金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第14話 手回され

「もうすぐ修学旅行なのじゃ「行かんぞ」が……いや、とりあえず話を聞いてくだされ」

 

 ぬらりひょん……もとい近右衛門が訪ねてきたわけだが。

 私が麻帆良を出るのは色々問題があって、行けないと言った方が正しいはずだ。

 魔法関係組織のシガラミも問題ではあるが、一番の問題は、私の力や影響力が大きすぎて、阿呆共に対処する警備やら何かあった際の隠蔽が大変すぎるから、らしい。

 以前ネギのところに行ったときは、イギリスはマシューが統括していてシガラミの問題が無かったのと突発すぎて阿呆共が湧く時間も無かったから結果として問題にならなかっただけだと、有宣達に散々言われたものだ。それ以上に、土下座を責められたわけだが。

 

「話がどうこう以前に、私が麻帆良から出るのは面倒が多いと知っているだろう。

 3Aの連中をどこに送るつもりかは知らんが、負担や責任をどうするつもりだ?」

 

「それがのう、行先は先方の強い要望で、京都なんじゃ。

 婿殿……いや、呪術協会が警備などに関して全面的に負担すると言っておっての」

 

「それは……正気か?

 呪術協会との関係は悪くないと思うが、私に関する責任を負うとなると、何かあれば世界の月の一族を敵に回しかねんぞ」

 

「そうなんじゃよなぁ……それもあって、儂も強く言いたくはないのじゃ。

 じゃが、婿殿よりも、木乃江や呪術協会の若手連中が強く希望しておるそうでな。要するにあれじゃ、スーパースター来日希望で熱烈ラブコール、みたいな状況と聞いておる。

 木乃香の帰郷も兼ねられると、木乃香を気に入っておった重鎮共も乗り気での。反対意見がまるで無い状況だと、婿殿がぼやいておった」

 

「スーパースター……だと……?」

 

「世界の裏社会に広く浸透する月の一族、その頭領。

 戦国時代から江戸時代末期まで日本の裏社会を支配した幕田家、その始祖であり頂点。

 退魔の剣士を圧倒し、鬼神を支配する、稀代の陰陽師。

 様々な方面から評価した結果じゃよ」

 

「うわぁ……」

 

 これは、ドン引きせざるを得ない。いや、字面だけを見れば、否定する要素があまり無い点は理解できるんだが。

 要するに、日本のオタクが実は生きてるジャンヌに会いたいと興奮するような感じか。

 

「そんな状態じゃから、普段は護衛の仕事はある程度持ち回りで人手を出さねばならんのが、今回は報酬を下げたにも関わらず希望者が殺到しておるそうじゃ。

 少なくとも、人手不足で警備が出来んという事は無いじゃろう」

 

「管理が大変というか、管理職の胃が心配になるレベルじゃないか」

 

 むしろ、警備員の暴徒化や、警備員に紛れる不穏分子を心配すべきか。

 私が麻帆良から出るとなると、メガロの阿呆共やらが嬉々として嫌がらせに動くような気がするし。動きそうな連中は他に心当たりがないから、対処はまだ楽だとは思うが……

 

「うむ。婿殿もそれを理解しておるから、複雑な顔をしておったよ。

 それに、この話が出てからメガロの年寄りの動きが怪しいという情報も入手しておるそうじゃ。昔知り合った、メガロの捜査員から聞いたと言っておったが」

 

 メガロの捜査員……ああ、ガトウの事か。大戦の後で権力亡者を浄化しようと頑張っているとか聞いた気がするが、今でも頑張っているんだな。

 現状がこれだと、成果はいまいちのようだが。

 

「それなりに信憑性は高そうな伝手だな。

 木乃江達は、それも理解しているはずだな?」

 

「勿論じゃ。あまりにも心配じゃったから、本人にも電話で聞いてしもうたわい。

 若手連中に至っては見せ場が出来るとかで、むしろ歓迎ムードらしいの」

 

「若気の至りとか、井の中の蛙とか、そういう言葉が該当しなければいいが……」

 

「確かにその辺は心配じゃが、まあ、数も力じゃ。よほどのバグでも出てこんかぎり、どうにか出来るじゃろ。

 こっちは守勢とはいえ本拠地で全力、相手はこそこそと悪だくみじゃからな。動きやすさが違うわい」

 

「それはそうだろうが……どう考えても、私が行く前提で話が進んでいるんだが」

 

「うむ。婿殿が止めるのを諦めておる以上、離れた地にいる儂ではどうにもできんよ。

 本人が全力で拒否するのであれば、話は変わるじゃろうが……どうするかの?」

 

 ああ、私の意に反してまで押し通すつもりは無いのか。

 それでも、ここで私が騒動の中心になるのも……いや、メガロの老害を叩く意味はあるのか。動かないなら動かないで、動かない理由が分かれば手を打ちやすくなるだろうし。

 

「意味付けが出来るだけに、難しいところだな……ゼロ、どう思う?」

 

 ゼロはゼロで、最近は部屋の片隅で静かにしていることが多いし。

 人形がノートパソコンで何やらやっている姿は、シュールとしか言いようがないが。

 

「メリットとデメリットを天秤にかけて、デメリットに面倒だという感情をたっぷり乗せているのでしょう?

 それで釣り合うのであれば、メリットの大きさも理解できているのでしょう。特大の釣り餌である自覚を維持できるのであれば、行く価値があります」

 

「私が面倒くさがりみたいじゃないか」

 

「違うのですか?」

 

「違いないが……まあ、他の連中やらとの兼ね合いもあるからな。

 相談してからにしたいから、今は保留に「たのもー!」……何の用だ」

 

 入ってきたのは、ヴァンと……スクナか。

 乱入も珍しいが、この組み合わせは何があった?

 

「エヴァにゃん、修学旅行は京都でしょ?

 京都の封印の要石が不安定になってるってスクナが言ってるから、ちゃちゃっと直してきてよ」

 

「ちょっと待て。そもそも言っている要石は、スクナを封じていたものなのか?

 それなら、もはや何も封じていない以上、無くなっても特に問題はないはずだが……」

 

「あ、それは僕が説明するよ。

 結論を先に言うと、残留魔力が無くなって、浄化する部分が暴走し始めてるんじゃないかなぁ。

 残留魔力が悪さしないよう、封印って形で集めて浄化するようにしたよね」

 

「……ああ、そういえばそんな事もしたな。

 そうか、中身が無くなったから空回りし始めたのか……だが、あの浄化術式自体は、浄化するものがなくなっても特に問題ないはずだが」

 

「んー、どっちかって言うと、周りから集めちゃう魔力の方が問題っぽい?

 近くに他の封印もあるから、そっちも浄化しようとして干渉しあってる、かも」

 

 周囲の術式との相互干渉が問題なのか……面倒だな。

 浄化の術式がいらなくなるなら、封印自体を解除するのが一番手っ取り早いか?

 

「……ん? 残留魔力がなくなっているなら、どうしてスクナが話を持ってくるんだ?

 あっちに分体やらを残しているとは聞いていないし、京都方面のあれこれに関わっているわけでもないよな?」

 

「一応僕の封印だからか、僕の方に話が来ただけかな。封印処理にも関わってるし。

 それで状況とかを聞いて、話を纏めてみたんだけど」

 

「…………話を持ってきたのは?」

 

「雫ちゃんだけど、元を辿ると木乃江ちゃんだね。

 これってあれでしょ、手回しとか根回しとかいうやつ」

 

「そんなに、私を京都に呼びたいのか……」

 

 スクナまで利用しているとなると、他にどこまで手を回しているのやら。

 木乃江が麻帆良に住んでいた頃に、どの程度の人脈を作っていたかによるのだろうが……マシューあたりまで話が通っていても、不思議ではなさそうだな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 うん、これは私の負けだ。

 勝ち負けではないのだが、気分的には明らかに負けだ。

 

 マシューと雑談をしていた時に聞いた……というか、マシューから話を振られたんだが、その時点で1敗だ。

 曰く、私が京都に行く日程に合わせて夜の一族も京都で会合を行い、釣り餌をより大きくする。

 餌が大きすぎて釣れなくなる恐れすらある気もするが、後のない連中は動かざるを得ないだろうと判断した……事を建前にして、久しぶりに私と直接会いたいと言っている連中が多いらしい。

 京都に行きますよねと確認してくるマシューの背景にゴゴゴゴゴとかいう文字が浮かんでいると感じたのは、気のせいなのだろうか。

 

 そして、マシューと話をした数時間後。

 メガロの辺りを担当している連中が上機嫌で報告してきたのは、メガロの老害が不穏な動きをしている事。

 うまくいけば失脚させられるし、悪くても半年ほど拘束できそうだと喜んでいるのだが、要するに私の京都行きに関する暗躍の尻尾を掴んだという話らしい。

 このままうまく踊ってくれるといいんだけど、といい笑顔で言っていたが。つまり、予定を変えるなよ、という事なのだろう。

 

 ついでに、翌日になってから南米方面からも報告があった。身勝手な要求ばかりしてくる鬱陶しい組織が、ようやく道を踏み外しそうだ、と。

 もう少し客観的に言うと、法のギリギリを攻める犯罪一歩手前組織がしびれを切らしそうだ、という事らしいが。脅迫寸前の威圧だの、暴力やらを背景にした恐喝まがいの交渉だのを繰り返してきたらしいが、月の一族が関与している組織は悉く退けてきたため、ついに実力行使に踏み切る気になった、という事らしい。

 これで無用な出費を減らせますと、晴れ晴れした笑顔で語っていた。まあ、メガロやらの話がここに繋がっているわけだが。

 

「……いったい、いつから私はこんなに大きな餌になっていたんだろうな」

 

「きっと、不老不死になた時からネ」

 

「はぁ……面倒な事だ」

 

 そして、報告書を持ってきた鈴音にぼやきたくもなるわけだ。

 魔法世界や火星に関する技術関係ならまだしも、京都の防衛に関する技術の報告書とは……

 魔法公開後の国防及び防犯に関する技術開発という名目になっているから、文句も言えんし。

 

「人工的な真祖の吸血鬼、その成功例。

 権力やらの亡者にとっては、特大の餌ネ」

 

「亡者が不老不死を目指す……文字通りアンデッドだな」

 

「人類の夢ではあるガ、人の社会にとって死も必要な歯車の1つネ。

 新陳代謝は生物にとって不可欠ヨ」

 

「つまり、私は老害だな。よし、全力で引き籠ろう」

 

 社会の膿、癌みたいなものだからな。

 消える事はないのだから、おとなしくしている。うむ、問題ない。

 

「引き籠る前のお仕事は、とても大事ヨ。

 私としては、それが終わたら引き籠ってもらった方が嬉しいネ」

 

「世界の安定的な意味で、か?」

 

「人は、異端を嫌い、排除しようとするネ。

 ただでさえ魔法世界の異人と接触してバタつくのに、人間社会に潜んでいた不老不死のボスなんて、格好のスケープゴート、世間が勝手に敵になろうとするのは確実。でも、月の一族と全面戦争したら、地球が滅ぶ未来しかない。

 地球と火星の戦争を無くす為に来たのニ、勝者が変わるだけというのはもにょっとするヨ」

 

「火星の人類に勝利を、とかは無いのか」

 

「無いヨ。異人は過去の存在だたし、今のメガロに巣食う亡者に味方する気もないネ」

 

「そうか。まあ、儀式魔法は私にしか使えんだろうから仕方ないが、それが終わったらのんびりするさ。

 ……周囲が騒がしくなければ、になるだろうが」

 

「あー、そこは問題ネ」

 

 下手な連中が私を敵視し始めても眷属達が殲滅しそうだから、その点だけは平和かもしれんが。

 その眷属達が、私が引き籠る事を良しとするかどうか、だな。

 ……難しい、かな。

 




相変わらず書き上げるのがギリギリの昨今、ていとく~は進んでおりません。
それもこれも、時間がかかるイベントが悪いんや……(責任転嫁
あ、福江と片春粉3個と対潜装備2種は確保。S勝利ですね!(味方全員大破だろうが全滅させればS的な定義で

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