金色の娘は影の中で   作:deckstick

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始動編第13話 大戦 in 地球

 世界を巻き込む、2度の戦争があった。

 

 切っ掛けは、皇太子の暗殺事件だった。

 私の知る史実通りではあるが、事件はあくまでも引き金であり、その時点で既に世界中が火薬庫だったと言える。少なくとも、この事件を防いだところで戦争を防げたとはとても思えない。

 世界中の国が、民族が。他の国や人を出し抜き、自分達の利益や領土を得るために蠢く。

 本質は、いつの時代も変わらないのだろう。そして、次々作られる新しい兵器や戦い方が抑止力にならず、戦争という武力行使が当たり前のように行われるこの時代において、泥沼化は必然だったのだろう。

 その結果、多くの国が疲弊し、ヨーロッパの経済と君主制を崩壊させた。そして、従来の方法、つまり敗戦国からの賠償金程度ではどうにもならないほどの大きな傷跡を残した。

 

 そもそも敗戦国には賠償金を払う国力が残っていないのに、戦勝国の消耗をどうにか出来るはずもない。

 巨大な被害に厭戦の雰囲気も出てはいたが、利益や不満のはけ口を求め続ける行動が、すぐに変わる事も無い。

 賠償金の支払いに関するトラブル。国力が低下した国や地域への進軍。各国の思惑で行われる支援や圧力。加熱しすぎた株式市場の崩壊を切っ掛けとする世界恐慌やその対策も、原因ではあるだろう。

 結果的に、2度目の世界大戦も概ね史実に近い形で発生し、終結した。

 

 最大の違いと言えばやはり、最初から最後まで戦争に参加せず中立を貫いた私達、幕田公国や眷属達の存在だろう。

 第一次世界大戦後のヴェルサイユ体制では、領土的軍事的な野心を持たないが色々な技術は持つ小国として微妙な存在感を保ちつつ、眷属達が各国の市場で儲けながら土地や企業を確保し。

 ワシントン会議には呼ばれたものの、軍縮会議には参加せず。国防や輸送船護衛用の駆逐艦や巡洋艦は持っていたが、戦艦や空母が皆無だったのが良かったのだろう。当時の私達は航空機開発に力を入れていたが、有効性は広まっていなかったし。

 アメリカの経済成長が鈍化した時点で、資本の整理……具体的には不要と判断した株やら工場やらを売却したりして、経済の崩壊に備え。

 世界恐慌で経済が分断されると、元々表に出せない眷属や裏世界の住人が多く影響が限定的だった私達は、各ブロックの内部で勢力の維持や強化に努め。

 第二次世界大戦中はアメリカやイギリスなどと密約を交わし、戦争非介入を条件に歴史資料や文化財の保護を行っていた……こんな事で、図書館島の地下施設を作る羽目になるとも思わなかったが。運搬可能な範囲に安全そうで使いやすい土地が他に無かったんだ。

 ロシアが樺太に侵攻してきたりもしたが、全兵士を丁重に箱詰めし(かんおけにいれ)てお返しして、アメリカを通して抗議したら、二度と来なかった。返すついでに港の軍艦を壊滅させて、ついでに眷属達が影響力の弱かった極東方面の軍務にがっつり食い込み始めたような気もするが、私達は悪くない。

 もちろん、問題や被害が全く無かったわけではない。非協力的な私達に大日本帝国の鼻息の荒い軍部が文句を言ってきたり、私達の領地近くが攻撃されないと気付いた者達が殺到して騒動が起きたり、表向きは北海道方面から麻帆良等への食料輸送が問題だらけなので騒動が起きかけたり、飛行機から脱落した部品が落ちてきたりもした。

 

「あれ、すごかったですよねー。どかーん、って」

 

「いや、笑い話じゃないからな?」

 

 落下したのは、学校の近く。

 そして、避難を受け入れていた孤児の一部が巻き込まれた。

 そこにいたのが、こいつ……相坂さよだ。

 

「えー? でも、こうしていられるのは、あの時のおかげですしー」

 

「見方を変えれば、あの近くにいた100人以上の中で、死んだ10人程度に含まれてしまったという事だぞ。

 しかも、これからお前は私に縛られることが確定済みだ」

 

「それはそうなんですけどー」

 

 ある意味で、さよは強運の持ち主なのだろう。

 避難の手続きの際に、魔法の素質がありそうだとかいう理由でマーキングされていて。

 近くの学校に、私(年齢詐称薬で大人モード)が教師として滞在していて。

 状況確認のために消えかけている魂の記憶を読もうと送った魔力で、私の使い魔的な存在に変質してしまったのは。

 強制力こそないものの、存在維持を私に依存しているんだ。実質的に支配してしまったと言っていいのに、能天気だなこいつは。

 

「それに、目印を付けた最大の理由が、一目惚れだったというオチまでついた。

 良い素質の人物を見つけたと褒めるべきか、情けないと嘆くべきか、魔術の濫用で罰を与えるべきか……」

 

「も、申し訳ありません」

 

 今は事後処理を引き継ぎ、自宅兼事務所に戻った直後。

 現場から連行した少年が、ものすごく気まずい顔で土下座している。

 これが近衛の本家から来た近衛近右衛門なんだから、修正力とは恐ろしい。

 分家がこっちにある以上、本家から来ることは無いと思っていたんだが……分家の子が幼いうちに病死し、このご時世で跡継ぎがいないのはまずい&徴兵避け&本家血筋の中立国への疎開という思惑で養子に来るとか、予想の斜め上を行く現実が待っていた。

 近右衛門の後頭部が普通だった点にちょっと安心してしまった私は、悪くない。

 

「やれやれ。まあ、今回は状況把握に役立たなかった事も無いし、魔力との相性も確かに良かったのだろうから、その意味での処罰は免除してやる。

 だが、一般人相手に付きまとうような真似は、恋心が理由だとしても……いや、だからこそ嫌われる原因になる。

 場合によっては、権力や立場を振りかざす以上に下劣だぞ」

 

「そうですねー。知らない人にいつも見られてるのは、ちょっと嫌ですしー」

 

「ぐはっ!」

 

 うむ、死んだな。

 しかし、近衛近右衛門と相坂さよ、か。

 こんな形で関わるとは思わなかったが……この様子では、原作の登場人物は何らかの形で関わってくると思っておいた方がいいのだろうな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その後は、状況を考えると、当然の結果なのだろう。

 幕田公国の被害は軽微であり、北海道に大きな工業力と農業力を持ち、アメリカ等との密約があった。天皇を宗主とする日本から分離した国ながら戦争に参加しなかった、つまり「敗戦国ではない」という事実もある。

 結果的に、私達が日本の復興を手伝う事になった。

 勿論、中立国であることを盾に、私達が主導する事は避けた。朝鮮戦争の戦争特需やら抜きでは復興の目途が立たないし、アメリカはやはり大きな力を持つ国だ。現状でその傘下に入る利点は、入らない欠点よりも大きいはずだ。

 

 幕田公国としての役目は、主に4つ。

 日本とアメリカの文化や感情を考慮した緩衝役。治安や制度の維持管理に関する現場の監督。これ以上の死者を防ぐための医療。そして、教育システムの立て直しだ。

 その為の実行役として、各土地の社を護る連中や古くからの名家や名士に協力を要請したり。ある意味では裏の存在であるヤの付く職業から、私達の方針に反しない性根を持つ者達を選出して暴徒(火が付く病気の連中が多いらしい)の鎮圧や強制出国を行わせたり。一時的ではあるが眷属や妖(もちろん人に化けられる者限定)を各地に派遣したりと、少々無茶をすることになった。

 ……いくら被害が小さく、忍者系教師陣やスクナといったチートじみた連中がいると言っても、出せる人員や物資に限度はあるんだ。それに、全てを私達が背負うのも間違っている。

 もちろん、眷属達はちゃっかりと権益や影響力の確保を行っている。私達やアメリカからの物資の輸送手段が必要であるし、幕田公国や今後の日本にとって重要なものだからと、港、道路、鉄道の建設や運営管理を日本と幕田公国の共同事業(実態は幕田公国主導)としたり、駅や交通の要所付近の土地を確保したり、それらを利用する不動産管理会社や輸送会社を元々持っていた人脈や流通網を復旧しながら構築したりしているようだ。

 戦争でボロボロになっていて、なかなか大変そうだが。

 

 世界の眷属達も、それぞれ活動を活発化させている。

 戦争の傷跡はどの国も大きく、その復興に必要な労力は巨大。

 そこに付け込む形だが、戦争に消極的だった眷属達の会社や国が人を助けるためという標榜で支援を行い、社会的な影響力やらを着実に増している。

 2度の大戦の前より権力や勢力を落とした者もいるが、元々王族や貴族といった権力者側だった連中は仕方がないだろう。逆に独立国としての基盤を確固たるものにした中東の連中もいるし、これを想定して権力に依存しない組織を作っていた者もいたから、全体としてはプラスだ。

 

 そして、ついにと言うべきか、想定していた状況となった。

 何度も打ち合わせをしていくつものパターンを想定し、状況に応じて修正もしてきた。

 その結果として。

 

「どうした、育児放棄者。

 私を娘と呼んだのだから、500年以上も放置した責任は取るのだろうな?」

 

「ぬ……ぬぐ……」

 

 アメリカの調査団に混じって来日した厨二病(黒ローブを羽織った青年バージョン、白衣の研究者に見えるような認識阻害と光学迷彩の複合技は見事)が、私の足の下で呻いている。

 ヴァンから来日の情報をもらっていたし、幕田公国の訪問も日程に組み込まれているのも知っていた。だから、夜に世界樹の側で待ち構えていたのだが。

 この時点で接触したのは予想の範疇だから問題無い。だが、最初から「我が娘よ」などと言われたのは……想像よりも気分が悪い。思わず予定以上に叩きのめし踏みつけてしまったじゃないか。

 

「ああ、行動に伴う責任を見ず、起点と権利だけを主張する阿呆だったな。

 己が人を勝手に不老不死に改造し。

 己が導いた海の先で戦争を起こし。

 己が世に出した科学という名の力が何千万と言う人を殺し。

 己が作り出した世界で億を超える人が消滅の危機に曝されていても。

 始まりは自分だと、胸を張るのだろう?」

 

「何を、言っている……」

 

「お前に人から外された私。今まで、どんな気持ちで過ごしてきたか知っているか?

 お前が先導したインド航路。その先で、どれほどの人が差別的に扱われたか知っているか?

 お前が広めた科学的な知識。その果てに、どれほど人を効率よく殺せるようになった?

 お前が作った魔法世界。その限界が見え始めているにも関わらず、旧世界と呼び蔑む世界で遊んでいるのはなぜだ?

 それぞれを実行した時点の功績は認めるが、その後がお粗末すぎる。特に魔法世界の限界に気付きもしていないのは、神の様な存在に見られたいお前の注意不足や力不足を示しているだろうが」

 

「何を、根拠に……」

 

「ほれ、ここ500年ほどの、魔法世界の魔力量分布の変化をまとめた資料だ。

 これを理解出来ない頭しかないとは……言わんだろうな?」

 

「……ふん、見せてみよ」

 

 口ぶりは偉そうだが、未だに踏みつけられた状態では威厳も何もないな。

 それでも目の前に落とした資料は見ているし、プライドよりも魔法世界の限界は重要だったか。

 

「……これが真実と言う前提で聞こう。

 もって何年だ」

 

「間違いなく100年以内。正確な数字は不明だが、70年前後といったところだろう」

 

「そうか……ならば、我がむすぐぉぁっ!?」

 

「私は、私の人生を好き勝手に変えた上に、500年以上放置する見ず知らずの何者かを、家族と呼ぶ気になれん。

 それともお前は、その辺のオヤジ等という表現でも本気で家族と思い込むお目出度い頭をしているのか? そもそもマトモな感情を向けられるような出会いや過去があったとでも?

 お前に比べたらその辺を歩いているオッサンの方がマイナスでないだけマシだと知れ!」

 

「ふぐぉっ!?」

 

 ん? 強く踏み過ぎて内蔵でも潰れかけているか?

 頑張って障壁を張っているようだが、衝撃を防ぎ切れていないな。

 

(ちょっとちょっと。

 エヴァにゃんの本気は、いくら厨二病でも防げないよ?)

 

(これでも全力ではないんだがな。大結界の制限も受けたままなんだぞ)

 

(それは厨二病も一緒だよ。程度はともかくさ)

 

(それは分かっているんだが。

 それより、こいつの本体だが、地球に寄生していないか?)

 

(え? その体に宿ってる精神体みたいなのが本体のはずだけど)

 

(いや……構造的に、私に近い感じがするぞ。

 同化はしていないが、ヨーロッパの……フランスの南西部からスペインの辺りに、少なくとも魔力やらの繋がりのようなものあるものがある。

 普段は私も月を意識しないようにしているが、その状態であれば、私は人としての私しか認識していない。もし、本人が気付かずにこうなっているのであれば……)

 

(……うわぁ。これに気付いたら、厨二病が更に拗れるかもってこと? やばいなぁ。

 あ、フランス南西あたりなら、ルルドってとこが怪しいかも。魔力が集まりやすい場所だし、厨二病がよく使うゲートもあるよ)

 

(聖地と呼ばれそうな条件が揃っている場所か。

 今調べるわけにもいかんし、その辺の調査も追々だな……)

 

 全く、宿題が随分と溜まっていくな。

 それでも、今はこの厨二病が自分から動くようオハナシするのが先決だ。多少力を緩めた間に、自分で治療したようだしな。

 

「……頭は冷えたか?」

 

「うむ。人はやはり罪ぶぐぉっ!?」

 

 しまった、また力を入れ過ぎたか。

 

「作った後は放置するお前に、人の罪を問う資格があるとでも?

 大抵のものは、作り上げるよりも維持する方が大変なんだ。

 信頼も、文化も、平和も。

 長く続く事が、いかに難しいか。

 そして、継承しながら時代に合うよう変えていく事が、いかに困難か。

 作った者や一気に壊した者は、確かに目立つだろう。だが、その者達以上に、正しく継承する者、必要な変化を受け入れつつも芯を忘れない者こそ、私は評価しよう」

 

「何をぐふっ!?」

 

「そして、お前だ。

 世界すら作った技術や力は、評価しよう。

 だが、新しい世界を作った時点で満足していないか?

 それが完璧だと、慢心していないか?

 それを成し遂げた自分は神だと、増長していないか?」

 

「我が世界は、完璧だ……それを、人間共が……」

 

「お前も元々は人間だろうが。

 人の知恵を。人の努力を。そして、人の欲を。甘く見ていないか?

 自分が持つモノを他人も持っている。それを否定しても特別にはなれんぞ、クソガキ」

 

「我が……子供だと……?」

 

「大人になる前にありがちな、夢を見るガキだと言っている。

 自分は特別な存在だ。

 自分は他人と違うんだ。

 そうやって夢を見ながら成長し、責任の重さや自分の無力さを知って大人になるものなんだがな。

 多少力を持つせいか無力さを他人の無知のせいにし、夢を見たまま責任を放棄しているのがお前だろうが!」

 

「何も知らぬ子供が、なうごぉ!?」

 

「お前に()()されて、既に500年以上だ。

 過ごした時間はお前よりも短いだろうが、普通の人より長く現実を見て、多くの過去を背負ってきたつもりだ。

 私が何も知らない子供ならば、普通の人間全てが赤子同然だ。その赤子相手にドヤ顔で威張っていたお前は、せいぜい幼児レベルという事になるな」

 

「……」

 

「全てを思うがままにできるのは、それこそ全知全能の神だけだろう。特に人の心など、思うようには動かんものだ。

 お前が今までに、何度も人に裏切られ、人の醜さに功績を踏みにじられたのは想像がつく。

 だが、お前が見捨てた者の事を考えた事はあるか?

 お前が力を与えた者が、他者を踏みにじるのはどう考える?

 人を嫌うのは勝手だが、お前自身がその理由と同じ事を他者にしてきた過去は消えんぞ。つまり、お前が他者に嫌われるのは必然という事になる。

 それを理解しているか? ぼーや」

 

 おっと、転移で逃げたか。

 場所は……麻帆良からは出ていないな。今の公式の立場を投げ捨てはしないのか。

 

(予定よりも、かなりいぢめてたけど……大丈夫?)

 

(それは、厨二病を心配しているのか? それとも、私か?)

 

(一応はどっちも、かな。

 厨二病が拗れても面倒だけど……いつかは何とかする必要があったし。

 それよりも、だよ。エヴァにゃん、かなり怒ってるでしょ?)

 

(まあ……そうだな。

 アレに娘と呼ばれるのが、これほど気に障るとは思わなかった)

 

(気に入らないというか、静かに逆上してる感じ? 冷静さも残ってたけど、発言は過激だったね。

 結果的にテンプレ的なSEKKYOUになってるしさー。マリー何とかっていうんだっけ?)

 

(メアリ・スーの事か? 今更だな。

 見えている問題に対処するためなら、誰だろうが踏みつける覚悟は出来ているぞ)

 

(懐に入れた人達には甘いし、利用しても踏みはしないでしょ? 与えた愛情や利益の分だけ好意を貰うのは、普通じゃないかな。

 厨二病は……まあ、終わらせ方がお粗末だから。政治的な問題になる事が多いし)

 

(行動が子供、なんだろうな。

 今回は、私も人の事を言えんか……)

 

(そんな事もあるよ。

 んじゃ、厨二病が動き始めたみたいだし、僕は監視に回るね。

 エヴァにゃんは、ちょっと落ち着いてよ?)

 

(分かった、そっちは任せる)




(原作が)始まる前に(元凶の活動を)終わらせようとするスタイル。転生やらに関係しない原作関係者(このえもん、さよ)が出たと思ったらこの有様だよ。
ラスボスに手を出してるのに、未だに始動編なのはどうなんだろう。


2016/04/23 以下を修正
 火薬庫だった言える→火薬庫だったと言える
 輸送手段が無いため騒動が→輸送手段が無いための騒動が
 我がむぐぉぁっ→我がむすぐぉぁっ
 忘れない者こそ私は→忘れない者こそ、私は
2016/04/27 表向きは食料の輸送手段が無いための騒動が起きかけたり→表向きは北海道方面から麻帆良等への食料輸送が問題だらけなので騒動が起きかけたり に変更

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