ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~   作:S・TOM

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一ヶ月半ぶりの更新です。

※6月26日:辰ノ命さんによる挿絵を追加しました。


第39話 秘法

「っと……これで良いのか?」

 

「そうそうそんな感じ! お兄さんもだいぶ慣れて来たわね!」

 

「お兄さん、上手……!」(キャッキャッ)

 

 大きな湖に氷が張られたスケート場。ロムとラムに連れられたデビッドはスケートに挑戦していた。

 初めのうちは滑るのはおろか、立つ事すらままならなかったが、二人のエスコートのおかげでスケート滑りがだいぶこなれてきた。

 

「それじゃあ手を離すね! ここまで来たら一人でも平気よ!」

 

「わ、分かった! やってみるよ!」

 

「うん、頑張ってね……!」(ウキウキ)

 

 ラムが繋いでいた手を離し、デビッドが滑り始める。

 滑っている。綺麗に。スイスイと。双子との練習で感覚を掴み、見事に一人で滑る事が出来たのだ。

 

「おっほほー! ロムちゃん! ラムちゃん! 俺滑ってるぜー!」

 

「やったぁ! お兄さん天才だね!」

 

「カッコいい……!」

 

「そうかそうか! 天才でカッコいいか! それじゃあもっと滑るぞー!」

 

 双子に褒められて上機嫌になり、デビッドはそのまま綺麗に滑っていく。彼の表情はとても楽しそうだった。

 

「あの二人、結構デビッドに懐いてますね」

 

 その光景を羨ましそうに見つめるエリナ。二人に怖い感情を植え付けてしまい、敬遠され気味になっていた。

 

「そうだね。デビッド君の人柄のおかげかな。あの子、妙にほっとけない性格してるからね」

 

 その隣でシーシャが感心する。ヤンチャでちょっと癖がある二人と短時間で仲良くなるのは流石としか言いようが無かった。

 ……彼自身が子どもっぽいからかも? 無邪気にはしゃぐデビッドを見て、微笑ましい気分になった。

 

「そうですね。それに比べて私は……あの子達を酷く怖がらせちゃった。最低ね、私」

 

 自己嫌悪に陥りつつあるエリナを見て、シーシャが励ます。

 

「そんな事ないよ。アタシ達はまだ出会ったばかり。ロムちゃんとラムちゃんも、まだ君の事を良く知らないのさ。これから関わっていけば二人も分かってくれるよ。エリナちゃんが優しい子だった事」

 

「シーシャさん……」

 

 曇った感情が殆ど取り払われた気がした。シーシャの激励でエリナの心にネガティブな気持ちが消え、晴れ晴れとした気分に変わっていた。

 自然にエリナの表情が笑顔に変わる。

 

「ありがとうございます。私、あの子達と仲良くなれる様に頑張ります」

 

「うん、その意気だよ。さてさて、アタシ達も混ざって行こうか」

 

「はい!」

 

 シーシャと一緒に三人の元へ滑り出す。

 綺麗なラインで滑るエリナに、最早エスコートの必要は無かった。

 

 

「……不思議な男ね。散々炎を振りかざしておきながら魔法を使いたいだなんて、見事な心掛けとしか言いようが無いわ」

 

 ここはアリーナ。普段は魔導団が鍛錬に使っている場所だが、カイトの願いを聞き入れたリゼッタが貸し切りにしており、広場にはリゼッタとウェイン、カイトの三人しか居なかった。

 

「よく分からないです。自分の炎が魔法かどうか……もし魔法なら、俺は無意識の内に魔法を使っている事になる。でもだからこそ、俺は魔法を学びたいんです」

 

 それを聞くとリゼッタは呆れたように溜息をついた。

 

「不尽の烈火がどんな人物なのか期待してみれば、魔法も知らない特殊級(スペシャルクラス)だったとはね。あなたの様な剣士は今まで見た事も聞いた事も事が無いわ」

 

「ええ、自分でもそう思ってます」

 

 でも、とリゼッタは言葉を続け、微笑を浮かべる。

 

「だからこそウェインは評価したのでしょうね。限りない可能性を秘めた剣士……嗚呼、なんてピッタリな異名かしら」

 

「未完成であるが故の可能性。この者の潜在能力は私でも計り知れない……底が知れない男です」

 

 ……段々ムズ痒くなってきた。最初の頃は嬉しかったものの、ここまで来ると喜びより先に恥ずかしさが来るようになってしまう。

 カイトは前置きを切り上げ、魔法の説明してもらおうと声を出す。

 

「あの、そろそろ魔法について――」

 

「あなたは急かす立場に無いわ。今から説明するからありがたく拝聴なさい」

 

「……はい」

 

 一刀両断。見事に切り落とされてしまった。どうも苦手だ、この感じは。

 

「魔法というのは、人が持つ潜在能力を魔力という形で発現された物よ。その力は千差万別。同じ魔法でも個人によって性質が異なるわ。誤差の範囲内だけど」

 

 人が持つ潜在能力を魔力として……か。

 説明を頭に叩き込みつつ、リゼッタの声に耳を傾ける。

 

「属性魔法を使うにはそれぞれ適性が必要よ。例えば水属性魔法の場合、水属性の適性があれば水属性魔法を使えるし、無ければ使う事が出来ない。絶対に使えない訳では無いけれど、相当の努力が必要になるわ」

 

「適性? それはどうやって判断するんです?」

 

「誰が喋っていい、なんて言ったかしら?」

 

「…………はい」

 

 黙って聞こう。それが一番だ。

 

「適性の確認には色々あるけれど、一番手っ取り早いのは相手の体内に直接魔力を流し込む事よ。そうすれば魔法の適性がどうなのかすぐに分かるわ。という訳でアンヴァニッシュ、私と唇を重ね合わせなさい」

 

「唇を……えぇっ!?」

 

 突拍子もない事を告げられ、カイトは一瞬頭が真っ白になる。

 唇を重ね合わせる……それはつまりキスであった。

 

 落ち着け、とにかくクールになるんだ……。

 混乱した心を纏め上げ、リゼッタに問う。

 

「……冗談じゃ無いんですね?」

 

 しばらくの沈黙の後。

 

「…………クスッ」

 

 笑いをこらえ切れなかった様にリゼッタが吹き出した。

 

「冗談よ。今の反応、中々良かったわ。冷静さを取り戻すのに時間をかけなかった事も加点して」

 

「冗談だったんですか……ビックリした」

 

 やっぱりこの人は苦手だ。有無を言わさず態度で接したと思えば、突然ヒヤヒヤする様な事を言う。

 風変わりな一面もありながらも穏やかなウェインの姉とはとても思えない。

 

(姉上は興味を持った者をからかって楽しむ悪癖がある。好意の裏返しとして許してやってくれ)

 

 そう思っているとカイトの脳裏にウェインの声が響く。

 これはもしかして……テレパシーか?

 

(その通りだ。これも魔法の一種として覚えておいてくれ)

 

「筒抜けよ。主に許可なく話しかけるなんて無作法な犬ね。後で存分に躾てあげるから楽しみになさい」

 

「……御意のままに」

 

 流石姉上様。弟の魔法を見破る事など容易い。

 適正の確認に話が戻り、リゼッタが続きを話し出す。

 

「唇同士でも魔力は流せるけど……ここは手を繋ぐ方法で確かめるわ。さぁ、その手をこちらに差し出しなさい」

 

 手を繋ぐ……まぁ、身体に触れるなら手が普通だろう。

 リゼッタの言葉のままにカイトは右手を差し出した。

 

「行くわよ」

 

 リゼッタがその手を掴んだ瞬間、右手にかけてカイトの体内に液体を流し込まれる感覚に陥った。

 今、魔力を流し込んでいるんだな。直感で気づき、適性の確認が終わるのを待つ。

 

「…………ん?」

 

 途中、リゼッタの眉が上がったような気がした。

 何かあったのだろうか? 不思議に思いつつも公言する事無く、リゼッタによる魔力の注入は終わりを迎えた。

 

「……何かしら、これ?」

 

 違和感を覚えたリゼッタが口走る。無表情な顔つきに大した変化は無いが、明らかに驚いている事が見て取れた。

 

「この感覚、魔力とは明らかに違う……それでいて酷く似ている……これは一体?」

 

 何を言っているのだろうか。自分の潜在能力はそんなに特殊だというのか?

 しばらく熟考したリゼッタは残念そうに首を振り、カイトに言う。

 

「確認の結果、あなたに習得できる魔法は一つも無いわ。せっかく遠路遥々とラブコールしてもらったのにこんな結果に終わらせてしまって本当に申し訳ないわね」

 

「そうですか……ありがとうございました」

 

 リゼッタが無意識に言った言葉が気になるが、適性が無い事を確認できた。大収穫だ。

 カイトは深々とお礼し、アリーナから立ち去ろうとする。

 

「……あら、ショックは無いのかしら?」

 

 リゼッタが不思議そうに尋ねる。

 声をかけられたカイトは立ち止まり、リゼッタの問いに微笑みながら答える。

 

「確かに適性が無いのは残念ですけど……なら仕方ないっすよ。魔法が使えなくとも、戦う方法は幾らでもありますから。俺にはあなたと会えただけでも意義があるんです」

 

「私と会えただけでも、ね……フフッ」

 

 笑い出したリゼッタにカイトは気づく。

 その表情は悪戯な物ではなく、心の底から嬉しそうなそれな事を。

 

「つくづく面白い男……ウェインが評価したのも納得ね。だから――」

 

 本当に従僕にしちゃおうかしら。

 

 確かに聞いたその小声に、カイトの背筋に微かな悪寒が走った。これもリゼッタがカイトをからかおうとして言った冗談だろう。冗談……のはず。

 ……この人の相手は本当に疲れるな。

 

「アンヴァニッシュ。確かに習得できる魔法は無いけれど、習得できる秘法が一つあるわ。あなたにピッタリの大技よ」

 

「えっ、本当ですか?」

 

 驚いた。魔法の適性が無い自分でも習得できる物があったとは。

 魔法ではなく秘法……それがどういう意味を示しているのか。適性が無くとも使える技、という事か。

 

「名づけて、ミスティックドライブ。自身が持つ潜在能力を解放する秘法よ。その力は並大抵の比では無いわ、不尽の烈火の異名を持つあなたならね」

 

「ミスティックドライブ……!」

 

 潜在能力を解放……それが可能になれば自分はもっと強くなれる。

 特命隊の為にも、秘法ミスティックドライブを習得しよう。

 

「その秘法、俺に教えてください! 俺は強くなりたいんです。自分の為に、仲間の為に!」

 

「落ち着きなさい。この秘法を発動するには平常心である事が条件なの。少しでも感情を播き乱せばミスティックドライブは使えないわ」

 

 平常心……一瞬も気が抜けない戦場でそれはとても難しい物だ。

 でも、だからこそ、発動された時の力は途轍もない物なのだろう。ならばやってみる価値はある。

 

「どうすればその秘法を習得できるんですか? 俺に出来る事なら何でもやります!」

 

「そうね。この秘法の極意は心頭を滅却する事にあるわ。故に肉体より精神の。ならちょっとやそっとの事では動じない心を手に入れましょうか」

 

「はい!」

 

 これからどんな試練が待ち構えているのか。どんなに困難な物でも、自分は必ず乗り越えて見せる。

 

「じゃあまずは目を閉じなさい。気持ちを落ち着かせるのに視覚は邪魔になるわ」

 

 ゆっくりと瞼を閉じ、視覚の情報を遮断させる。なるほど、確かにゆっくり落ち着いていく気がする。

 

「次にその場に四つん這いになりなさい。瞼はしっかり閉じてるのよ」

 

 四つん這い? 平常心である事に何の関係があるのか……分からないがやってみよう。

 リゼッタの言われた通りに、カイトは目を閉じたまま四つん這いとなった。

 

――ズシッ。

 

 背中に何かが乗っかった。重りだろうか。決して軽くない重量が背中から身体中に伝わっていき、俺に負荷をかけてくる。

 ミスティックドライブの極意は心頭を滅却する事にある。どんな事があっても、四つん這いの状態で背中に重りを乗せられても、決して心を乱してはならないというリゼッタからの試練なのだろう。

 なら。重りの重量に心を乱さず、平常心でいる様に努める。

 

 ……それにしても、背中に何を置かれたのだろうか。石にしては妙に感触が柔らかい。何なんだ、これは?

 

「余計な考えは一切捨てなさい。雑念は心を酷く惑わすわ、冷静ではとてもいられなくなるぐらいに」

 

 すぐ上からリゼッタの声。近すぎる。彼女は一体どこにいるんだ?

 ……ん? 待てよ。今の体勢。妙に柔らかな重り。声の距離……まさか――――

 

「リゼッタさん! あんた今、俺の背中に座ってるのか!?」

 

「雑念を捨てなさい、と言ったのよ。些細な事を気にしては平常心なんて到底不可能よ」

 

 なんてこった。背中に置かれた重りの正体はリゼッタだった。まさか目を瞑ってるのを良い事にこういう手に出てくるとは……気が抜けない人だ。

 でもまぁ、試練としては良いのかもしれない。四つん這いでリゼッタに座られているというよく分からない状況。どんな時も平常心でいるという目的ではむしろ好都合だ。このまま座っているリゼッタの重みに耐え、心を鍛えよう。

 

「そうよ。平常心こそがミスティックドライブを発動できる唯一の条件。気の動転は禁物。どんな時も平常心を心がけるのよ……クスクス」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ウェインは見た。カイトに座るリゼッタの顔を。

 それは新しく遊び相手が出来た無邪気な悪戯っ子の様だったという。

 

 

 一方、スケート場。

 

「あはは! 逃げろ逃げろ~!」

 

「おーにさんこーちら!」(わいわい)

 

「あっ、二つに分かれた!」

 

「逃がさないわよ、待ちなさ~い!」

 

「おっ、気合入ってるじゃないの! アタシも負けてられないね!」

 

 わだかまりが解け、五人で仲良く鬼ごっこをやっていた。




辰ノ命さんが描いてくださったイラストをオリキャラ紹介に載せました。
皆さん、是非ご覧になってください。
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