ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~   作:S・TOM

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 一年と一ヶ月ぶりの更新です。

‌‌ シモツキさん主催の「Origins Succession」(ID:285362)合同コラボ回にて、主人公であるカイトの登場が決定いたしました。
 今月末、コラボ開始。


第45話 ファイアスターター

 プラネテューヌ特命隊。

 第四班所属、カイト。

 

 ゲイムギョウ界に転移した時点で戦闘経験は皆無、剣も握った事すら無かった青年が特命隊に入隊できた理由。それはひとえに、カイト自身に宿された炎の恩恵による物だ。

 魔力に由来する魔法の類では無い事を除き、全てが謎に包まれた力。振るえば並のモンスターなら一瞬で蒸発してしまい、女神ですら相対すれば脅威を覚え、戦慄する。

 故にカイトは数多の強敵にも渡り合え、だからこそ特命隊としての素質を認められたのだった。

 

「――うおっ!?」

 

 そして現在。

 炎の力を封印されたカイトは今、頑強な岩石を纏う巨体のゴーレム――モンスターハードの番人を相手に苦闘していた。

 

――メリィィッ!

 

 一秒前まで立っていた場所に、番人の拳が減り込む。地表をいとも容易く砕き割り、巨大なクレーターを形成するパワーは嫌でも冷や汗をかかせた。

 当たれば確実にダウンしてしまう。長引く前にさっさと終わらせるしかない。

 

「フンッ!」

 

 大なり小なり、攻撃の終わり際には必ず隙が生じる。

 地面に埋まった拳が引き抜かれるまでのタイムラグを狙い、番人の腕へ大剣を振り抜いた。

 

――ガリッ!

 

 通った。直撃だった。

 刃が岩石を削り、その表面に一筋の傷を残している。

 

「……ちぃっ!」

 

 だが、それだけだ。番人に入ったダメージは無に等しい。

 手応えの大きさに誤魔化されるが、今の一撃は鋼鉄で出来た鎧を爪で引っ掻いただけに過ぎない。

 その程度の攻撃では、何度やっても無意味である事は分かりきっていた。

 

(キッツイぜ……炎を使えない状態でコイツを倒すなんて!)

 

 戦い方が分からない。何をすればダメージを与えられる?

 倒す手段を模索しようとすると、硬直が解けた番人が次なる攻撃を繰り出してきた。

 

(来る! 今度は横へ薙ぎ払うように! ラリアット!)

 

 番人の攻撃は目で追える速さだ。しかし、それを避けれるかどうかは全く別の問題である。

 回避行動を取った瞬間、岩石の巨腕が自身を捉える事は目に見えていた。ならば、対処する方法は一つしか存在しない。

 

「ぐっ……うぅっ!」

 

 不慣れな防御で、正面からラリアットを受け止める。

 カイトは横に構えた大剣を盾代わりに、少しでも衝撃を和らげる事を選んだ。

 

――ドゴォォォォン!

 

 大剣を握りしめる手から振動が伝わり、骨の髄まで痺れが伝達する。

 明滅する視界の中、カイトは意識をしっかりと保ち、岩石の塊を防ぎ続けた。

 

「ぐわぁぁぁぁっ!」

 

 されど忘れてはならない。カイトは炎の力があって初めて、特命隊のレベルに到達している事実を。

 炎の使えないカイトは戦闘経験の浅い、ただの未熟な新米戦士である。そんな青年の防御技術で受け止め切るには、番人の攻撃は重すぎた。

 

「ごふっ……うっ、ぐぅっ」

 

 後ろに大きく吹っ飛んだ事で、背中に激痛が走る。

 苦しい。肺の中の空気が抜けていく感覚に襲われ、窒息しそうになる。

 岩壁に打ち付けられた身体は悲鳴を上げ、立つだけで精一杯の有様だった。

 

「…………」

 

 その姿に見ながらも助け舟を出そうとはせず、傍観を貫く一組の男女。

 ルウィー魔導団団長、リゼッタ。その弟、ウェイン。

 

「……追い込まれてしまったようです」

「そうね」

 

 特に顔色を変えないまま、リゼッタは短く言い切った。

 

「加勢いたしますか?」

「いいえ、一人でやらせなさい。ここで可能性を掴めないのなら、彼に先はないもの」

「……承知しました」

 

 揺らぐことの無い、牢固たる氷塊を彷彿させる冷徹な判断。カイトの生命に影響を及ぼす指示に反発する事なく、ウェインは静かに引き下がった。

 これは試練だ。カイトという戦士の道筋を、高みへと導くための必要な通過点。

 炎に頼り切った戦いでは辿り着けない領域へ、カイト自身が足を踏み入れるための試験なのだ。

 

(気づきなさい、アンヴァニッシュ……貴方に掛けられた枷の意図を。その真意を理解できた時、貴方は本当の意味で炎を使えるようになる)

 

 カイトに対する多大な期待と信頼を胸に、リゼッタは戦いの行方を見守るのだった。

 

「――っ!」

 

 番人の拳がカイトを捉えようと振り回される。

 全身から響く痛みを堪えながら、カイトは番人の猛攻から逃げ続けた。

 

(やっぱ油断ならねぇ……もう一発食らったら終わりだ!)

 

 時にはジャンプ。時にはローリング。あらゆる手段を用いて回避を行っていく。

 隙があったとしても攻撃は一切行わない。ひたすら避けるという行為に徹して、思考を巡らせる事に専念した。

 

(リゼッタさんが言っていた枷……アレには、一体どういう意味があるんだ?)

 

 考える。考えて考えて、考え抜く。番人の攻撃を避ける合間合間で頭を回し、リゼッタが施した封印の意味を理解しようとした。

 炎を使わずに番人を倒せ。当初のカイトはそう解釈していたが、時間が経つにつれて違うような気がしてきたのだ。

 

(逆……なんじゃないか?)

 

 炎を使わず、ではない。炎を使って番人を倒せ。つまりリゼッタは、封印を施された状態から炎の力を引き出す事を求めているのではないか。

 そして、その方法は自分で見つけろ。炎の封印には、そういう意図があるのだとカイトは考察した。

 

(でも、どうやって?)

 

 リゼッタの意図は分かった。だが、炎を引き出す方法が見つからない。

 指南する際にカイトを揶揄う事が多い彼女だが、不可能を強いる事は決して無い。必ずどこかに実現できるヒントが隠されている筈だ。

 探せ、探すんだ。で無ければ番人の攻撃を延々と避け続けなければ……。

 

(……あれ?)

 

 そこで初めて、カイトは思念に集中できている自分に気付く。

 おかしい。自分は今、執拗に迫りくる番人を相手にしている最中だ。余裕なんて全く無い。なのに、どうしてこうも落ち着いていられる?

 

「っ!」

 

 真正面。まるで相手の動きを予知していたかの様に、番人が繰り出したストレートを難なく回避する。

 今までであれば、紙一重で避ける事しか出来なかった場面。それを見極めた途端、脳裏にある言葉が浮かんできた。

 

『物事には必ず兆候という物があるの』

 

 事の起こりが唐突に見えても、注意深く観察すれば兆候は必ず見えてくる。

 道中、ウェインの戦い方を解説したリゼッタの言葉だった。

 

(そうか……そういう事か!)

 

 知らず知らずの内に、カイトは番人の兆候を見つけていた。

 攻撃が繰り出される直前、岩石の腕は振り抜かれる方向へ僅かに傾く。どんなに速い攻撃だろうと、その予兆は隠し切れない。

 カイトは無意識の内に、その兆候を読み取っていた。故に、猛攻に対処しつつも冷静な思考を保つ事が出来ていたのだ。

 

「次は上だ!」

 

 飛びかかった番人に対し、バックステップで距離を取る。

 振り下ろされた拳が空を切り、地面に激突。砕け散る岩の破片が周辺に降り注ぐ中、カイトは番人の挙動を観察する。

 

「フフ、遂に解した様ね」

 

 冷静さを取り戻したカイトの姿を見て、一文字に結ばれていたリゼッタの唇が綻ぶ。

 いよいよ、封印が解かれる時が来たのだ。

 

――――ボワァン。

 

(っ……この感じ、『また』だ!)

 

 身体の奥底から込み上がってくる熱。まるでライターが点火したかの如く、焼き尽くされる様な灼熱感を全身で感じる。

 この感覚には覚えがある。カイトが初めてミスティックドライブを発動した時に味わった、どこまでも漲っていく力の奔流だった。

 

(やっと分かったぞ、リゼッタさんが何の為に枷をかけたのか!)

 

 人間椅子。黒ひげ危機一発。ウェインの単独戦闘。そして封印。

 単なる悪戯心では無い。全てはカイトにミスティックドライブを習得させる為の布石だったのだ。

 

「っしゃあ……今ならやれる、やってやるぜ!」

 

 封印から炎を解き放つ唯一の秘法。

 一糸の乱れも存在しない、研ぎ澄まされた精神を以て、カイトはその名を静かに唱えた。

 

「ミスティックドライブ……!」

 

――――ゴオオオオォォォォッ!!

 

 暴れ狂う炎の旋風が、カイトの周囲に吹き荒れる。それは正に、リゼッタが求めていた弟子の姿そのものだ。

 旋風が収まると、白銀だった刀身は真紅に染まっている。迸る炎が刃の形を成した、劫火と呼ぶに相応しい剣だ。

 

「ふぅ~……すっげぇ爽やかな気分だぜ。新しいパンツを履いた正月元旦の朝みたいによ」

 

 長年の謎が今になって解き明かされた。そんな晴れ晴れとした思いを抱き、カイトは改めて番人と向き合う。

 炎を宿した大剣を、しっかりと構えながら。

 

「来な、岩窟の番人! 不尽の烈火(アンヴァニッシュ・フレイム)で消し炭にしてやる!」

 

 カイトが啖呵を切ると共に、番人が猛然と突っ込んでくる。

 今度はパンチじゃない。全身を使ったタックルを仕掛けてきた。

 

(さっきよりも速い……さっきよりも機敏! だけど!)

 

 今のカイトであれば、容易に対処できる範囲だ。

 数メートルの距離まで接近したところで容易に回避。単調な軌道を読み取り、横へステップを踏む。

 

(タックルは不発! 巨人がバランスを崩した!)

 

 ここで通す。確固たる意志を持って、カイトは間合いに踏み込んだ。

 

――――ザシュッ!

 

 一閃が胴体に直撃。段違いの手応えだった。あれほど刃を通さなかった岩石の装甲が、今や豆腐の様に切り裂かれている。

 予想外のダメージを受けたせいか、無機質の集合体である筈の番人は怯えた姿を見せていた。

 

「すぅ……はぁぁぁぁ……」

 

 しかし、気を抜く事はしない。 確実に番人を倒すべく、高ぶった感情を落ち着かせていく。呼吸を整え、平常な心を取り戻す。

 それこそがリゼッタに教えられた、ミスティックドライブを使いこなす極意なのだから。

 

(不思議な感覚だぜ。気分が落ち着くに連れて、力がドンドン溢れてくる……コレが最高の状態、コレが俺のベストコンディション!)

 

 状況は整った。極限まで意識の中、カイトは再び番人に肉薄する。

 恐怖に囚われてしまった岩石の巨人に、もう打つ手は残されていない。刻々と迫りくる決着の瞬間を、唯々待っていた。

 

――――グワァァン!!

 

 炎の刃が、岩石の胴を両断する。二手に分かれた番人の身体は、切断面から激しく燃え盛る炎により、一瞬にして灰へと変えられていった。

 番人は、もういない。

 

「……ふぅ」

 

 渾身の力を振り絞り、番人の撃破に成功したカイト。

 かつて番人だった灰燼が宙を舞っている光景を、漠然とした表情で眺めていた。

 

(勝っ……た……)

 

 しばらくしてから、カイトの意識が鮮明な物になっていく。番人に勝利したという実感が、心の中にようやく湧いて出てきたのだ。

 そう、カイトは勝ったのだ。あの強靱かつ頑強な巨躯を持つ番人を、己の中に秘められた炎で以て焼き尽くした。

 それは即ち、リゼッタが課した試練を乗り越えた事を意味する。

 

「そうだ、俺は勝ったんだ……遂に俺は、ミスティックドライブを習得したんだ!」

 

 至上の達成感がカイトの心を満たしていく。感喜に満ち溢れた声色で、カイトは高らかに勝利を叫んだ。

 嬉しかった。ミスティックドライブを習得できたという事実が、何よりも誇らしく思えたのだ。

 この壁を乗り切った自分はもっと強くなれる。そんな確信が、カイトの中にはあった。

 

「グゥゥルルルル……」

 

 しかし、何時までも余韻には浸ってはいられない。

 歓喜に打ち震えていたカイトが気がついた時には、既に大量のモンスターが目の前に群がっていた。どの個体も凶暴化している。たとえ特命隊でも、一人では倒し切る事は出来ないだろう。

 

「……ああ、そうだったな。ハードを止めない限り、モンスターが大量発生するんだっけか」

 

 それを目の当たりにしてなお、カイトの表情に動揺は無かった。一、二……とモンスターを数えた後、ニヤリと笑みを零す余裕すらある。

 事実。今のカイトにとって、雑魚モンスターなど束になっても相手にならない。現に凶暴化されていようが、だ。

 

「何の事はねぇ。今ここで、全部倒しきってやるよ!」

 

 凶暴化モンスターの群れに何の躊躇を起こさず、単騎で突貫していくカイト。

 そこからは、もう圧倒的だった。

 

「遅えぇ!」

 

 カイトのスピードには、何者も追蹤する事が出来ず。

 

「らぁあっ!」

 

 カイトの攻撃には、何者も耐える事が出来ない。

 

「燃えろぉ!!」

 

 カイトが大剣を振るれば、数匹――否。十を越える数のモンスターが消し炭と化していく。

 絶大な力を持った一と、無力な集まりである多。結果など、とうの昔に分かりきっていた事だった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 戦いが終わり、その場に大の字で寝転ぶカイト。

 彼の体力が底を尽いた時、周囲にモンスターの姿など一匹たりとも存在しなかった。

 

 

『…………』

 

 ホワイトシスター、ロムとラムは呆然と立ち尽くしていた。

 二人の眼前で発生している巨大竜巻。それは道中のモンスターを巻き込んでいき、見る間に数を減らしていく。その威力たるや、さながら自然災害だ。

 

「ねぇ、ロムちゃん」

「なぁに、ラムちゃん」

「……あの竜巻、お姉ちゃんが作ってるんだよ」

「……そうだね」

 

 二人は知っていた。モンスターを蹴散らしていく竜巻の根元が、自分達の姉である事を。

 

「凄いよね、お姉ちゃん。グルグル回ったまま先に進んでるんだもの」

「お姉ちゃん、気持ち悪くならないのかな……?」

 

 姉、ホワイトハートが巻き起こしている竜巻を見る二人の目には、ある種の尊敬の念が含まれていた。

 

「あぁぁぁぁ、クソッ! 全然怒りが収まらねぇぇぇぇ!!」

 

 ホワイトハートの怒りは、まだまだ続く。

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