ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~   作:S・TOM

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年越し前の更新です。


第40話 黒ひげ

「お兄さん、今日も遊ぼう!」(ウキウキ)

「あっ、ロムちゃんずるい! お兄さーん、今日もとことん遊ぶわよー!」

 

 第四班がルウィーに来てから数日が経った。街に出没するモンスターを狩りつつ、教会の職員達と交流を深めていた。

 特にデビッドは女神候補生のロムとラム、エリナはゴールドサァドのシーシャ、そしてカイトは魔道団長のリゼッタと。ウェインは元々ルウィー出身、且つリゼッタの弟であったため教会とは交流が深かった模様。

 

「ロムちゃんにラムちゃん! 今日も元気いっぱいだね」

「トーゼンでしょ。だって私たち、女神候補生なんだもん!」

「女神候補生はいつも元気!」(ビシッ)

「おぉ! 二人ともかっこいい上にかわいいー! 皆が夢中になるのも分かっちゃうなー!」

 

 面倒見が良いのか、それとも精神年齢が近いのか。二人と同じテンションで盛り上がるデビッド。

 一方、決めポーズを取ってアピールした双子は……。

 

(ちょろいちょろい、これでお兄さんのシェアは私たちのものよ!)

(ルウィーのシェアが増えて、ラムちゃんもお姉ちゃんも大満足!)

 

 と、中々抜け目のない事を考えていた。末恐ろしい双子である。

 三人の(一見)微笑ましい談笑を楽しそうに見ている者がいた。シーシャとエリナである。

 

「見なよエリナちゃん。デビッド君、二人にすっかり懐かれたみたいだよ」

「そうですね。あれから良く遊び相手になってるみたいです。デビッドが遊んでくれている間は悪戯しないから安心して原稿が書ける、とホワイトハート様が言われてました」

「へぇ、ブランちゃんにそんな事言わせたの? 真面目そうな顔して取り入るのが上手いじゃないか」

「取り入る……わ、私はただ、女神様と親睦を深めようとお話しただけで! そんな事は少しも考えてません!」

「アハハハ! 冗談冗談! 今のはお姉さんのちょっとしたお茶目心さ。安心して、エリナちゃんをそんな風に思ってないわ」

「全く……冗談で人を揶揄わないでください」

 

 エリナの表情は呆れているが、本気で嫌がっている様子は無い。

 基本的にシーシャと一緒にいるのが楽しいのだ。彼女はサバサバした性格で人当たりが良い。たまにドキッとさせる様な冗談を言っても、つい許してしまう様な魅力を持っている。そんなシーシャだからエリナも気兼ねなく話せている。さすがゴールドサァドのリーダー格である。

 ……でもロムとラムと一緒に悪戯するのはやめた方が良いと思います、シーシャさん。

 

「それじゃあ三人で遊ぼっか! 何して遊ぶ? 雪合戦?」

「駄目よ、雪合戦は昨日やったばかりだから!」

「うーん、ならかくれんぼ?」

「かくれんぼも一昨日やったよ?」

「そっかぁ……あっ、お絵かきなんてどうかな? 二人ともお絵かき好きでしょ?」

「むー……お兄さんとはもっと、『ババーン!』な事がやりたいの!」

「ば、ババーン?」

 

 あまりに抽象的すぎる双子のわがままに、デビッドは困惑してしまう。擬音だけでは何か良いのか分かるはずが無かった。

 手を焼いているデビッドを助けたいと、エリナは今の双子が楽しめる遊びを考える。

 

「……シーシャさん、分かります?」

「きっとド派手な事がやりたいんじゃない? 分かるよその気持ち。アタシも好きだからね」

「ド派手な事……火遊びは危険だし、かと言ってスケートは違う――――」

「黒ひげ危機一髪、なんてどうかしら?」

「はっ!?」

 

 背後から気配を感じ、反射的に離れる。突然の事だったので、エリナは動揺していた。

 確認すると、そこにはリゼッタが立っていた――――いや、『立っていた』は適切ではなく、『浮いていた』のだ。足元を見ると、数センチ、彼女の足が床から離れていた。魔法の効力だろう。

 

「リゼッタさん!? いつからそこに……」

「『……でもロムとラムと一緒に悪戯するのはやめた方が良いと思います、シーシャさん。』の行から。通常ならとっくに気付いているはずなのに、声をかけられるまで分からないなんて呑気な子ね。貴女、カイトを指南できる立場かしら?」

「おいおいエリナちゃん、心の中でそんな事思ってたのかい? お姉さん傷ついちゃうなー」

「うっ……だ、だからっていきなり真後ろから声をかけるなんてビックリするじゃないですか! 性格悪いですよリゼッタさん!」

「フフッ、背中を取られて悔しがる声が聴いてて心地良いわね」

 

 エリナの抗議はどこ吹く風、意地悪な微笑を浮かべるリゼッタ。シーシャの揶揄い半分の冗談も相まって、エリナは「ぐぬぬ」と押し黙るしか無かった。

 そんな悔しがるエリナの表情を一瞥し、リゼッタはデビッドと双子の方へ向かう。その間、地面を歩く事は無く浮遊していた。

 

「ああーっ! あなたは意地悪おばけ!」

「へっ? あ、リゼッタさん!?」

 

 彼女の存在に気付き、ロムは怯えてデビッドの後ろに隠れ、ラムは彼女を睨み、デビッドは怯え交じりに驚いた。

 

「何しに来たのよ! 言っとくけど、あなたなんかとはぜーったい遊ばないんだからね!」

「あら、そんな事を言っていいのかしら? せっかく貴女達の為に面白い玩具を用意したというのに」

「……そう言って、いつも意地悪する癖に」(ビクビク)

「まぁまぁまぁ! 一応聞いてあげようよ。リゼッタさん、その遊びというのは?」

 

 警戒する双子を宥めつつ、デビッドは聞く。彼自身もリゼッタが用意した遊びに不安を感じていたが、一人で考え込むかよりは希望があった。

 

「黒ひげ危機一髪。樽の中に剣を差し込んで海賊を助け出す遊びよ」

「それぐらい知ってるわ。でも私たちがやりたいのはそんなちっちゃい玩具じゃないのよ!」

「私がいつ低級の玩具を用意したと言ったのかしら? 人の話は最後まで聞きなさい」

 

 ラムの反論を窘め、リゼッタは話を続ける。その間、ロムは怖がってデビッドの陰から出てこなかった。

 

「私が用意した黒ひげは凡庸な市販品よりも遥かに上質なの。正確に組み立てられた樽、様々な仕掛けを施した等身大の黒ひげ、精巧に作られた剣。どれも私のお手製よ」

「へぇ、ロムちゃんとラムちゃんのために手作りしてくれたんだ。優しい所あるじゃない」

 

 自慢げに話すリゼッタにシーシャが食いついた。確かに聞いていてワクワクする代物だ。それだったら二人も満足するだろう――――

 

「で、ウェイン君にはどのぐらい苦労させたんだい?」

「彼は優秀な下僕よ。この程度、苦の内には全く入らないわ」

「なるほどね。こんなお姉さんを持っちゃって、ウェイン君も大変だなー……」

 

 当たり前の様に弟をこき使い、それを何とも思わないリゼッタ。実際にこき使われてる場面を想像し、シーシャはウェインに同情する。

 

「ふーんだ! どうせ私たちを困らせる仕掛けなんでしょ! 騙されないんだから!」

「あら、良いのかしら? 自ら好機を捨ててしまうなんて、浅はかな行為としか言いようが無いわね」

「なんですってー!」

「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ! リゼッタさんはどうしても遊んでほしくてつい意地悪言ってるんだよ! ロムちゃん、ラムちゃん、ここはリゼッタさんに乗ってあげよう」

 

 怒ったラムを宥め、リゼッタをフォローするデビッド。とはいえ、わざと怒らせる様な話しぶりをして反応を楽しんでいる彼女に不満が無いわけではない。勘弁してくださいリゼッタさん……こっちだって楽じゃないんです。

 

「……お兄さんが言うなら、やる」

「むむむ……何かあったらお兄さんのせいだからね!」

 

 何とか説得に成功し、リゼッタが用意した黒ひげで遊ぶ事になった。

 

 

 身動きが出来ない。身体中に鎖がみっしり巻かれ、指一本さえまともに動かせない。

 視界も真っ暗だ。特訓の事前に目隠しと被り物をさせられた。これによって周りの様子は一切分からない。

 この状態になってから数十分……もう一時間は経ったか? その間、何も起こる事が無く時間が過ぎていく。

 カイトは今、放置されていた。

 

「好い事、アンヴァニッシュ。ここから先、何が起こっても取り乱しては駄目よ。常に平常心……それを心掛けなさいな」

 

 リゼッタはそう告げたが、その何かが起こる気配は全くと言っていいほど感じない。

 何もない。身動きが出来ない、真っ暗な状態でこれほど不安にさせる要素は無いだろう。せめて何か聞こえれば備えが出来るが、実際は無音。被り物が音を遮っているのだろう。

 外の情報が遮断された状況下、徐々に恐怖と焦りがカイトの心を侵食し――――

 

「ッ!」

 

 危ない危ない……今、心が揺れ動いていた。湧き上がった感情に気付き、力を抜いて気分をリラックスさせる。

 ミスティックドライブ。この秘法は使用者の心が冷静で無ければ発動できない。ここで取り乱してしまったら習得は夢のまた夢だ。

 

 考えたなリゼッタさん……この状態、特訓には丁度いい。

 確かに生まれた恐怖と向き合い、カイトは自己との戦いを始めた。

 

 ――――樽の中で。

 

 

 カイトはどこにいるのかしら……。

 

 外に出てからその事しか頭にないエリナ。

 思えばここ数日、彼の姿を全くと言っていいほど見ない。リゼッタに特訓を受けている事は承知しているが、当の彼女は目の前にいる。

 リゼッタがいるのにカイトがいない状況はエリナにとって違和感を覚える物だった。否、ひょっとしたら自分が気付いていないだけで近くにいるのかもしれない。

 そんな事を考え続け、リゼッタが用意した黒ひげにふと目を向けた……まさか、ね。

 

「重っ! 重いよこれぇ!」

 

 デビッドの悲鳴に似た叫びを聞き、エリナの思考はそこで中断された。

 

「ちょっとどうしたのさ。デビッド君ならそれぐらい持てるだろう?」

「こ、これ物凄く重たいっす! あっ、駄目っ、もう駄目ぇー!」

 

 黒ひげの為に用意された数十本の剣。その重量はどれも規則外な物だった。

 試しに持ったデビッドは剣の重さに耐えきれず、十秒経たずで落としてしまった。

 

「どれどれ……ホントだ、これ結構ある」

 

 続くシーシャも剣を持ってみる。デビッドと違い、持ち前の怪力で落とす事は無かったが、やはりその重量に驚きを示していた。

 

「それらの剣は、三人で一つを持ち上げる事を前提にして制作したの。一人では絶対に持てないわ」

「何よそれ! やっぱり私たちを困らせたいだけじゃない! 馬鹿、いじわるおばけ!」

「どうかしら? 一人でやるより、三人一緒にやった方が一体感や達成感が出る物なのよ。貴女達、お兄さんと遊びたいのでしょう?」

「お兄さん……?」

 

 リゼッタにそう言われて振り返る双子。そこには剣に体力を取られ、息を切らせていたデビッドの姿が見えた。

 

「……お兄さん、とても苦しそうだよ。ラムちゃん」

「そうだね……全く、手がかかるお兄さんなんだから。助けるわよ、ロムちゃん!」

「うん!」

 

 疲れ果てたデビッドを見かね、双子が彼を助けようと駆け出す。

 

「……なんだかんだで、三人を仲良くさせようと頑張っているんですね」

 

 手段がどうあれ、三人の為に遊びを用意し、親睦を深めさせようとするリゼッタをエリナは少し見直した。

 …………いや、単に反応を面白がってるだけで結果的にああなってるだけ?

 

「チーム分けはこのようにするわ。デビッド、ロム、ラムで一チーム。もう一チームはウェイン、エリナ、シーシャ。チーム一丸となって一本の剣を差し込む事が絶対条件よ。ちなみに魔法やズルは禁止。それを認めてしまったら面白くないもの。良いわね?」

「分かりました……あの、ウェインはどこに?」

「せっかちな子ね。今から呼び出すわ」

 

 カイトと同じく、ここにいないウェインを呼び出そうとリゼッタは指を鳴らす。

 

「……………………」

「……………………」

『……………………』

 

 しかし、返ってきたのは静寂だった。何も起こらない。

 それが気に入らないリゼッタは顔を顰め、何度も指を鳴らすが結果は同じ。期待した反応は返ってこなかった。

 

「何をしているの……主人の呼び掛けに応えないなんて従僕失格よ」

「あぁ、ウェイン君ならミナちゃんのお手伝いに向かったよ。約束の時刻なんだってさ」

「なん……ですって……?」

 

 シーシャの言葉に唖然とするリゼッタ。その後すぐに表情が歪んでいき、唇を強く噛みしめる。

 聞いてないわ、ありえない……いつの間に教祖(マスター)とそんな約束を?

 

「いや~困ったな~。ウェイン君がいないんじゃアタシとエリナちゃんの二人だけでやる事になっちゃうな~。二対三だと全然フェアじゃないし、誰がウェイン君の代わりになってくれたらな~」

「……何が言いたいの?」

 

 思わせぶりなシーシャの発言。そしてリゼッタに近づき、逃がさないように彼女の手を掴む。

 

「代わり、やってくれない?」

「…………えっ?」

 

 本来、傍観者となるはずだったリゼッタは、ウェインとシーシャによって黒ひげ対決に参戦する事になった。

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