金色の娘は影の中で   作:deckstick

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今回は、ちょっと短めです。


魔法先生重羽ま編第05話 師は走らない

 年末が近付いてきた。

 世界は、地球の表向きという意味では、平和なままだ。

 だが、相も変わらず、裏では色々な動きがある。

 

 例えば、メガロの悪あがき。

 ようやく大型軍艦に将来性が無い事に気が付いた元老院が、今のうちにとばかりに高圧的な外交を展開しているようだ。

 当然、それを良く思わない小国や、その状況を目の当たりにしているメセンブリーナ連合の構成都市等が動揺し、ヘラスやウェスペルタティアに近付く動きをするところも出始めている。

 結果として、小さな紛争や小規模な戦争がちらほら発生している。

 

「それだけなら、想定内だったんだがな……」

 

「アーウェルンクスの影が見える点も、原作的な意味では想定内ですね。

 関わり方については、違いがあるようですが」

 

「で、古本的にはどう見る。動いているのは、やはりフェイトか?」

 

「絶対にとは言い切れませんが、恐らくそうですね。

 もし違うとしても、原作フェイトに相当する思想と外見のアーウェルンクスですから、大差ないでしょう。戦災孤児を引き取って支援している事も、その一部を手駒にしている事も、それを裏付けていますからね。

 原作との違いは、戦争や紛争などの原因には関与していない点でしょうか」

 

「薬の材料だの炎の精霊だのといった、狙われたとしか思えん連中もいるのか?」

 

「ふふ。月の一族のネットワークは、強力ですね」

 

「……別に、お前の孤児支援のための組織じゃないんだがな」

 

「いえいえ、私がやっていたのは、悪質な孤児院の矯正とその後の若干の支援程度ですよ。

 いくつかの種族は孤児が出る前に保護しているのですから、月の一族の力と行動力は素晴らしいと言っているのですよ」

 

「……フェイトの従者、壊滅の危機……なのか?」

 

「0ではありませんし、敵対するのであれば少ないほど良いのですから、問題ないでしょう。

 むしろ、この短期間で従者になるほど懐かれた事に驚きです」

 

「吊り橋効果か?」

 

「そうかもしれませんね」

 

 更に、地球側の裏組織の魔法世界離れが加速している。正確に言えばメガロ離れだが。

 ヘラスやウェスペルタティアとの関係を強めているから魔法世界の小国などと同じ動きだとは言えるし、元々私達のせいでメガロとは一歩引いた関係でいる組織が多かったところに追い打ちをかけただけとも言える。

 

「っていうか、メガロも下手だよねー。

 誰かの足を引っ張るのだけは得意みたいだけどさー」

 

「既得権に胡坐をかいて、その維持に血眼になるのも好きそうだぞ。

 なんというか、身近なはずの某国と某国を思い出すんだが……いや、やたらと正義だの綺麗事を言う割に汚い辺りは、某国とかも混じってるのか」

 

「つまりあれだね。

 人間なんて所詮こんなもんなんだ! って叫べばいいんだと思うよ?」

 

「元人間のはずの私達だって、似たようなものだがな。

 少なくともメガロの足は思い切り引っ張っている自覚がある」

 

「既得権を縄張りって言い換えると、肉食獣なんかも該当するね。

 つまりメガロは、獣レベルだった……?」

 

「いくら何でも、全てがそうではないはずだぞ。

 私達に好意的な連中も、少しはいるしな」

 

「じゃあ、ちょっと修正。

 メガロは、ワガママ系人間と獣と少しの良心のごった煮だった?」

 

「程度はともかく、大抵の国や組織はそんなものだと思うが……」

 

 そして、そうなると必然的に。

 

「先日、聖地を管理する組織全てを、事実上の管理下とする事が出来たと報告がありました」

 

「……えーと、どこの管理下だ。

 ゼロが報告を持ってきたという事は、月の一族の……なのか?」

 

「表向きは、指導者の一員に月の一族の者が加わった、というだけですから。

 このタイミングでどこかの組織の下に付くのは、色々とうるさい国があるでしょう?」

 

「それはそうだが。

 それにしても、今までは友好的に付き合ってきただけの組織もあったはずだが……方針が変わったのは、やはりうるさい国が原因なのか?」

 

「そのようです。

 明確に私達の傘下となるのは色々と問題がありますが、指導者に私達の関係者が含まれただけであれば言い訳も可能でしょう。バレなければ言い訳も不要ですし」

 

「その辺の諜報能力は、そこそこあるはずなんだが……。

 まあ、月の一族の影響がどうのと言っても、明確な組織があるわけじゃないしな」

 

「眷属達は、そこも不満のようですよ。

 そろそろ明確にしてほしい、という要望は常にありますし」

 

「私としては、計画を実行したら姿を消したいくらいなんだがな」

 

 そんな事をしつつも、世間的には、誰かの誕生日を祝う名目も忘れて浮かれる時期ではある。

 

「エヴァ様って、一応は西洋の魔法使いっスよね?

 クリスマスは祝わないんですか?」

 

「浮かれるのを止める気は無いが、特に祝う気も無いな。元々信仰心を持っていない上に、日本に染まっているからなのだろうが。

 それより、巫女がクリスマスを祝おうとしている事を咎めるべきか、悩むべきなのか?」

 

「えー、世間の流行に注意してるって言ってくださいよー。

 そもそも、特に日本のクリスマスとかバレンタインとかって、宗教関係なくなっちゃってるじゃないですか」

 

「その辺は、信仰心が薄いせいなのか、八百万の思想に染まっているせいなのか、判断に悩むところだな。商売が上手いと褒めるべきなのかもしれんが」

 

「幕田が出資してるカカオ農場があるって話を聞いたっス」

 

「二次大戦の頃は、甘味が手に入りにくくてな。

 戦後の東南アジア復興に手を貸すついでに、農地や人手を確保して生産を始めただけだ」

 

「いやいや、かなり本格的にやってるって聞いてるっスよ?」

 

「そうなのか?

 私自身は初期の頃しか関わっていないから、今どうなっているのかはよく知らんのだ。ちょくちょく届けられてるから、作っていることは判るんだが」

 

「あれ? そうなんです?」

 

「そうなんだぞ。高エネルギーで栄養も豊富な食品として栄養剤のように扱われていた時期もあったから、その頃に増産したのかもしれんな。

 それに、好きだろう? チョコレート」

 

「あ、はい」

 

 美空とそんな無駄話をしつつ、今はぼんやりと訓練風景を眺めている。

 何しろ幕田家自体が陰陽の系譜であり、神道との関係も強い。摂家もそうだし、当然ながら関係者もその傾向が強くなるのは、自然なことだ。

 

「どうかされましたか?」

 

 ……不思議そうに見られたが、イシュトは……不死になったのを神の愛で絶望だとか言っていた事があるから、信仰心など持ち合わせていないだろう。

 ゼロ達も祈る姿を見たことは無いし。うん、うちの連中は、信仰心のないやつらばかりだな。

 

「いや、雪花は雪凪に稽古をつけているし、お前は誰かを指導する気はないのか?」

 

「ありえません。

 部下でない者を指導する意味が解りませんし、師でない者に指導されて喜ぶ理由も解りません」

 

「雪花は神鳴流の師範という肩書を持っているから、その関係だと思うが。

 雪凪は……そうだな。美空、遠隔の読心魔法は使えるか?」

 

「一応教えてもらってますけど、基本的に禁止されてるはずじゃ?

 こんな事で捕まるのはいやっス」

 

「あれにも例外があってな。命に係わる戦闘や、魔法使用に関する合意のある試合であれば、許可されているんだ。相手の動きを予測するために使う事もできるからな。

 そして、ここでの鍛錬中は、命を落としたり障害が残ったりしない限り、あらゆる魔法の行使を許容することになっている。

 お前も、そういう内容の契約書にサインしているんだぞ?」

 

「へ? えっと、最初の鍛錬に関する契約書とかいう、アレっスか?」

 

「そうだな。

 読心とは言わなかったが、後遺症が残るものでも、命に関係するものでもないからな。許容されると判断することに問題は無いぞ」

 

 様々な状況に対応する技術を教えるという内容から言っても、問題とはならんしな。

 本格的な殺し合いの場合、相手の仲間が読心魔法を使う事も想定すべきだ。

 

「いいんすかねぇ……」

 

「何なら、雪花にも使って構わんぞ。間違いなく防がれるからな」

 

「あ、そういう訓練も兼ねるんすね。

 んじゃ……」

 

 むーん、という感じで手を伸ばして……方向は雪花の方か。

 ふむ、雪花がちらりとこっちを見た瞬間に、美空が慌てて魔法を解除したか。

 

「こえー……なんか血まみれ細切れのイメージが見えたっス」

 

「ああ、そういう対処をされたのか。

 読心系魔法の弱点で、読まれるイメージを操作可能という事がままあるからな。この辺も戦略として一般化しない理由ではあるんだが、対処法を知らないと筒抜けになるのも事実だ。

 というわけで、雪凪を見てみるといい。雪花の稽古を受けながら対処できるレベルでないから、何を考えているか簡単に読めるだろう」

 

「そ、そうっスね。雪凪ならホラーのイメージを叩きつけられる事はないっスよね。

 んじゃ、ちょっと失礼して……………………ふぁっ!?」

 

 再び、むーんと……随分と早いな。

 というか、この反応は何だ?

 

「いったい、何が見えた?」

 

「あー、いや……ちょっと言うのが憚れるというか、説明に苦しむというか……

 実際に見てみる……聞いてみる? のが、早いんじゃないかなーと」

 

「ふむ。声として聴けた内容に問題があるのか?」

 

 見た目は真剣に指導を受けているようなのだが……ふむ。

 確か、声として聞こえる読心の魔法は、こう……

 

(……雪花様の太刀筋はいつ見ても美しくて思わず吸い込まれそうにだけど迂闊な斬られかたをしたら失望されてしまいそうだしそれではこうして神々しい姿を見る事もできないしああ受け流す仕草も美しくて素敵ですって見とれてたら戻すのが遅れてちょっと困った顔をさせてしまって生まれてきてごめんなさい見とれながらでも反応できるよう精進す……)

 

「……えーと、これは、どうコメントするべきなんだろうな」

 

「バリバリの裏で人外の割には、常識人だと思ってたっスけどねぇ……」

 

 ただまあ、雪花を崇拝してるだけと言えなくはない……のか? 私じゃないから、とりあえず聞かなかったことにしておくか。

 それにしても、表に出していない雪凪に感心するべきなのだろうか。雪花が気付いていた場合は……逃げない雪花に感心するしかないだろうな。




こ、この時期のイベントやネタが無かっただけなんだからっ!
べつに艦これやってて書けなかったんじゃないんだからねっ!

あ、乙乙乙乙乙丙丙の、弱腰提督です。
でも、今回堀は全力。資源8万ほど減ったうち、半分以上が堀り出撃。見落としが無ければ今回ドロップする未入手艦はコンプリートのはず。
ちゃうねん……明石さん(改にしない用)が欲しいねん……鹿島さん4人もいらへんねん……


2017/09/13 困った顔を指せて→困った顔をさせて に修正

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