金色の娘は影の中で   作:deckstick

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始動編第04話 第2形態

 隠遁生活が20年目に突入した。

 オットー・マクダウェルが10年以上かけてロンドン南東の海に面した領地をもつ貴族と交流を持ち、合同で海賊が主要顧客の宿マーメイド・インをオープンさせたり、オットー・マクダウェルの子供が生まれたり、その子供たちにおねえちゃんと懐かれたり、口調を矯正したつもりが普段は漫画のエヴァンジェリンに似た感じになってしまったりと、まあまあめでたい事が多いと思っていた、そんなある日。

 空には大きな月が輝き、私は……

 

「……どうして、こうなっているのだ……」

 

 私は月を見上げながら、私を見下ろしていた。

 何を言ってるのか分からないと思うが、心配するな。私にも分からん。

 

「外から見えるだけでも、かなり大きな魔力を感じます。

 ようやく魔力が馴染んだ、という事でしょうか?」

 

 隣に浮かぶゼロが、不思議そうに私を見ている。

 だが、話はそんなレベルではない。

 

「私は……ヴァンに、月と同化したと言われていた。

 どうも、それを甘く見ていたようだ」

 

「というと?」

 

「……恐らく、月の視点として、私を見下ろしている私がいる……と言う表現が一番しっくりくるだろうな。

 というか……月から見える範囲ならどこでも見放題……なのか?」

 

 いや、事実として見えているのだから、疑問を持つ余地も無いのだが……

 ん? 転移の……この魔力は、ヴァンか。

 

「おひさ~」

 

 窓の外から私の顔を見付けると、しゅた、っとどこかの軍の敬礼をするヴァン。

 相変わらず悪戯小僧系の笑みを浮かべてる辺りが、どうにも小憎たらしい。

 

「久しぶりだな。

 来たのは、この状況の説明だな?」

 

「そうだよ、無事にリミッターが外れたみたいだからね。

 おめでとう、これで月との同化が完了したはずだよ」

 

「その効果は何だ?

 日光を浴びても大丈夫とか、その程度ではない様にしか思えん」

 

 増えた魔力はともかく、増えた視点は異常だ。

 

「うーん、予想でしかないんだけど……間違ってるかもしれないと思って聞いてよ。

 まず、僕の実体験から言うと、魔力やらが動かせる範囲なら割と自由に転移出来るんじゃないかな。影とか水とかをゲートにするみたいに、自分の魔力もゲートに使えるみたいなんだよね。

 普通の人だと狭くて使い道が無いけど、今のエヴァにゃんなら、月の魔力が強い場所には行けるんじゃないかな?」

 

「月の魔力が強い……夜で月が見える範囲、くらいか?

 そうなると……」

 

 今は満月の夜が始まってしばらくした頃だ。月から見る範囲は、ヨーロッパからユーラシアのかなり広い範囲……か。

 試すにしても、まずは近距離からだな。屋上……あっさりと成功か。

 魔力の消費も気にならないレベルだったし、少し離れてみるか?

 手頃な目標は……

 

「エヴァにゃん、先に説明を聞く気は無いかな? かな?」

 

 ……追ってきたのか。

 

「実験はいつでもできるから、予想だけでも聞いておいてよ。

 えーと、部屋に戻る?」

 

「ここでいい。認識阻害や防音の結界は展開してあるし、外の空気が気持ちいい。

 こんな気分は久しぶりだ」

 

 そもそも、なるべく外に出ないようにしていたのが原因ではあるんだが。

 認識阻害も完璧にできていたわけじゃないし……さっきまでは魔力量も心許なかったからな。

 

「そっかそっか。うん、今日は月も良く見えるし、いい感じに同化したんじゃないかな。

 というわけで、月が大丈夫な事は、概ね大丈夫になるはずだよ」

 

「……意味が分からんぞ」

 

「簡単に言えば、日光を浴びても大丈夫、間違いなく耐久力が上がってる、多分毒も効かない。

 きっと宇宙に放り出しても問題無いんじゃないかな」

 

「……ますます意味が分からん。チート臭が漂うらしいと理解したが、月が大丈夫なら私も大丈夫とは、どういう理屈だ?」

 

「そりゃあ、エヴァにゃんは月と同じ存在になったんだよ?

 宇宙にあって、日光を反射して輝く、無機物の月だよ?

 隕石がぶつかっても、ちょっと怪我する程度だよ?」

 

「その理屈なら……とりあえず、日光と毒は理解しよう。

 だが、隕石は圧倒的な大きさがあってこそのはずだ。少なくとも月が地球とぶつかったら無事では済まんし、隕石と比較すると私は小さいはずだ」

 

「うん、見た目ではそうだね。

 でも、魔力的に月と同化したって言ったよ。よーするに、エヴァにゃんは月なんだよ。

 その体は端末的な? 月が無事である限りは、体が完璧に壊れても簡単に作り直せるはず。僕のこの体もそうだし」

 

 やはり月から見下ろす視点は、月としての私の視点という事か。

 しかも、この体は末端に成り下がった、と。

 済まない、ゼロ。この体の意味が、私の魂をこの世界に呼び、チート化するための触媒に成り下がってしまっていたらしい。

 

「というわけで、エヴァにゃんに提案があります!」

 

「自分で胡散臭いと思わないのか?」

 

「思わないなぁ。

 えっと、エヴァにゃんには旅を進言するよっ!」

 

「……旅?」

 

「そう。認識阻害だって、そこまで便利じゃないんだよ。知ってることはごまかせないから、あと5年もしたら、成長しないお姉ちゃんに違和感を持たれるんじゃないかな。

 それに、引き籠ってたら能力の確認もやり辛いし、そろそろ未来に向けた組織を作り始めた方がいいかなって」

 

「あまり眷属を当てにするな」

 

 支配能力は無いし、心情的にはあまり増やしたくないんだ。

 

「当てにするよ? その為に可能な限り頑張って調整したんだから。魔法使いに対抗可能な裏組織を作るには、最低でもそれくらいの力は必要だと思ってるし。

 それにさ、魔女狩りだって本当に悪さをする魔法使いがいるから激化してるのも事実なんだ。

 実際に、いるんだよ。正義正義と騒ぐ狂信者とか、英雄の眩しさに目を潰されちゃって思考停止した盲信者とか。やってる事は、どっかのテロ組織と変わんないよ」

 

「……頭の固い連中はいたと思うが、そこまでこけ下すほどか?」

 

「現実を見ちゃうとね……2000年頃の価値観で中世を見ちゃダメなのは分かるけどさ。

 奴隷がいて、賞金首がいて、正義を騙る悪人がいるんだよ?」

 

「元の時代にも、社畜や途上国の労働者、懸賞金をかけられた犯罪者、詐欺師同然の政治屋がいただろう。

 人がやることは、そう変わらんさ」

 

「ああっ、エヴァにゃんが黒化してるっ!?」

 

「貴族と渉りあうためのあれこれを学んで、変わらずいられるほど強くないだけだ。

 元々綺麗だったわけでもないが……その点、ゼロはすごいな」

 

「本来のエヴァンジェリンだからねぇ。

 で、話を戻すけど、正義を騙るバカ……ある意味では厨二病の犠牲者だけど、そいつらに利用された人とか、暴走の犠牲になった人を、少しは助けたいんだ。

 本来は、僕が厨二病を止められたらいいんだけど……まだ魔法世界を救う目途も付いてないし、説得できる自信もないから」

 

「そのついでに私の眷属で組織を作り、火星を何とかするための技術や資本を揃えようという魂胆か」

 

「その通り。えっと、えぐざくとりー?

 超が来るかどうかも分からないし、来た時に協力させられるくらいの組織力は必要でしょ。多少は未来を知ってるから、どこに力を入れるべきかとか、ある程度は判断できると思うしさ。

 それに、混乱を回避するために必要なのは、組織力だよ。間違いない」

 

 テラフォーミングする事も大変だが、その情報が広まった際の混乱やら横槍か……確かに鬱陶しいな。

 表の権力者は入れ替わりも激しいし、今から動くとすれば、最終的に金融やら石油やらを押さえるのが理想か?

 いや、その為のコネは必要か。どうせならイングランドの王室が……そのまま生き残るのか? 確か色々変わってた気がするが。

 それならむしろ、今からシティに食い込み、アメリカの開拓時代に手を出す方が……

 

「おーい、エヴァにゃん?」

 

「……何だ」

 

「えっとね。いろいろ言ったけど、中心的な役目を任せる眷属をいろんな国で作って、組織作りはある程度任せていいんじゃないかな。

 支配力はないけど、よっぽどひどいことをしない限り、裏切られることはないハズだしさ。

 だって、親子並みの親愛感情だよ?」

 

「それは、そうなのかもしれんが……」

 

「あ、そうそう。

 今はまだいいけど、戦国時代くらいには日本に来て、世界樹の周りを押さえてくれると助かるかな」

 

「メガロ相手にぼったくれという事か?

 テンプレだな」

 

「違う違う。その意図もないわけじゃないけど、それはおまけ、副次効果だよ。

 世界樹の魔力って、精神に干渉しやすいんだよね。認識阻害とか、発光時の告白成功率120%とかも、どうもそのせいみたいなんだ。

 だから、制御を手伝ってほしいなーと」

 

「造物主が気付く可能性は?」

 

「日本に興味がないみたいだから、ほぼ無いかな。僕が知ってる限りでは、日本に来たことは1度もないし。

 造物主は地球で転移するより、魔法世界で転移する方が楽だからね。世界樹の地下にオスティアへのゲートはあるけど、大抵はメガロ近くのゲートとウェールズを行き来してるし、稀に中東に行くくらいだよ。

 だから、ぶっちゃけここよりも日本の方が、目に留まりにくいと思うよ。エヴァンジェリンに目を付けたのも、気軽に行ける範囲で適性が高そうな人を探したからだし」

 

「……聞けば聞くほど、どうしてゼロが犠牲になったんだと思わされるな。

 だがまあ、旅して組織を作る理由は理解した。その範囲は……魔法世界を含むのか?」

 

 火星に手を出した時の混乱は、地球だけでは済まないだろう。

 前提によっても色々変わるが、少なくとも、魔法世界も無関係ではいられないはずだからな。

 

「メガロの増長を防ぐ必要があると思うし、いざという時にはヘラスの混乱を抑える必要もあるかもだし……

 うん、必要だね」

 

「だろうな。

 順序としては……まずはヨーロッパ、次に魔法世界、日本はその後でも大丈夫か?

 旅行の前に、能力の把握もしたいしな」

 

「こっそり動く必要があるし、急がなくてもいよ。

 んじゃ、とりあえず色々と調べてみる?」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その後、ヴァンと調査した結果。

 

「うーん、予想以上にチート?」

 

「だな……」

 

 私という存在は、非常識なものに仕上がっていたようだ。

 

 例えば、使える魔力。

 個人という範囲では、ほぼ無尽蔵と言ってよさそうだ。上位の魔法はまだ覚えていないが、現状の私個人で使える魔法程度では、減った気が全くしない。

 眷属達への供給量もかなり増えているのに、だ。

 実際は月の魔力にも限りがあるのだろうが、魔法世界にすべて突っ込むとかのバカな事をしなければ、そうそう無くなりそうにないのは事実だ。

 

「さすがは、星の魔力だね。

 全属性にそれなり以上の適性があるのと合わせて、まさに魔力チート!」

 

「普通なら過剰だと思うが。

 それに、お前は世界樹を通して地球の魔力を使えるはずだろう?」

 

「僕は間接で使わせてもらってるだけで、エヴァにゃんは同化だからね。

 エヴァにゃんの方が、制限は少ないと思うんだ」

 

「どうだか」

 

 例えば、転移能力。

 月から見える範囲へという条件は付くが、いつでもどこからでもどこへでも移動可能の様だ。移動元から月が見える必要すら無いようだから、実質的に、半日以内に地球上のほとんどの場所へ転移可能という事になる。

 消費はほぼ一定。移動時間は恐らく2秒から3秒でこれも同じ。手荷物やしっかり抱えたモノくらいなら一緒に転移も可能だから、1人くらいなら運ぶことができる。

 恐らくは月を経由した転移であり、天気による制約はあるが、影の転移魔法も飛行魔法もある。そうそう問題にはならないだろう。

 

「んー、予想以上ではあるかな」

 

「お前がここに来る転移は、地球の魔力を使ったものに見えるぞ。

 似たようなものだろう?」

 

「もうちょっと制限が大きいと思ってたんだよ。

 移動元からも月が見えるのは必須だと思ってたし」

 

「それは確かにそうだな」

 

 例えば、アーティファクト。

 化けた。内容ではなく、使い勝手が。

 月経由の転移が可能になり、数を増やした時の能力劣化を魔力によるブーストでカバーする余裕もできた。しかも、魔力の消費は自分で行使する時よりも多くなるが、蝙蝠を介しての魔法行使も可能だった。

 これにより、諜報や索敵の能力が飛躍的に上昇した上に、戦力として数えることも可能に。

 ブースト時の隠蔽に難はあるが、要するに、王城上空に直接転移してくる魔力無尽蔵仕様魔法使いの諜報員(外見は蝙蝠)なんて事が可能になった。

 

「最初に仕込んでおいてよかったでしょ?

 ほめてほめて」

 

「はいはい、えらいえらい」

 

「おざなりだなぁ」

 

 例えば、月としての私。

 月からの視点は、ずっと維持されている。これはつまり、月から見える範囲において、意識さえ向ければ上空からの監視が可能という事だ。

 しかも、その範囲で魔力を動かすこともできそうだから、ひょっとすると、ほぼ任意の場所で魔法を発動させることも可能かもしれない。

 

「お天道様ならぬ、お月様が見てるっ!」

 

「マリア……?」

 

「おっと、キリスト教の国でそれはいけない」

 

 例えば、マルチタスク。

 蝙蝠と月で常に思考が分割されているような感じになっているからか、その思考を利用してマルチタスクじみた魔法の並行行使ができた。

 制限は、蝙蝠を使うなら蝙蝠の近くで発動させること、月を使うなら月から見えること。

 以前の魔力量では基本的な魔法すら発動させられないほど効率が悪いが、魔力量がチート化した今となっては、これもチートじみた効果を発揮するのは確実だ。

 

「マルチタスク、僕もやりたいんだけどねー」

 

「ある意味では偶然の産物だ。

 欲しければ、自分を魔改造することだな」

 

「それはやりたくないなぁ」

 

 例えば、眷属。

 マシューとリズの2人だが、魔力の供給量が増えた結果、真祖の吸血鬼相当という看板にふさわしい能力を発揮するようになったようだ。

 今は技術的に無理でも、将来的には上位魔法を軽々と連発するような、頼もしい……

 

「頼もしすぎだろう!?」

 

「エヴァにゃんの片腕になるには、これくらいできないと」

 

「はい。これでエヴァ様の守りを厚くできますし、ゼロ様にも一層美しく着飾っていただけます!」

 

「……リズも程々にな」

 

 まとめると、増えた魔力を扱うための練習が必須という事だろう。

 同時に、情報収集のために蝙蝠を飛ばし、旅の準備を始めよう。




それでは皆さま、良いお年を。
年越しギリギリの投稿になったのは、隔週投稿のタイミング的に仕方なかったんや……


2016/01/17 転移に関する説明を変更(能力自体の変更は無し)
2018/12/17 使用された人→利用された人 に修正
2020/01/29 できから→できるから に修正
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