振り返ってみると、日本で過ごした時間はあっという間だった。
残念ながらと言うべきか、私自身はヴァンと試行錯誤しつつ完成させた大結界の外に出るのは難しい状態になっているし、麻帆良の認識阻害も原作ほどとは思わないがそこそこ強めになっているが。
とは言っても、私が私だと認識しているこの体を使う方が色々と楽なだけであり、負荷や負担を考えなければいつでも出る事が可能だし、そもそも私が本気になれば結界が持たない。つまり、原作の様に強く縛られている状態ではなく、自主的に縛られた状態になっているという事になる。
分身的なものを使って外に出る事も可能だし、不自由とまでは言えない。それでも、結果的かつ疑似的ではあるが、私は世界樹の近くに封印されたと言える状態になっているのだろう。
封印に近い状態になったと言っても、何もしていないわけではない。
魔法世界を何とかするには最終的に魔法の公開が必要だろうと結論付け、必要な技術や経済力を着実に集め開発するのが主な活動になっていただけだ。
魔法を公開する理由は、魔法世界を魔法世界のままにすれば確実に破綻し、その回避方法はどれも大規模なものになる、というものだ。
火星の緑化による魔力生成は確実に効果が得られると思えるが、地球から見えるし超大規模な工事などが必要だ。
魔法世界の構造を効率化するには、恐らく内部の崩壊を伴うリセットが必要になりそうな気配があるし、恐らくは厨二病か黄昏の姫御子の力も必要だろう。
別の場所から魔力を集めても根本的な改善にはならないため、時間稼ぎ以上の効果が無い。
現状で思い付く限りの方法を検討したものの、魔法世界内部だけで完結する手法はなく、魔法を隠しながら対策する事は現実的と言えないと判断した。私達だけでその巨大な負担を背負うのは不可能で、その義務も無いしな。
そろそろ厨二病に教えて協力させる必要があるのだろうが……最大の問題は、やはり厨二病が厨二病だという事だ。原作の『完全なる世界』的な方向に突っ走られると、その対処をするなり手綱を取るなりする手間が増えてしまう。
いくらアリアドネーを手中に収め、規模だけで言えば魔法世界最大のヘラスと実質的な同盟関係にあり、メガロの財界と強力な関係があると言っても、足並みを揃えるのは無理があるんだ。ウェスペルタティアは商人として少々の影響力を持つだけだし……国としての勢力がかなり落ちているから、無視するという手もあるんだが。
ウェスペルタティア王家、もっと言えば黄昏の姫御子の力は、未だに謎だらけだ。黄昏の姫御子についても、時代によって積極的に表に出る場合と、戦場などで突然力を振るう場合の両方のパターンが確認できているに過ぎない。最後まで表に出ない場合もあるだろうし、現れるのが100年とか200年に1人程度らしいという事しか判明していない。
眷属達の社会的な影響力は、着実に増している。
特に日本では、飢饉や火山や地震などなど、何らかの被害が大きかった地域……北は青森(北海道は実質的に私達の領地だから除外)から南は鹿児島までの各地に幕田家やその関係者を祀る社が建てられたり、一部地域に幕田家領が増えたりした。
災害救助や復旧等に手を貸し続けた結果であり、当然の様に災害がある度に助けを求められるようになりもしたが、民間からの感謝は相当なものだ。幕府や大名にも恩を売りまくったおかげで他藩より少々裕福でも文句を言われ難い状況にもなって、一石二鳥だそうだが。
文句を言ってきた連中が飢饉で苦境に喘ぐ羽目になったのは、まあ自業自得だ。私達が飢饉を誘発させたわけではないしな。スクナが勝手に何かやらかしたわけでもない、はずだ。
ちなみに増えた領地は2か所。桜島は噴火後の無人になったところを救援用拠点として利用する事を兼ねて譲り受け、富士山東部は噴火後に小田原藩が返上し幕府が放棄を決定した地域を復旧目的に乗り込む形で幕田家飛び地にしたらしい。有宣達も無茶をする。
中国や東南アジア、インドといった地域も、特に問題は無い。
史実通りにヨーロッパ諸国の植民地化したため、欧州組と東南アジア組がひっそりと協力する方向で、影響力を伸ばす事に成功した。
アヘン戦争を防ぐ事は、失敗したが。一応は大国だった清の支配力でも一般人がアヘンに依存するのを止められなかったわけだし、私達には支配層の強硬論を止める手段が無かったのだから、仕方ない。裏方の私達に出来た事は、流通を少々邪魔したりする程度だった。
むしろ徳川幕府の権力もう……もとい、石あた……ええと、上層部の頭を冷やす効果も期待できたから、積極的な介入は控えたとも言える。
アメリカやヨーロッパ方面も、ある意味では順調だ。
大きな地震の救援に動き、ポルトガル等に恩を売ったり。
マクダウェル家はカナダ方面に注力しながらシティの連中にアメリカ東海岸辺りの利権を譲った上で、アメリカの独立戦争を裏から支援したり。
ドイツで銀行の立ち上げを手伝ったり。
ナポレオン(やっぱり造物主が関わっていたらしい)の活躍を横目で見つつ、軍需産業方面で経済力を強めたり。
スエズ運河の工事にメガロの連中が関わるという事で監視してみたら、工事で魔法を使いまくって魔力枯渇に近い現象を起こしたのを確認できたり。
「あれは意外だったよねー」
「砂漠のど真ん中では、供給される量も知れているという事なんだろうな。
おかげで地球でも魔力枯渇の研究が可能だと判明したのはいいんだが……魔法使いによるピンハネに失敗した挙句、奴隷に近い強制労働でイギリスに叩かれた上に労働者の反乱を起こされたというのは、自称正義の魔法使いとしてどうなんだろうな」
「自称だし、僕達の感覚の正義とは違うんだよ、きっと。
フランスの企業が中心だけど、ジャンヌ達は関わってないんだよね?」
「メガロ上層部が直接関わってるのに、行かせられるわけがないだろう。
結果的に、資金難になって放出した株をイギリスが大量取得したんだ。前世の史実がどうだったかは知らんが、現状としては造物主が良く出入りするフランスよりイギリスが有利、という事でいいだろう」
「イギリスが有利過ぎってのも、怖いけどね」
「その分か、若干アメリカが不利だがな。
鎖国と言いながらもオランダイギリスフランスとの交流は続けていたし、アヘン戦争の時に危機感を煽って工業化もし始めていた。
私達が桜島で造船所と蒸気船を作って、お披露目もしてあったからな。黒船も思った以上にお祭りで終わったし、混乱は抑えられた気がするぞ」
「九州に本格的に進出したのは、だいぶ前の桜島の噴火の時だったよね?
あの時に桜島を貰っておいたのが、こんな事で役立つとはねー」
「あの頃はまだ駿東や足柄の面倒も見ていたし、人手的にかなりギリギリだった覚えがあるが……結果的に良かったんだから、それでいいだろう。
そういえば、この時の人手不足が
「でもさー。
明治政府を支援する見返りに事実上の独立国家になる、ってのはどーなの?」
元幕田家領というか、現幕田公国というか。
私達が所有していた土地は、世界樹周辺を首都とし、北海道及びその近隣の島々、富士山東部、桜島の3か所に飛び領地を持つ独立国となっている。あの大きな北海道や樺太を飛び地と呼んでいいかは置いておくとして。
明治維新の際、私達は摂家の系譜である事や海外の技術の重要性を理解している事もあり、朝廷に開国を進言する立場を取った。一応は譜代大名であり徳川家の説得に動く事も出来た。桜島に拠点を持っていたため薩摩との交流が深く、少しはその動きを制御出来た。
その結果、比較的穏便に大政奉還が行われたのだが、私達は黒幕で強力な力を持ちすぎている存在として明治政府から警戒され、更に有宣が明治政府の困窮に付け込んで「幕田領に関する主権を買い取る」事で、幕田公国が成立した。
もちろん金銭だけでなく、不可侵条約だの名目上は天皇を宗主とするだの降嫁してくるだの摂家の分家が来るだのといった交渉や経緯もあったが、幕田公国は幕田家当主を大公とする立憲君主制で、大日本帝国の同盟国、という事になっている。
現実問題として、大日本帝国と幕田公国の往来は原則自由だし、基本的な法は共通になるよう調整する事になっている。当然、国としての体制、税、治安、教育といった分野では、それなりに差が出るだろうが。
ちなみに、国外の組織には世界樹の存在は認識されていないし、オスティアへのゲートも公開されていない。というか、造物主やウェスペルタティアも存在を忘れているのではと疑いたくなるレベルで使われていない。ヴァンはいい仕事をしたし、相変わらずヨーロッパ方面に出没している造物主も世界樹の情報を流していないようだ。
ただ、京都と麻帆良は魔力が不自然に多い場所として、メガロやらに目を付けられはした。魔法使いを含む調査団が日本や幕田公国に来るのは防げなかったものの、京都では摂家や陰陽寮の壁に阻まれていたし、麻帆良では準備してあった認識阻害に耐えられなかったようだが。
いざこざははあったが、日本呪術協会(旧陰陽寮、有宣の喝と梃入れで裏のまとめ役としての地位を保っていた)と幕田魔法協会が同盟を組み、メガロに私達を支配下に置けないと実力で諦めさせて、完全な独立を維持する事に成功した。少なくとも名目上は対等な関係であり、魔法を使用した契約書は有効だ。
当然だが、問題が全くないわけではない。幕田公国は人外的又は魔法使い的な意味での裏世界の住人を可能な限り合法的に扱うための隠れ蓑、そして大々的に研究や農業工業を行うための顔である以上、見せ札としての諸々を準備する必要がある。
それと、メガロの連中は紀伊半島の南の方に支部という名の村を作ったようだ。学園都市の様な大々的なものではないし、日本人を排除するほど阿呆でも無かったから、自治体の運営に協力する日本人という立場で人を送り込んである。監視は問題無く出来るだろう。
「建国の主犯は有宣だぞ?
まあ、薩長の連中もだいぶ台所が苦しかったようだしな。公務員の給料をケチるために暦を変えると聞いた時は、何を言っているんだと思ったが」
「結果的に色々と動きやすくなってるのは、事実だけどね。
北海道だけじゃなくて、駿東から富士山の間の樹海も人外の隠れ家としては便利だし」
「青木ヶ原じゃなくて不満か?」
「あっちは有名になりすぎるから、いいんじゃないかな。
観光客が頻繁に来ると面倒だけど、寒さに弱いと北海道に逃げにくいから」
「確かにそうだな」
目立たないためにも、特に名前を付けていない富士山東部の樹海。そこは私達が保護した妖やらが多く住む、ある種の楽園が形成されている。
他の国、特に中東では生活可能かつ安全な土地の確保が難しく、遠く離れた地に移動するか、不便な生活を強いられる事が多いらしい。それに比べたら圧倒的に快適で、気候や文化面で問題が無いと判断した連中の入国希望もしばしばある。
……受け入れ側から見ても問題ないと思えるのは、かなり少ないようだが。
「ここへの移住希望者が多いのは、エヴァ様の努力と人望の賜物でしょう」
「……イシュトか」
この娘も、どうしたものか。
敬意や忠誠心は確かにあるし、本人も色々と努力はしている。
それは認めるが相変わらずの鉄仮面で、戦うメイド方向に全力で突っ走っているのはなぜだ。
今も、雪花と一緒に茶の準備をしているし……ノエルやノアは食事の準備をしているから、この2人が来るのは分かるんだが。
「私の後輩達もそうですが、皆が感謝しているのです。
全く、誰でしょうね。魔法世界で闇の福音などという相応しくない名を広めてしまったのは」
雪花の後輩達……自分たちを白雲と呼ぶ、アルビノ的な白い連中の事か。烏族に限らず、稀に現れるのを保護したり貢物的に連れてこられたりしていたから、意外な人数になっている。
全員が私の親衛隊を名乗るのは、リーダーが雪花という理由で納得するとしてもだ。若い女が全員メイド部隊にいて、程度はともかく戦闘方面も鍛えている点だけは解せん。
闇の福音の名は……本当に、誰だろうな。別に恐怖の対象とかではなく、クモの糸的なおとぎ話になっているのも謎だ。
「その点では、エヴァ様にアルテミス・カリステーの名が付けられ、月の一族の守護神として崇められる原因を作った人達も同罪なのでは?
雪花さんも布教に協力したようですし」
「エヴァにゃんが、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルになった原因だよねー」
「あ、あれは布教の協力ではありません!
協力者が不当に処罰されそうだから助けてほしいと請われただけです!」
「白い翼を広げ、弐の太刀で汚職者の十字架やら祭服やらを切り裂いたと聞いていますが?
関係者が、天罰だと震え上がったそうではないですか」
「介入したのは、本当に欲にかられた馬鹿の暴走による被害を防ぐためのものだったから、強く非難はせん。あれのせいで所持物を全て破壊する武装解除の魔法が注目されたのは笑ったし、宗教上層部とも関係を作れたようだしな。
それにしても、よくもまあ日本からヨーロッパまでの転移ルートを用意していたものだ。あの当時だと、私以外はそこまで長距離の移動は難しいと思っていたんだがな」
「それは
「悪いとは言っていないぞ? 交易やら技術導入やらがだいぶ助かったのも事実だしな。
「それは、そうですけど! そうなんですけどっ!」
「エヴァ様が良いと言っているのですから、良いのです。
それより、お茶請けの補充を」
「……はーい」
雪花が追い出された、か?
あいつもアルテミス・アンゲロスとか呼ばれて、二つ名的には被害者に近いんだが……いや、白雲や眷属達は全員が被害者候補か? 男はフェブルウスとかいう名を付けられてるらしいし。ギリシャ神話とローマ神話を節操なく混ぜる辺り、犯人は日本に居そうだ。
それに、実験と言いながら日本→中国→東南アジア→インド→中東→欧州のルートを作っていた連中や、協力者の保護に失敗した連中の方が問題と言えば問題だった。問題点の洗い出しと対策に集中し過ぎていた辺りが。
「ま、あれのおかげで先に色々導入出来たから、文明開化とか騒がれる前に工場を建てたりもしたしねー。
けどさ、割と小さめの会社をいっぱい作る方針で良かったの? 銀行を作って緩やかな企業連合風にはなってるけどさ」
「下手に大きくして、財閥解体に巻き込まれたら面倒だ。
制度としては別の国ではあるが、無関係だと言い張るにも限度がある」
「財閥はかなり大きな力を持っているようですが……解体、ですか。
たまに話していただく、未確定な未来の情報でしょうか?」
「そうだな。
この際だ、これから起こる可能性のある大きな出来事や変化を伝えておくか。
時期が不明なものもあるがな」
「これからだと、2回の世界大戦かな?」
「歴史に喧嘩を売っている私達が言うのもなんだが……やはり、回避は不可能だと思うか」
「少人数の思惑とか、国のトップがとか、そういう話じゃないからねー。
アメリカの虐殺とか、割と積極的に手を出した件も少しマシになった程度だったし。少なくとも戦争自体は起きるんじゃないかな?」
「やめろと言って止まるような覚悟では、戦争を起こせんからな。
それに至る経緯を全て止めるのも不可能だ。それは、今まで生きてきて実感しているよ」
「確かに、いくつかの戦争を回避しようと指示されていましたね。
芳しい結果を得られた事はありませんが」
「問題はそこだな。力不足とか、表に立てないせいで身動きが取れない事が原因なら、まだ理解もできるんだが。
1度防いでも2度目があったり、別の事件が発端になったりするのは、どうにもならん」
「防ぐことを諦め、状況を利用する方針で動く場合は、比較的良い結果を得られています。
今後もその方針が良いのではないでしょうか」
「一応はそのつもりだ。
だが、この辺が焼け野原になるのは、世界樹の事を考えても避けたい。その為にも、日本とは微妙な距離を保つ必要があるのが面倒だが……」
「ここは海が無いから、日本に経済封鎖とか食糧封鎖される可能性もあるんだよねー。
アメリカとの関係も、難しいよね?」
「難しいが、その前に、技術の国として表に出ていかないとな。
そのうち石油燃料も広まるはずだし、別荘の工場やらは交渉力の源泉として使えん」
「蒸気船を作ったときは色々輸入したって言い訳で通したけど、何度も使える手じゃないし。
それに、組み立てだけだと未来の中国だよねー?」
「戦後の日本でもあるがな。
設計やら改良やらは、ある程度以上の技術力が必要だ。それまでの下積み期間は材料を買い、決められた方法で加工して売るのが簡単……と言うか、それしか出来ん」
「新人メイドの、練習期間の様なものですか」
「そうだな。最初から人別に茶の味を変えるなんて事が出来たら、それは天才を通り越した何かだろう」
「そうですね」
魔法世界をどうするかは、今後のお話で。
世界大戦の話は(ほんのちょっとしか)書きませんよ。
真面目に書いてたら始動編じゃなくなるじゃない(今が始動編にふさわしいとは言っていない)。
裏設定:メガロが「紀伊半島の南」に村を作った理由
麻帆良、京都⇒エヴァ達や呪術協会の勢力下
九州⇒桜島や島原(雲仙岳)に、幕田家の勢力あり
東海⇒富士山付近に幕田家領。甲賀や伊賀の存在。京都~麻帆良の通路。幕田家や呪術協会の影響が強い
東北⇒麻帆良~北海道の通路。幕田家が地味に勢力を持っている
瀬戸内海⇒京都~九州の通路。幕田家や呪術協会が地味に勢力を持っている
日本海側⇒主要都市への交通が不便
四国⇒火山が無いため幕田家の影響が小さいが。京都や東京へは船が必要
紀伊半島の中ほど⇒旧朝廷関係の影響が強め(かもしれない)
紀伊半島の南⇒火山が無いため幕田家の影響が小さい。一応陸路で京都等に行けて、奈良や伊勢(きっと魔力が多いと期待)にそこそこ近いと言えなくもない
要するに幕田や呪術協会の勢力が強めの場所を避け、有事の際に逃げる事が可能で、かつ本国にある程度言い訳出来る場所を探した結果としての選択です。
ちなみに村から日本人を排除した場合、侵略者として表と裏の両方から追われます。村長等に立候補するにも投票するにも「日本国民である事」という条件がありますし。
というわけで、原作でコノエモンが麻帆良で理事をやってたのは、侵略者認定を緩和するためというメガロ側の事情もあった(効果のほどはお察し)という説を提唱してみる。
2016/04/11 アメリカ東海岸辺りの権利→アメリカ東海岸辺りの利権 に変更
2016/04/21 二の太刀→弐の太刀 に修正