あの騒動……騒動なのか? 一部の関西系関係者の小騒ぎからしばらくすぎた。
Aクラスはある意味平和と言っていいだろう。何しろ、関係者の連中はそれなりに優秀だし、成績面でも大きな問題は無いように思う。
楓は座学で平均程度の点数を取れるようだから十分だろうし、レイや菲は幕田に来る前提で準備していたせいか言語面や学んできた内容に問題は出ていない。というか暇に飽かせて色々学んでいたらしいレイの知識量がやばい。
結果、関係者3人が原作バカレンジャーからの脱退に成功している。
残る2人、綾瀬夕映と佐々木まき絵だが、この2人もバカレンジャー的な呼ばれ方をするのは回避できそうな可能性が見えている。
綾瀬夕映は本も好きなレイの影響を受け始めているようだし、そもそも同じ学習時間を使うなら補習を受けないように使った方が小言を言われずに本を読む時間を増やせるだろう、と言ったら納得していた。
まき絵? ……1人ならバカと呼ばれるだけだ。複数人のセットじゃないし、理解しているか微妙だが成績が悪いとクラブの時間が補習で潰れる事は伝えた。同じ体育会系の楓や菲がそれなりの成績だし、補習を体験するような成績になればそれなりの危機感を持つだろう。
結果は本人次第だが、これで生活指導の仕事をしていないと文句を言われないな。指導内容が勉学方面になっている、なんて指摘は聞こえない。
という感じで、呪術協会や神鳴流本家で布教していたらしい雪花を軽く問い詰めながらの、平和な時間が過ぎていく。
いや、本人的には事実を伝えていただけらしいのだが……雪花の眷属フィルタを通した事実など、私にとって脚色だらけの作り話と大差ないのが問題だ。特に、失敗や苦労、幸運なだけの部分が美談にされたり、そうでなければ省略されたりしている辺りが。
「そんなエヴァサンに朗報ヨ。
茶々型ガイノイドのプロトタイプ、シューニャの組み立て作業が始またネ」
「……随分早くないか?」
「数の力は偉大ネ。
ただ、最初は皮膚を成型する時間が足らないかラ、プラスチック削り出しデ外殻を作て仮組み立てするヨ」
「その状態だと……自立歩行やらのテストやデモは可能か。
顔はどうするんだ? 目玉むき出しも仮面状態も、オタク系以外のウケが良くなさそうだが」
「葉加瀬の意見で、ロボット風のフェイスガードになたヨ。
マネキンの頭部パーツも考えたケド、かえって不気味だと反対されてしまたネ」
「まあ、その方が無難だろうな。
皮膚の目途は立っているのか?」
「入学までに、少なくとも頭部の分は完成させるヨ」
「女性型を名乗れる体裁は整う、と。
皮膚を作るなら、表情が最大の敵のような気がするが」
「手はセンサー類が集中するシ、そっちも別の意味で大変ネ」
「ああ、それもあるのか」
そんな現実逃避を兼ねた状況報告的な雑談をしたり。
「どうした、聡美。
きつねに包まれたような顔をして」
「それだと、お稲荷さんですよ。
そうじゃなくて、その、正式にエヴァさんの部下になった時に、雇用契約をしましたよね」
「そうだな、私が直接雇う形になっているはずだ。
給与やらの手続きは幕田の連中に任せているんだが、何か手違いでもあったか?」
「いえ、手違いとか、そういう問題じゃないんです。
えっと、まず、これを見てください」
「これ? 給与明細か。
ああ、中学生の雇用云々という事なら、学業に問題が無く、夜間の業務を行わないという前提であれば可能だ。テレビに出てる子供は概ねこの規定で契約しているはずだぞ」
「いえ、そっち方面は心配していません。
でも、ですね。この金額はおかしくありませんか?」
「金額に不備があったか? ……いや、私の指示通りだ。
この金額では不満か?」
「逆ですよ逆!
私、中学生なんですよ!?」
「たかが月20万じゃないか。
契約中に作成した技術や品々の権利を私が得るという契約内容と、お前の能力の期待値。合わせたらもっと高くていいと思うんだが」
「よくないですよっ!
あの契約で仕事に使える時間は、土日と放課後ぐらいなんですよ!!」
「中学生なんだから、当然だろう。
だからと言って、夜にやればいいとか思うんじゃないぞ。睡眠の不足は思考力が落ちるから、研究者としての能力低下に直結しやすいからな」
「うー……じゃ、じゃあ、最近の超さんはどうなんですか!?
相当無茶してますよあの人!!」
「あいつは私の部下でもあるが、独立した経営者扱いだからな。
だからこそ、直接投資や融資の話が可能なんだが……経営者には労働基準法やらが適用されない点を利用して、無茶しているようだ。
そんなところに出向していると、見ていて心苦しいのはわかる。だが、お前まで無茶に付き合うと、ブレーキ役がいなくなるからな。鈴音にはあまり無茶するなと言ってあるし、あまり無茶しすぎないよう見てやってくれ」
「……それこそ無茶ですよ……」
給与明細を手に呆けてた葉加瀬聡美を、更に呆けさせてみたり。
「エヴァさーん。
ちょっと失敗しましたー」
「どうしたネギ。半泣きとは珍しいな」
「原作より早くそっちに行きたかったんですけど、失敗しちゃいましたー」
「いや、無理して早めなくていいんだが。
むしろ、失敗して遅くなる方が問題だぞ?」
「それはそうなんですけど……」
「それで、何に失敗したんだ?」
「とある魔法の、実技なんです。
……いえ、普段は成績優秀なんです」
「普段の成績は聞いているぞ。
少なくとも、私としては原作のネギより優秀だと思っているんだが」
「くしゃみで脱衣なんてラブコメは、無邪気な男の子がやるからいいんです。中身が成人女性のボクとしては実践したくないですから。
でもですね、治癒魔法って、現代ではかなり重視してるじゃないですか」
「まあ、しているな。攻撃魔法よりも解りやすく人助けに見えるから、ではあるが」
「そうなんですよねー。
それで、治癒魔法の実践という事は、ケガなりをしてるわけじゃないですか」
「ああ、血が駄目とか、そういう方向か」
「そりゃあ、ちょっとしたケガで血が出てるとか、その程度なら全然大丈夫です。
でも、テストだと言って、いきなり切腹して内蔵取り出すって、いったいどんなホラーなんですかっ!?」
「戦争や事故の現場なんて、それ以上の光景が普通にあるぞ。
そういった場面でも落ち着いて行動できるか、治療行為が可能か。そういうテストはあるぞ。
テストだと言って心構えさせてもらえたなら、まだ温情的だ」
「うう……スプラッターは苦手です……。
エヴァさんは大丈夫なんですか……?」
「好き好んで見たいわけじゃないし、避けられるなら避けたいが……まあ、慣れた。
私が特殊すぎるせいもあるが、魔法世界だと凶暴な野獣に襲われるのは普通だし、強盗まがいの賞金稼ぎやらに襲われて殺し合いになる事もあったからな。血を怖がって思考を止めたら、自分がそれ以上の血を流すことになる。
とにかく動けるようになりたいなら、ショック療法か谷底に突き落とす獅子的な意味で、そういう環境に行くのも手段としてはありかもしれんが」
「えー……それもちょっと……」
「なら、そこまで急ぐな。
そういう無茶なテストになったという事は、無茶な要求をしたという事だ。
今回の場合は、予定以上に早い卒業を求めて、卒業しても文句を言われない実力を求められた、といったところだと思うが」
「それは、そうなんですけど……そうなんですけどぉ……」
「来年の卒業は、そこまで言われていなかったはずだ。
予定通り、来年幕田に来るといい。」
そんなネギの贅沢な愚痴を聞いてみたり。
「さて、ある意味めでたく孤児院から出た事を祝い、家庭訪問なるものに来たわけだが。
本当に学校ではアルカナで通すつもりなのか?」
「はい。時期も中途半端になっていますので」
「そこはわからんでもないし、元の姓を通称として使用できる制度はある。
だが、結婚を想定したものだから、厳密に言えば養子の場合はその規定に該当せんぞ?」
「その点も説明を受けています。ですから、期間を限定した条件付きで黙認していただく事になっています」
「ふむ。
この場に幸樹がいるという事は、本人も了承済みと理解すればいいんだな?」
「はい、エヴァ様。
この龍宮家嫡男龍宮幸樹が、責任をもってマナ・アルカナを家族に迎え入れ、共に未来に向けて歩むことを誓います」
「マナ・アルカナの生い立ち、背負う責任、歩む道の険しさは理解しているな?」
「もちろんです。
これまでに何度も、ザジ様との話し合いも行っています」
「そうか。それなら、私から言う事は、一つだけだ。
ロ・リ・コ・ン」
「ぐはぁっ!?」
「こ、幸樹!?」
いや、いくら外見年齢がオカシイといっても、相手は中1になったばかりなんだ。
いくら女が押しまくった結果だとしても、あれこれ言われるのは男なんだから、この程度の事で血を吐くようではこの先もたんぞ。
というか、養子の時点で同姓&同棲なんだし、実質的には新婚……と呼ばれないためなのか、通称を変えないのは。
実際に結婚するまでは名前を変えず、そこから改めて新婚気分を味わおうとは、この2人もやりおる、などと仲のよさげな2人を眺めてみたり。
「さてと、全員を対象に行っている生活指導なんだが。
始まる前からどうしてそんなに緊張しているんだ、春日美空」
「あ、いえ、その、聞いていた話と、言われた事と、あとのあれこれを考えると、ちょーっとおなかの辺りが痛いような気がしてきまして」
「ふむ。お前の師は……シャークティだったか。
幕田に帰化して巫女をやっている、珍しい人物だと聞いた覚えがあるが」
「あ、その人っ……です」
「別に、普段の口調でいいんだぞ。
巫女だと規律やらにうるさいかもしれんが」
「態度とかはかなり厳しく言われるんですけど、それ以上に先生への崇拝っぷりがパナイ……じゃない、ものすごくて、ついていけない時が多々あります」
「崇拝……崇拝、か。全く、呪術協会は何をやっているんだか。
それに染まったシャークティもどうかと思うが」
「現人神だと、力説してますよ。
でも、今までにやってきた事の年表を見せてもらいましたけど……否定するの、難しくないですか?」
「う……い、いや、魔法使いがその気になれば、そこまで飛びぬけたことはしていないはずなんだが……」
「鬼を扱うプロの陰陽師にも無理なのに、魔法使いが鬼神を式神にするとか、ありえないっス……じゃない、ありえないです。
しかも、何百年も召喚しっぱなしで反逆の気配すらなくて、本人……本神? が使役されっぱなしなのを全肯定してるとか、否定できる要素を探す方が難しいです」
「……昔は、出来そうなやつがちらほらいたんだがなぁ。
というか、よく調べたな」
「普通の人だと、何百年ってあたりが無茶振りじゃないですか。月の一族の人達だと、功績を主に捧げるとかやってそうですし。
調べたのは、あれです。師匠の陶酔っぷりに反論しようとしたら、余計にダメージを受けただけです。鬼神が放し飼い状態になってる事を知った時と、実際に話した時の絶望感といったらもう」
「……これは、謝ったほうがいいのか?」
「偉業ではあるんスよねぇ……」
面談をしてみたら、何故かお互いにダメージを受けたり。
「一応は生活指導という建前だが、別に指導すべき事があるわけではない。
というわけで、何か悩みや困ったことはあるか? 探索魔法少女ちうたん」
「うぇっ!? 何であのページに気付いた……あー、幕田の依頼でやり始めたから、そりゃ話が行ってるか」
「いや、見付けたのは偶然だな。
幕田の怪しいところの訪問記、的な感じに見えたが……衣装に突っ込みを入れるべきかどうか、悩ませたいんだな?」
「顔を出してないのに気付かれたのか……
いや、あれって、あえて魔法を見せてる施設やらの紹介みたいなもんなんだけど、それだけだと似たようなのが他にもあるから、話題っつーか、インパクトが不足するんだよ。
で、どうするか相談したら、魔法関係なんだから魔法少女のコスプレでもしたらどうか、ってなっちまって……」
「嫌なら嫌と、拒否できなかったのか?」
「依頼を受けちまってたし、他に代案も無かったんだよ。
しかも、鳴滝が制作会社やらに話を通して、ある意味本物以上の出来の衣装を作ってくれることになった上に、やたら反響が良くて引けなくなったんだよな」
「衣装の作りがやけにしっかりしていると思ったら、プロの仕業だったのか。
確かに、服の作りに反応しているコメントも多かったな」
「ステージ衣装やらを作ってる連中が、採算度外視の趣味全開で作ってるらしい。
なんでも、着ぐるみじゃない本物のJCに着てもらえるんだひゃっほい、って目の色を変えてるとかなんとか」
「状況は分かったが、その辺は伝聞なんだな」
「そんな連中に会いたくない。あのページは知られてるはずだし、衣装を作る以上、体形はバレバレなんだけどよ。
こうなったら、せめて顔バレだけは避けねーと……」
「ああいや、そんな悲壮感を漂わせなくてもいい。いざとなったら、私が匿ってやる。
私の本来の姿はアレだからな。少なくともロリコンに付き纏われるような環境でない事だけは保証できる」
「マジか!? いや、今すぐってわけじゃねーけど、ヤバい時はマジで頼む。
オタク方面にも名前が売れ始めちまってて、どんどん深みにはまってる気分なんだよ……」
「なんというか……無理はするなよ」
ブログの女王(不本意)への道を歩みつつある、千雨の現状を聞いたり。
ネット依存やコスプレ趣味に走る要素は無いと思っていたんだが……こんな形で関わるとは。やはりこの世界は油断できん。
2017/07/18 以下を修正
補修→補習
体育系→体育会系
。、→。
2019/09/23 暇に任せて→暇に飽かせて に修正