騙された気がするゼロの使い魔   作:真暇 日間

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 連続投稿六話目。フランス語記述だとこうなるそうです。


騙されゼロ魔08-C・H・O

 

 〔私の在り方〕

 

 

 

 父さまが殺されてから、運命と言うものを信じたことなど一度もなかった。

 母様が心を壊され、私が北花壇騎士として行動するようになってからは、いつの日にか伯父に復讐するためだけに生き延びてきた。

 生きるためならなんだってやった。伯父の支配するガリアに飼われ、汚い仕事もやって来た。人が死ぬところも見てきたし、私が自分で人を殺したことだってあった。

 亜人も殺した。怪物も殺した。多くの命を奪ってきた。それを後悔するような余裕はなく、王である伯父や王女である従姉の命令を受けながら日々を生きてきた。

 トリステインにある魔法学院に潜入しながら、時に従姉に呼び出されて何らかの仕事を請け負い、その報酬で生きる。父を殺し、母を狂わせた叔父によって生かされる屈辱。けれど、その屈辱もいつか行う復讐の事と、私に利用価値がなくなるまでは人質として最低限生かされる母さまの事を考えれば耐えられた。

 

 北花壇騎士・六号。

 人形。

 そんな風に呼ばれるのにも、もう慣れてしまった。

 

 私は『雪風』。心を凍らせ、復讐の刃を研ぎ続けるもの。

 おそらく、未来の大罪人である。

 

 

 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 〔突然の出会い〕

 

 

 

 任務を終えて学院に用意されている自分の部屋に向かう前に、私は実家の一室にいた。

 母さまは壊れてしまった当時のまま、私にくれた人形を私だと思って大切にしている。私が近付くと金切り声をあげ、その人形を必死に守ろうとする。悲しくも、すでに見慣れてしまった光景。

 私は溜息の一つもつくことなくその場を後にする。そしてつい最近召喚した私の使い魔であるシルフィードに乗り、空を飛ぶ。

 

 ―――瞬間、私には関知できない『なにか』が起きていた。

 突然大きな音がしたと思って振り向くと、そこにはあるはずの湖が完全に消えた光景があった。

 そしてその直後に、どこからともなく現れた水が湖を満たしていく。

 

「何が起きたかわかる?」

「きゅい? いくらなんでも見ただけじゃわからないのね。精霊たちが騒いでたわけでもないし……あ、でもあの水は少しだけ精霊っぽい気がするのね!」

「そう」

 

 私はシルフィードに指示を出し、ゆっくりと湖の上空を飛び回った。

 今も水はどこからか溢れだし、ゆっくりとではあるが水嵩が増した場所まで水で埋め尽くそうとしている。

 これを魔法でやるのなら……いったいどれだけの実力が必要になるだろうか。

 水の量と勢いから見てトライアングルでは難しいだろう。スクウェアクラスでもできる者とできない者が居るのではないだろうか。

 そうして観察していると、ガリア側の湖畔に何かが浮かび上がってくる。木でできている楕円球のようなものに、金属の板が横向きに取り付けられている。

 やがてそれが岸に到着すると、貝が開くようにそれは開いていく。どうやらそれは水中を進む船だったようで、中から二人の男女が現れた。

 

 ……その姿を見て、ふと思い出す。あれは確か、魔法学院でヴァリエールの三女が召喚したと言う使い魔と、ヴァリエールの三女に思いきり蹴りを叩き込んで重症を負わせた男ではないだろうか。

 黒い髪に、見たことのない作りの服。七ヶ月くらいだろう膨らんだ腹を抱えた少女と、同じく黒髪に見たことの無い作りをした服を纏った少年。そんな二人組が何組もいるかと言われれば、やはりそんなことはない。

 ……とは言っても、貴族として考えるならともかく人間として考えればその行動にも納得がいく。誰だって妻を拐われてしかも膨らんだお腹の上に乗っている奴を見たら蹴り飛ばすくらいはするだろう。

 しかも、女の方はわからないけれど男の方はかなりの腕のメイジだと推測できる。水の精霊の居る湖の中を平然と通ってこれるのがその証拠だ。

 出てくる時に空気の球でなく、妙な船のようなものを使っていた事から恐らく属性は土。ただ、ハルケギニアから遥かに離れた場所から来たと思われる彼らなら、母様の飲んだ毒について何か知っているかもしれない。

 

 ……そう考えた私は、湖から上がってきた彼等に話しかけたのだった。

 

 

 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 ……結果的に、私の目論見は成功した……と思う。母様は治ったし、水の精霊の求める指輪は回収できたし、叔父であるジョゼフの企みを妨害できた。これ以上無い結果になったはずだ。

 契約上私はあの男……マサの物になったけれど、彼は私をあくまで戦力や護衛としか見ておらず、最悪の事態として一応考えてはいたようなことにはなっていない。ありがたくはあるけれど、彼の妻であると紹介されたサイトとのイチャイチャが見ていて辛い。サイレントが使えて本当によかった。

 

 私が二人の道に同行するようになって、旅は一気に加速したらしい。シルフィードに乗って気付かれないようにガリアの王都に向かう。

 途中でサイトが何度か光の門に拐われそうになったり、実際に拐われて彼が即座に取り戻しに行ったりもしたが、最終的にマサが『魔法を封じる魔法』を使って魔法学園の貴族から魔法を奪ったり、彼がサイトを召喚して使い魔にしてしまったりもしたが、なんとか到着することができた。

 色々と問題も無くはなかった。トリステイン魔法学園から魔法を奪った結果、彼にかけられた懸賞金の総額は凄まじいことになっていたし、トリステインへの報復として行った『これも全部『土くれ』ってやつの仕業なんだ!』作戦によってトリステインの貴族の懐から金貨も銀貨も銅貨も宝石もマジックアイテムも姿を消した。かなりえげつないが、非常に効果的な作戦だった。

 ……まあ、普通はまず思い付かないし、思い付いたとしてもやろうとはしないだろうし、よしんばやろうとしたところでまず間違いなく失敗する作戦だが……実際に大成功してしまった以上、それは見事な策と言わざるを得ない。相手と自分の状況や実力差を加味した素晴らしい作戦だった。

 その結果としてトリステインは経済的にとどめを刺され、今は貴金属を【錬金】できる者が必死に金をつくって流通させようとしているようだが……これでは間違いなくトリステインが詰む方が早いだろう。

 

 ただ、なぜか王宮の金庫からは貨幣を持ち出すことはなかったようだ。理由はわからないが、何かそうする必要があったのだろう。

 ……まさか、『頭が無能な方が復興に時間がかかるだろうから無能な頭から力を削がないようにした』とか、そんな理由ではないだろうし。

 

 ……そんなこんなで、私は今、ガリアの王都にある小さな宿屋の一室に居る。そこでは彼とサイトが口喧嘩をしているけれど、私はとりあえず杖を振って『サイレント』を使う。五月蝿いのは嫌いだし、あまり甘すぎるものも好きではない。

 そうして音を遮断した先では、彼とサイトがまだ言い争っているが……私にはこの後の展開が読める。読めすぎて困るくらいに読めてしまう。

 

 恐らく、二人はあと数分もしないうちに仲直りをするだろう。その際、どちらからかはわからないがキスをする。この時キスをした方の言い分がやや多めに通っているのでそう言うものなんだろう。

 その頃から甘ったるい空気が溢れはじめ、次に彼とサイトは近付き、唇を交わす。

 ……いちゃいちゃするのはよそでやってもらいたいところだけれど……この二人を見ていると、昔に見た父様と母様のことを思い出す。

 まだ父様が死んでおらず、まだ母様が壊れておらず───まだ、私が何も知らない『お姫様』のままで居られた頃を。

 

 ……よそう。母様の壊れた心は治ったけれど、父様はもう帰ってこない。

 私は復讐者。この手は血に塗れ、もう二度と光の下には戻れない。

 けれど、せめて私は最後に───あの叔父に、私から一度は全てを奪ったあの叔父に、『全てを奪われる絶望』を味合わせたい。

 権力を。金を。愛する人を。それ以外の、あの男の持つ物全てを。

 奪い尽くし、壊し尽くし、闇と絶望を存分に味合わせてから最後に残った命を奪ってやる。

 

 ───暗く、鋭く、冷たく、ただ意思を研ぎ澄ます。あの男を殺すために、何年も何年も何年も何年も待った。機を待った。時を待った。

 その上で、ようやく捕まえた好機。ここを逃すつもりなど欠片もない。

 

 私は『雪風』。『雪風』のタバサ。元北花壇騎士・六号。かつて『シャルロット・エレーヌ・オルレアン』と呼ばれることもあった───ただの薄汚いろくでなしである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいや、少なくとも薄汚くはないし、性根が腐ってない分かなりましだと思うぞ?」

「……あの、マサ? なんの話?」

「あの……あー…………タバサ? がかなり自分を卑下してたからそれについての話」

「あー……うん、まあ、マサだしね。ちょっとくらい不思議なことがあっても問題ないね」

 

 ……私としてはかなり問題なのだけれど……まあ、これも悪くない。

 サイトにぎゅうっと抱き締められながら、私はそんなことを思っていた。

 

 

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