何話になるか、微妙なのです……
「さてさて、やっぱり魔法世界は戦争になりましたよ、っと」
「笑い事ではないんだが」
ヴァンが見ているのは、雪花が広げている魔法世界の地図。
そこに数色の駒を並べて、動いている武装組織や今までの被害状況を表現している。
「まず、これまでの経緯を確認します。
魔法世界がこのままだと後数十年で崩壊するという情報と、対処の準備を進めている事、それに伴い地球にて魔法を公表する可能性が高い事は、地球側魔法世界側共に大きな国や組織の上層部は把握しており、対策や騒動の収拾方法等の協議も開始していました。
これらの情報や動きを知った者の中に、地球とのゲートを閉じて魔法世界での魔力消費を減らす、つまり魔力の漏れと人を大きく減らす事で延命しようという勢力が現れ、その者達が扇動して戦争に繋がったようです」
「魔法世界が崩壊するから他人を犠牲にして自分達が生き残ろう、という動きはやはり無いままなのか?」
「はい。真意はともかく、自分達を優先しろとは言っていません。
とにかく人を減らす事が目的であり、最終的に優秀な者だけが残ればよいと公言しています。大勢が生き残った場合は魔力の枯渇により全員が生活できなくなるというちょっとだけ真実をぼかした脅し文句が、少々強い口調になった程度ですね」
「間違った説明ではないし、世界崩壊よりは柔らかい表現のままなんだな。
高二病……造物主の動きは?」
「ウェスペルタティアの王と何やらやっているようですが、未だ詳細を掴めていません。
少なくともウェスペルタティアの王は戦争を仕掛けておらず、造物主も戦争に直接の関与はしていないようですから、今もまだ戦争を支持していないように見えますが」
「普通の兵士だけが動いて、国防に専念しているのか」
「はい。王や造物主、姫御子が戦場に姿を見せたという情報はありませんし、一部の領主が国外に兵を出した事はあるようですが既に粛清されているので、国としての方針ではないようです」
「でも、なんか引っかかる、よね?
あの高二病が、戦争に関与してないとは思えないよ」
「
扇動している連中の元を辿るとこいつらだった、と言われた方が納得できる」
「だよねー。
でも、麻帆良とウェスペルタティアのゲートが壊されてないのは何でだろ?」
人々を完全なる世界とやらに叩き込むため、とか言われても全く違和感が無い。
ゲートについては、魔力を集めるためという可能性は否定できないが……私達を欺くためや、忘れているだけと考えられなくもない。
「高二病が本当に関わっていないかどうかも含め、本格的な調査が必要だな。
……今回は相手がアレだ。私が直接動くべきか?」
「いえ、まずは私達にお任せ下さい。
各地のメガロ系魔法関係組織も、メガロからの情報や依頼に疑問を持っている状況です。調査で人を出す準備も始めているようですし、放っておくとばらばらに諜報を開始してしまうので、それらをある程度まとめる方向で話を進めています。
その上で、私達からも裏から人を出して探ろうと考えています」
「メルディアナとイスタンブールの組織がまとめ役になってるみたいだよ。
どっちも裏でこっちと協力してるし、地球の魔法協会としてもおかしな動きじゃないから、問題ないんじゃないかな」
「連中の動きを隠れ蓑にするのか。
探られているのを感付かれても連中と同じ理由だと思わせればいいし、ある意味では本命でもあるわけか……」
メガロの公式見解では、暴走はごく一部の狂信者と思われる者達の暴走であり、ゲートの防衛の為に協力を求める、という事になっている。
そして、疑問点は2つ。
本当に一部の者達が原因なのか。
協力はゲート防衛以外が意図されていないか。
要するに地球のメガロ系魔法関係組織は、ゲートが壊れるのは嬉しくないが、ゲート防衛と言いながらそこに敵を引き付けて戦わせる等の行為が行われないかどうかを懸念している、と。
私達から見たら……うん、原作関西呪術協会のアレコレに繋がりそうなフラグに見える。
「色々考えてそうだけど、取り敢えずは任せちゃっていいんじゃないかな?
エヴァにゃんが外で隠密行動しようとすると、アレとかコレとか使わないといけないんだしさ」
「戦力の逐次投入は悪手なんだが」
「エヴァにゃんはジョーカー過ぎるんだよ。むしろ核兵器と言った方がいいかも?
最初から投入するには、過剰過ぎるよ」
「そうか?」
「はい。宣戦布告前の前線トラブル調査に全軍を投入する、くらいの暴挙です」
「いや、そこまでか……?」
「せっちゃんの表現でも、かなり控え目だよ? 月の一族のトップで、信仰対象にすらなってるんだからさ。
エヴァにゃんが動いたら、世界中のお仲間達が何らかの動きをしそうというか、確実に動くよね」
「わかったわかった。
取り敢えず、調査は任せる。但し、高二病や姫御子に関係する情報は速やかに報告し、必要に応じた対策を取れるようにする事。
それでいいな?」
「はい。通常の調査はお任せ下さい」
そうして始まった、戦争の調査。
内容については……どうだろう。高二病や姫御子に関係しそうな場合は即座に連絡が来ることになっているから、何も出来ないという事は無いと思いたい。
地球側の組織に関しては、原作よりも関わっていないと思える。
特に日本呪術協会は、人をほとんど出していない。これで死人が出る方が不思議だ。
……修学旅行イベント、完全終了のお知らせ。宿儺がこちらにいる時点で可能性はかなり低くなっていたとは思うが、手段と原因が無くなっても発生するとは思いにくい。
武者修行とか言って、神鳴流の若いの……詠春を含む数人が魔法世界に行ってはいるが、人を護る難しさを知るためとかの理由が付いていた。
つまり、自分達の組織としての判断と責任での行動だ。命の保証が無い事も理解しているし、西洋や魔法世界の魔法使いに原因を求める事も……まあ、神鳴流の師範やらに向くのと同じ程度で済むだろう、たぶん。
そうこうしているうちに、魔法世界からの情報がぽつぽつ届き始めた。
一番大きな報告は概ね予想から外れていないし、その対処も事前の打ち合わせ通りだ。
それはつまり、メガロによる敵勢力の誘導があり、その際にメガロがゲートの所有権を放棄したと見なして、地球の魔法協会連合が占拠することに成功した、という事だ。
最初の数回は言質を取れなかったが、その時におとなしくしていたせいか、司令官や上層部が油断して必要以上に自軍を逃がそうとした際に、決定的なことを言わせることに成功したそうな。
メガロ上層部には警戒されるようになったが、今後は下手な手出しがされにくくなるだろうから、魔法協会としては好ましい結果だと言えるそうな。
一応探っている魔法世界各国の状況だが、不用意に踏み込むのは危険だから、慎重にならざるを得ない。
つまり進捗は悪いという事だが、仕方のない事だろう。
それでも、活動が目立つ者や、こちらの関係者が接触しやすい人物の情報は手に入る。
例えば。
「ナギ、か。やはり存在するんだな。一応は魔法使いの家系ではあるが、基本的に表に出ない小さな家で、個人の伝手で魔法世界に行っていたのでは目立たないわけだ。
麻帆良の祭りに魔法込みの武道大会があれば、もっと早く見付けられたか?」
「その時期はまだ学校に行っていたようですし、この地の認識阻害はあくまでも世界樹を隠すためのものでしょう。
表立った大会で魔法は使えませんよ」
「そうなんだがな。
ゼロも街に出る時は、幻術と認識阻害を併用しているんだったか」
「もう少し大きめ、せめて子供として不自然でない体格にしておくべきでした」
「それ以上の大きさにするには、材料が足りなかったからな……今ではその姿で関係者に知られているから下手に外見を変えると面倒な事になるし、変えるにしても入手が面倒な材料を集めようとすると眷属連中が無茶しそうだし、安定している状態から魂を引きはがしたらどうなるか試したくないしな。
年齢詐称薬の応用でどうにか出来ているから、当面はそれで頼む」
「当面? ずっとでは?」
「魔法を公開したら、誤魔化さなくてよくなるが……この様子では、早目に公開してしまうのは難しいだろうな」
「それはそうですね」
……私もゼロも、正直言ってナギには興味を惹かれない。
修正力的な何かがあるかと警戒していたが、特にそんな様子もないし、今は各地の情報をチェックするのに忙しい。
勿論ナギを放置しているわけではなく、眷属の部隊が追跡して動向を把握している。一応はメガロ寄りの立ち位置で各地の戦闘に介入、大きな損害を与えているらしい。
敵だけでなく、味方にも。
「脳味噌筋肉、でしたか」
「あっているな。魔法世界の学校を中退というか、戦争が始まった途端に飛び出して中退扱いになっているのも確認済みだ。
原作は戦争前からフラフラしていたような気もするから、それよりは真っ当かもしれんが……」
「結果としては、あまり変化していないという事ですね。
アルもそちらに行っているそうですし」
「暴走の方向性くらいは誘導できるだろうとか言っていたが、遊びに行っているだろうアレは。
もっとも、状況の連絡は来ているし、呪術協会から神鳴流の連中の状況調査も頼まれているから、止める理由も無い。だから放置しているのが現状だな」
「存在が筋肉の英雄については、どうなっていますか?」
「ラカンなら、存在を確認済みだ。
ヘラスがナギの暗殺を依頼するが、その任務を放り出して仲間になる、という流れがどう変化するかだが……」
「こちらには排除を依頼する理由も、排除を邪魔する理由もない、という事ですね」
「ナギと一緒に黒幕を探ってくれるなら、支援してもいいとは思っているんだぞ。
私達が表立って動くよりも、後が楽になる可能性が高いからな」
「黒幕を暴く事による名声は利用しないのですか?」
「するぞ?
ただ、私達だけに集中させてしまうと、後が面倒だ。あくまでも、ナギの活動をいろいろな組織が支援していたという形にしたい」
「そこまで隠さなくても良さそうですが。
裏に関わる人は、それらの組織が繋がっていることに気付いているでしょう」
「緩い繋がりに見えるようにしているんだから、その路線は踏襲しないとな。
世界が団結する理由があるならともかく、今は戦争中だ。国を超えた連携はまだ避けたい」
「ある程度は公表してしまった方が、大きな手を打てるのですよ?
大きく動く前にある程度の実像を持っていないと、声も届きません」
「大きく動くのは20年後を想定しているし、個々の組織はそれなりに有名になっているぞ」
現状で深く連携すると国が敵になりかねんし、単独の勢力で大きくなると敵対勢力が生まれかねないという問題もある。魔法世界に独禁法は無いが、国が口を出してくる可能性は大きな組織になればなるほど極めて高くなるだろう。
もちろん、大きな組織であれば発言力もある。それでも、現状では敵対勢力を増やさない方が得策と思える。
もちろん、それぞれの組織がそれなりの勢力を持っているから言えることではあるが。
「既に、それなりというレベルではないのですが」
それなりと言ったら、それなりなんだ。
◇◆◇ ◇◆◇
「……で、これはどういう事だ?」
ここは、麻帆良湖畔にある私達の屋敷の、中庭。
休憩時間だったため、雪花が紅茶と菓子の準備をしているところだ。
そして私の前には、変態、ナギ、ゼクト、青山詠春……つまり、現状の紅き翼の4人。
それに加えて。
「兵器として利用されていたところを、保護したのですよ。
かなり強烈な複数の呪縛に縛られているので、それに対処が出来そうな心当たりを頼ろうかと思いまして」
アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアがいる。
どうでもいいが、名前、長すぎだろう。
「連れてきた手段は……話し合いで連れてこれる人物でもないか。
まったく、厄介な問題まで引っ張ってきおって」
「ええ、それは申し訳なく思います。
ですが、魔法世界出身者はこちらに来れませんし、メガロに抵抗できる組織があり、考えうる最悪の事態にも対処可能なエヴァちゃんもいます。
ここ以上に安全な場所を知らないのですよ」
「私は便利屋ではないぞ。
それに……そうだな、引き取る際に条件を付けよう」
「ちょっと待ってくれ!
本当に大丈夫なんだろうな!?」
「ナギよ……お主、本当に外見しか見ぬな」
「ナギ! 我々より遥かな高みに居られる方々に失礼だぞ!!」
「ンだよ詠春、知ってんのか?」
「神を従えし最高の導師と、神鳴流最強の師範のお二人だ!」
おや?
「雪花。私の姿も京都の連中に広まっているのか?」
「変態が説明していたのでは? 私はたまに京に行きますから、顔や姿を見られていた可能性もありますが。
それに加え、私の主は一人だけです。
京にはエヴァ様に関する伝承も残っているようですから、それらからも推測できます」
「ああ、なるほど。
そういえば、この前も才能のある子供の指導を頼まれていたな」
「はい。私自身が使うのは魔力を使用した派生技術なのですが、試合や実戦では大差ないと思われているようです。もちろん神鳴流の型を教えることはできますし、彼女は、鍛えれば人のままでも戦力として扱えるようになる可能性を持つ天才です。
叶うのであれば、同士として肩を並べたいですね」
「お前がそう言うなら、相当だな」
侃々諤々やっているナギ達を放置して喋っていたら、アスナがちょっと近付いてきて、じっとこっちを見ているのに気付いた。
無表情で分かりにくいが、どうも私に興味を持っている感じか。
「どうした、アスナ」
「……私、名前を伝えてない」
「私には、色々な情報が届くからな。
フルネームも一応知っているが、長いからアスナと呼んだが、気に入らなかったか?」
「いい。けど、いいの?」
「何がだ?」
「私は、兵器。
きっと、迷惑になる」
「何だ、そんな事か。
いいかアスナ。迷惑と言うのは、相手の事を考えずに不愉快な思いをさせる、ちょうどそこで騒いでいる馬鹿のような行為を指すんだ。
だがお前は、もって生まれた力を狙われているだけだ。被害者と言ってもいい。
それを理由にお前を否定するほど、私は弱くも無知でもないぞ」
「なら……助けて」
「任せろ。少なくとも、騒いでいる連中よりは普通の生活をさせてやれるさ。
あー、お前が嫌でなければ、その力の調査に協力してもらえると有難い」
「だー! やっぱり利用する気じゃねぇか!!」
あれだけ騒いでいるのに、聞こえていたのか。
これだから主人公補正の馬鹿は始末が悪いんだ。
「……私は、大丈夫」
「だそうだぞ?
それに、私達にはこの地に対する責任がある。助ける事のリスクを考慮すると、善意だけで事を進められるほど簡単な問題ではないぞ」
「うっせー! 信用できねぇとこに姫子ちゃんを預けられっかよ!!」
やれやれ、原作でもこんなに短気だったのか?
殴りかかってきたところを、雪花に投げ飛ばされているし……っと、これは千の雷か。あんちょこを見ながらこのレベルの魔法を使えることに驚くべきか、見ないといけない頭の悪さに呆れるべきか。
だが、力を思い知らせるには好都合、か。
「下がれ雪花。このガキは、私が相手をする」
「お手を煩わせる程の者達ではありませんが」
「獣と一緒で、ある程度力を見せ付けんと話が通じんだろう。
さて、と」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねー!
千の雷!!」
敵弾吸収陣……掌握。
「で、街中でこんな魔法をぶっ放して、魔法の隠蔽や周囲の被害といった被害にお前はどう対処するんだ?
知りませんでした、気付きませんでしたでは済まんぞ、クソガキ」
「てめーが信用できねえっつってんだよ!」
「社会的に見て、相手が気に入らないからと無関係な人間まで巻き込んで虐殺するような人間が信用されるとでも思っているのか?
ここは戦場ではないし、千の雷の効果範囲には一般人も多数暮らしている。つまり、お前がやろうとしたことは、大量殺人や虐殺と呼ばれる行為だ。
その自覚はあるか?」
「だから、てめぇが!」
「私については何も言っていない。無関係な一般人を巻き込むなと言っている。
戦争で兵器として扱われていたアスナ1人を保護するために無関係な100人を殺すのは、何の問題もないとでも思っているのか?
それとも、私達が簡単に対処できると信じていた、とでも言うつもりか?
信用できないと言い切ったその口で」
「いや、そうじゃねぇけどよ……」
「ふふ、口でも実力でも勝てんのは明白じゃ。
おとなしく従った方がよいぞ、ナギ」
「お師匠……」
やれやれ、最初からゼクトが説得してくれたなら、こんなに面倒なことにならなかったものを。
だが、この千の雷はどうしたものか。今からナギの顔面に返すのは問題か……
雪花の言う「戦力」=エヴァの近衛部隊や白雲を含むメイド軍団等の主力級=第1~3世代の眷属がいっぱい=最低でも真祖の吸血鬼に近い実力。
もしかしなくても:人外レベル
なお、書き溜めが冗談抜きでピンチです。次話までしか書けてないってどういうことなの……?
べ、べつに天津風を探して資材やバケツを大量に使った挙句見付けられなかったせいじゃないんだからねっ! 神風秋月照月嵐401511は来てくれたのに。でかい島風やアル重? ダレソレ、シラナイコデスネ。
戦力的な意味で柱島組(しかも今年着任)には辛いのですよ。大和や武蔵や瑞鶴や(ryにも来て欲しいけど、戦力も資材も足りないなぁ……とりあえずバケツの10倍にも満たなくなった弾や燃料を何とかせねば(書溜忘却感
2016/06/06 以下を修正・変更
戦力配置→今までの被害状況
変えるにしてもコストが馬鹿にならんし→入手が面倒な材料を集めようとすると眷属連中が無茶しそうだし
2016/06/09 以下を修正
今までの被害状況を表現しているらしい→動いている武装組織や今までの被害状況を表現している