金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第07話 よいしょ

「やれやれ、こんなところに来る気はなかったんだがな」

 

「仕方ありませんわ。不安要素を無くすには有効な手だと思えたのですから」

 

「そうなんだが、ここまで気が進まない遠出は初めてだ」

 

 大人モードでない私とあやかがいるのは、魔法世界。

 その北の方、龍山山脈だ。

 目的は、造物主に会う事。出来れば不安材料とならないようにしたいところだ。

 

「しかし、ここでアーティファクトに頼る事になるとはな。

 監視に止めていたのは、近付くには危険が多いという理由もあったんだぞ」

 

「それでも、効果は会えるまでですから、すぐに逃げられる可能性は否定できませんわ。

 それに、相手はパクティオーのシステムを作った人物なのですから、2度は無理かもしれません。

 今回でけりをつけたいところですわね」

 

 そして、自然の障害やら造物主の結界やら罠やらを確実に突破、その上で逃げられないための手段として利用するのが、あやかが私との仮契約で得たアーティファクトだ。

 効果としては原作と同じと言っていいだろう。

 どんな人物にでもアポなしで面会できる。この表現に間違いはない。

 だが、警備を問答無用で協力者とするほど強烈な能力の効果は、人に限ったものではないようなのだ。結界や罠すら、こちらの都合のいいように穴が開き姿を見せるのだから。

 つまり、安全に見える道を進むだけで、造物主に逃げる余地を与えずにたどり着く事が可能である。はずだ。

 

「とりあえず、会う事だけはアーティファクトが働いてくれるはずだ。

 そのせいでお前を連れてくることになってしまったが……魔法世界に連れてくる気もなかったんだがなぁ」

 

「気にする必要はありませんわ。

 話は聞いておりますが、実際に見るのはやはり印象が違いますもの」

 

「……街に行ってみたいのか?」

 

「興味が無いと言えば、嘘になりますわ。

 先ほど頂いた荷物でこちらの服や鞄は見れましたが、これで全てのはずがありませんし」

 

「山の麓に転移したからな……まあ、余裕があれば街に行ってみるか。

 それと、それはあいつらが準備した服だから、一般人のレベルは察してくれ。どうも私に関係する事には金に糸目をつけ忘れる悪癖があるらしいからな」

 

 確認はしていないが、どうせ有名デザイナーやら大手工房のトップ連中やらが張り切って作ったのだろうし、魔法の付与も一般人では依頼すらできないような連中がやっている可能性が高い。魔導具のレンタルと併せて代金は支払う事になっているが、趣味で作ったとか必要な経費は含んでいるとか言いながら材料費の部分しか請求されない予感がする。

 その意味では私の方の金に糸目を付けている、のか? 圧倒的に高いはずの人件費を削った最低限の原価だろうと、取引したという体裁は整えるのだろうし。一応、それを見越して一般市民として目立たない服装という注文をしたのだが。

 

「それだけ慕われているのですわ」

 

「行き過ぎて信仰の域に達しているあたりは、勘弁してほしいんだがな」

 

 そんな事を話しながら歩くこと、約1時間。

 無駄に時間がかかった気もするが、刺激して逃げられないよう魔法を使わずに素人が山道を歩くのだから仕方ない。アーティファクトのおかげで致命的な問題はないが、移動が面倒になる程度には避けるべき罠があったわけだし。

 

「さて、と。

 気配を探る限り、造物主は在室中。看板や表札は無しか」

 

「何を期待しておりましたの?」

 

「ボスらしい怪しげな何か、かな。

 事務所だの営業時間だの書いていてくれていないかと思ったんだが……厨二病だった頃ならともかく、高二病の顕示欲では難しいか」

 

「意味がよく分かりませんわ」

 

 まあそうだろうな。あやかはゲームとかしなさそうだし、そもそも魔法使い製造所自体が相当に古い代物だ。

 だが、ここでグダグダするのは時間の無駄だな。今からすべき事を考えると気が重いが、覚悟を決めるか。名前を呼ぶ……のはまずいな。そもそも最初から造物主と呼びかけるのは警戒させるだけだろうし、地球では欧州中心で動いていた以上、ノックは4回か。

 

「……こんな山奥に、誰だ?」

 

 ……ここまで普通に造物主が出て来るとは。これも、アーティファクトの仕業なのか。

 というか、今は女の体なのか。今までは男だった事が多かった気がするが。

 

「久しぶりだな、造物主。

 フェイト……テルティウムと言った方がいいのかもしれんが、あいつが持っている魔法について話がある」

 

「ふむ。この様なところまで来るとは、我がむすぐぉぁっ!?」

 

 おっと、思わず思い切り踏みつけたが……本当に高二病に変わっているのか?

 だいぶ前に、全く同じことをやった気がするぞ。

 

「とりあえず、お前を親と呼ぶ気はない。

 それはともかく、完全なる世界とかいう魔法と、お前自身の考えについて問いたい」

 

「フフ……それに何の意味がある?

 全ては夢、全ては幻……真実など、儚い泡影でしかなかろう」

 

 あー……メンドクサイ感じの高二病というか、悪化した厨二病じゃないのかコレは。

 まあ、高二病自体が厨二病の別症状と言ってよさそうな内容だし、ある意味正統な変化と言えなくもない、のか?

 

「不変なものなど、それこそ空想でしかあり得ん。お前の性根のように変わりにくいものはあるだろうがな。

 で、だ。お前が作った完全なる世界という魔法に、お前自身はどの程度関与する気がある?」

 

「……ふむ?」

 

「これを使おうと、フェイトが動き始めているが……はっきり言えば、今から準備したのではかなり小規模で終わるだろう。

 だからこそ、お前はどの程度の規模を望むのか。そして、お前自身は対象となりたいのか。

 それを聞いておきたい」

 

「我が望みなど、欲に塗れた者どもには届かぬ」

 

「届くかどうかは問題にしていない。むしろ、届ける気があるかどうかを聞いている。

 多少なりと手を貸して、届ける相手を増やそうとするのか。

 最初から諦めて、フェイトが苦労する様を眺めて満足するのか。

 そもそも何も期待しておらず、フェイトが無駄な努力している様を嘲笑うのか。

 そこはどうなんだ。感情を感じ取る制御不能な能力の持ち主としては、自身が完全なる世界に入れば解決する事なのかもしれんが」

 

「……何を知っている?」

 

「フェイトから聞いた程度の話を知っているだけだ。

 世界から不幸が減れば、お前を狂わせるような黒い感情も減る。つまり、完全なる世界が幸福感をもたらすものであれば、その感情を集める事でより黒い感情を掃う事が出来る。

 そういう事じゃないのか?」

 

 つまり、目立つ行動で賞賛を求め、陰りが出始めると黒い感情から逃げるように姿を消す、結果的に責任感抜き厨二病的行動になる理由なんだろう。

 ……どう考えても、面倒な能力と性格をしてるよな。一応服に思考を読ませないような防御魔法を仕込んであるが、どの程度効果が出ているかよくわからんし。

 

「確かに魔法を作る時点では、そう考えていた。

 だが、どうやって声を届ける? 真に不幸な者は、声を聴く余裕も無いのだ」

 

「時間の無さが痛いところだが、最も簡単なのは宗教だろうな。弱者救済のNGOとかでもいいかもしれんが、内容的に宗教向きだ。

 せっかく魔法世界を作った実績があるんだ。創造主が新たな世界へ導くとか言えば、それなりに説得力があるんじゃないか?」

 

「だが、それは」

 

「もちろん、魔法世界の情報を魔法の公開前に広めるわけにはいかないから、当面は世界に絶望する者を新たな世界へ導くといった内容になるだろうがな。

 それでも、魔法世界を作った実績。新しい【完全なる世界】という夢の世界。世界に絶望する者を対象とする。どれも嘘は言っていないぞ?

 お前も共に行くのであれば、導くという説得力もより増すだろう」

 

「家族や友人の道が分かたれる。そこに悲しい不幸が生まれる」

 

「人が意思を持つ存在である限り、無くなることは無い不幸だな。

 例え不仲でなくても、何らかの事情で家族と別れる事はある。友人と会えなくなる事もある。

 それに、私達の計画は知っているだろう? もうすぐ世界は変わる。その時、多くの新しい出会いと、望まない別れが生まれるだろう。

 完全なる世界は、その前後の不幸を多少なりと減らせるものと評価したが、過大だったか?」

 

「それならば、世界全てを対象とすればよい」

 

「当人たちの意思を無視して、か?

 少なくとも私は、お前が完全なる世界に行くと聞いていないぞ。

 少なくとも、内容を最も知る者が行くと表明していない場所へ、他人を叩き込む気は無い」

 

「信用に値せず、という事であろう」

 

「フェイトが私に見せた魔法については、確かに言葉通りの内容を意図していると思えた。

 だが、全てを確認するには時間が無さ過ぎる。であれば、あとは製作者の自信と覚悟を見るしかないのだが……最初から悲観的過ぎて、現状では信用できると思えん。

 失敗を減らすには計画のあら探しも必要だろうが、それに終始しては何も出来んぞ。この世界の言葉だろう? わずかな勇気が本当の魔法、というのは」

 

 一番信用できないのは、発動時に必要以上の範囲を巻き込むとか、余計な事を仕込まないかなんだが……今ここで追及するわけにもいかんだろうし。

 少なくともフェイトが持ってきた魔法を使う保証は、コイツが自身を対象とする事である程度の確証が持てるのだが。

 

「だが、この新世界は我が作ったものだ。

 その行く末を見届ける義務はあるのだろう」

 

「行く末、か。

 私達の計画で、お前が作った魔法世界は一旦の終焉を迎えると言っていい。それを行うのは私やそれぞれの世界で生まれた者達であり、未来に続くのは似て非なる世界だ。

 もちろん、100%の支持など有り得んからな。私達のやり方が気に入らない者の受け皿としても、魔法世界を作ったお前の新しい世界は良いものだと思う」

 

「ふむ……」

 

「そして私が一番心配なのは、そういう者の受け皿として認知させる事が出来るかだ。

 それは、魔法をポンと渡されただけのフェイトには荷が重いだろう。そこで、確かな実力と実績を持ち、その世界に行く理由がありそうなお前に期待したい」

 

「なるほど……そうか。そうであったか」

 

「こちらの計画との兼ね合いもあるが……そうだな。魔法の公表前に地球で魔法の情報を広めない事、完全なる世界に行く事を望まない者に対して干渉しない事、完全なる世界に行く意思のある者を私達の計画に合わせたタイミングで導く事。

 この3点を確約するなら、その為の組織を宗教団体として扱い、活動が目的に沿う限り妨害しないよう国に働きかけよう。

 もちろん魔法公表後に完全なる世界の情報を広めるのは問題ない。手助けは……国や地域によるだろうから、確約は出来んな」

 

「だが、如何にしてそれを信用すればよい?

 口先だけなら、何とでも言えよう」

 

「ああ、その為にコレを用意してきた。鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)とかいう魔道具だな。

 契約を遵守させる強制力を持つ代物だから、これで互いを縛る。そうすれば、どちらも安心できるだろう?」

 

 用意しておいてよかった、と言えなくはないのか。

 できれば会話の間に、こいつが完全なる世界に入るような条件で発動できればよかったが……高二病のネガティブさでは難しそうだ。

 後は細かい条件の話し合いだが、自己顕示欲はあるせいか、やはりヨイショに弱そうだ。その辺をうまくつつけば、意外に簡単……だと、いいな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「夏だよ!」「旅行です!」

 

「沖は潮の流れが速いそうでござるから、注意するでござるよー」

 

 あれから数日後。夏真っ盛りの、とあるリゾート地の砂浜にて。

 私とさよ、それに2Aの生徒の一部が、水着姿になっている。

 

「しかし、わざわざハワイでなくても良かったと思うが」

 

「せっかくですもの、ゆっくりしたかったのですわ。

 近場では、噂を聞きつけた他の……一般の方々が押し寄せそうですし」

 

「ああ、それはありそうだな。

 関係者でも千雨や裕奈は不参加だし、旅費の自己負担は足枷として充分か」

 

 あやかを魔法世界に連れて行った事の謝礼は、魔法世界の観光という形で行う事になっている。

 だが、造物主との契約に含まれた「完全なる世界の発動を妨害しないよう国に働き掛ける」をとっとと履行するために、再びあやかのアーティファクトに頼る事となった。

 それに対する謝礼として、リゾート地でのバカンスを提供する事となったわけだが。

 

「それにしても、本当にこれで良かったのか?

 お前なら、自分でもこの砂浜を貸し切りにすることぐらいは出来ると思うが」

 

「そこまででしたら簡単ですわ。

 いかついボディーガードに囲まれ、友人もいない状態に満足できるのであれば……ですけれど」

 

「そっちの問題か。確かに私がいれば内側の護衛は雪花やイシュト達になるから筋肉だるまじゃないし、2Aの関係者を巻き込めば気軽に話せる相手も多くなる。

 ついでに長距離転移で移動も楽々、という事だな」

 

「それに、心配事が減ったお祝いでもありますわ」

 

 お祝い、か。

 造物主との契約は、概ね私の望む条件を入れる事に成功したのは事実だ。

 つまり、魔法の公表前に造物主が地球で情報を公開する事を封じ、私達を含む【完全なる世界に行く気のない者】に対する情報提供以外の干渉を封じ、私達の計画に合わせて使う魔法を【効果範囲を限定した完全なる世界】で確定させる事に成功したわけだ。

 私としては、造物主も完全なる世界に行く事を確定させたかったが……まあ、話した感じでは行く可能性が高かったし、私達が造物主に干渉することは禁止されていないから、どうとでもなるだろう。

 

「原作開始前に全てを済ませる……魔法世界自体は、どうにもならなかったな」

 

「原作……?」

 

「ああいや、こっちの話だ。

 さて、パラソルやらの準備も終わったようだ。私はそっちにいるから、さっそく海に突撃している連中の方に行ったらどうだ?

 立場的に、私は引率側だ」

 

「子供の姿では、引率に見えませんわ。

 ですが、わたくしたちと遊ぶような精神年齢でもありませんし……そうですわね、中学生らしくはしゃがせて頂きますわ」

 

「その言い方自体、中学生らしくないぞ」

 

 そんなこんなで、来た面々はそれぞれが楽しむべく、砂浜で遊んだり、海に入ったり、食に走ったりしている。

 私はパラソルの下でのんびりしていたのだが、こそこそと近寄ってくるパイナップル頭が1つ。

 

「あのー、エヴァ先生。インタビュー、いいですか?」

 

「これは、表に出すものか? それとも内密なものか?」

 

「あー……たぶん内密なものの方が多いですけど、疑問の解消という事で」

 

「まあ、迂闊に情報を漏らせない事を理解した上なら、いいだろう。

 何が聞きたい?」

 

 こいつも魔法に関わってから、だいぶ経っているはずだが。

 それだけに、裏でもあまり広まっていない話に気付いたのか?

 

「最近、幕田公国について色々調べて気付いたんですけど、歴史資料なんかに出てくる幕田家初代の【金色の娘】って、エヴァ様ですよね?」

 

「ああ、表に出ている情報はその程度だったな。

 確かに私の事だ」

 

「それに、幕田公国の国旗って日の丸と対になるよう月をモチーフにしたものって事になってますけど、要するに幕田家の家紋の陰月ですよね?」

 

「まあ、そうだな」

 

「あと、エヴァ様って月の一族の神様ですよね?」

 

「神様という表現はどうかと思うが……上の立場ではあるな」

 

「なんというか、事情を知れば知るほど、幕田公国はエヴァ様が中心の国だって主張されてるような感じがしますが、これについては?」

 

「幕田公国が自分のものだと主張する気は無いぞ。裏の都合に関して意見を出すことはあるし、そのために私達が幕田公国に影響力を持っているのも事実ではあるがな。

 それに、少なくとも歴史書やら国旗やらについては、私は関わっていないぞ」

 

 少なくとも私は、幕田公国を支配しているつもりは無いんだが……あくまでも王は幕田家当主だし、政策やらに意見は出すが私に決定権は無い。それでも、有宣やゼロ辺りからは事実上の支配者に近いと言われるんだよな。

 表に出ている話やらは有宣やらが調整した結果だし、別に私の存在をアピールする必要は無かったはずなんだが……

 

「えーと、その外見で遠い目をされると、なんというか、ものすごーく罪悪感がですね……」

 

「本当に、どうしてこうなったんだろうなぁ」




「魔法使い製造所」のネタは、「青の~」の無印編32話にも出した、とある古いゲームです。
MURASAMA BLADE(村正や村雨に非ず)を知ってる人は、恐らくオッサン。


2017/11/06 浴に→欲に に修正
2018/02/20 問題ない→問題はない に修正

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