「それにしても、UQ HOLDERだったか。
続編ではあるが、イシュトも原作関係者だったんだな」
「夏凜、でしたか。
元々ミドルネームが日本的とはいえ、安直ですね」
「物語がどうであれ、私は私です。
それに甚兵衛もらしいので、もしかすると他にもいるのかもしれません」
ネギ達との情報交換を終え、麻帆良に戻ってきた私達。
リズや雪花は遅れていた・増えた役目のために動いているし、
「それにしても、完結しても謎は残ったままというか、ほぼ投げっぱなしとはな。
残り1巻なら全て明かされることはないだろうと思ってはいたが……」
ナギやアリカがどうなっていたのか、とか。
造物主やアリカがどうなったのか、とか。
超が平然と並行世界を移動しているのはポリシー的にどうなんだ、とか。
軌道エレベーターの存在意義は何だろう、とか。魔法世界と火星を行き来する方法を用意する方が色々と楽で便利なんだが。
「つまり、原作に囚われる必要もないということです
既に前提が大きく崩れていますし、思う通りに進めてよいでしょう」
「まあ、今更止まる気もないがな。
魔法が広まるのは原作的にも問題ないようだから、その点だけは安心だが。
ネギが不老不死になるとかいう話はUQ HOLDERで否定されているようだし……まあ、始まったばかりしか知らないらしいから、実は生きていたという可能性もあるか」
雑誌で読んでいたそうだが、3巻相当分までしか読んでいないと言っていた。その範囲では、エヴァンジェリンが大人の姿で雪姫を名乗っている点と、主人公が近衛性でネギの血筋らしい点以外は、あまりネギまとの繋がりも強くなさそうな印象だ。
神鳴流が登場したラブひなとネギまよりは明確な繋がりがある、とも言えるが。
「続編に関する事柄は重要でなく、原作についても致命的な問題が見付かりません。
現時点で計画を変更する必要は無いでしょう」
「計画に直接影響するのは、ネギとナギの参画か。
元々ネギに頼らない計画だから手駒が増えるだけではあるが、使いにくいからなぁ」
「ナギはともかく、ネギは基本的に真面目で、考えて理解するタイプのように見えました。
「ナギが邪魔になる前提なのが問題だな。
英才教育しちゃうぞとか言っていたが、その意味を理解しているのか……」
「小一時間問い詰めるのですか?」
「そんな無駄で面倒なことはせん。
ただ、ナギに教育するだけの知識やらがあるかが心配なだけだ」
◇◆◇ ◇◆◇
ネギの受け入れに関して動き始めてから、僅か数日の昼過ぎ。
今度は、有宣から連絡があった。
なんでも、麻帆良にある裏町……裏の連中が集まって住む地域に少女が迷い込んだため保護したが、特殊な能力を持っているようだから扱いを相談したいらしい。
「この流れならまあ、こうなるよな」
「おや、この少女をご存知でしたかな?」
「ヴァンは何も言っていなかったのか?
あいつは以前から何かに気付いていたようだったが」
「
最近改めて話を聞いておるので、恐らくその頃には気付いておったのでしょうが」
「まあ、そうだろうな。
さてと、これ以上放置するのもかわいそうだから、本題に入るか。
この場合は裏の世界へようこそと言うべきなのか?」
「う、うらのせかい?」
戸惑っている少女……要するに眼鏡をかけていない長谷川千雨なんだが。
その目には明らかな動揺が見える。
扱いを相談するという段階のせいか、特に説明はされていないのだろう。だったら連れてくるなと思うが、木乃香達と同年齢だし、何かあると気付いてもいるのだろうな。
「そう、裏の世界。今はまだ表に出せない事情を抱える世界、と言い換えてもいい。
ここに連れてこられたのは、お前……長谷川千雨だったか。千雨が、気付かずにその世界との境界を超えてしまう力を持っているからだ。
その力を理由に危害を加える気はないが、世の中にはおかしな連中もいるからな。放置して何かに巻き込まれたら寝覚めが悪いということで、来てもらったというわけだ。
ここまでで、何か質問はあるか?」
「え、ええと……わるい人とか、そういうの、ですか……?」
「そういう連中もいる事は否定できんが、表の世界から犯罪が無くならないのと変わらんさ。
例えば私や有宣は、幕田の公務員のようなものだと思ってもらえばいい」
「正確には幕田家の関係者であり、幕田公国の支配者側ですがな」
「ここでそれを言う必要があるのか?」
「エヴァ様はすぐにご自身の立場を忘れると、よくボヤかれておりますでな。
細かいところから矯正すべきかと」
「なんだ、私が悪いのか。
話を戻すが、他に質問は何かあるか?」
「じゃ、じゃあ、わたしは、どうなるんですか……?」
「それを決めるために来てもらったんだ。本来なら見知ったことを秘密にしてもらうだけで済む場合が多いが、千雨の場合は今後も巻き込まれる可能性が高く、これでは解決にならないからな。
というわけで、千雨が選べる選択肢は、2つある。
こちら側に踏み込むか、避け方だけ学ぶか、だ」
「ええと……」
「まあ、これだけじゃ何を言っているのかわからんだろうから、わかりやすく言うぞ。
魔法少女になるか、魔法少女にならず関係者や敵役との不必要な接触を避けるか、だ」
「ま、まほう少女!?」
「あまりメルヘンなものではないが、構図としては似たようなものだ。
非現実的なものと積極的に関わるか、そうでなければ必要以上に関わらなくて済むよう学ぶ、という選択だな」
小学3年生目前の少女に魔法少女なんて言い方をしている時点で、疑似餌をぶら下げているようなものかもしれんが。
それにしても、難儀な体質だな。ほとんどの場合で一般人と変わらないくせに、ごく一部というか、認識阻害系魔法にだけ魔法使い並みの抵抗力があるというのも。
「え、えっと、その……」
「まあ、あれだ。まずは身の守り方を学び、それからどうするのか決めるのもありだぞ。
この知識はどちらにしても必要になるし、踏み込む先に何があるのかを知ることもできる。
踏み込むと戻るのは難しいが、後から踏み込む遅れを妥協するのはまだ簡単だろう」
「……あの……あぶないんです、か?」
「そうだな……格闘技が危険かどうか、という問題に近いな。
その技術で人を助ける者がいる。だから良いものだ。
その技術を悪用する者がいる。だから悪いものだ。
ちょっとした危険から身を守ることが出来るようになるから、安全だ。
試合や練習でケガをするから、危険だ。
大抵のものは良くも悪くも言えるし、危険な面がある以上は絶対に安全だとは言えない。
ついでにこの例えで言えば、千雨の体質は試合会場に気付けず立ち入ってしまう可能性があるものであり、まずは踏み込まないよう避ける知識を身に着けるべきだ、という事になるか」
「は、はあ……」
うーむ、魔法の現実を実際に使えない者に説明するのは、難しいな。下手に創作物の魔法を例に出すと、そのイメージになってしまうだろうし。
だが、どう見ても理解しているようには見えないし……っと、この気配は雪花と、木乃香と鶴子と雪凪か?
今日は休日だし、普通に訓練していたのだろうが……何かあったのか?
「失礼します。
夕暮れで迷う少女がいると伺ったので、ささやかな道しるべとなれる者を連れてまいりました」
「……夜に向かって背を押すのか」
「能力や立場に鑑みて、立ち止まっていても日が暮れると考えました。
であれば、行く先が少しでも明るいものとなるよう手を差し伸べるのも先達の役目かと」
「孤独になるよりはマシか。
そこまで来ているんだから、取り敢えず会わせてみるか」
「はい。
3人とも、入りなさい」
「「「はい」」」
雪花に呼ばれ入ってきたのは、気配であたりをつけていた3人で間違いない。
「あや、千雨ちゃんなん?」
「なっ……お前、近衛と桜咲か!?」
「そうや。
千雨ちゃんもこっちの話が出来るようになるん?」
「こっちってどっちだよ!
そもそも、お前らはなんでこんなわけわかんねぇ世界にいるんだよ!!」
「そう言われても、家業みたいなもんやしなぁ。
鶴子さんと雪凪ちゃんもそうやし」
「そうどすな」
「一般的な人の家に生まれたとは、とても言えません」
「うわぁ……近衛って確か、摂家のお嬢様だよな。
そこの家業がコレって、マジで国が関わるレベルって事かよ……」
なんだ、一応は鵜呑みにせず考えていたのか。
この辺はやはり、あの環境で比較的まともな感性を維持する原作千雨と同じという事か。
「理解したなら何よりだ。
さて、そろそろ曖昧なままで説明するのが難しくなっているし、どちらにせよ知らないままではいられないだろうから、決定的な言葉を使うぞ。
この世界には、魔法がある。
人とは異なる特徴を持つ者や、明らかに人でない者がいる。
地図には乗らない小さな世界や、地球上ではない大きな世界がある。
メルヘンとはとても言えんし、悪意や絶望も渦巻いているが、夢や希望もあるだろう。
これらと関わっていくのか、それとも距離を置くのかを決めてほしいという事になる」
「ふえっ!?
あー、いや、裏ってそういう……って、本当にそうなのか、じゃない、そうなんですか?」
「地が出てきたぞ。
魔法やらを見せるのは構わんが……何がいいだろうな。
手品に見えるようなものだと納得し辛いだろう」
「それでしたら、私が」
雪凪が手を挙げているが、魔法というよりは人外の存在を見せることになるのか?
手品には見えないだろうし、原作のように鬱屈した立場というわけでもないから、問題ない……のか?
「いいのか?
千雨はまだ、こちらに踏み込むと決めたわけではないんだぞ」
「それでも、知識としては必要です。
それに、私で怖気づいてしまうなら、踏み込まない方がよいのではないかと」
「それはそうなんだが、違う方向で勘違いする可能性は……必要なら木乃香に協力してもらうとするか。
そうだな、見せていいと思える範囲で、見せてやってくれ」
「はいっ!」
雪凪は大きく頷くと、胸元から透明な丸い宝石のペンダントを取り出して。
「夕凪、セットアップ」
山伏装束に似ている、烏族の伝統衣装に着替えた。
「マテマテマテマテ!
マジか、マジモンの魔法少女なのかっ!? SFの間違いじゃねーのかっ!?」
……この時点で、魔法の存在が証明できてしまった気がする。
なんだか予想していない方向に勘違いしかけているようにも見えるが。
「い、いえ、私はどちらかといえば剣士です。
それに、これはすごい技術で作られたものらしいですけど、SFに含んじゃっていいのでしょうか……」
「まあ、あれだ。日本刀は高度な技術で作られていて簡単には真似できない代物だが、現実に存在するからSFとは呼ばれない。同様に、それも現存する以上はフィクションじゃない。魔法関係の技術が多く使われているからサイエンスと呼ぶのもあれだし、SFと呼ぶのは無理があるだろう。
というか、雪凪が見せたかったのは衣装替えじゃないだろう?」
「あ、はい、そうでした。
次は私自身なので、驚かないでください」
「あ、あと何回変身が……」
「変身というほどのものじゃないですけど、次で終わりです。
では、やりますよ」
そう言って、翼を広げる雪凪。
千雨は……目が点になっているな。
「あーん、やっぱキレイやわぁ。
な、千雨ちゃんもそう思わへん?」
「き、キレイっちゃキレイだけどよ……マジか?
マジで天使なのか?」
「いえ、私は烏族と人のハーフで、アルビノ? とかいう白くなる病気らしいです。
烏族は基本的に黒いですし」
「そ、そうか……天使とかそこまでぶっ飛んでるわけじゃねーのか……って、十分ぶっ飛んでんじゃねーか!
なんで同じ学校に人じゃねーのが通ってんだよ!」
「仕方ないだろう。幕田家はそもそも、人外が人と関わるために作られた家柄だ。その関係で、幕田公国には多くの人外が住んでいる。表に出せないだけでな。
というか、雪凪だって人と同じように命と心があり、感情もあるんだ。そうやって差別されるのは結構きついんだぞ?」
「うっ……ご、ごめん……」
「いえ、突然だと驚くのは当然ですから」
「とまあ、こういうわけで、魔法や人外は現実に存在するんだ。
こういう世界とどう向き合うか、落ち着いて考え「やります」……いや、落ち着け?」
「なんというか……カッコいいと思いましたし、どうせ関わるならある程度は踏み込んだ方がいいんじゃないかなと……」
いやいやいや、明らかに興味と好奇心で暴走しているだろう。
やはり魔法少女と言ったのはまずかったか?
「まあ、どちらにせよすぐに魔法を使えるようになるわけじゃないし、最初は座学、知識を得るところからだ。
学んでいることを多くの関係者に知られたり、実際に魔法を使い始めたりするまでなら、戻ることもできるだろう。その間に、もう一度落ち着いて考えてみるといい」
「は、はい!」
なんだか、おかしな形で始まった魔法バレのイベントだが……これもまた、原作キャラの魔改造に繋がるのか?
ネギほどぶっ飛んだわけではないが、原作の時期の修正力がどうなるのか、想像もつかないぞ。
何とか間に合ったどー!
すっかり4週間に1話のペースになってるなぁ……
「ネギの中の人の知識」は、UQ HOLDERの3巻までとしました。
具体的には、カリンやらが出ていて、造物主の能力やらが含まれない範囲です。造物主関連の知識を得ると、エヴァ達が何かやらかしそうなので。というか、あまり知りすぎていると元プロットから離れすぎてしまいます。
そこ、アルやヴァンがこの世界の知識として知ってるはずだし、そもそも造物主の能力を変えたらプロットどころじゃないだろとか言わない。この世界の造物主がUQのと同じ能力を持つ事は確定じゃないというか、どうしたものか迷ってたりしますし。
2017/03/22 明らかで人でない→明らかに人でない に修正
2017/04/25 目覚めが悪い→寝覚めが悪い に修正