金色の娘は影の中で   作:deckstick

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始動編小話ズ的な何か(時代は色々)

 ◇◆◇ 初めての契約 ◇◆◇

 

 

「というわけで、契約しましょう」

 

「は?」

 

 いきなりゼロが不思議な事を言い始めたが……とりあえず、状況を整理するしかないか。

 ここは、イギリスの城。私はまだ日光を浴びれないから、缶詰め状態で生活をしている部屋。

 ヴァンから貰った魔法の教本を、ゼロと私がそれぞれ読んでいたところだ。

 ……うん、ゼロが読んでいた本に何か書いてあったんだろう。

 

「ええと、契約って、何のだ?」

 

「仮契約、もしくは本契約でも構いません。

 何らかの方法で魔力の供給を受ける事で、消滅の可能性が減る可能性が高いようです」

 

「必要……なのか?

 特に不安定って事も無いようだし、下手な事をして不安定になるってのは勘弁だぞ」

 

「ヴァンの記述を信用するならば、より安定する可能性が高いそうです」

 

「それに、仮契約って、あれだろ。キスするとかだったと思うんだが……」

 

「キスしか方法が無いのであれば、ヴァンと貴方の契約は成立していないでしょう。

 重要なのは、魔力的な接触だそうです。霊体として魔力が露出している私は、むしろ契約しやすい点に気を付けるべきだそうです。

 余計な事を考えていそうなので先に言いますが、私が貴方から離れる事を考える必要はありません。私の様な異質な存在が他の場所で活動するのは、リスクが大きすぎます」

 

 やばい。これは反論を悉く封じられていく流れだ。

 ゼロを保護するには、確かに有効な手段ではあるだろうし……ええい、男は度胸! ……体は女でも心は男だっ!

 マシューとリズを眷属にしてるんだし、ゼロを助けると決めてるんだ。仮契約だろうが本契約だろうが、やってやるさ!

 

「わかった。あいつの事だから、手順まで書いてあるんだろ?」

 

「いえ、この教本が、簡易的に契約魔方陣を生成する魔道具となっているようです。

 広さは……こちらであれば大丈夫でしょう。ここに立って、目を閉じていてください。後は私が行えます」

 

「わかった」

 

 場所は、ここだな。

 んで、目を閉じて……ん? 目を閉じる?

 なんか、口元に魔力の……

 

「本契約完了です。

 この場合は、ごちそうさま、と言うべきでしょうか?」

 

「……その前に、ひとつ確認するぞ。

 キス、だったのか?」

 

「貴方の事は嫌いではありませんし、パートナーとして共に歩む存在です。

 問題は無いでしょう」

 

「魔力の接触、ってのはどこへ行った……」

 

「貴方の魔力と接触しやすい箇所を選択した結果です。

 あえて私も口を使ったのは、私なりの決意表明と考えて下さい」

 

「ああ……ええと…………」

 

 やべぇ、こんな時はどう応えりゃいいんだ!?

 任せろとか自信をもって言えるような状態じゃないし、ありがとうとか礼もなんか妙だしいいたいどうすりゃくぁwせdrftgyふじこlp;@:

 

 

 ◇◆◇ 白い花 ◇◆◇

 

 

「エヴァ様。西の国の魔法に、仮契約というものがあると聞いたのですが」

 

「……雪花もなのか。

 誰に聞いた? それに、眷属化だけでは不足なのか?」

 

「契約魔法については、ゼロ様に。

 眷属になった事に後悔はありませんが、その、気がほぼ使えなくなるとは思わなかったので。

 それに代わる力を模索する努力は必要です」

 

 ……昨日の今日だが、そんな事になっているのは気付かなかった。

 気が使えないとなると……神鳴流の技術もアウトか?

 

「まあ、確かに努力は必要かもしれんが……眷属化して魔力や身体能力はかなり上がっているはずだぞ。

 それを使いこなすのが先だと思うが」

 

「どうせ慣れるなら、契約執行も上乗せした最大出力も試してみた方がよいのでは、と。

 それと、魔力の扱いは不慣れなので、早く慣れる意味もあると聞いています」

 

「……ゼロの入れ知恵らしい攻め方だな。

 契約方法に関しては何か聞いているか?」

 

「魔方陣を準備した上で接吻する、と。

 舌を絡めた濃厚なものが良いそうですが」

 

「……いや、それは無いはずだが……」

 

 変態が妙な入れ知恵をしてるのか?

 ヴァンの可能性も無くはない辺り、微妙に仲間に恵まれてない気が……

 

「随分と面白そうな話ですね」

 

 げぇっ、関……じゃない、イシュト!

 そういえばこいつも、妙に私に関わろうとするなー。ふしぎだなー。

 

「エヴァ様と接吻など、なんてうらやま……こほん。

 私を差し置いて……いえ、間違えました」

 

「とりあえず落ち着けイシュト。

 言っていることが危なくなっているぞ」

 

 主に、百合的な方向で。

 それを除いても、従者にする事は考えていなかったんだが……

 

「そうですね、言いたい事をまとめます。

 ……私は、エヴァ様と、天に上るようなキスをして、特別な関係になりたい。

 これで違和感は無くなりました」

 

「欲望丸出しだな!?」

 

「私の事は、遊びだったのですね」

 

「またそれか!!」

 

 そもそも天に上るようなキスってどんな……違う、問題はそこじゃない。

 特別な関係って、契約の事……なのか?

 いや、イシュトの事だから……

 

「……イシュト。特別な関係とは、何を指している?」

 

「もちろん、最も近くに居られる関係です。

 いえ、既にゼロ様がその位置に立っているような気がします。という事は2番目になりますが、致し方ありませんね」

 

 微妙だ。限りなく微妙だ。

 忠誠心的なものと恋愛的なものが両方備わった、よくわからないモノに見える。

 

「雪花さん。契約の実行に関して、何か聞いていますか?

 魔法陣を使用するという事は、道具か場所の用意がされているでしょう。準備してください」

 

「魔導具を受け取っています。

 ……ここで、ですか?」

 

「はい。フランス伝統の、濃密な接吻をお見せしましょう」

 

「ちょっと待てー!」

 

 

 ◇◆◇ 壮大なかくれんぼ ◇◆◇

 

 

「これが、以前話していた魔法に関する資料です。

 参考になりそうですか?」

 

 ここは、別荘の一角に作られた喫茶店的空間。

 実質的に私と直接の関係者専用になっている静かな場所で、変態が持ってきた資料を見ているところだ。

 麻帆良は島原や肥後の支援でバタバタしていて、私がいるだけで邪魔になりかねんからな。

 

「……そうだな、このまま使うのは無理だが、参考にはなりそうだ。

 全く、原作ではどうしていたんだろうな」

 

「いやいや、世界樹を丸ごと光学迷彩で隠そうという発想の方が驚きですよ。

 私やヴァンは考えてもいませんでしたからね」

 

「認識阻害は、写真やらには効果が無いはずだぞ。

 そろそろ技術が作られても不思議ではないし、航空写真や衛星写真に写ったものを隠す方が面倒だと思うが」

 

「同感です。これで、ちうたんの精神的な負担が少しは軽くなるでしょうか」

 

「気にするのはそこなのか。見た目での異常さが減れば多少はマシになるだろうが……そもそも現状の認識阻害は、魔法を見ても何も思わないような効果は元々出していないんだ。前提から変わっている以上、どれ程の効果があるかはわからんな。

 だが、あの体質は今まで見付かっていない。もしかすると、魔法無効化よりもレアなのか?」

 

「かもしれませんね。

 効果が認識阻害限定のようなので微妙ですし、自己申告やよほど怪しい動きをしなければ、他の人に気付かれない能力でもありますが」

 

「原作の麻帆良のように、常時強烈な認識阻害を行っている土地以外では、そうそう見つかることは無いか……

 それにしても、あんなに堂々と存在している世界樹を、原作ではどうやって世界から隠していたんだろうな」

 

「考えても無駄な部分でしょう。

 存在自体は隠さず、シンボル的な扱いをしていたのかもしれませんよ」

 

「明らかに異常な存在だが……世界に1本しかないという理由で保護するのもあり、なのか?

 それにはある程度の発言力を維持しないと、怪しい科学者やら国やらを黙らせられんし……」

 

「麻帆良の権利を完全に掌握できれば、後は私達の努力次第と言えるのですが」

 

「それは無理があるだろう。バチカンのような宗教の後ろ盾があるわけでもないし、内陸だから交通を封鎖されたら表向きは何もできなくなるぞ」

 

「ままなりませんね」

 

「全くだ」

 

 

 ◇◆◇ アカマツワールド? ◇◆◇

 

 

「ねーねーエヴァにゃん。

 幕田が国になった事だし、モルモル王国は作らないの?」

 

「……モルモル、王国?」

 

 日本も世界も慌ただしくなって来た頃。

 ヴァンが良く分からない質問をしてきた。

 

「あれ? 知らないかなぁ。

 ラブひなに出てくる、異常な技術の国なんだけど」

 

「ラブひな……あー、うん。そんなのもあったか」

 

「エヴァにゃん、忘れてたね?

 別にいいんだけど、色々な技術を持つ国として、隠れ蓑を作るのもアリじゃないかな」

 

「異常な、という時点で存在が難しいだろう。

 場所はどの辺を想定しているんだ?」

 

「アルの所でマンガを読み返して確認したけど、ハワイとニュージーランドの間あたりかな?

 日付変更線と赤道の右下辺りっぽいけど」

 

 日付変更線と赤道……確かフェニックス諸島とかいうのがある辺りだったか?

 なんとなく場所は判ったが、場所が悪すぎるし、意味もよくわからんな。

 

「世界大戦で酷い事になりそうな場所だが、それに対処するだけの利点はあるのか?」

 

「うーん、それを言われると……ちょっと厳しいかな? 別にそこじゃなくてもいいとは思うけどね。

 幕田とか中東辺りから目を逸らすための、スケープゴートができる国もあるといいかなって思ったんだけど」

 

「そこまで分散させると、後が面倒じゃないか?

 ある程度の武力やらが揃っていないと、今のご時世ではすぐに襲われそうだぞ」

 

「やっぱりそうかぁ。となると、幕田に集める方向になるのかな?」

 

「ある程度は列強と呼ばれる国に分散する方向、だな。

 世界中にいる仲間だ。協力しない理由も無いだろう」

 

「あー、うん。そうだねー」

 

 

 ◇◆◇ ファンタジー ◇◆◇

 

 

「魔法を公開する根回しは、どの程度進んでいるんだ?」

 

 高度成長が終わったある日。

 話を進めている時に、ヴァンが自信満々に任せてと言っていたから、任せてみたんだが……

 ここしばらくは、順調としか話を聞いていない事に気が付いた。

 

「エヴァにゃんの眷属と、その関係組織については、最初にエヴァにゃん自身が通達と説明をしてるから省略するね。

 まず、こっち側についてる地球の魔法関係組織については、少なくとも上層部の人達には了承してもらってるよ。通信技術の発達とかで危機感があったみたいだから、説明は楽だったかな。

 ヘラスとアリアドネーは、全然問題無し。元々地球に直接の利権を持ってないし、交流が可能になるならそれもありだろうってスタンスだね。

 ウェスペルタティアとメガロは、まだ過半が反対かな。魔女狩りの歴史とか、法を無視した利権とか、単純に変化を怖がってるとか、理由は色々だけど」

 

「その様子なら、メガロ傘下の魔法関係組織も似たようなものか」

 

「科学への危機感がある分、メガロよりは話が通じるよ。

 自分達の生活環境に直結するわけだしさ」

 

「同時に、魔女狩りの恐怖にも直結だろう?」

 

「その辺は、最近はかなり平和になってるよ。

 首輪物語のヒットは大きかったね」

 

「は?」

 

 いや、その話は有名だから、名前は知っているが……ファンタジーが世に広まって、創作物で魔法が気軽に登場するようになったのが良かったのか?

 

「あはは、あれはマシューに作家を紹介してもらって、色々資料を渡して作ってもらったんだよね。

 原本のエルフ語なんて、ほぼヘラスの公用語だったりするよ」

 

「それは……魔法使い連中からの横槍は無かったのか?」

 

「歴史や物語に関しては完全な創作だし、種族やらは地球の神話とか伝説とかにあったものからの派生だからね。魔法や魔導具についても肝心な部分を省いてあったりするし、何より架空の世界だと言い張ってるから。

 たまたまヘラス公用語や魔法を知る機会があった人が、曖昧な魔法の知識で書いた、くらいに思われるような情報も流したしさ」

 

「それで済んだのか。随分平和だな」

 

「というわけで、色々な国の娯楽産業に進出なう。

 放送局や出版社も押さえつつ、製作会社やらに色々支援してたり?」

 

「……やり過ぎるなよ?

 だが、その言い方は、古いと言っていいのか、未来を先取りと言っていいのか、微妙だな」

 

「えー? 僕の時代だと、最先端だったんだけどなー。

 たぶん」

 

「どちらにしても、今の時代には合わないな」

 

「まーね。

 あ、そうそう。エヴァにゃんの眷属の人達とポルフィリン症、ついでにアルビノとか光線過敏症の人もまとめてコミュニティを作って、月の民って名前で公開したのは知ってる?」

 

「話は聞いている。

 第4世代や第5世代辺りの眷属でたまに発生する症状と似ているらしいな」

 

「そうそう。それで、吸血鬼みたいだからって迫害されてたりしたんだけど、アメリカのテレビで情報を公開したんだよ」

 

「それも演出があったと聞いているが?」

 

「狙ってやったわけじゃないよ。

 割ときれいな女の子を選んで出演させたのは、世論を味方につけるための意図的なものだったけどさ。でも、生放送でインタビューの人が失言して女の子がガチ泣きしたのは、見ててやばいと思ったのは本当だよ」

 

「それが同情を引いて、予想以上の成果が得られたという話までは聞いているぞ。

 人権やらも絡んだ騒ぎになって、部分的に世界中で放送されたのは……仕込みか?」

 

「ある程度は仕込んでおいたけど、予想外の広まり方をしちゃったから、あんまり意味がなかったかな。

 病気の詳しい情報とか、コミュニティ【月の民】は幕田公国の出資で運営されていますとか、運営責任者もこれらの症状持ちですとか、必要な情報はちゃんと付けてあるから」

 

「いや、将来的には有効かもしれんが、変に情報を押し付ける必要があったのか?」

 

「ファンタジーの流行と併せて、ちょっと変わった人もいるんだよっていう認識を広めるのが目的だよ。んで、幕田公国はそういう人を支援してますってメッセージを出しとけば、せっちゃんとかが出歩きやすくなるでしょ?

 身近な人とか昔からいる人は見慣れてるけど、今後は交流とかも増えるんだしさ」

 

「それなら、まずは日本で放送した方がよかったんじゃないか?」

 

「その辺はまあ、あれだよ。

 日本って排他的かつ人権とかの団体の活動が弱いけど、外圧にも弱いから、かな」

 

「私達も、大本は日本人のはずなんだがなぁ」

 

「エヴァにゃんはだいぶ変わってると思うよ。

 ヨーロッパとか魔法世界にいた期間、長かったからねー」

 

「……日本に来るのが遅かったのは認めるが、まだそのネタを引っ張るか」




Q:雪花が気を使えなくなっているのに、12話で弐の太刀(神鳴流)を使っています。
A:次話でちらっと関連する話があります。

Q:イシュトの台詞で「キス」と「接吻」の揺れがあります。
A:話す相手が違う(ヨーロッパ系のエヴァ、日本産の雪花)ためです。

Q:ゼロ、イシュト、雪花のアーティファクトは?
A:登場する予定はありません。設定していないので。

Q:後出しの設定補完ですか?
A:はい。いやまさか、はっはっは。


2016/05/25 今度は雪花→雪花も に変更

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