈が無く――
「きゃっ!」
「やっ……!」
前を見てなかった二人は何かにぶつかり、立ち止まった。
振り返って見てみると、それには無表情で立っている二人の姉、ブランだった。
「わぁぁぁぁ!? お姉、ちゃん……?」
「お姉ちゃん……怖い」(ぶるぶる)
物事が上手く行って嬉しそうな表情から一転、恐怖のあまり泣き出しそうになっていた。姉を怒らせたらどうなるか、身に染みて理解しているからだ。
一方で、ブランも第四班が埋もれている本の山を見て状況を理解した。
「ちょっとこっちに来なさい」
瞬く間に二人を別の部屋に引きずり込み、パタンと戸を閉める。
誰もいなくなったこの部屋で、また新たに一人の少女が入ってきた。
「おーい、ブランちゃーん」
茶のロングヘアに青のベレー帽。ゴールドサァドの一人、シーシャだった。
シーシャの声が部屋に鳴り響くも、聞こえていないのかブランの声は返ってこなかった。
「……あれ、いない。可笑しいわねー。今ここにいるはずなんだけど」
それにこの大量の本。一体何なのかしら?
そう考えていると別の部屋からロムとラムの悲鳴が聞こえてきた。
「イタズラはやめろって何度も言ってるだろーーーー!!」
『ごめんなさーーい!!』
どうやら、イタズラをして怒られている様だ。
それを聞いたシーシャはどうして本の山が出来ているのか理解した。
「相変わらずヤンチャだなぁ~、ロムちゃんもラムちゃんも」
微笑ましそうに呟き、三人の代わりにイタズラの後始末をする。
ゴールデンコンピの片割れとして、しっかりブランちゃんを支えないとね。
「あっ、この子血が出てる」
打ち所が悪かったのか、頭から血を流しているデビッドを本の中から見つけ、シーシャはビックリした。
次回からルウィー(第四班)編です。
他の班の活躍は先になりますので皆さん、首を長くしてお待ちください。