騙された気がするゼロの使い魔   作:真暇 日間

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 連続投稿三話目。ハルケギニア突入編。


騙されゼロ魔07

 

 才人との結婚が本格的に決定したため、これまで以上に努力をしている。

 とりあえず未来の安定した収入のため、かつ安全で才人と一緒に居られる時間を取るためには面倒だが勉強が必要だ。ラッキーなことに校長先生が何故かどこぞの会社に繋がりがあるそうなので、それを頼ってみたらあっさりと就職先が決まってしまった。

 この不況のご時世で優しい人も居たもんだと思ったら、どうやら俺の仕事の早さに目をつけてもらったようで、紹介まではコネ頼りだったが後は実力だったそうな。

 

 ……魔法訓練の一環で考え事の速度を早くしといてよかったよ、本当に。

 

 そんなわけで高校の時点で就職先が決まってしまったので、後は全力で高校卒業に力を注ぐことに。毎日才人との愛を育み、ついでに俺達にあてられたのかカップル率が異様に高くなっている学校内で恋愛相談を受け付けてみたりと毎日を充実させながら生活を続ける。

 

 当然魔法の練習も続けるが、魔力の扱いについては常時できるようにすればいいと思ったのでそれを実行し、さらに主体を考え事を早くする方に向けた。

 仕事が早くなればノンキャリアでも出世が早くなると(会長から直接)聞いたので、そのための努力を欠かさない。

 会社はどうやら機械系の会社らしいので、機械類の簡単な知識も一応必要だと思ってそういった系統の辞書を購入。用語の名前とかは教えてもらえるとは思うが、手間は少ない方がいいと考えた。

 才人も見たがったが、どうやらよく理解できなかったようで俺の膝の上ですやすやと眠ってしまった。

 

 ……本に集中させるべき集中力が才人の方に集中しちまって止められねえ。才人のいい匂いとかぽかぽかする体温とかすべすべの肌の感触とか時々上げる寝惚けてる感じのぽんわりした声とか俺の理性を攻め立てる。

 本当ならここで勉強を中断して才人と一緒に寝たいとこだったんだが、勉強については未来で俺と才人が幸せに暮らすために必要なものだからと我慢。全力で我慢しながら最速で本の中身を頭に叩き込む。

 できるだけ速く、それでいて正確に覚えてしまえば、ただそれだけで才人と一緒の時間が増える。

 なら、俺は愛の力で一気に覚えるだけだ。才人と俺と、約七ヶ月後に産まれてくる俺と才人の子供のために。

 

 ぱらぱらと本のページを捲り、次々に内容を覚えていく。このままなら五分でこの本を記憶できる。これぞ愛の成せる技だ!

 ぱたん、と読み終わった本を閉じて頭の中でもう一度再生。……よし、しっかり覚えてる。今日のノルマ終わり!

 

 それじゃあ俺はこれから才人を愛でるという重大な仕事をしなくちゃいけないから、このへんで。

 

「……ん……マサぁ……終わったの……?」

「すまない、五月蝿かったか?」

「……ううん……マサの用事が終わった気がしたから起きた……ラヴパワー?」

 

 やばい嬉しい超嬉しい。才人がラヴパワーとかすごい嬉しいひゃっほう!

 

 とりあえず肩の上から腕を回してお腹を撫でてみた。暖かくて柔らかくて、気持ちが良い。

 

「……はぁ……マサの手、あったかぁい……」

 

 才人の手が俺の手に重ねられる。あ~……幸せすぎて死にそうだ。才人を看取るまでは絶対意地でも死なないけど。

 そんなわけでイチャイチャラブラブしながら俺と才人はいつもと同じようで少しずつ違っている日常を楽しんでいたのだった。

 

 

 

 ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 そんな、ある日の事だった。才人のお腹も少しずつ目立つようになってきて、そんな才人の事を気にしながらも二人でのんびり家デートをしていた時の事だ。

 それはあまりにも突然の事だった。突然才人が驚いたような声を出したので見に行ってみたら、なんと、才人の右腕から先が消えていっているのを見せつけられたのだ。

 だが、才人にはどうやら『銀色に光る鏡のようなもの』が見えていて、それに指先が触れたと思ったら突然引きずり込まれそうになっているのだとか。

 そして、俺はその現象の事を知っていた。知識として、才人がこれからどこに呼び出されるのかも、どんなものに巻き込まれるのかも、よく知っていた。

 だが、今の俺にできることは何もない。とにかく才人に話しかけ、すぐに俺も呼び出された先に向かうから、絶対にその先にいる相手にキスされないようにしてくれと言う事しかできなかった。

 

 ……だが、才人は必死に作ったらしい笑顔を浮かべながらも、頷いた。

 

 

「……うん。わかった。それじゃ、待ってるからね。マサ」

「ああ。すぐに俺も行く」

 

 最後に一瞬唇を重ね、俺は才人を見送った。

 

 そして、すぐに行動を開始する。まずは父上殿と母上殿、父御殿と母御殿にそれぞれメールを送る。才人が攫われたことと、魔法らしい方法で恐らく異世界に連れ去られたようだから暫く連絡できないこと、それから子供が産まれる前には戻ってくることを約束して、それから俺はここ数年取っていなかった『新しい魔法』として『ゼロ魔の虚無魔法』を習得した。呪文はわからなかったが、少なくともこれで才人のところに行く準備だけは整った。

 靴とかは後で魔法で作る。服も作れる。最低限必要なのは杖代わりのボールペンと、俺の靴くらいだろう。飯なんかは……最悪、どこかを襲うことになるだろうが構うものか!

 

 俺の覚えている魔法には、別れた場所が日本の北端と南端だろうが、世界の表と裏だろうが、地球上と火星上だろうが、距離も次元も一切無視して合流すると言う呪文がある。

 その呪文を、俺は特典として与えられた膨大な魔力に任せて唱える。

 

 脳裏に思い描くのは、才人の笑顔。俺と別れる寸前の、泣きそうになりながらも必死に作ったぼろぼろの笑顔。その涙を止めるために、才人との約束を守るために、俺はその呪文を唱えた。

 

「『リリルーラ』!」

 

 合流呪文、と呼ばれるその呪文は、その効果を遺憾なく発揮した。才人が呑まれたらしいゲートの位置に光が集まり、世界の壁を無理矢理にこじ開けて繋がっていく。

 そして視界が明るくなって目に入ったものは。

 

 桃色の髪の少女にのしかかられ。

 

 大きくなってきているお腹を上から押さえつけられながら。

 

 必死になって唇だけは守ろうと両手で口を押さえる。

 

 頬を真っ赤に張らした才人の姿だった。

 

 ……プチッ

 

 

 

 ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 よくわからないことだらけだ。

 マサと一緒にのんびりしていたら、突然目の前に変な銀色の鏡みたいなものが現れて、私はそれに飲み込まれてしまった。

 マサはなにが起こったのかわかっているようで、お父さんとお母さん達に連絡したらすぐに私のところに来てくれると言ってくれた。それから、絶対にキスだけはされちゃいけないとも。

 

 私にはマサの言っていることはよくわからないけれど、とにかくキスだけはされちゃいけないって事はわかった。だから私はそれを守ろうと、両手で口を押さえた。

 よくわからない場所を越えて、私は見たことのない場所に現れた。

 周りは草原。黒いマントを着た変な人達が私の周りを囲っている。

 目の前にはピンク色の髪をした女の子。私に向かって凄く嫌そうな顔をして、そして近くにいた頭の寂しい人に向かって何かを言っていた。

 

 私に聞こえてきたのは『やり直しをさせてください』、『平民を召喚するなんて聞いたことがない』、と言う女の子の言葉と、男の人のそれを拒否する言葉。

 ……一番気になったのは『使い魔召喚』と『コントラクト・サーヴァント』と言う単語。そしてマサの言っていた『キスだけはされちゃいけない』と言う言葉。それから考えて───きっと、キスすることがその契約をする方法なんだろう。

 

 そう考えていると、女の子が凄く嫌そうな顔をして私に近付いてきた。

 

「……あんた、感謝しなさいよ。貴族の口づけなんて平民が受けられるもんじゃないんだから」

 

 女の子は私に向かって杖を構える。凄く嫌な予感がして、私はすぐにその場から逃げ出した。

 

「ちょっと!なに逃げようとしてるのよ!ご主人様に恥かかせないでよ!」

 

 誰がご主人様だよ!と言ってやりたいところだったけれど、私はそれができるほど余裕がない。お腹の赤ちゃんは重いし、あまり激しい運動はできそうにない。それでも必死に逃げるけれど、すぐに女の子に捕まってしまった。

 

「ああもう大人しく……なによその手は」

 

 女の子は私を捕まえて押し倒すと、お腹の上に腰を下ろした。ぎゅうぎゅうとお腹が押されて赤ちゃんが心配になるけれど、その女の子は私のことを睨み付けてくるばかりでどこうとはしない。

 

「ちょっと!なにご主人様に逆らおうとしてるのよ!さっさとその手をどけなさい!」

「───ッ!!」

 

 ぶんぶんと首を横に振ると、私を睨み付ける視線がさらに険しいものになる。身体を前に倒してきているのかお腹にかかる重さは軽くなったけれど、かわりに頬を叩かれた。

 じんじんと頬が熱くなり、涙が浮かぶ。それでも私は必死に口を隠し、そしてお腹の子供を守るために身体を丸めて体重をかけさせないようにする。

 そんな私の行動が気に障ったのか、その女の子はさらに睚を釣り上げた。そして細い棒のようなものを私に向ける。

 

「これが最後よ。さっさと契約させなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかボケが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急にお腹の上から重圧が消えた。あの女の子のかわりに見えるのは、黒いスニーカーと視界の外から延びる脚。

 おそるおそると脚の延びてくる方を見てみると……そこには、私の待ち望んでいた相手が立っていた。

 

「よう、才人。遅くなって悪かった」

「……ううん。大丈夫」

 

 マサに手を引かれ、ゆっくりと立ち上がる。周りを見なくちゃいけないのかもしれないけれど、今はそんなことよりもマサを感じていたい。

 

 一瞬、マサと永遠にお別れしなくちゃいけないのかと思った。けれど、マサは私を追って来てくれた。それがとても嬉しくて、私はマサに抱きついて泣いてしまう。

 

「よく頑張ったな」

「……うん」

 

 頭を撫でられ、私は顔を埋める。じんじんとしていた頬はいつの間にか痛みが引き、やっと私は安心できる人の所に戻ってこれた気がしていた。

 

「……さて、才人。逃げるぞ」

「へ?」

 

 私が何かを言うより早く、マサは私の身体を抱え上げる。そして、私を抱えたままのマサの身体が、ふわりと浮いた。

 

「へ? えっ、えぇぇっ!?」

「気にするな。とりあえず、俺は飛べる。それだけわかっとけばいいよ」

 

 お姫様抱っこをされたまま、私はマサと一緒に空を駆ける。私を無理やり呼び出したあの場所があっという間に地平線の彼方に消えていった。

 

 

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