金色の娘は影の中で   作:deckstick

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紅き翼編第06話 身代わり

 原因に心当たりがある。

 経緯も理解している。

 それでも、あえて言いたい。

 

「どうして、こうなったっ!」

 

「いやぁ、予想できる範囲ではあると思うよ?」

 

 ウェスペルタティア王国はアリカが女王として国家を掌握。既に元国王となった父親を幽閉し、ずたずたになった外交や国内の立て直しに奔走している。

 その直前に発動しそうになった大規模破壊魔法は、アスナwithグレートグランドマスターキーがあっさりと無効化。この時に無理をしたアスナは昏睡状態となり治療中……という筋書きで、レイとしての生活に戻ってきた。ある程度様子を見てから、死亡とする(完全にレイとなる)か、アスナに戻るかを決めるらしい。

 ずっとアリカの護衛をしていた紅き翼は解散し、基本的にそれぞれの故郷へと戻っている。ナギとゼクトはアリカの護衛を続けているし、ガトウ等の協力者はそれぞれの活動を続けているが。

 ヘラス帝国は継続してアリカを支援している。その関係の動きもこちらで把握できるし、特に問題となるような行動はしていない。

 メセンブリーナ連合は、ウェスペルタティア王国での利権確保に失敗した。足並みが揃っていなかった事や逃げ腰だった事が原因だから、自業自得だろう。今も王国(ウェスペルタティア)帝国(ヘラス)にちょっかいをかけて、余計に信用を落としているようだし。

 

 そして、一番の問題である高二病だが。

 逃げた。

 メセンブリーナ連合とヘラス帝国で戦争発生以降に作られた軍艦や兵器の総量を示す資料を渡して、余計なことをしたと懇切丁寧に説明しただけ(但しアルの主張が正しければ)なのだが。

 

「いやはや、少々いじめすぎたでしょうか。

 当面の障害は排除できたと思いますが」

 

「このままだと原作と同じく20年後に余計な事をしそうだが、それはどうなんだ?」

 

「可能性はそこそこありますが、今回である程度は思い知ったはずです。

 それに、次はエヴァちゃんも遠慮しないでしょう? それに気付けるだけの警戒心はあると思いますよ。今回が無様すぎた上に、高二病のネガティブ思考が後押ししてくれる事も期待できますからね」

 

「高二病とデュナミスは逃げたけど、ある程度大きな動きをしようとすればエヴァにゃんの情報網に捕まると思うし、特に問題ないと思うよ。

 当面は原作と同じく死んだふりなのかなー?」

 

「すぐに表立って動くほど、愚かではないでしょう。

 当面は力を蓄えるとか、そういう方向に進む可能性が高いと思いますよ」

 

 力を蓄える……要するに、戦力やらの準備をするという事か。

 それはつまり。

 

「気が付いたらアーウェルンクスがうじゃうじゃ現れる、という事だな?」

 

「それは否定できませんね。それだけの材料を入手できれば、という条件は付きますが。

 魔法素材の生成は大変ですし、造物主の力を使って手軽にやろうとすると魔法世界から出せなくなります。ゼロちゃんの体を作った時の苦労を考えれば、少なくとも地球で活動できるタイプが大量に現れる可能性はとても低いでしょう。

 魔法世界限定であればアーウェルンクスである必要も無いですから、101体人形大行進的な光景は見なくて済むのではないでしょうか。最後の鍵をこちらで確保している以上、造物主の力を手軽に行使する事は難しいはずですし」

 

「つまりなんだ。造物主自身が鍵に依存しているのか?」

 

「正確には、リミッターを兼ねた触媒になってるみたいだよ。

 若き日の過ち、厨二病の名残じゃないかなー」

 

「一応弁護しておきますが、本当の初期の頃に自身の力を扱いきれない時期があり、その対策としてこのような形にしたようですよ。

 決して、明確な弱点がある俺が可哀想アピールのためではなかったのですよ」

 

「それなのに、力の源泉に気付けなかったのか……

 あと、弁護なら最後を過去形にするのはやめた方がいいぞ?」

 

「一応ですから、いいのですよ。

 補足しておくと、当時は自分の力を大きく伸ばす術式の研究をしていたようで、その暴走の副作用でこうなったと思っているみたいですよ。

 自分の中で納得できる理由に心当たりがあったことが、勘違いの原因でしょう」

 

「やれやれ、探求に思い込みは禁物なんだがな」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そんなこんなで、5年程が経過した。

 

 高二病は北の方へ逃げ、そのまま龍山山脈の辺りに引きこもっている。

 そこでアーウェルンクスを作ろうとしているようだが、少なくとも量産するだけの余裕は無いらしい。機材類はどうにかなっても、現実世界でも問題のない材料の確保に難儀しているようだ。

 

 アスナは未だに昏睡中という事になっている。

 今まで王家の身勝手で縛られていた分も幸せになってくれと、アリカも言っているのだが……アスナ自身が自分の血の価値を理解しているし、アリカに協力したい気持ちも割と強いようだ。グレートグランドマスターキーとの相性は、アリカよりもかなり上だと確認できているし。

 そのため、普段はレイとして生活しているものの、完全にレイになる決断が出来ないまま今に至っている。

 年齢の固定の解除は時間がかかる方法しかないから、すぐに普通の女の子になることはできないのも理由のようだ。これは、アスナ以外の誰かがアスナ並みにグレートグランドマスターキーを使えたら簡単だったのだが、現存する王族……墓守まで含めた血族全員が、そのレベルには達しないようだ。高二病が協力すると思えないしな。

 

 関西の近衛家に木乃江が養子で入り、魔法世界から戻った青山詠春が婿入りしたのは、修正力という名の予定調和か。

 木乃江が詠春を選んだ理由としては、今後を見据えた魔法世界各国(というか、ヘラスやウェスペルタティア)とのパイプの強さを評価した、という事になっている。

 実際は、堅物で浮気の心配が無さそうだからだというのは……まあ、夫婦の事だし、それはそれでありなのだろう。

 

 ヘラス帝国とメセンブリーナ連合、アリアドネー等は、概ね落ち着きを取り戻している。

 噂にあった生活環境の崩壊を防ぐために全力で取り組み、その為にも魔道具の効率化や、必要以上には魔道具に頼らない生活を模索する必要性を世界的に広めている。

 結果的にだが、魔法世界の崩壊に関して多少なりと情報を広め、大国が協力する体制を作れたことが、高二病の最大の功績だと言えるだろう。本人としては不本意だろうが。

 ついでにメガロによる地球襲撃は、地球側組織の大量離反を招いたため一応は終息し、関係回復に駆け回る羽目になったらしい。優良な組織は私達の組織が受け入れていたから、搾りかすのような連中としかよりを戻せなかったようだが。ついでに、新しい火種を撒いてもいるようだ。

 

 高二病が去ったウェスペルタティア王国だが、旧国王派もしつこく残っている上に元国王が災厄の王と呼ばれていることへの感情的な反発もあってか、アリカやナギ(アリカによる相棒等々の発言のせいで国民にも王配最有力候補と認識されている)達は相変わらず気を抜けない生活を続けているようだ。

 国としても疲弊からの復興に手間取っていて、奴隷法が作られるほどではないものの裕福とはとても言えない、苦しい運営が続いている。ヘラス帝国の支援を受ける身ではあるが、ヘラスが領土やらの野心を見せておらず、国民が現状を受け入れている事が救いだと……

 

「……どうして、その様な話を女王の護衛から直接聞く羽目になっているんだろうな」

 

「いや、色々助けられてるってのは事実なんだけどよ。

 寝る時に天井裏に潜まれて寝顔やらを覗かれてるみてーだし、ちょっとひでーと思わねーか?」

 

「違わないけど違いマース!

 あれは護衛として必要なんデース!!」

 

 そして、ナギに首根っこを捕まれている少女が騒いでいる。……何故か登校地獄、それもデバイスによる補正があってもバグったものをかけられた状態で。

 一応情報も照合して身元の確認が取れているコイツは、以前はナギの追跡を、今はウェスペルタティア王国の王室近辺の調査を担当している、イギリス出身でダイアナ・ヴィッカーという名の眷属だ。

 軽く確認した限りでは、呪いは20年ほど継続する可能性がある。麻帆良にある学校に通うという縛りのようだから中学生を繰り返す必要はないが、外見が高校生くらいのこいつだと……高校と大学の7年では全く足りんな。中学と大学院を足して……いや、大学院よりも専門学校やらを渡り歩く方がマシか。

 

「必要と言いながら、違わないと自白している辺りはどうなんだろうな。

 どっちの主張が正しくても、呪いは成立してしまっているんだが……さて、どうしたものか。どこぞの国のように、呪いをかけられた事について謝罪と補償を要求すればいいのか?」

 

「その前に、呪いの解除を要求しマース!」

 

「あー、解除はちょっと無理だ。俺にも簡単には解けねー感じになっちまったし」

 

「かなり頑張っても、期間を多少縮める程度しかできんだろう。

 短縮される時間より、そのために必要な拘束時間の方が長くなる可能性も高いな」

 

 15年後に中学生という条件は満たせないが、吸血鬼相当の存在を学生として麻帆良に縛り付ける事には成功しているようだし、タイミングも原作と同じと言っていいだろう。

 修正力は、そこまでして原作エヴァの身代わりを作りたかったのか?

 

「そ、そんなぁ……ひどいデース」

 

「問答無用でかけちまったのは、まあ、悪いと思うけどよ。

 一応、何度か警告はしたぜ?」

 

「警告は、どんな内容だ?」

 

「えーと、確か、露出趣味は無いとか、寝室を無暗に覗くなとか、ピーピング・トムは死刑になったんだぞ、とかだったはずだぜ。

 さすがに即刻死刑はまずいと思って、手頃な呪いを探したんだが……」

 

「なぜかこうなった、と。

 古い価値観の国の王族の機嫌を損ねた時点で色々アウトなのは確定的として扱うが、念のため確認しておくぞ。現時点でのお前自身は王配候補であって、王族になっているわけではないな?」

 

「あー、いや……俺がってのもあるんだけどよ、アリカが怒っちまってて……」

 

「ゴダイヴァ夫人はアリカの方か? いや、ナギが夫人役で、見るなと命じる領主役がアリカか。

 要するに独占欲なんだろうが、アリカの感知力を称えるべきか、リア充爆発しろと言うべきか迷うところだが……ダイアナにこれだけ言っておくか。

 馬に蹴られて死ななかっただけ良かったな」

 

「うわぁぁぁぁん!」

 

 いや、王族の恋路を邪魔して、まだ生きているだけ平和だと思うが。

 その自覚は……無いな、これは。

 

 その後はまず、ダイアナの処遇の話し合いだ。

 ダイアナに関しては麻帆良で学生になることは確定しているが、ダイアナを送り込んだ責任を取るという形で全ての費用や手続きを私達が請け負う事になった。正確に言えば費用は平謝りしていたマシューの管轄だが、責任の所在と補償の執行について明確にし、これ以上問題を長引かせないようけりをつけるためでもある。

 ウェスペルタティア王国は地球との関係が弱いし、ナギ自身も魔法世界での生活が長いため、連中では費用を出せなかったというのは、裏話として心に止めておけばいい。

 

 その後は、他に軽く近況やら今後やらについて話をした程度だ。

 対策やらが間に合うのかという悲観的懐疑派や、そもそも魔力枯渇の問題は本当なのかという根本的懐疑派がどこの国にもいて、その一部が過激な行動を取っているとか。とりあえず、今でもアリカ達を狙っているのは旧国王派で悲観的懐疑派の過激派らしい。

 不安の払拭に、いくつかの商会やらが積極的に動いているらしいとか。これは間違いなく、眷属達が関わっている商会のことだろう。

 生活に必要な魔力の軽減については、技術開発は進みつつあっても、その普及に時間がかかるのは確実だとか。元々頻繁に買い替える物ではないし、人や自然の魔力を使う以上は買い替えることでコストが下がるわけでもないため、置換がゆっくりになる事は想定済みだ。

 国として色々と苦しいのは元国王がしでかした事を考えると仕方がないと割り切り、未来に目を向けて手を尽くしているのは報告書で来ていたものと同じ内容か。ヘラスを超える規模で援助してしまうと問題が出てしまうし、商会やらを通して支援をしているから、これは現状維持でいいだろう。安く販売する照明器具なんかを人の魔力で動作するタイプを中心にすることくらいは許容してもらうが。

 アリカとの関係については……まあ、素で惚気るんじゃない末永く爆発しろ、としか言えん。

 

 前回とは違って比較的和やかな井戸端会議が終わり、ナギが帰ろうとした時。

 それまでおとなしくしていたダイアナが、涙目になった。

 

「ナギぃ……」

 

「ふむ……この様子は、あれか。

 いわゆる恋する乙女というものか?」

 

「知らねーよ。そういうのは、男の俺より同性のエヴァの方が詳しいんじゃねーのか?」

 

「人をやめて久しい私に、その様な感情を求められてもな。

 とりあえず、ダイアナに言っておくべきは……やはりこれか。

 地球では、ストーカー行為は犯罪として扱われつつあるぞ」

 

 確か、アメリカのどこかでストーカー防止に関する法が議論されていたはずだ。

 日本ではまだまだだが……幕田単独になってでも法整備を始めるべきか?

 

「そんなぁ……会うのもダメなのデスカ?」

 

「近付くために少々やりすぎた、という事だ。

 ここに居る間は頭を冷やす期間だとでも思っておけ」

 

 変にこじれる可能性もあるが、どうせ気軽には麻帆良から出られないし、王配候補にストーカー女を近付ける事自体も問題になるから、こうするしかないだろう。

 マシューも頭を抱えていたし、元々はここまで執着する性格ではなかったという話だし……本当に、どうしてこうなったんだろうな。




ダイアナの外見的なイメージキャラは、語尾や設定等から予想できるあの人デース。
……プロット作成時点(艦これに興味を持つ前)では、もっと普通の女の子だったはずなのになぁ。そのせいで発言内容がなよなよしてますね。


ストーカー防止法は、カリフォルニアで1990年に作られたのが最初らしいです。
ネギま(2003年)の15年前だと、微妙に間に合ってないんですよねー。
つまり、当時の地球の法において、1か月(?)付きまとった原作エヴァも法的にはストーカーとして扱われません(他の法に引っかからないとは言っていない)。


なお、現在仕事が少々忙しいため、次々話以降は不定期になる可能性があります。次話はたぶん大丈夫(できているとは言っていない)ですが、その先のストックが全くありません。
投稿する気はあるので、2週間毎に投稿されなくても気長にお待ちください。
艦これのイベントのせいじゃないですよ。レベル順の1ページ目に榛名改二(嫁)と榛名改と羽黒改二と羽黒改(レベル90以上)がいるのに2ページ目でレベル80を切り、イタリアンやアメリカンが1人もおらず、なぜか明石がレベル70あり、資源は常時2万前後(3万を超えたら奇跡レベル)のうちの艦隊にとって、イベントは色々荷が重いですしー。効率的な攻略? ナニソレオイシイノ?
ちなみに、会社に1日の半分(12時間)近くいる羽目になっているせいです。これでお金になるならまだいいんだけどなぁ……


2016/08/16 以下を修正
 火種を巻いて→火種を撒いて
 話しをした→話をした

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