金色の娘は影の中で   作:deckstick

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紅き翼編第04話 修正力

 ガトウの参加が、状況を変える大きな切っ掛けになった。

 具体的には、元老院の裏で怪しい動きをしている人物の特定に成功し、そこからウェスペルタティアに繋がる人脈が浮かび上がってきた。

 執政官は無関係だったから、原作知識に頼る危険性を再認識すべきなのだろう。

 それでもマクギル元老院議員は被害を抑えようとしていたし、誘拐イベントは無かったがアリカ王女やテオドラ皇女の協力も得られることになった。

 

「それにしても、高二病は随分と小物になったものだな。

 いや、現実を見ているようで見ていない、という点は大差ないが」

 

「今の魔法世界の構造的な問題を調べてた事自体は、間違ってないんだけどねー。

 完全なる世界を作るって方向じゃなかったのも良かったんだけど、情報を渡した相手と、その後の拡散が致命的だから、差し引きすると五十歩百歩かなー」

 

「悪役としての立ち位置でなくなっている分、終わり方に困る羽目になっているがな。

 どこかに、分かりやすい暴君でも現れないものか……」

 

 高二病は結局、ウェスペルタティアの現国王に現状を伝え、後は問題点や対処法の調査研究をしていただけらしい。

 その情報……特に魔法世界が人造であり、地球由来と魔法世界由来の人で存在自体が異なるという事実についてだが、調査員の口から各地の権力者や有力者に伝わり、その伝言ゲームで捻じ曲がっていったのが問題の元凶のようだ。更に私達の活動と中途半端に混同されて、間違った選民思想やら行き過ぎたナショナリズムやらに繋がったようだ。

 ……道理で、裏を探っても組織やらが見えてこないわけだ。誰が黒幕というわけではなく、囃し立てる武器商人や汚職役人と、踊らされる権力者や庶民という構図でしかなかったのだから。

 それは同時に、高二病を倒してハッピーエンドという筋書きが、最初から存在していないという事でもある。

 そして、アリアドネーは配下、ヘラスは同盟国、メガロは元老院に部下がいる……

 

「……修正力的な意味でも実際問題としても、ウェスペルタティアを悪役にするしか、簡単に事態を収める方法が無いのか?

 阿呆が妙な形で情報を拡散させたのは事実だし、その辺の領主や辺境の小国程度では知名度も実力も足りなすぎるし……」

 

「今まで問題なくやりすぎちゃった事が、問題になっちゃったねー」

 

「全くだ。

 手頃な盗賊団でもいれば、全て押し付けられるかもしれんが」

 

「それこそ知名度も実力も足りなくない?

 というか、盗賊団も大きくなる前に対処しちゃってる事が多いよ」

 

「盗賊団なんだから有名でなくても仕方ない、と言い張れば何とかならんかと思ってな。そんな連中に心当たりは無いし、ゴミ掃除をしすぎたのも失敗だったか。

 いっその事、悪質な賞金稼ぎでも煽ってみるか? 暴走する未来しか想像できんが」

 

「だめじゃん。

 それに、悪役を無理に作るのって、バレたら面倒だよ?」

 

「そうなんだが、手っ取り早い解決法でもあるんだ。

 ナギ達の人気も、侵略者を悪役とするヒーローものという分かりやすさに支えられているわけだしな」

 

「侵略者が現れなくなったから解決ってのは、インパクトないよねー」

 

「最終回の演出は、難しいからな」

 

「続きが出なくなった小説みたいに?」

 

「それでは終わりが無いじゃないか。

 無理矢理最終回を作らされる、打ち切り漫画の方が適切だろう。成功してきれいに終わる事が稀だという意味でも、好きな時に終われるわけでない意味でも、な」

 

「よーするに、無理矢理終着点を作らなきゃいけない状況だ、って事だよね。

 難易度高いよねー」

 

「正直言って、ある程度目途を付けた上で主要国全てが参加する何らかのイベントで事態の終結を大々的にアピールする、くらいしか思いつかん。

 効果が限定的な割に、実行もタイミングも難しいからな。他にいい案は無いか?」

 

「ないよー」

 

「無いか。やはり、当面はこれを軸に色々と模索するしかないか……」

 

 そう考えながらも、有効な手を打てないまま事態は動き。

 何故か、ウェスペルタティア王国が、世界に喧嘩を売った。

 

「……これは高二病のせいなのか、国王が阿呆過ぎるのか……」

 

 経緯が纏められた資料を見ても、ため息しか出ない。

 

「妙な方向に追い詰められて迷走した結果と考えれば、まだ理解できる範囲ではあるでしょう」

 

 そう言うゼロも納得はできていないようで、微妙な顔をしている。

 多くの魔力を消費する魔道具を廃棄せよ、しないのであれば世界を守るために強制的な排除を行う、と世界に向けて宣言した事を、どうやっても納得はできないと思うが。

 消費の多い魔道具と言っているが、個々で考えると軍事力に直結するものや、人が住む環境を維持し守るものが多いのは確実だろう。

 個数を考慮するならば、当然ながら生活に溶け込んだものが上位に来るのは間違いない。

 それを伝える者達の思惑も加わり、結果的に、ウェスペルタティア王国が他国と人々の両方に喧嘩を売る形になってしまっている。

 

「アリカがテオドラと密会中で国外にいたことが、どう影響するだろうな。

 ヘラスが後ろ盾になって現国王を批判しているから、ウェスペルタティア全体がそう思っているわけではない証明になるが、権力抗争の図にもなってきている」

 

「世界中に味方がいないって状況じゃないだけ、いいんじゃないかな。ナギ達もアリカの護衛みたいな扱いで表に出てるし。

 いいデバイスの宣伝になるねー」

 

「それ自体はいいんだが、アリカ達がウェスペルタティアからと思われる刺客に襲われまくっているのは、いいことなのか?

 紅き翼が釘づけにされているように見えるせいか、今まで散々叩き潰してきた雑魚領主やらがまた動き始めているぞ」

 

「それはまあ、仕方ない……かな。

 抑止力として有効に機能していた証明だしさー」

 

「地球への脱出を企んでいる者達もいるようです。

 姫御子の捜索にも焦りが見えていますから、各地の組織に警戒を呼びかけてはいますが」

 

「予想された動きではあるが、連中が大挙して押し寄せても、社会的な保護を受けることは不可能だという自覚がないのが困る。

 魔法が認知されていないことをいいことに、今まで色々とやらかしているんだ。その責任を追及されたり、賠償やら補償やらを要求されたりする可能性に思い至らないのが何とも……」

 

「ある意味では私達も同類ですが。

 それでも、自分達が何をやっているのかを、魔法世界の住人は理解していないのでしょう」

 

「僕たちはちゃんと裏から権力を支えたりしてるから、好き勝手やってたわけじゃないよ。

 やだよねー、中世以前からまるで変わってない思考回路ってさー」

 

 メガロの連中は教会やらとの繋がりもある分、まだマシかもしれんが……好き勝手に動いていた派閥もある以上、過去を無かった事にするのは難しいだろう。

 まして、小国やら国にも満たないような都市レベルの連中、そしてウェスペルタティアは、どうするつもりなんだろうな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「そして、こうなるのか……」

 

 私の疑問のうち、メガロメセンブリアの一部とウェスペルタティアについては、答えが出た。

 出てしまった。

 その結果として、世界各地から発信される情報が交錯し、雪花達がその処理や対応に追われている。

 

「だけどさー、アーウェルンクスの製作は予想出来てたけどさー。

 投入がこのタイミングと内容だとは思わないよね?」

 

「地球に多くの魔力が洩れている事を問題視して、ゲートを半分近く破壊するのは……主張と原作を考えると、予想しておくべきだったのかもしれんな。

 しかもその直前に、メガロの兵隊が地球に入り込んでいくつかの組織を襲撃している。ゲートの破壊がもう少し早ければ襲撃を防げたのにと八つ当たりしたい気分だ」

 

「幕田とイギリスは大丈夫だったけど、呪術協会とイスタンブールは結構被害が出たしねー。

 マヤとか制圧される寸前までいっちゃったとこもあるし、復旧が大変そうだよー」

 

「救援が間に合って良かったが、私達としては呪術協会が問題だな。

 まさか、こういう形で近衛本家が断絶寸前になるとは思わなかったぞ」

 

 正確には、放置すれば断絶が確定する、だが。

 現当主(近右衛門の実父)はいい年だし、今回の騒動で跡取り(近右衛門の兄)とその子が死亡した。他に子や孫がいないため、養子を取る等の対処をする事になるのは確実だ。

 

木乃江(このえ)ちゃんが養子になって婿取り、ついでに詠春が次期当主になるフラグかなー。

 はいはい修正力修正力、っと」

 

「詠春か……紅き翼がアリカの護衛として知れ渡って、主要メンバーは有名人になってしまっているからな。ウェスペルタティアがどうなるかは置いておくが、アリカが悪役を押し付けられなければ、紅き翼は少なくともヘラスに対するパイプにはなる。

 地球の組織でヘラスとの関係を持つのは、私達くらいだ。今後を考えると呪術協会としてヘラスへの伝手を確保できる意味は大きいから、周囲の圧力は高そうだな」

 

「やだよねー、打算にまみれた関係ってさー」

 

「大人の世界ではありがち、と言うのは簡単だがな。

 たとえ私達が知る結果になろうとも、木乃江には感情面でも納得した上で選んでほしいものだ。

 政治的な圧力を、近右衛門がうまく捌いてくれればいいんだが」

 

「あー、コノエモンはしばらく期待できないかも。

 なんか京都の被害の責任を感じちゃってるみたいでさ」

 

「今は幕田の防衛が役目で、それはきっちりと果たしたと聞いているぞ。それに、京都の防衛に対する責任は無いんだがな。

 疎開も兼ねてこっちに来たとはいえ、今頃になって兄と甥を失うのは辛いか」

 

「戦争も随分前に終わっちゃってるしねー。

 というか、もっと力があればこっちに来た連中を早々に叩き潰して京都の応援に行けたのに、とか言ってるらしいよ?」

 

「……アレが眷属化を希望する可能性がある、という事か」

 

 後頭部が正常な代わりに、存在自体が人外になるのか?

 だが、摂家の連中にはよほどの理由がない限り眷属にしないと宣言しているし、幕田家からは1人も眷属にしていないから、信じられていないとも思えないが……

 

「別にぬらりひょん化に手を貸す必要もないし、変に手を出すのもおかしいから、方針はそのままでいいんじゃないかな。

 それよりも、元凶のメガロとウェスペルタティアが焦ってるのを何とかする方が先かなー」

 

 あの2国は……どうしたものか。

 

 メガロが動いた理由は、自分たちの思い通りにならない「地球の魔法組織」を武力制圧して、要するに魔法世界崩壊時の避難場所を少しでも確保するためだったらしい。

 ……私達が地球でのメガロの影響力を削っていたのも、原因の一端を担ったのだろうか。

 ともかく、メガロは逃げ場を得ようとしている。その為に、救援を出せるだろう幕田やイギリス等に陽動を、それらと関係の強い京都やイスタンブール等に救援が必要な程の攻撃を仕掛けてまで。

 戦争も辞さない連中の動きを止めるとなると、政治経済戦力の最低1分野、出来れば全てでメガロを上回る状態で話をする必要があるだろう。

 それが可能なのは恐らくヘラスだけで、話した後もメセンブリーナ連合という枠が残るかは知らんが。

 

 ウェスペルタティアは……あまり調査出来ていないのが問題か。

 アーウェルンクスが投入されているし、手口も原作の完全なる世界に近いから、間違いなく高二病が関わっている。

 だが、どうして国がここまで暴走したのかが想像でき……まさか、姫御子を失った事がそこまで大きなダメージになっているのか?

 とにかく国が、又は国王が暴走してしまっているのは事実だ。それを止めるとなると……

 

「……かなり高い確率で、メセンブリーナ連合と、ウェスペルタティア王国が崩壊するな。

 いや、メガロはまだ連合全体が暴走しているわけじゃないから、まだ何とかなるか……?」

 

「焦ってるのを何とかするってレベルじゃねーぞ?」

 

「仕方ないだろう、穏便に話して済むような心理状態じゃないお偉いさんを止める必要があるんだ。

 暴走する列車を止めるために手は尽くすが、機関車の破壊も選択肢に持つようなものか?」

 

「随分荒っぽいやり方だけど、突っ込んじゃいけないとこに突っ込むよりは平和、なのかなぁ」

 

「魔法世界の崩壊に突っ込んでいくよりは、国が無くなる方がマシだろう。

 原作でもウェスペルタティア王国は無くなっているわけだし」

 

「つまり、王国崩壊は既定路線だね、わかります。

 本当に、修正力って何なんだろうねー」

 

「さあな。それこそ、神のみぞ知る事なんだろう」

 

「何でも知ってるけど何にもしてくれない、宗教の神って嫌いなんだよねー。

 あと、そんな宗教を運営する人も」

 

「つまり、何故か神と呼ばれる事がある私も嫌いという事か」

 

「エヴァにゃんは、知ってることしか知らないけど色々してくれる神だし。

 それに、宗教としては運営されてないよ。眷属の人達を中心に、勝手に崇めてるだけだから」

 

「……中心に?」

 

「あれ、知らない?

 眷属の人達に助けられた人とか、組織の運営方針に共感した人とかも、実質的な信者になってるらしいよ。宗教団体じゃないから名簿とか無いし、教義やら戒律やらも無いからどんな風に信じられてるかも色々らしいけどねー」

 

「……それは知りたくなかった」

 

「魔法世界で割と多いのは、希望が見えない闇の中でも未来を見ようとする者に女神は微笑む……だったかな?」

 

「知りたくなかったっ!

 何だその中途半端に美化しつつ曖昧で煙に巻こうとしてる話は!?」

 

「しかも微笑まれた人は神の世界に連れていかれちゃうらしいよ?

 いやー、修正力ってやっかいだよねー」

 

 はっはっはじゃないっ!

 そもそもそれのどこが教義なんだ!


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