原作で、ネギの住む村が襲われる時期が近付いてきた。
メガロ付近からは、特に怪しい動きは報告されず。
ウェールズ近辺からも、注意すべき情報は上がってきていない。
ウェスペルタティア王国が健在であり、ネギの王子という身分も確か。
何より父であるナギと共に暮らしている以上、原作とは全く異なる人柄になるのだろう。
……と、思っていたのだが。
「ネギが日本語を喋った……?
本当なのか?」
「はい。高原へ遊びに行った際に護衛達を含め少し離れる機会があり、その際に聞き慣れない言葉を呟いていたものを録音したという報告がございました。
早くお知らせした方が良いと判断いたしましたので、このような時間ですが連絡させていただいた次第でございます」
マシューからの報告で、それ以上のナニカが起こっていることが、確定した。
「それが、日本語だったという事か」
「録音状況が悪く聞き取りづらかったとはいえ、何を言っているのかを識別できましたからな。
間違いなく、こう言っておりました。“どうしてこうなっちゃってるのかな”と」
「……ヴァンの阿呆がぁぁぁぁぁぁ!」
よりによって、ネギに原作知識持ちを召喚しやがった!
いくら修正力的なナニカを警戒してるとはいえ、やっていいことと悪いことがあるだろう!
今は夜の10時近いから、イギリスだと昼過ぎ……夏時間の時期ではないから、昼食が終わった頃というか、片付けをしているアレがナギ……って、アリカも来ているのか?
ヴァンは……また気配がないのか。変態……も、なのか。ああもう、主犯が逃亡済みでは申し訳が立たんぞ。
「マシュー、私がアリカとナギとネギに説明する。
お前も聞いておいた方がいいだろうから、今すぐ現地に飛べ」
「それほどの問題でしょうか?」
「確定ではないが、私の近くにいる連中がやらかした可能性が極めて高い上に、その内容に問題がありすぎる。
ああそう、他の護衛連中にはあまり聞かれない方がいい話になる可能性もあるから、護衛連中に私を説明できる者も必要か。準備と現地入りにどれくらいの時間が必要だ?」
「身嗜みを整える時間は必要ですから、20分後にいたしましょう。
相手は女王ですので、エヴァ様も相応の恰好をなさって下さい。細かな点はリズやノエル達が詳しいでしょうし、連絡をしておきますので」
「ああ、わかった」
ああもう、これだから今の格好とこのまま飛ぶ可能性を察する古参の連中は。
……いや、今の指摘はヴァンや変態よりとは比べられんほど真っ当だな、うん。
◇◆◇ ◇◆◇
マシューとの連絡が終わってから、ほぼ20分後。
その間に行われたリズとノエルとゼロとイシュトによる全力のコーディネートや、その結果としての格好、ついでに洋装に弱い雪花が拗ねてたのを意識の外に追いやって。
15分ほど前に現地入りしているマシューが何やら説明しているのも見なかった……ことには出来ないから、参考にして。
アーティファクトの蝙蝠に幻術を被せた、麻帆良の結界の外でも問題なく行動可能な分身もどきを、ウェールズに転送した。
……よし。近くにいるのは、ナギ、アリカ、ネギ、マシューだけだな。
「すまない、あの阿呆共が余計なことを仕出かしていた事に気付けなかった!」
有無を言わさず、土下座で平謝りするしかないだろう。
……アリカはともかく、ナギとネギは意味を理解してくれるはずだ。ナギは知識的に微妙かもしれんし、ネギは驚きのせいか目を丸くしてるが、きっと分かってくれる……といいな。
「お、おう……何のことか分からねぇけど、お前がやったんじゃねーんだろ?」
「ヴァン又はアルという者が怪しいと聞いておる。
よし、とりあえずアリカの許しは得られたか。
ここからどう説明するかだが……間違いなくネギがアレだし、伝えないという選択肢は無いな。
ネギ自身は黙っていたいのかもしれんが、この両親の懐はそれなりに大きいだろうから、何とかなるだろう。
「わかった。まずはヴァン達が何を仕出かしたかを説明する前に、分かりやすい結果を示そう。
というわけで、ネギ」
「は、はいっ!?」
うん、いい感じで慌てているな。
マシューは家族の事で気になることがあり、詳しい人物が調査と説明に来る、という感じで伝えていた。つまり、私の事は伝わっていないし、まだ誰からも名前すら出ていない。
「私がどの様な人物か、知っている範囲で説明してみろ。
貶す内容だろうが怒りはしないし、間違いがあれば後で訂正するから、気軽にな」
「え、ええと……」
まあ、内容というか情報元がアレなだけに、言いにくいのは分かるが。
チラチラとアリカを見るのは、下策だぞ。
「知らぬ事は言えぬのじゃ、知る事を言ってみるとよい。
なに、ああ言っておるのじゃから、心配はいらぬ。責任は色々話したであろうナギが取るでな」
「俺かよ!? いや、色々と話した覚えはあっけどよ……」
「はぁい……えっと、たぶん、エヴァンジェリンさん……ですよ、ね?」
「うむ、そうだな。
他に何かないか?」
「えっと、不老不死で、闇の福音と呼ばれている……でしたか?」
「どうもそうらしいな」
「なんと!?」
「なっ、お前があの、闇の福音なのかっ!?」
「えっ?」
うん、一家そろって驚きすぎだろう。
特にアリカとナギの反応が予想以上なんだが。それを見たネギが驚く程度には。
「エヴァ様。闇の福音については噂のみが先行しており、その存在を信じる者は少ないようです。
エヴァ様を知る者もほとんどおりませんので、両者を結び付けることは困難かと」
「……ああ、そういう事か。
言っておくが、ネギが言う“闇の福音”は魔法世界で知られているそれとは別の意味だぞ。私が歩む可能性のあった道の1つに、悪を名乗り人類と敵対するものがあったからな。
つまり、ネギにそれを知り得る世界の魂と記憶を呼び込まれたから、その知識を持っているわけだ。この場合は異世界への転生という表現が最も近いか?」
「むむ……闇の福音については、今は置いておくとしよう。
結論を纏めると、ネギは他の世界の前世とその記憶を持っておるという理解で良いのだな?」
様子を見る限り、アリカに嫌悪感やらは無いようだな。ナギはあまり理解できていないようだから置いておくとして、問題は顔面蒼白になってるネギ、か。
やはり、秘密にしておきたかったのだろうな。秘密のままにするのは精神的に苦しいし、同類がここにいるのだから、楽になってもらうぞ。
「そうだな。
これは恐らく、ヴァンか変態の仕業だろう。私の場合はヴァンのせいだったし、造物主は引きこもっていたはずだ。
他の候補は思いつかんから、ほぼ間違いないと考えている」
「犯人が判明しておるのは良いのじゃが、
今の説明では、そう受け取れよう」
「広められたい話ではないし、既にその知識は当てにならんがな。
というわけで、ネギになった誰かよ。前世の事をどの程度覚えているのかは知らんし、阿呆共がやらかした事を許せと言う気も無いが、私個人は先達としてお前を歓迎しよう。
ついでに、その気があってネギまの完結を知っているなら教えてほしい。私は最後がどうなったのかを知らんのだ」
「えぇぇぇぇ……」
そんなわけで。
ナギとアリカに加え、マシューにも詳細な“原作”の話をして。
全てを話したわけではないが……ゼロやメイド秘書軍団以外には、ここまで詳しい話はしていなかったのだがな。原作という言葉も使っていなかったし。
「ふむ、なるほど。
エヴァ様が仰っていた“予知に近い情報”とは、前世とこの物語の情報という事でございますか。
確かに予知とは異なる、未来の情報と言って差し支えない内容ですな」
「俄かには信じ難いが……あり得ないと切り捨てるには、整合性が取れすぎておる。
何より、ネギもそう証言しておるのだから、そうなる可能性があったという点は信じるしかあるまい」
「でも、ボクは……」
「なんじゃ、ネギは我が子である事が嫌なのか?」
「いや、罪悪感だろう。本来のネギの居場所を奪った事や、身近な人物でも物語のキャラクターだと考えてしまう事に対してのな。
私も通った道だが、こればかりは時間と周囲の理解が無ければどうにもならん」
「これでも、永遠の命を求めて記憶の転写を試みたなどという記録がある王家の人間なのだから、その程度の事では動じぬのじゃがな。
王家に入り込むことを目的とする賊や敵であるならともかく、こうなっておるのは不可抗力であろう。王家との関係を持とうと必死な連中を見慣れておると、こうなってしまった事に委縮しておるのは微笑ましくすらあるぞ?」
「王家に敬意を持たないという意味では、ナギもそうだったな。
アリカに気に入られるには、権力に対する無欲さが重要なのか?」
原作だと、ナギとテオドラあたりか?
片方は武力持ちで自由奔放、もう片方は権力持ちで自由奔放……と言っていいのか分らんが、少なくとも王家に取り入る気持ちは持っていないはずだ。
「いや、そうではない。あくまでも身内や近しい者だけじゃ。
ところで、話は変わるが……闇の福音と呼ばれておるのは、本当なのか?」
「どうもそうらしい、としか言えんが。
状況や語られる内容から判断して、私に関わった誰かがそう呼んだものが広まったのだろうと判断している」
「絶望の果てに響く福音、叡智を説く女神という話なのじゃが。
伝説など誇張されておるのが常と、分かってはおるが」
「いやまあ……由来になっただろう事例に心当たりがなくもない、という程度ではあるんだ。
魔法世界に行った時に怪我をした拳闘士や商人などを拾って助けたし、そいつらに色々教えた覚えもある。その状況を美化すると、かなり逸話に近くなると思えるだけでな。
だが、それは500年ほど前の話で。未だに言われているのは、噂が独り歩きしているだけか、色々な人物の噂と混じった結果だろうと思うが」
……マシューが何か言いたそうだが、言わなくてもいいからな。
少なくとも私の姿や名前が知られていないのだから、私を指した話だと断定する理由や根拠はないはずだ。
「なるほどの。しかし、権力者の差し金とも思えぬ内容じゃし、口伝だけでこれほど広く語られるとも思えぬ。呼び名が同じでも地域で内容が異なると聞いておるし、何者かが何かしらの意図をもって広めておるのじゃろう。
ところで、ネギよ。何か聞きたそうじゃが、遠慮せずともよいぞ?」
「え、は、はい。
あの……この世界って、原作とか前世とかと、どれくらい違うのでしょうか?」
「そうだな……分かりやすいところからいくか。
ウェスペルタティア王国が崩壊していない。これは、アリカやナギが健在だし、自身の状況的にも理解している点だろう。
私が呪われていない。麻帆良に住んでいるのは事実だが、別にダレカのせいではなく、諸々の事情やらが重なったせいだ。
この2点はいいな?」
「は、はい」
これは見て分かりやすいものだし、反論やらのしようもないだろう。
ここにいる私は本体じゃないなんて、簡単にバレるような術式ではないし。
「次だ。
麻帆良は日本ではなく、いくつかの飛び領地を持つ独立国の首都になっている」
「うそっ!?」
「本当だ。幕田公国の首都、麻帆良。これがこの世界での公式な位置付けだ。
ちなみに幕田公国の君主は幕田家の当主なんだが、幕田家の始祖は私だから、私の国と言っても間違いではないな」
「なんでっ!? って、幕田はマクダウェルのマクダですかっ!?」
「当時使った名前が幕田
養子とその子孫達だから私と血が繋がっているわけではないが、幕田家は日本の皇族や摂家との血縁もあるし、戦国時代あたりから続く由緒正しい家柄だぞ」
「うわぁ……何やってるんですかいったい……」
「人外の保護と魔法を公表した際の混乱を抑止するための組織作りだ。
次に進むぞ。
造物主は現在引き籠っていて、完全なる世界などという組織は作っていない。戦争の元凶ではあるが黒幕と呼ぶにも微妙な立場だ。気付かないところに組織がある可能性までは否定できんが、少なくとも、意図的に戦争を引き延ばしていたとか、そういう事は無かったはずだ」
「え? 造物主って、最後の敵のはずなのに……?」
「私もそう記憶しているが、単行本派で最終巻を読む前にこっちに来てしまったからな。
ネギの女性問題で大騒ぎの後で更に敵が出るとは思っていないが、間違いないんだな?」
「は、はい」
「あー、なんだ。
ネギの女性問題って……何かあんのか?」
おお、ナギの理解できる話になったせいか、首を突っ込んできたか。
原作はまあ、ラブコメだからという理由もあるのだろうが……
「ネギが女子中学校の教師になり、教え子のほぼ半分、確か15人くらいと仮契約していた。言い寄られる側ではあるが、恋愛の意味も多分に含まれていたな。
ついでに、日本の中学生は12歳から15歳だ。普通に考えれば修羅場で、倫理的には大問題だろう?」
「いくら俺でも、色々やべぇってのは分かる。
けどよ、うちのネギがそうなるとは限らねぇよな?」
「それはまあ、ここにいるネギ次第だな。
ロリコンだったりアーティファクトを集めるのが趣味だったりすると、そうなろうとする力に負けるかもしれん」
「えっと、それは大丈夫です。
ボク、女の子と恋愛する気がないですから」
「おいおい、男としてそりゃねぇぞ?」
「いいんです。ボク、前世は女でしたし。子供もいたんですよ?」
「お前も性転換しているのかっ!?」
ヴァンのやつ、私の時の失敗を全然反省していないな!!
「え? エヴァさんもそうなんですか?」
「……そうだな。私の前世は、妻子持ちのおっさんだ」
「うわぁ……大変ですね。
でも、その年齢だと生理が来てないはずですし、普通の成長する女の人になるよりは良かったのかも?」
「いきなり生々しくなったな!?
そもそも普通のニンゲンになっていたら、国を作ることなどありえんだろうが!」
「あ、それもそうですね」
いったい いつから 元日本人が3人だけで TSがエヴァだけだと 錯覚していた?
ネギの設定は初期プロット通りです。一人称が「ボク」という点も含めて。
今回間に合ったのは、あれです。
テスト前とか何かする事がある時って、むやみにゲームとか漫画とかがはかどるよね。
その分、質とか後回しにしたナニカとかがうわぁぁぁぁぁぁぁ……