虐め過ぎたのが原因かもしれないが、あれから、厨二病が高二病にクラスチェンジした。
良くも悪くも前向きだったのだが、妙に悲観的になったり、粗探しに終始したりし始めて。
最終的に、黒歴史的な扱いで、アルとヴァンが解雇された。
「これで自由に動けますからね。
私としては、そう悪くない結果です」
「腕を切り落として後は好きにしろとか言われた時は、本体が別なのがバレてたのかとひやひやしたけどね。ちょっとごねたらアーウェルンクスを作る技術で体を作ってくれたし、根は善良なままなんだろうけどさ。
でも、監視は難しくなっちゃったよねー。僕と高二病の力の源泉が、いつバレるか心配だよ。
魔法世界の問題はちゃんと把握してたし、こっちの解決案にも目を通してたのは確認してあるから、少なくとも、解決の邪魔はしないとは思いたいけどねー」
というわけで、私は厨二病改め高二病から隠れる必要が無くなり、失業したような感じの2人は普通に生活をする事になった。不老という点は私や眷属達も同じだから、それについては問題ないよう細工もしてある。普段はダイオラマ魔法球の方で生活するつもりのようだし。
現時点で最大の問題である高二病は、今でも客観性を持てず、自分を特別視する性根を変えられないようだ。一見正論な悲観論を好むようになっているらしいから、多くの人の協力を必要とする私達の案に乗ってこない可能性もある。
「今のままだと、魔法世界の改善は無駄だとか言い始める可能性が高いな。
結果的に、完全なる世界に走るフラグを立ててしまったか?」
「否定はできませんが、エヴァちゃんがやらなくても、最終的に辻褄が合うような出来事があった可能性が高いですからね。
原作の流れから考えると、戦争の準備をし始める頃に、魔法世界の住人を完全なる世界という名の夢に叩き込む決心をする切っ掛けがあるのが本来なのでしょう。それを早めた事と、その時点で解決案が提示されている事。これらがどのような影響を与えるかですが、戦争の準備などという大掛りな動きがあれば、エヴァちゃんに情報が来るでしょう?」
「まあ、その程度はな。
高二病に関しては様子見、私達は……計画の前提条件となる、地球と魔法世界の掌握に本腰を入れるべきか」
「世界的だもんね。乗るしかない、経済成長のビッグウエーブに?」
「そんな感じだな」
「恩を売るってレベルじゃねぇぞ?」
「別に恩を売りたいわけではないが」
「ネタには突っ込んでよー」
「断る」
そんな感じで迎えた、高度成長期。
身を隠す為に必要な最低限を除き自重しなくていいと通達したら、何という事でしょう。
世界各地に、大規模な企業連合やら国家やらの中枢を握る眷属達の姿が。
「報告の資料が来るたびに現実逃避するのも、どうかと思うよ?」
「確かに種は蒔いた。
だが……育ち過ぎだろう」
報告書や資料を確認する時は、誰かを助手にすることが多い。
ゼロやリズの参加率が高く、雪花やノエル達も参加している。メイド軍団がメイド秘書軍団にクラスチェンジして久しいから、身の回りの世話と護衛と各種業務(世界各地の眷属達との連絡や調整を含む)を行うため、常に数名の当番が私のそばにいる状態が続いている。
ヴァンやアル、有宣達もちょくちょく顔を出すのは、今後の行動を決める必要があるからだ。幕田公国としての動きもあるしな。
幕田公国は、議会、政府、裁判所の3権分立の議院内閣制に移行した。頂点が幕田家当主、側近に摂家という構造は維持したままで。
法の公布、政府長官の任命、裁判所長官の任命という3つの権利を、裁量権付きで幕田家が保持しているから、間違いなく日本での天皇よりも権限が強い。
結果的に先進国で唯一の、ドイツ型立憲君主制で国民主権を謳わない国になったが……まあ、これは別にいいだろう。
摂家の各分家については、当主は幕田家補佐という事でそれなりの権限を持っているが、当主以外については、裏に関係する役目を担う事が多いものの、特別な権限を持っているわけではない。現在の近衛近右衛門は軍で対魔法使いの部門を率いているが、その前任者は摂家出身ではなかったしな。
取り敢えず、近衛近右衛門の子供は近衛
ヨーロッパ、アメリカ、日本といった国では、眷属達が巨大銀行や様々な業種のトップレベル企業を含む企業連合をいくつも作り上げている。全ての分野で一流とまでは言えないものの、資本主義国をほぼ網羅する繋がりは、やはり強力らしい。特に、ドイツが発明しアメリカが製品化しイギリスが投資しフランスでデザインしイタリアが宣伝し幕田が仕上げる流れにはまると、凄まじい事になりそうな気配が漂い始めていたりもする。その後の某国や某国は、今はまださほど考えなくていいと思いたい。
赤い旗の国々も、全体の頂点に国がいるだけで現場を担当する組織は存在している。それに、権力を掌握し維持するのも簡単ではない。そこに付け込むといってはあれだが、幾つかの大きな国で影の支配者的なポジションを確保してあるらしい。うちの眷属達は必要な権力は求めるが、必要以上の栄誉や金を求めないため、信念のある指導者相手でも折り合いをつけられるそうな。権力亡者相手なら飴と鞭と最終手段でどうにかするらしいが。
アメリカ、カナダ、ドイツ、中国、ソ連、オーストラリア(イギリス植民地時代に足場を作っていたらしい)にある炭鉱や鉄山等もそれなりに確保。
産油地のうち、ペルシャ湾岸は国家としてがっちりと掌握しているし、イギリス(北海)、アメリカ、ソ連、東南アジア(大航海時代に以下略)でもほぼ利権を確保済み。他の地域には技術面で食い込むというミラクルを見せてくれた。国や社会情勢の影響を大きく受ける事業である以上、全てが思い通りに行くわけではないのだが。
内陸やらに砂漠や乾燥地帯を抱える国が多いから、有難く緑化の研究に使っていたりもする。
裏社会的な意味での影響力も、恐ろしい(褒め言葉)ことになっている。
国や技術の発展に伴い、表に出る事の出来ない者達の居場所が減っていく。それは時代の流れとして仕方ないとは言えるが、表社会にも影響力を持つ私達の力があれば、多少なりとも緩和できる問題でもある。
結果的に、私達の仲間になる魔法組織や人外種が、爆発的に増えた。単純に傘下に入る者達、緩い協力関係で留まる者達、表向きは疎遠を装いながらも裏で手を組む者達などもいるが、それぞれの勢力や事情によって対応が変わるのは当然だ。
メセンブリーナ連合や各地の宗教なども取り込みに動いていたようだが、元々それらと強い関係があったならともかく、従属を強要されない関係に惹かれる連中が多いらしい。
この世界でもメガロは己の欲に忠実な面があるし、宗教家は信仰を強要する事もままあるから、ある程度の余裕と自立心がある者達にとっては1択だったのかもしれない。
高二病をさほど気にしなくてもよくなった魔法世界も、ひどい(褒め言葉)ものだ。
全体として、経済や流通の重要な部分を握っているという事実は、より大規模になり。
じわじわ勢力を広げつつあるメセンブリーナ連合では、元老院に自分達の息がかかった議員を送り込みはじめ。
小国に転落したウェスペルタティア王国は、王家との取引を強化し。
多くの亜人達を傘下に収めたヘラス帝国では、皇帝の盟友としての地位を盤石なものにしていく。
アリアドネーは……今も昔も支配者として君臨しているから、大きな変化は無いようだ。
戦争への介入も、随時行っている。
基本的には人道支援と呼ばれる内容ではあるが、その地での人材育成を通して影響力を確保する事が目的に含まれている。私達も純粋な慈善団体ではないのだし、教育には大きなコストが必要なのだから、それくらいは許される範囲だろう。特に、優秀な人材の確保は大変なんだ。
もちろん、全てが上手くいっているわけではない。
眷属同士でも意見は食い違う。
公害を避けようとして高コストになり、競争に負けて倒産しかけた会社もある。
権力を失ったり、権力者と疎遠になったりした地域もある。
利権を得るために得られるだろう利益を超えたコストがかかった事も、利権を得られず損失だけが残った事もある。
人手や資金の不足で、手を出せなかった事も少なくない。資産や権利の確保を優先しているため、現金に余裕があるのは一部の国や組織だけだ。
それでも、世界に対する影響力は、確実に増している。
「日本の企業グループも複数が傘下にいる事になるのか……というか、雪広?」
「いいんちょに繋がりそうな名前が、成り上がってきたねー。
明治の頃は運送関係を任せてたんだっけ?」
「そのはずだし、大戦後の物流再構築にも関わっていたはずだ。それが今では物流を中心に、製造から物販までカバーする企業グループと化しているな。
早い段階で銀行業も取り込んで、集荷やら販売やらの拠点と併せて展開しているようだ。私鉄と郵便局と商社とスーパーマーケットを混ぜた状態のようだが……」
「コンビニは?」
「似たものは展開し始めているようだぞ。店舗数はまだ数えられる程度だがな。
というか、色々といるな……ん? 那波重工もあるのか」
「ぴーからネギをぶっさす人も雪広関係になるの?」
「その覚え方はどうなんだ……とりあえず、雪広とは資本やらの強い関係は無さそうだな。多少の株の持ち合いやら取引やらはあるかもしれんが。
拠点は兵庫か。造船に鉄道車両に航空機に……うん、明治以降一緒に色々とやらかしていた相手の系譜かな」
「改めて関係組織を眺めてみると、すごいよねー」
「アメリカやヨーロッパ方面も見るか?
恐ろしい名前がいくつも並んでいるぞ」
「……うん、前に見た時に思い知ってるから、今回はやめとくよ。
それより、余り良くない情報の方も見てみないと」
逃げたな。
まあ、リズがあまり好ましくない情報としてまとめた方が、警戒すべきものとして重要だったりもするんだが。
「この資料は……人体実験についてか」
「どこぞの国がやってた実験の、資料のコピーに成功したんだってさ。
やだねー、人を人と思わない人って」
「私達も人の事は言えんぞ。
実験の内容と機密は……大丈夫じゃないから資料が来ているのか」
「部分的にザルなところがある国だしねー……他所へも少し漏れてるかもしれないらしいよ。エヴァにゃんに資料が来る程度には漏れてるわけだしさ。
内容は魔力ドーピング、簡易的な闇の魔法的な感じかな?
魔族化まではしないものの、体に影響が出る可能性が高いみたいだね。100%中の100%みたいな感じかなー」
「100%とは何だったのか。
それでも魔力の恒常的な上昇には成功しているようだから、目標は達成している……のか?」
「本来は考慮しないといけない部分を、いっぱい投げ捨てながらだけどねー」
「あの国もそうだが、今の時代に人権がそこまで尊重されるのか?
どこぞで、人体実験紛いの器具が売られたりもしているようだが」
「X線で靴の中を見たりってやつとか?
あれは単純に無知なだけだと思うよ、売る方も買う方も。靴の中の様子を見るって謳い文句は達成してるんだし」
「まだ未来の知識があるから言える事、か。
長くともあと数十年で、私達の知識の価値も無くなる。それまでに引退したいものだが」
「無理だと思うよ?
だって、女神さまだし。ねー、アルテミスちゃん」
「好きで呼ばれているわけじゃないんだ」
そんな無駄話もしつつ、資料の確認を進めていく。
現時点で基本的に私が決めるべきことは、特に無い。月の一族全体での大目標や指針は私が決める事になっているが、個々の案件に口出しする必要は無いという意味で。
その意味では、新聞を見ているのとあまり変わらない気がする。
「だからー、現実逃避はやめようよー」
「いやまあ、散々作ったのは認めるし、表に出せないのも分かる。
だからといって、ダイオラマ魔法球群の生産力を幕田公国やらと比べて表にされてもな……」
「何か悪いの?」
「国と比較可能なレベルの生産力がある、という時点でおかしいと思わんか? しかも、良くない情報に混じっていたという事は、まだ足りていないと思っている可能性すらあるんだ。
幕田公国も、イギリスやイタリアの半分よりは大きい面積を持つ国なんだぞ」
「人口で言えば4分の1だし、千島とか樺太とか、あんまり開発をしてないとこも多いけどね。
それに幕田だけじゃなくて、世界各地にある魔法球の合計でしょ? 裏世界的な存在になってるし、ある程度の数が必要なものは中で生産しないと色々面倒だから、仕方ない面もあるんじゃないかな。戦後の復興支援とかで、色々と頑張ってもらった事もあるわけだしさ。
ついでに人工空間内の生産力って括りなら、とある魔法世界の人口は億を軽く突破してるし?」
「あれは例外だろう」
「そこの大改造をやろうとしてるんだから、この程度の勢力でも足りないんじゃないかな。
最悪の場合はうちで受け入れる、とかいう言葉に現実味があるかどうかって意味でさ」
「別に、魔法球だけで受け入れる必要もないんだが……」
嫌な現実を見せられつつ、資料の確認は続く。
魔法世界の眷属達も提出してくるため、数はかなり多い。
「……ん? 姫御子という名の兵器が確認された?」
「え? どれどれ?
えーと……魔法を無力化する兵器が、ウェスペルタティア王国辺境の騒乱で確認された。外見上は飛行魚で砦上空に飛来し、攻撃魔法を全て無力化して防衛を成功させる……うん、これって姫御子が乗ってたんじゃない?」
「だが、ウェスペルタティア王国の公式発表には兵器と明記されている、か。
本当にそういう兵器を完成させたのか、姫御子を兵器扱いしているのか……調べるのは難しそうだな」
「確実に軍事機密、王家が必死に秘匿するレベルだよねー。
関係者は強烈な契約魔法で縛ってるだろうし、現場で捕まえるしか調べようがないかも?」
「前の姫御子が生まれてから……優に100年以上経っているな。
生まれなかったから、再現に成功した兵器を持ち出してきた……まさかな」
「成長を止められたアスナっちの可能性もあるよね?」
「ある。修正力を考えると、それ以外の可能性は低いだろう。
本腰を入れて探るべきだったか……?」
「過ぎた事は仕方ないってことで。
というか、高二病が何か仕出かした可能性もあるのかなぁ」
「無いと言い切れん辺りが、あの王国の怖いところだな。
可能な範囲で、監視を強めてもらうか」
「そろそろ、魔法世界の問題を解決するために、動き始めないといけないんだけど……
この様子だと、下手に公表するとまずそうだよね?」
「まずいだろうな。
可能な範囲で眷属達に準備はさせるが、少々無理をする事になるか……」
「幕田が仕上げる」は、元ネタでは「日本人が小型化もしくは高性能化に成功」みたいな感じです。
エヴァ達の未来知識の再現で鍛えられた幕田(の技術者達)は、日本よりも「設定された目標に向かう技術開発」が得意になっています。逆に革新的なものを作るのは苦手。
仕方ないね、根は日本人だもんね(アイヌ系や人外もいるし、未開の地に入植したチャレンジャー達の末裔とも言えるけど)。
ついでに世界的に流行中のパナマ文書もネタに取り込もうかと思いましたが、没に。
というか、ああやって税金を払わない人や組織は、国のやることに口を出しちゃだめだと思う。少なくとも、福祉やらの金がかかる事の要求は。
2016/05/07 以下を修正
始めてたり→始めていたり
多少なりと緩和→多少なりとも緩和
足りてないと→足りていないと
2016/05/11 以下を追加・変更
ヴァンのセリフ追加(監視は難しくなっちゃったよねーの辺り)
アルのセリフ追加(戦争の準備をし始める頃に~の辺り)
財閥→企業グループ
2016/06/09 日本の天皇→日本での天皇 に修正
2016/06/28 メガロメセンブリア連合→メセンブリーナ連合 に修正