金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第16話 京都にて、1日目

『京都、京都です。ご乗車ありがとうございました。東海道線、湖西線、山陰線……』

 

「ここまでは何もなし、と。

 さすがに一般人も多く乗っている新幹線で騒ぎを起こすほど、いかれてはいなかったか」

 

「それは当然だと思いますよー。後ろ暗いアレコレは手段であって目的ではないはずですしー」

 

「それをきちんと理解している相手なら、心配しないんだがな。

 そもそも私達への嫌がらせが目的になっていた場合は、手段と目的が限りなく近くなるだろう?」

 

「あー、その可能性はありますねー」

 

 京都に到着し、さよや生徒達と一緒に移動した先は、清水寺。

 それはまあ、予定通りで、予想通りだ。もちろん、噂の飛び降りるアレと騒ぐ双子がいたり、綾瀬夕映が勝手に解説を始めたりするわけだが、それもまあ問題はない。実際に飛び降りたりはしていないし。

 そして、落とし穴だの、滝に仕込まれる酒だのといったトラブルは、事前に対処されている。

 

「本当に、子供みたいな手口ですよねー」

 

「老人の影響力がチンピラしか動かせない程度に落ちているのか、油断させるための罠なのか。

 判断に苦しむところではあるがな」

 

「前者なら楽でいいですよねー。

 でも、協会の人たちの訓練にはなっているらしいですよー」

 

「この程度で訓練になる、レベルの低さを嘆きたくなるのは気のせいか?」

 

「直接関与してない組織ですから、気のせいじゃないですかー?」

 

 そんな事を話しながら様子を見ていると、静かに近づいてくる人影がひとつ。

 とりあえず排除すべき相手ではないから、協会の連中も動いてはいないが……

 

「……お前も京都にいたのか」

 

 私とさよが座っているベンチの後ろに、並べて置いてあるもう1つのベンチに座ったのは、フェイト・アーウェルンクス……の、はずだ。

 ぱっと見で中年に見えるのは、年齢詐称薬……だな。うん、久しぶりすぎて自信がないが、この感じは間違いないだろう。

 

「この近くにいたのは、偶然……とも言い切れないけど、会うためにいたわけじゃないよ。

 それより、メガロメセンブリアの工作員が邪魔なんだけど、処分していいかい?」

 

「ふむ、随分と直接的な話だな。

 邪魔という点は認めるが、処分した方がいいレベルなのか?」

 

「そうだね。この地域には色々と封印されているようだけれど、それを解いて暴れさせようとしているようでね。

 その中の1つが、ようやく儀式用に確保した場所のすぐ近くなんだ」

 

「ああ、【完全なる世界】の発動場所を潰されたくないのか。

 状況は理解してやれるが、残念ながら京都の警備は私の管轄外だ。呪術協会の方へ話を通した方がいいぞ」

 

「なるほど。それなら、そうさせてもらうよ」

 

 なるほど、メガロのネズミが邪魔になりそうだから、対処しに来ただけのようだな。

 それでもすぐに動く気はなさそうだし、雑談くらいはできそうだ。

 

「ところで、京都に来たのはネズミの対処だけなのか?」

 

「そうだね。工作員が動き回らなければ、僕が来るのはもう少し先だったはずだよ」

 

「今回はイレギュラーとして、それ以外はそれなりに順調なのか」

 

「造物主の期待通りかはともかく、それなりに人は集まっているよ。

 賛同者がいるからこそ、場所の確保もできているんだ」

 

「それはそうか。

 場所は、割と自由になるのか? 京都は魔力だけでなく、封印やら結界やらも多い。大掛かりな儀式魔法を使うには面倒が多いはずだが」

 

「聖地だって似たようなものだよ。ここは比較的きちんと管理されている方だから、むしろやりやすいくらいだね。

 それに、とりあえず必要な魔力さえ集められたら、後はどうにかなるかな」

 

「一応、後に残る者は考慮しろよ?」

 

「大丈夫だよ。人がいる場所で行う儀式は、大した規模じゃないんだ。

 僕が不要な程度にはね」

 

「あー……本番は、お前はどこにいるんだ?

 どこかの聖地か、それとも魔法世界か?」

 

「魔法世界だね。

 【完全なる世界】の維持に必要なものは、造物主が作成したんだ。それを動かすのも面倒だ」

 

「造物主謹製の何か、か。地球に持ち込もうとした事がばれた時点で、大問題になるだろうな。

 面倒というのは、そういう対処も込みか」

 

「それ以上に、設置場所も問題になるね。

 起動に必要な魔力を考えると、どうしても聖地かそれに近いところじゃないと難しいんだ」

 

「強行すれば間違いなく現地の魔法組織と衝突する条件だな。

 そうなれば人を集めるのは無理になるだろうから、魔法世界でというのは無難な選択か」

 

 あっちはあっちで、魔力の多い地域は人か魔物の類が多いんだが。

 まあ、魔物関係に対処できる実力はあるだろうし、人の相手よりは魔物の方が楽なのだろう。

 

「そういう事だね。

 さて、早くここの魔法組織に話を通して、工作員を駆除してしまいたいからね。そろそろ行かせてもらうよ」

 

「そこまで危険な状態なのか?

 まあ、そいつらのせいで協会の連中もバタバタしているようだしな。いろんな連中が色々と企んでいるだろうから、波風が立たない程度に協力するのが無難だろうな」

 

「忠告かい?

 僕達も事を荒立てたいわけじゃないけど、話をしてみないと動きもわからない……何にせよ、話が通るまでに時間がかかりそうだ。急がせてもらうよ」

 

 行ったか……うん、中年の恰好であの口調というのは、どうにも慣れんな。

 漫画だと青年か成人くらいの描写はあったと思うが、信仰宗教もどきみたいな何かで人を集めるには、若造では難しいか。

 

「……今の、誰?」

 

「レイか。まだ気配を探れる距離だが、隠れていなくていいのか?」

 

 フェイトが来る少し前に、他の生徒に紛れて離れていたはずだが。

 外国からの観光客も多いし、そもそも探される理由もないから、気にされたくなければそのまま紛れているべきだ。

 

「たぶん大丈夫。

 それより、今のは人じゃない気がする。誰?」

 

「あー……造物主の部下の人造人間みたいなもの、で通じるか?

 だいぶ前に一応という程度で伝えたと思うが、究極の現実逃避魔法を渡されて、その発動のために動いているだけだな」

 

「現実逃避……いいの?」

 

「少なくとも、本人は幸せな気分でいられるらしいぞ。誰かさんは麻薬と同じだとか言っていたがな。

 本人はこの世界から居なくなるし、後から入るのも不可らしいから、麻薬よりはマシだろう。犯罪者共の資金源に直結しないという点で」

 

「行ける行ける詐欺は?」

 

「魔法が公開されたら、若返りの薬と言って年齢詐称薬を売る方が簡単だろう。

 むしろ、生贄やらを集める名目に使われる可能性を考えるべきだろうな。何をやろうが引っ掛かる間抜けはゼロにならんし、あいつらが何もしなくても似たような話で誘う詐欺師は現れるとは思うが」

 

「随分、悲観的」

 

「いつの時代も、一定数の阿呆はいる。それ以前に、世界が大きくなりすぎて、1人で把握できる範囲なんてその一部でしかないしな。

 まあ、あれだ。普通は100%なんてありえない、だ」

 

「100%は無い、という言葉も100%信じてはいけない……」

 

「全知全能の神は自分が持ち上げられない重さの物を作ることができるか、と同じ性質の禅問答だな。世の中はそんな矛盾だらけで、その中を進むのが人生だ。

 そして、深く考えようにも集合時間は待ってくれないわけだ」

 

「それは大変」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 夜。

 嵐山の古い旅館の近くで。

 悪魔さんが。

 

「あ、いいの入りましたね」

 

「それでも大したダメージにはなっていないな。随分と頑丈だ」

 

 小太郎に殴られていた。

 ……ここで、ヘルマンなのか。

 しかも、小太郎と一緒に戦っているのは月詠なのか。

 

「惜しいですね、今のはもうちょっと踏み込めていたら首を切れそうでしたけど」

 

「いや、足場を荒らされているから、あれ以上踏み込むのは難しかったと思うぞ。

 隠れて見ている連中も、それほど問題とは思っていないようだしな」

 

「神鳴流の師範って、実質的に監査してる保護者ですよね。

 呪術師の人は……封印担当か、いざという時の治療部隊でしょうか……」

 

 私はというと、部屋でのんびりと戦闘の様子を観戦中だ。

 部屋にはネギが来ていて、同室のさよは見回りのため部屋にいない。分霊やらでも問題ないはずだが……余計なお節介というやつだろうか。

 

「あ、そういえば、お昼にフェイトが来てたんですよね?

 工作員がどうとか言って」

 

「ああ、そうだな。そっちはそっちで、別の場所で戦闘中だ。相手は西洋系の魔法使いのように見えたが……というか、捕獲も終わっていて、協会の連中が尋問中じゃないか」

 

「封印がどうの、でしたっけ?」

 

「封印の解除は……されていないな。

 場所もさほど荒れていないし、荒らされたくないという話は本音だったのだな」

 

 フェイトが得意なはずの、土系の魔法すらほとんど使ってないようだ。

 水系だけで対処できたからだろうが、結果的に、地面などにも戦闘の跡がほとんど無い。

 

「それにしても、エヴァさんが気にしていた修正力でしたっけ。

 今回は随分と頑張ったんじゃないですか?」

 

「まあ、3Aとフェイトが京都にいる、というだけで大金星だろう。

 あとは、小太郎と月詠だが……本人の適性やらがそっち方向なら、なるべくしてなったとも言えるぞ」

 

「いえ、状況も頑張ってますよ。

 フェイトと呪術協会の人が手を組んで西洋の魔法使いと戦うとか、封印を解こうとするとか。

 ヘルマンは、この辺で出しておかないと再現が難しい、とかです?」

 

「そこは私に聞かれても困る。それに、村の襲撃イベントがここに来たと考えることもできるな。

 状況としてはそっちの方が近いだろう」

 

 一応ネギもここにいて、元老院の阿呆がヘルマンをけしかけてきたわけだ。

 ナギやら護衛やらもいるが、原作でも村自体が護衛のような感じだったし、ナギも救援に来たわけだから、現状と全く異なるとは言えないはずだ。

 

「じゃあ、部外者の侵入を邪魔する小太郎くんと月詠ちゃん、ですね」

 

「そうなると……この後は、仮契約騒ぎがあったり、呪術協会が襲撃されたりするのか?

 明後日には私とネギが本山に行くわけだし」

 

「仮契約は扇動する人がいませんよ?」

 

「既に朝倉がこちら側だしな。

 お前もあんなやり方で仮契約をする気は無いだろう?」

 

「無いですね。仮契約するならエヴァさんとがいいですし、本契約の方がもっといいです」

 

「政治的な問題やらは、解決していないぞ」

 

「わかっています。だから、すぐに契約しようとか言わないよう我慢してます」

 

「我慢しないといけないのも、どうなんだ?」

 

 暴走していないだけマシなのか、暴走しそうな爆弾を抱えているのを不安がればいいのか。

 諦める様子が全くないのは、もう諦めるしかないのか。

 

「でも、ボク達が明後日に行くことになったのって、工作員な人たちに対処する時間が必要だからですよね?

 それこそエヴァさんが指揮してぱぱっと対処しちゃった方が早いんじゃ……」

 

「それをすると若い連中が育たないとか、呪術協会を支配しているように見られるとか、色々と問題が出るんだぞ」

 

「エヴァさんの独裁でいいのでは?

 その方が、今より過ごしやすそうです」

 

「なんでそんな面倒なことをせにゃならんのだ。

 私は、それなりに優秀な連中の陰で適当にやっている方がいい」

 

「そんなー」




さすがに色々と限界だったため、PCを新調しました。自作機なんで中身の入れ替えですが。
8年ほど前の省電力版Athlon+マザボ搭載グラフィック+SSD(以前HDDが不調になったため買い替えていた)から、Ryzen5&VEGA11+SSD(再利用)になって、SSDってこんなに速かったのかと実感しました。CPUも十二分の性能、グラフィックは……とりあえず困る要素がないくらい。
結果。今時の構成ってはえぇぇぇぇぇ! 超快適です。
これでまた、(HTML5になってまともに動かなくなってた)艦これや、(アクセラレーションが無いとパワーが足りず、でも古すぎてブラウザがきちんと使ってくれなくて絵が出なくなってた)ニコニコやようつべを楽しめる……べ、べつに投稿がまた遅れかけたのはこのせいじゃモガモガ


2023/04/06 見られとか→見られるとか に修正

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