大分裂戦争。
そう呼ばれる大きな戦争が、小さな小競り合いで済むわけではなかったらしい。
世界に喧嘩を売った、ウェスペルタティア王国。
地球に逃げ場を求めながらも、魔法世界が存続した場合のために影響力を強めようとするメセンブリーナ連合。
不要な魔力消費を止めさせたい上に、アリカを支援するという大義名分を持つヘラス帝国。
最早原作知識が役に立つ状況ではなくなっているが、それぞれの思惑が、世界を大きな戦いへと向かわせている。
私達にとってこの状況は、利用すべきものなのだろう。
少なくとも高二病の心を折るには、最低でもこの状況で真正面から叩き潰すくらいの事をする必要がある。2600年モノの子供だから、それでも足りるか怪しいものだが。
戦争の混乱で国の上層部もガードが甘くなるから、人を送り込むのも通常よりは簡単になるはずだ。メガロ傘下の都市くらいなら、実権の掌握すら可能だろう。
何より、この戦争を終わらせる為の悪役が現れた事は、歓迎すべきとすら言える。
「理由はともかくとして、結局、王国は崩壊に向かうのか。
アリカを女王に据えて存続させる事は可能だと思うか?」
「んー、いけるんじゃない?
このままならウェスペルタティアの体制は崩れるし、メガロの上層部を黙らせるのも難しくなさそうだし、ヘラスは支援してくれてるし。
一番難しいのは、国民と国土を引き継げる程度の被害で確保する事じゃないかなー」
今は報告書の山にうんざりしながらも、処理した後の休憩時間。
雪花はおやつの準備をしに行ったし、少しヴァンとだべる程度の余裕はある。
「体制が崩れるというか、近衛騎士すら国を出てアリカのところに来てるらしいじゃないか。
既に崩壊し始めているし、高二病が何をしでかすかを考えると、猶予はもう無さそうだ」
「高二病のする事、かぁ。
浮島崩壊、やっちゃうと思う?」
「既に複数のゲートを破壊済みだし、可能性は十分にあると思っておくべきだろう。
さよが潜入してもそれらしい情報は見付けられなかったし、魔法世界内部にある魔力を消費するものを破壊して削減するのが主目的としか思えなかったと言っているが……」
「戦争だと無理してでも生産しちゃうから、逆効果だと思うけどねー。
とある米帝さんの週刊護衛空母とか、誇張無しで作られるのを見たら笑うしかないしさー」
「あれは極端な例……でもないか。5年で2700隻ほどの貨物船も作っていたし。
ただ、魔力を消費するものを減らすという目的自体を否定する気はないし、戦争での破壊で総量を見れば減る可能性もある。あるとは思うが……暴走し過ぎだろう。
高二病の自己顕示欲と悲観主義を甘く見過ぎていたか」
「修正力の前に、原作キャラは無力……なのかな?」
「私やゼロはいいのか?」
「僕とかが力いっぱい介入してるし、原作キャラのままで抵抗したわけじゃないよ。
アルが介入したアスナとかアリカとかナギとかは、だいぶ原作から外れてると思うし。
ま、あの計画通りにいけば、それ以降は原作から完全に外れるはずだよねー」
「恐らくな。
原作の年の夏が一番いい条件になる辺りには、作為的なものも感じるが……」
「1番大きい理由は、前世でも同じだったみたいだよ。ちょっとしたブームになってたって、アルの漫画で出てたし。
前回はもう1個の方とタイミングが合わなかったし、合ってたとしても準備が間に合わなかったしさー」
うーん、前世の事はもう、あまり細かくは覚えていないな。
原作やらに関しては、たまに漫画で確認しているが……振り回されないために、これからはあまり読まない方がいいのか?
◇◆◇ ◇◆◇
魔法世界の戦争は、激化の一途を辿っているように見える。
しかも、レイの……いや、姫御子としてアリカの支援を表明したアスナのせいか、メセンブリーナ連合とヘラス帝国がガチ勝負をしているように見える。
元凶とも言えるウェスペルタティア王国を、余力で殴りながら。
「アリカと会わせたのは、失敗だったか……?」
「けど、一応目標を共有しうる身内だからねー。
本人達も会いたいって言ってたんだし、ナギ達が連れ去ったのはバレてるんだから、いつかはこうなったと思うよ。
特別な場合以外は幕田で保護してるんだし、高二病の手出しはむしろ望むところと言うか?」
「相変わらず、あれは表に出てこないがな。
さよがゲーム感覚で潜入アタックしているのはどうかと思うが……」
「気付かれそうな時点で撤退して、全部バレてないらしいってのがすごいよねー。
逃走経路も複数見付けてあって、未だに1個も潰されてないって言ってたし」
「泳がされているのを警戒したくなるレベルなんだが、見付けてくる情報が明らかに機密で、かつ間違っていないからな……
軍の暗号に関する本物の資料を、泳がせている相手に渡すほど間抜けとは思いたくないぞ」
「大日本帝国の海軍もびっくりなくらい、情報が筒抜けになったよねー。
通信の基盤はあいかわらず昔提供した奴がベースだから傍受可能で、いくら通信を暗号化しても復元手順がバレてたら意味がないしさー」
「その辺は、確か前世のインターネットでも似たようなものだったはずだが……まあ、読むべき者に伝わらない情報に意味は無いから、そこを抑えてしまえばどうとでもなるという例だな。
戦車でピザを配達するとかいう喩えも聞いた気がするが、どういう意味だったか……」
「んー、いくら堅牢にしても絶対はないとか、必要以上のコストがかかるとかかな?
ま、今はそれより、お仕事お仕事。
ヘラスはまだ大丈夫だけど、戦争が長引くと国力が落ちるよ?」
「メガロと高二病を止めろ、とでも言いたいのか?
簡単に止まるくらいなら、こんな状態になっているわけがないだろう」
一応は連合という形の組織である以上、最低でも代表の過半数を味方にする必要がある。
都市によっては代表がころころ変わる事もあるし、代表を抱き込むくらいなら、市民を動かす方が現実的だ……が、その市民が扇動されてしまっている現状では、こちらの思うように動いてくれる可能性は低すぎる。
「止めるんじゃなくてさ、もうこうなったら、修正力に期待しちゃった方がいいかなって。
一番やばいのは高二病だし、そっちに責任を取ってもらう方向でさー」
「……つまりあれか。ウェスペルタティアを連合軍で攻撃するという事だな。
だが、アリカはヘラスの後ろ盾で動いている事や、アスナがアリカを支持した事は知れ渡っているぞ。
この状況から、メセンブリーナを動かせるのか……?」
「連合全体は無理があるし、影響力やらを考えるとメガロだけでもいいんじゃないかな。
ウェスペルタティアに煽られてるのって、割と中央から離れた地域が多いみたいだしさ。具体的には、紅き翼が暴れてた辺りだけど」
「ああ、そういう事か。
その辺を切り捨てるなりができれば、メガロの老人共の権力欲を抑えるか、それを超える利益不利益が見えれば何とかなるわけだ」
「そういう事だね。
メガロの財界を中心にヘラスと手を組んででもウェスペルタティアを抑えるべきだって意見を出してるし、権力欲の強い人にはアリカと姫御子を抑えられなかった以上は領土の確保で恩を売っておくべきだって吹き込んでるし。
アルも孤児院関係から突き上げるよう働きかけてるから、全体としてはどうにかなりそうかなーって」
「御膳立ては順調という事だな。
報告が来るとはいえ、相変わらず私抜きで話が進んでいる事を喜んでいいのか寂しがればいいのか……」
「寂しがると、アルが喜ぶんじゃないかなー?」
「……それは、全力で回避しておこう」
◇◆◇ ◇◆◇
とりあえず、これだけは言うべきか。
高二病と修正力、自重しろ。
「原作よりも悪化してるから、ほんと自重してほしいよねー。
新たなる世界とか言って、破滅思想に突っ走りだすのまでは予想してなかったし」
「結局、ゲートの残りは実質3つか。
ヘラスとメガロの首都近く、それにオスティア。
襲われてないオスティアはともかく、アーウェルンクスの襲撃に耐え切った2か所は賞賛すべきなのか?」
「メガロはそうだねー。
ヘラスはあれだよ。予想情報を流してたし、姫御子の都合でアリカがゲートの近くに滞在してるからね。必然的に、紅き翼もそこにいるわけで」
「……原作英雄サマが揃っていたのか。
ご愁傷さまと言った方がいいな、それは」
「おかげで、プリンとかプラムとかいう名前だっけ? 1番目の人が再起不能らしいねー。
高二病に刺されたわけじゃないけど、ハイハイ修正力修正力、な状況かな?」
「どうして食べ物になる。プリームムじゃなかったか?
既にどうでもよくなった名だが」
潜入作戦だったせいか、アーウェルンクスが一人でゲートを破壊しに来たのが間違いだったのだろう。
セクンドゥムが現れたメガロは、大きな被害を出しながらも撃退に成功してゲートを死守。
プリームムはヘラスでナギ達と壮絶なバトルを繰り広げ、結果的に死亡……人形なら破壊と言うべきなのか? まあ、そういう状態になったらしい。
デュナミスはウェスペルタティア王国の宮廷魔術師のような立場だからか、襲撃に直接の関与はしていない。
「強い手駒が無くなっても、大規模破壊魔法を発動しようと画策はしてるんだよねー。
一応ゲートの数は減ったから、数か月あれば発動できるんだっけ?」
「私達の計算上では、そうだな。
連中が隠し玉を持っているなら話が変わるが……さよも見付けていないようだし、大きく変わる事は無いだろう。
それまでに何とかしないと、オスティアの浮島が落ちる結果になるが」
「大規模反転封印術式、だったよね。
ウェスペルタティアの技術だけどアリカ側についた騎士団とかも扱えるし、ヘラスやメガロにも類似の技術はあるし。
大規模破壊魔法に対抗しようとすると、普通はそれくらいしか手が無いのも確かなんだよねー」
「そこまで行ってしまったら、私が直接介入するが……それまでにどうにかできんものか」
現状で動くとしても、元凶である高二病をどうにかするのが難しいのが問題だろう。
人知れず処理してしまうならともかく、きちんとした司法の手続きに則ると国王がスケープゴートにされるのが明白すぎる。
意図してそのような状態に持ち込んでいるのかもしれんが、表に出てこない黒幕を相手にするのは面倒だな。
「なんというブーメラン……そしてエヴァにゃんは次に『頭の中を読むな』と言うッ!」
「頭の……そんなに私は読まれやすいのか?」
「ああっ、そこは最後までのってほしかった!
ま、長い付き合いだし、ある程度は想像できるよー。でも、基本面倒くさがりなのにいろいろ抱え込むよねー」
「自分の限度は弁えているつもりだぞ?
自分の手だけではどうにもならない事を理解したから、眷属達の組織も作って(エヴァさまー、急ぎなんですけど召喚してくださーい)……さよ?」
「どうかした?」
「いや、さよが急ぎで召喚してくれと言ってきたんだが……場所は魔法世界だが、荒野だから潜入に失敗したわけじゃないんだな。
一応ジャミングはかけておくか」
それ以前に、厳密には召喚ではなく、単なる長距離転移魔法なんだが……まあ、細かい事か。
ゲートを使うか私が転移させない限り、魔法世界と地球の間は移動できないわけだし。
「はふぅ。エヴァさまー、こんなの見付けましたー」
で、さよの転移が終わったわけだが。
持っているのは、どう見てもあれだな。
「これは、よくやったと褒めるべきか、とんでもない爆弾を持ち込むなと注意すべきか……
ヴァン。どう思う?」
「んー、褒めればいいんじゃないかなー。
これって、あれでしょ。グレートグランドマスターキーとかいう、長ったらしい名前のやつ」
「そんな感じの名前で言ってるのを聞きましたし、なんだか大事そうに隠していたので、サクッと持ってきちゃいました」
「いや、持ってきちゃいましたと言われてもな。
とりあえず、これで高二病の動きは鈍る……のか?」
「大規模破壊魔法で使うつもりだったと思うし、鈍ると思うよ?
それに、これを解析すれば色々とやれることも増えるんじゃないかなー」
「最終的にアスナ頼りになる可能性も高いぞ。
それ以前にあいつは、レイとして静かに暮らす道をどうしたいんだろうな。あまり表に出すぎると、誤魔化し切れなくなるが」
「アリカが頑張ってるし、知らない振りはできないんじゃないかな。
現状では身内の権力争いになっちゃってるわけだしさー」
「望む望まないに関わらず、関係者だからか。
難儀なことだ」
「でも、エヴァさまは魔法世界の関係者でもないのに、首を突っ込んでますよね?」
「潜入を楽しんでいるさよだって、似たようなものだろうに」
週刊護衛空母:カサブランカ級航空母艦
5年で2700隻:リバティ船
詳しくはWeb(Wikipedia等)で。
月刊正規空母(エセックス級)は若干の誇張あり(就役は1943/11/24~1946/05/11の約30か月間で22隻。1942/12/31の1番艦と1950/09/25の最終は除外)ですし、Wikipediaに記載が無いので、会話ネタとしては没となりました。
けど、当時のアメリカ様の生産力ぱねぇ。これ(以外も色々)を同時に作ってたんだぜ……?
2016/08/02 例え→喩え に修正