金色の娘は影の中で   作:deckstick

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始動編第02話 情報提供者

「親類は全滅、生き残りは3人の侍女と料理人と執事。その他使用人が数人……うーん、前途多難だな」

 

 小さな城とはいえ、生きている人を探しながら駆け回るのはなかなか骨の折れる作業だったんだが。

 その結果として助けられたのが10人もいないとは……落胆もしたくなる。

 

 

 今は、後始末……主に街の救援と城内の掃除を生き残りの人達に任せ、俺は急ごしらえの寝室で休んでいることになっている。

 元々“エヴァンジェリン”は居候の少女だから表立って指揮を執ることは避け、貴族としての体裁を整えるために民衆の鎮静化と支援を指示。俺たちは落ち着くためと言う名目で、打ち合わせのために引き籠る。

 今日のところはこれが一番無難だろう。

 

「嘆いていても仕方ありません。

 現状で有効な手を打たなければ、逃亡か、没落生活ですよ?」

 

「わかってる。

 執事がいるってことは、他の地方の親族に連絡できるよな?」

 

 いきなり俺が表に出て何とかなるはずもない。

 見知らぬ他人よりは、見知らぬ身内っぽい人の方がマシってもんだ。

 

「恐らく可能でしょうが……救援を求めるのですか?

 身分を食い荒らしに来られるだけだと思いますが」

 

「俺が表に出ると、子供だと舐められるから同じ事が起こるだろう?

 それに、元々居候の身だ。家督を継ぐと言っても根拠が薄すぎる。

 それよりは、元の領主の身内を呼ぶ方が対処しやすい。吸血鬼になったおかげで、暗示も使えるからな」

 

 あまり魔法的な力に頼るのは気が引けるが……最低でも独立できる程度の力を持つまでは、権力と財力に庇われるのが一番安全だろう。

 隠れて生活するには、この二つ、特に財力は欠かせないはずだ。

 

「暗示、ですか……?」

 

「意識や記憶の誘導みたいなものだな。とりあえず、俺は『襲撃で精神的に衰弱し、表に出られない』で通すことにして、全権を呼んだ親類に任せる形にする。家督なんかもそっちにお任せだな。

 んで、そいつには暗示で『俺を庇護対象』だと思わせておけば、そう悪い扱いにもならないだろう?

 当面は、それで時間を稼ぐさ。迂闊に表に出るよりも、老化しないことを隠しやすいし」

 

 それに、俺が影のご主人様、っていうのは遠慮したい。

 暗示で忠誠なんて気持ち悪いし、もし暗示が外れたとしても、庇護程度なら精神的な傷や反発も少しは小さくて済むだろう、って思惑もある。

 

「同じ理屈で考えれば、身の回りの世話は少数の者に任せるべきでしょう。

 数人の侍女が生き残っていますから、この者達で固めれば当面は怪しまれずに済みます。居候の身で多くの侍女を使うのは問題がありますし、顔見知り以外が近づくと錯乱するとでもしておけば、人も増やされずに済むでしょう。

 その言葉使いも襲撃の衝撃によるもの、という誘導も必要でしょうか?

 その方が、再教育も受けやすいでしょうから」

 

「そう、だな。

 ……あー、この年でオベンキョウか……」

 

 この時代の事を知らない以上、避けられない事ではあるんだ。

 頭では理解できるんだけど……

 

「貴族ですし、語学の勉強が必要です。貴族に相応しくありません。

 それに、場合によっては、神聖ローマ帝国やフランス等の者と交渉する場合もあるでしょうから、そちらの言葉も確認しておきましょう。

 礼儀作法……も、必要そうですね?」

 

「……あい……」

 

 こう考えると、必要な知識は多いな。

 身を守るためにも魔法の練習は外せないし、知識面も手は抜けない。

 当分は、ゆっくりできそうにないな……

 

 ある程度急いでやるべき事の多さに辟易していると、窓が勝手に開き、そこから人影が音もなく侵入してきた。

 

「はいはい、ちょっといいかな~?」

 

 人影……若い男は敵意が無い事を示すように軽い調子で両手をあげ、俺を面白そうに見ている。

 外見的特徴は、黒目黒髪……顔つきも日本人だな。

 年齢は高校生ぐらいか。注意されない程度に伸ばし気味の短髪、くりくりした目、ローブで分かりづらいが気持ち小柄で細そうな体つきの少年だ。

 ……もう少し純朴そうなら、マスコット系だな。悪戯小僧的な雰囲気で台無しになってるけど。

 

「……誰だ?」

 

「僕は、ヴァンだよ。仮契約のマスターさ」

 

「随分と軽い挨拶だな」

 

「そう警戒しないでよ。僕も勝手に召喚されて困った側なんだ。ある意味仲間だよ?」

 

 こいつもか?

 俺を呼んだ男……ではなさそうだな。ゼロが不思議そうな顔で見てる。

 だけど、だからと言って味方とは言えないな。

 仮契約を仕込めた以上、あの男の関係者だろうし。

 

「別の意味では、敵になり得るんだろ?」

 

「そのつもりは無いんだけどな~」

 

 随分と口調は軽いな……これが演技でないとすれば、頭も高校生か?

 こちらに知識を移すとか言いながら、こっちの知識を読んでる可能性もあるし……

 

「で、説明に来た、ってとこか?」

 

「そうそう。それで、とりあえず自己紹介をしとこうか?

 僕は、元々は日本の高校生で、初詣に出かけてたと思ったらこんなところにいたんだ。名前なんかは思い出せなくて、今はヴァンって呼ばれてるよ。

 原作(ネギま)は魔法世界に行ったところまでは読んでた覚えがあるかな。

 とりあえずは、こんなとこかな?」

 

 普通と言うか、俺の記憶を読めば言える範囲の事しか言っていないな。

 まあ、俺も似たようなレベルで返せばいいか。

 

「そう……だな。

 俺は、日本のサラリーマンだった。コンビニの帰り、以降は多分同じだろう。今後はエヴァンジェリンの名前を使うことになるだろうな。

 原作(ネギま)は完結直前くらいまで読んでたが、あまり覚えていないな。

 あと、せめて女を呼べと文句ぐらいは言っていいだろう?」

 

「あ……男の人でしたか。

 ゴメンナサイ、そこを気にする余裕はありませんでした」

 

 だろうな。まあ、素直に謝られただけマシか。

 だけど、知らなかったのが本当なら、俺の記憶は読んでないって事か?

 

「でも、女の人だと罪悪感が残りそうだから、ちょっと安心しちゃった僕がいます」

 

 あーもう!許そうと思った途端これかよ!

 言ってることにちょっと同意できるだけに質が悪いな!

 

「まあ、それについて今更どうこう言うつもりは無いけど、心象は良くないぞ?

 それで、造物主の並行思考の一つって、どういう意味だ?

 あの記憶は、お前が埋め込んだようなものなんだろ?」

 

「警戒してるね~。ソレについては、言葉通りの意味だよ。

 あ、僕は原作での造物主の扱いはよくわかってないから、後で教えてよ。

 魔法世界を作ったって事だけはわかってるんだけどね~。

 僕は、造物主の並行思考というか、んー、同時に動ける多重人格的な何か、かな?」

 

「ますます意味が分からないんだが……」

 

 並行思考も多重人格も、元は1人だろ?

 召喚して何とかなるものじゃないだろうに。

 

「だよね~。

 基本的に、魔法の補助用に意識を召喚されたっぽいんだ。

 リリカル的に言えばデバイス役? ユニゾンデバイスが近いイメージかも。

 んで、基本がユニゾン状態、別行動は魔法でそれっぽく、って感じだよ。

 だから、この体も違和感が無い形を幻影で作ってるだけなんだ」

 

 つまり、あれか。リインとかアギトみたいな役目で、ユニゾン状態が基本って事か。

 別の魂……なんとなくわかった気がするな。

 

「つまり、本来の姿ではない、ってことか?」

 

「自分の元の姿も覚えてないから、本来の姿がわかんないんだ。

 自分の体の様に操って違和感があったら即修正、ってずっとやってるから。元の姿っぽい何かになってるとは思うよ?

 顔に関しては美化してるかもしれないけど、そこは目をつぶってほしいな」

 

「意識だけってことは、こっちに来てからの体も無いってことだから……まあ、体型は元の姿っぽい感じに落ち着くだろうって事か」

 

「うん、そうそう」

 

 うーん、言っている事に矛盾は無いか。

 話している感じとしては、被害者という意識は無さそうだけど……楽しんでいるのか?

 

「で、なんでお前みたいな存在を召喚する必要があったんだ?」

 

「うーん、魔法の補助ってのが主目的ではあるっぽいんだけど。

 えーと、つまり。根本的な問題を簡単に言えば。

 ぶっちゃけると。

 造物主は、厨二病、だね」

 

「おいおい……造物主はそんな若くないだろ?」

 

「当然だよ。

 僕が召喚されてから50年ほど経ってるし、魔法世界を作ったのって紀元前らしいし?

 もう、慢性的な厨二病。治療見込み無し!

 笑うしかないよね~」

 

 あはは~と笑ってるが、それどころじゃないだろう。

 それにしても、造物主に服従している感じはないな……この程度の悪口は許容範囲なのか?

 

「症状は……どれくらいだ?」

 

「厨二病の?

 んー、僕が呼ばれた裏の目的って、あれだよ。

 俺の中の闇が!だっけ? そんな感じのをやりたくなって、たまに暴走する人格用に呼ばれたみたいだよ? 実際、たまに暴走っぽいことをして満足させてあげてるんだ」

 

「……何となくやりたいことは理解できた。

 けど、それを実現させるために召喚魔法を作ったりする実力はあるってことか」

 

 間違いなく厨二病、だな。しかも確実に悪性だ。

 だけど、実際にやり遂げる辺りが問題だ。

 

「召喚魔法は別の目的で作ってあったらしいけどね。

 実力と努力を伴う厨二病! 妄想じゃなくて本当に力を持っちゃう厄介者!

 慢性的だし、治療見込みは無いでしょ?」

 

「絶望的だな。

 それで、多少暴れられる程度のチートでも貰ったのか?」

 

「うーん、それなんだけどね。

 あ、ここで話してる内容も話をしてるって事も、造物主には秘密だからね。

 正直に言っちゃうと、魔法の行使能力だけ見れば、造物主より強いよ、僕」

 

「マジか」

 

 造物主は、少なくとも世界を作るだけの実力を持っているはずだ。

 召喚された側がそれより強い……補助にしては強力すぎる。何を間違えたんだ?

 

「うん、マジ。

 造物主って、魂と地球の魔力を繋いで、不滅の魂っぽくなってるんだよね。

 繋がりは中途半端だし、体はどうにもならなくて憑依を繰り返してるけど。

 で、僕だけど、より地球に近い形で繋がった結果、本気を出せば造物主の魔力を完全支配できるようになりました!

 造物主の手伝いや裏人格はバイト感覚!

 ついでに本体は世界樹に憑依しちゃってて、造物主が居なくなっても問題なし!

 むしろ本体で手伝いに行っちゃうと造物主を飲み込む危険が!

 ばれたら造物主はグレちゃうね!」

 

「ヴァンって、蟠桃(ばんとう)の事かよ!」

 

「ずっと使える体の研究の検証実験で作ったエヴァにゃんは、僕の介入で、月と同化しました!

 月の魔力と完全同期! 月の魔力を完全支配! 魔力的には月そのもの!

 まさしくチート!」

 

「ちょっとまてっ!?」

 

 それが本当なら、チートなんてレベルじゃないだろ!

 衛星とはいえ星ひとつの魔力なんて、ふざけ過ぎだ!

 

「大丈夫! 月に代わってお仕置きはしなくていいよ!」

 

「誰がするか! てか古いなオイ!」

 

「あははー、ゴメンナサイ。僕も正直やり過ぎだと思います。

 あと、お仕置きするなら僕の父さんに。DVDをせっせと買って、嬉しそうに小学生の僕に見せてたんだから。

 その影響は否定しないけど、とにかく、あの厨二病に月の魔力を支配させるわけにはいかないと思ったんだよ。

 所謂(いわゆる)修正力はあるみたいだけど、原作の知識を持った人に協力してもらって、造物主が暴走するなら被害を抑えないといけないと思ったんだ。

 どう見たって、原作でラスボス的な位置付けになりそうな存在だし。

 そのために吸血衝動とか、吸血鬼化の直後は力を殆ど使えなくしたりとか、失敗と思わせるのに色々と小細工をしたんだよ」

 

「確かに造物主はラスボスだし、厨二病にこれ以上力を渡すのは危険か……」

 

 理由を聞けば、一応理解できる範囲ではあるが……

 やれやれ、厄介なモノに巻き込まれたもんだ。

 

「それで、お前のチートはどうやって誤魔化してるんだ?」

 

「分体が手伝って、魔法の制御は僕の方が細かく出来るけど独立して使える力は弱いってふりをしてるよ。

 まさにデバイスって感じ? リリカルの知識サマサマだったよ。

 造物主からの魔力供給が無いと大したことが出来ないから、造物主が僕の暴走を抑えられるって設定だね。あ、暴走の時に造物主の魔力を奪おうとするのはお約束ね。

 僕の方が制御が細かく出来る分、普段の手伝いで結構駆り出されるから、今回みたいに魔法をこっそり改変しても気付かれないんだよね~」

 

「大丈夫なのか造物主……世界樹については?」

 

「世界樹自体が、認識阻害をしてるっぽいんだよね。

 原作に誰が認識阻害をしてるかって描写はあったっけ?」

 

「それは……覚えていないな。無かったような気もするが」

 

 ぬらりひょんやらが利用してるのは間違いないけど、明確な描写は無かったような?

 結界はメンテナンスやら停電で消えたりしてたから、間違いなく魔法関係者が張ってるんだろうけど。

 

「そんな感じで、世界樹がある事は知ってるけど、僕が関係してる事は知られてないよ」

 

 情報収集って意味だと、だいぶ甘いって事か。この分だと、魔法世界の魔力枯渇も気付いてないんだろうな。

 ……この時期だと、誰も気付いてないのか?

 

「だから、将来的に、きっと造物主は大変なことをすると思うんだ。

 そのために聞きたいんだけど、造物主がラスボスになる理由って、知ってる?」

 

「知ってる。というか、話の全体に係わる問題だな。

 一番何とかしないといけないのは、火星の魔力枯渇だ」

 

「火星?」

 

 そこから説明がいるのか。

 魔法世界に行ったところまでの知識なら、知らなくて当然か……

 造物主からも聞いてないって事か?

 

「あー、魔法世界って、火星の裏世界的な所にあるんだ。そこに火星の魔力を使って魔法世界を作ってて、原作辺りで魔力が尽きそうになるんだが……

 魔法世界や純粋な現地の人間は、魔力が無くなると存在が維持できない。

 地球生まれの連中やその子孫は、魔法世界が消滅すると火星の荒野に放り出される。

 結果的に、魔力切れは全員の死亡に直結するわけだ。

 造物主は全員を夢の世界にご招待して救済したことにしようとして、それをナギ……ネギの親が阻止するのが原作20年前の戦争で、ネギが魔法世界に行ってからの物語でもあるな。

 ついでに、学園祭の超はネギの子孫で火星から来たって設定だから、超のいた未来では魔法世界が無くなったって事になるか?悲劇の回避とか言ってたし、生き延びた人はいても何かがうまくいかなかったって事だろうな」

 

「うわー……それって、かなりヤバいね。

 原作だと解決したの?」

 

「確か、火星のテラフォーミング? 要するに火星自体を生物が住めるように改造するとかなんとか。

 完結までにはその辺の説明や結果の描写があるだろうけど、そこまでは知らないな」

 

 前半はともかく、後半はオタ友宅に行った時に読ませてもらってただけだし、まともに覚えていない。

 こんな事になるなら、しっかり読んでおけば……って、普通はこんな事になるわけがないよな。

 

「うーん、詳細情報はないか~。

 とりあえず、今の技術で再現は無理だね。魔法で緑化しても意味ないどころか、余計に魔力を使うだけだろうし。

 地球の植物やらを魔法世界持ち込んで広めれば、維持する魔力的に優しくなるかな?」

 

 植物の持ち込み……魔法世界側からのテラフォーミングっぽい感じになるのか?

 

「んー、こっちとあっちの植物が交配するとどうなるか確認しないといけないし、バイオハザードにも注意しないとな。魔法世界に植えた時の影響やらも調べる必要があるぞ?

 そもそも、あっちの植物や野生動物って、地球とどう違うんだ?」

 

 植物なんて背景だし、まるで記憶にない。こっちにはあり得ない生き物がいるから、似たような状態だとまずそうだけど……

 

「見た範囲だと、少なくとも植物は地球の模倣が多いかも。松っぽいのとか、ヤシっぽいのとかを見た気がするよ。

 似た植物を持ち込めば、ある程度は自然に広がると思うけど……交配がダメだと時間がかかるかな~」

 

「色々と確認が必要だな。それに、人や動物の対策も考えないとな。

 ……ところで、最終的な目標は何だ? 原作を始めないことか? 原作開始した上でのストーリー破壊か?

 造物主の厨二病はともかく、修正力的なモノがあるならネギが生まれて麻帆良に行くのは回避が難しいだろうし、回避した場合の影響も大きいと思うぞ」

 

「うーん、ネギとか中学生達が巻き込まれる事自体をどうこうする気は無いけど、クシャミでおにゃのこを裸にするのは、ここを現実と認識してる紳士として許せないかな~。

 あと、個人的には、せっちゃんの翼もふもふしたい、ちうたん萌え、パル漫画読ませろ、の3本をお届けしたい!」

 

「どこのオタクだ」

 

 いい笑顔で親指を立てているけど、ネギと生徒達に直接の干渉はしない方向か?

 手を出しても、ウェールズでネギの指導を強化するのと、京都で幼い刹那を助けるくらいか。

 麻帆良で何かすることは考えていない感じだな。

 ……自分が世界樹だから、足元で迂闊な事は出来ないって判断か?

 

 ともあれ、造物主との関係はともかく、現時点で俺をどうこうする気は無さそうだし、基本的に友好的だと思って大丈夫そうだな。

 

「魔法世界を何とかするなら影響は大きそうだし、そもそもこの3人が生まれるのかも分かんないから、その辺はあまり気にしないことにするよ。

 なるべく大きな悲劇は回避したいけど、戦争を防いじゃダメかな?」

 

「考え方次第だな。

 

 目の前にある悲劇を回避することを最優先にするなら、多くの奴隷を生んだ大航海時代の植民地政策、インディアン虐殺を伴うアメリカ開拓、効率的に人を殺した2回の世界大戦……これ以外にも対処すべき問題は多いだろう。今やってる百年戦争も褒められたモノじゃないしな。

 原作どころか世界史に喧嘩を売ることになるから、修正力だかも恐ろしいことになりそうだ。それに、一つ対処に成功した時点で、未来が見えなくなるからな。次が本当に発生するのか、という点に警戒しつつ準備するという形になる。

 

 原作での悲劇……主に魔法世界の崩壊に伴うあれこれだけを防ぐなら、地球の悲劇はそのままにすることになる。

 魔法世界の崩壊は、地球だと「大陸水没」くらいの事態だとは思うし、原作や歴史の知識と俺達が普通だと思っていた技術を利用するには、世界史への影響は小さい方がいいだろう。

 

 どちらにせよ、戦争が新しい技術を生むのは事実だ。さっき言った大航海時代、アメリカ、世界大戦の3つが無くなると、俺達が知る様には技術や文化が育たないだろう。最悪の場合、テラフォーミングやらそれに代わる救済を行うだけの技術が作れずに、時間切れで魔法世界は救えませんでした、となりかねないぞ」

 

 大航海時代をぶっ潰すとアメリカが出来ないんじゃないか、と思うが……良くも悪くも技術を引っ張るアメリカが無いと、発展は格段に遅くなるだろうな。

 そもそも、誰か数人を止めれば無くなる様なものでもない。

 いくらチート的な力があっても、数人で防ぐには無理があるだろう。

 

「あー……うん、そうだよね~。

 僕達が介入してる時点で、超が来ることも確実とは言えないし……魔法を公表して、そっちから何とかできないかな?」

 

「魔力枯渇を魔法で何とかするってことか? パンが無くても隣の人はパンを食べればいいじゃない、程度に意味不明になるぞ」

 

「うーん、小麦が無くなるから、隣と一緒に少ない材料で作るか材料を増産する方法を探そう、くらいはしていいと思うんだけどなぁ」

 

「公表した結果、隣の材料を急速消費……って可能性が高くないか?石油とか資源とかの歴史を考えると」

 

 どう考えても、便利なモノだからって使いまくりそうだ。

 少なくとも、使えるようになった一般人が自重するとは思えないんだよな。

 

「う……確かに、地球って魔法世界より魔力の密度が低いんだよね。

 最悪、こっち側まで魔力枯渇するのかなぁ」

 

「魔法で維持するモノが少ない分、枯渇しても影響は小さいとは思うが……公表は慎重に考えた方が良いだろうな。迂闊なことをすると、取り返しがつかない」

 

「だねぇ。細々と同士を募るしかないかなぁ。鬼才の発掘は難しそうだね」

 

「分母を縛る形になるからな」

 

 人材を探すという点だけを見れば、基盤の技術を気軽に使えるようにして流布するのが最も確実なんだが……教育の基盤すら怪しいこの時代では、悪用されるだけで終わる可能性が高いだろうな。

 

「ところで、現時点で、魔法は秘匿すべき物って扱いでいいのか?」

 

「うん。理由は権力の云々とか、教育が行き届かないとか、選民思想だとか、色々だけどね。

 中途半端に漏洩してて、その対策の一部が魔女狩りだっていうんだから、魔法使いも底が知れてるよ」

 

「正義やらを語れるほど、文化が育って無いのか……まさか、これも厨二病の影響じゃないだろうな?」

 

「多分、違うと思うよ。魔法世界も文化的にはこっちと大差ないし、小さな国がいっぱいあっていがみ合ってる状態だし」

 

「厨二的な意味で平穏を妨げてる……ってことは、いくらなんでも無いよな?」

 

「無い……といいなぁ。そこは言い切れないな~」

 

 自信ないのかよ。

 造物主を完全に監視できてるわけでもないのか。

 

「まずは、その辺から改善する必要があるのか……

 悲劇の回避とかを目指す以前に、教育やらの改善で間接的に世界を育てる方が良さそうだな」

 

「あー、うん、そうだね。

 高校生だった僕には荷が重いなぁ」

 

「ちらちらこっちを見ながら言うな。第一、生存期間だけなら俺よりよっぽど年上だろうに。

 はあ……出来ることはしてみるけど、当面は期待するな。この容姿だし、日光に弱い間は動きづら過ぎる」

 

「だよねー。あーあ、問題は山積みだなぁ。

 あと、一番の気がかりだったのはエヴァにゃんだったんだけど……どうしよう?」

 

「エヴァにゃん言うな。

 あと、どうしようってのはどういう意味だ?」

 

 こいつ、ゼロの今の状態が見えているのか?

 造物主には見えていなかった様だけど。

 

「幽霊みたいな状態でしょ?

 あ、厨二病には見えなかったみたいだけど、僕には見えてるし、声も聞こえるよ。

 ごめんね、普通に喋ってくれていいよ、ゼロちゃん」

 

 名前まで言われたか。

 要するに監視してたって事じゃないか。

 

「黙っていたのは無意味でしたか?」

 

「ごめんねー。話の内容的に、暗号ばっかりで意味不明だと思ったから、あえて無視してたんだ。

 わからない言葉は、後でエヴァにゃんに聞いてね」

 

「丸投げか? いい根性だ。あと、にゃんはやめろ」

 

「へっへー。

 でも、憑代って言ってたでしょ?人形か何かが無難じゃないかな?」

 

「それはそうだが、何故憑代とか言ってたのを知っている?」

 

 やっぱり、監視してたのは確実か。

 地球とリンクしてるなら可能だろうけど、俺にだってプライバシーはあるぞ?

 

「情報収集用の精霊を放っておいたんだ。

 あ、今はいないし、今後用意するのはちゃんと設定を変えるよ?監視するつもりは無いし、監視できるほど暇でもないしさ。

 打ち合わせとかで連絡したいときの通信端末と、緊急時の通報装置くらいに思ってもらっていいよ」

 

「その方が安全ではあるか。

 それなら、俺がお前に同じ目的で精霊なりを付けるのも構わないだろうな?」

 

「もちろん。でも、造物主にばれないようにしてよ?」

 

 監視される事は拒否しないのか。

 この分なら、ある程度信用しても大丈夫っぽいな。

 問題があった時に対処できる体制が出来れば、かなり協力しやすそうだ。

 

「当然だな。

 さて、人形か何か……いいアテでもあるのか?

 クローンとかホムンクルスの技術が確立できてるなら、それが一番良さそうだけど」

 

「あー、アレはまだ実用にはならないよ。

 実用になるなら、厨二病がほっとくわけないし」

 

「だよな。となると、人形が無難か……チャチャゼロのフラグにはしたくないんだよな」

 

「人形に憑依しても、人格は壊れないと思うよ?」

 

「だといいんだけど、修正力的なモノが何か仕出かさないか心配でな」

 

「うーん……まあ、とりあえずいいのが無いか探してみるね。

 あ、それと、今度もう一人連れてくるよ。

 原作知識の補完とかもしたいしさ」

 

 もう一人……だと?

 

「造物主は、一体何人呼んでるんだ……?」

 

「エヴァにゃんは実質的に僕が原因だから除外して、造物主が呼んだのは僕とその人の2人のはずだよ。

 あ、その人は最初知らなかったみたいだけど、原作メンバーだからね」

 

「おいおい……魂が放り出される前例があるんじゃないだろうな?」

 

「それは大丈夫。意思のある魔道書のために呼ばれたから、本に憑依した精霊みたいなものだよ~」

 

「本……?」

 

「あ、心当たりあるかな?」

 

 ネギまで本と言ったら、アレしかいないだろうに。

 

「アルビレオか?」

 

「あったりー。んで、基本的な役目は記録の保存と管理らしいよ。魔法実験の手順と結果とか、いろんな文献とかを記録して、必要に応じて探したりするんだって。

 要するにネットとぐーぐる先生みたいな感じだね。

 きちんと記録してもらうとほぼ無くならないし、言えばすぐに探してくれるよ。便利だよー」

 

「確かにすごい能力だけど……本人の性格は?」

 

「あははー、残念ながら、人をからかうのが好きって感じだね~

 うん、性格的には原作とあんまり変わんないかも?」

 

「……迂闊なところは見せられない、か。

 ロリコンなところも同じか?」

 

「うーん、そんな感じはしないけど……実は、って可能性は否定できないね」

 

 否定してくれ。

 今の俺は、美少女の体なんだ。

 

「そうか。会う時は注意しておこう。

 それで、暗示の魔眼の使い方と眷属の作り方についてなんだが」

 

「うん、それも説明するよ。

 時間的にやばそうだし、その説明が終わったら退散するね?」

 

「ああ、よろしく頼む」




2022/08/26 魔法枯渇→魔力枯渇 に修正

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