金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第22話 お祭りの横側

 お祭りの、初日を迎えた。

 正確には初日の早朝だから、開会式も始まっていないが。

 そんな時間から何をしているかというと。

 

「ご注文の、モーニングセットネ」

 

「モーニング……それでも肉まんなのか」

 

「ニンニクなしお肉控えめ野菜増量ヨ」

 

「んー……まあ、これはこれであり、か?」

 

 鈴音&四葉の屋台で、監視員業務開始前の腹ごしらえ、という事になるだろうか。開会式で魔法の公開を行うことになっているが、私の仕事はここで阿呆が湧かないか監視し、もし湧いたら対処する事だ。

 広い広場の片隅だし、問題が起きやすい場所を実力面で安心できる私や私の戦える世話係達に任せたいらしい。

 ついでに、阿呆が湧いて私達が魔法やらを使うのを実際に見せる、デモンストレーションも兼ねたいようだ。

 あわよくば、私の情報を表に少し出そうという魂胆もあるように思う。

 最悪の事態……経済活動の麻痺やらが発生した際の、食糧問題を緩和する拠点としての屋台を守る意味もあると言っていた。

 まあ、あれだ。組織の上の連中は、色々考える必要があって面倒だという事だな。好きに喋るために、若干の認識阻害は行っているが。

 

「本来は、エヴァさんも上の人ですよ?」

 

「……いや、本来の立場的には、お前がここに居ること自体がおかしいからな?

 しかも、そんな服装で」

 

 ウェスペルタティア王国の女王の第一王子であるネギが、どうしてこんなところで小袖……江戸時代後半の召使いの少女のような服装……を着て、ウェイトレスのような仕事をしているのか。

 普通に考えれば問題しかないと思うが、客にナギもいるんだよな……ネギが近くにいたのは、ナギのモーニングセットを持ってきたからだし。

 

「研究用の資料って、いい値段するんですよね。

 ですから、アルバイトです」

 

「内容的に、援助とか出資とかの話もあるんじゃないか?」

 

「あくまでも趣味なので、そういう話は断っています。

 自由に研究していると、方針の変更なんかもありえますし」

 

「あー、出資者の意向が枷になるのは嫌なのか。

 というか、あいつらはそういう枷をはめたいんじゃないか? 違法行為に走らないよう監視する意味で」

 

「そうみたいですね。エヴァさんに近付くにはそういう監視にも慣れる必要があるって、はっきり言われたこともありますし」

 

「立場があると色々面倒も多いし、厳しいやつもいるからな。

 本来はナギが保護者として動くべきだろうが、性格的に文字通り見守るだけだろうし……」

 

 その辺を言ったのは、クレメンティーナやイシュトあたりだろうか。

 何も考えてなさそうなナギではないのは確実だし、保護者であるナギがまともな指導を行えるとは思われてないから、そういう事を言われたのだろう。

 

「でも、これはあくまでもボクの趣味で、個人的な目標です。

 状況が変わればプランの放棄や方針の変更なんかもあり得ますし、今日を境になんて可能性だって考えられます。そんな状況でお金や支援を受け取るのは心苦しいです。

 心配や忠告の意味も分かるので、緩い勉強会的なものには参加してますし」

 

「勉強会、か。それで納得してもらえたのか?」

 

「研究者とかが好きに集まるお茶会みたいなもので、こんなことをやったとか、あれは良かったこれは駄目だとか、雑談しながらの情報交換がメインです。そこで何をやっているかという話をして、ある程度情報を共有できれば最低限はクリア、らしいですよ。

 出す情報が減ったら怪しい、みたいな感じかもです? そもそも資料の取り寄せとかを頼んでいますから、変なものを依頼したらお説教だと思いますし」

 

「そういうやり方でのチェックはされているのか。

 ナギやらが余計な手を出した場合は……」

 

「それこそ、王国の責任になるんじゃないですか?

 ボクがここに居れなくなる、もセットで」

 

「まあ、そうなるな。

 その辺の柵は考慮されているのか」

 

「たぶん、そうです。

 そもそも、エヴァさんに近付く研究のために離れる事になるなら、本末転倒です。知らなかかったとか、気付かなかったとかならともかく、見えている地雷くらいは避けます」

 

「連中が納得したのも、それがあるからなんだろうな……

 ところで、護衛連中用のものも準備できたようだぞ?」

 

「あ、はい、お仕事してきます」

 

 いや、別に無理に来る必要は無いんだが。

 というか、ここには私とナギだけでなく、護衛連中もいるわけだ。要するに雪花やイシュト達、タカミチ達、学園側が用意した人員もいるから、人数は割と多い。

 少し裏側寄りの場所とはいえ、屋台のテーブルとは明らかに別のテーブルセットをいくつも用意している点にいちゃもんを付けてくる阿呆もいるかもしれんが……強面のガンドルフィーニがいるのは、その対策だったりするのだろうか。

 

 その後は、適当に喋ったり、本やらを見たりしつつ、開会の時間になった。

 人の動きは活発になっているが、問題は発生していない。ここまでは基本的に昨年までと同じだから、問題が出る方がおかしいとも言えるが。

 そして、開会式が始まる。

 普通に司会が進行する、ごく普通の式典だ。来賓である当代の幕田家当主や学園の理事長やらの後ろの方に、詠春や近右衛門を含む魔法関係者がちらほらとテレビに映っているだけで。テレビや客席から見えないところに、大物がぞろぞろいるだけで。

 

「あ、始まりました?」

 

「ああ、始まったな。

 最初は普通に開会の挨拶だから、見ていて面白いものではないぞ?」

 

「でも、ネットだともうザワザワしてるネ」

 

 ネギと鈴音も来たのか。まあ、朝食と昼食の合間の時間だからか屋台は暇そうだし、問題はないのだろうが。

 というか、ネットがざわつく理由は、あれだろう。

 

「ぬらりひょんがいる、だろう?」

 

 そもそも今までは、テレビの映像を誤魔化すのは面倒という理由で、基本的に表に出ていなかったはずだ。出るなら認識阻害や幻術で普通に見えるようにしていたはずだし。

 そんな怪しいナニカが小細工なしの状態で見えてしまえば、騒ぎになるのは当然だろう。

 

「ご明察ネ。

 あの頭は反則ヨ」

 

「話のネタとしては、強力だ。

 撒き餌としては最強だと思うぞ」

 

「見てわかりやすい、異常なものですよねー」

 

「不謹慎だケド、身を張った芸人のようネ」

 

「あれはあれで、割と思いつめた結果らしいからな。ネタ扱いは不本意だろうが……どう見ても、ぬらりひょんだよな」

 

 魔法に関わっていない生徒連中がテレビを見ていたら、校長はあんなのだったっけとか騒いでそうだが、今は出し物、お化け屋敷の最終調整という名目の魔法対応調整をしている……のは、魔法の関係者だけか。

 営業開始までの暇潰しか何かでテレビを見ている魔法関係者以外の連中が、何やら騒いでいるようだが……蝙蝠で外から見てるだけだと、声は聞こえんな。

 

「こういう式典でいつも思いますけど、来賓の数人以外の電報とかって、ぶっちゃけ売名行為ですよね?

 お墨付きの意味としても、格で負けますし」

 

「数は力とも言うヨ。

 というか、ものすごく上から目線の批判ネ」

 

「各方面の協力という名目を掲げる意味もあるんだろう、たぶん。

 というか、主賓の国王だろうがアピールの一環だろう。人気取りという意味では、企業の子育て支援やらと根底は変わらんぞ」

 

「気持ちよく活動できる環境を維持するのは、為政者や経営者として当然ネ。

 結果的に好まれるとしても、人気だけが目的ではないヨ」

 

「住民や従業員の満足度。企業や住民、求人の集めやすさ。それこそ鶏と卵のような関係だと思うぞ?

 まあ、人気取りだけでは行き詰まるのも政治や経営ではあるんだが」

 

「目先だけではだめですし、理想を追う負担が大きすぎてもだめですよね」

 

「人を効率よく使うには、いかに人を気分よくさせるかだからな。

 命令されて嫌々やるより、やりたくてやる方が気分も効率もいいだろう? その中で偶に嫌な事があっても、必要だと理解していればそれなりにこなそうとする。それがもっと嫌な事を回避するためなら猶更だ」

 

「飴と鞭みたいなものネ。

 でも、飴だけだと堕落するヨ」

 

「そこの匙加減が腕の見せ所ではあるが、万人共通なんてものはないからな。

 少しの飴で堕落する者も、大量の飴で満足しない者も、少しの鞭で折れる者もいる。鞭打たれて喜ぶ変態だっているかもしれん。

 ありがちな話だが、人の数だけ価値観があり、それぞれの正義がある。正解が常に1つなら、世界はもっと単純だ」

 

 そして、白と黒しかない世界は、とてつもなく窮屈なものになるのだろう。

 もとの濁りの田沼恋しき、と詠われたのは江戸時代の半ばを過ぎた頃だったか? 汚職や飢饉対応の失敗で批判されつつもその方が良かったと思われる時点で、正解がぶれているわけだし。

 

「どこかの名探偵は、真実は1つだって主張してますよ?」

 

「主観や感情を含まない事象であれば、そうであるものが多いだろうな。だが、それは数学や物理学の世界だ。それすらシュレーディンガーの猫のような確率で表現する領域があるしな。

 あれは、自分が判断する範囲では1つの答えを出す、という宣言のようなものだろう」

 

「世の中って世知辛いですね……」

 

「というか、探偵にできることは警察よりも少ない。犯人や動機を特定し、ある程度証明するところまでが限度だろう。この後に続く、司法の領域……だれがどれくらい悪いのかについても、踏み込んでいないぞ?

 それ以上を求めるなら、司法制度に喧嘩を売ることになりかねん」

 

「権力は、個人がいくつも持つべきではないということヨ。

 逆に言うト、個人や特定組織に権力が集まると、それ以外の人や組織が抑圧されるという事になるネ」

 

「極端な例が独裁体制とか軍事政権ですよね。

 そういう国は、あまりいい話を聞かないですし」

 

「まあ、そうだな。

 それでも、悪い事しかないわけでもないんだぞ。国としての決断が早くできるとか、責任者が明確で今のトップが誰かわからんような状態になりにくいとかな。

 アメリカの大統領制から100年遅れて始まった日本の議院内閣制。43代大統領と会談するのは、56人目の首相だ。正直言って、変わりすぎだろう」

 

「権力を持ちすぎると腐るのは、歴史的な事実だけどネ。

 ただ、思い切った政策を実行するには、ある程度安定した権力と基盤が必要ヨ」

 

「日本は、56人の首相と4人の天皇だからな。国の象徴は長期安定、政治のトップは不安定だと言えるな」

 

 まあ、昭和が長すぎたとも言えるが。どうしてここまで極端なんだか。

 天皇がいるから政治が脆弱でも何とかなったのか、天皇がいるせいで政治が育たなかったのか。

 

「あ、公開はここからですか。

 随分と……豪華な顔触れですね?」

 

「世界の変化とそれに対応する力がある事を事実だと訴えるために、十分な説得力を持つ顔触れを揃える予定だ、とは聞いていたが……」

 

 さっきからいる幕田公国の国王は、別としても。

 日本、アメリカ、ロシア、中国、インド、ヨーロッパや中東や東南アジアの国々の、大統領や首相や国王。

 財閥やメガバンク、大企業の代表や会長。

 その他、国際的ではないがそこそこ大きな企業とか、規模はそれほどではないが有名な企業とか、いくらなんでも集めすぎ……

 

「ああ、全員を紹介するのは諦めるのか。

 詳しくはウェブでって、どこのCMだ」

 

 いやまあ、一応テロップは流れているが。

 

「ほら、売名じゃないですか」

 

「そこに話を繋げられてもな……」

 

「今回は、公開と対策に協力するという意思表明でもあるネ。

 問題が発生した時の責任と対策のリスクもあるシ、売名だけではないヨ」

 

「結果的に名前が売れる可能性は高いが、どんな意味かは賭けだな。

 色々なことを想定して準備しても、ここまで大きな変化には付いていけない者も多いだろうし」

 

「あー、だからフェイトを放置しているんですか?」

 

「いい逃げ道ではあるだろう?

 事が事だけに、徐々に広めるとか、根回しを十分にするとか、そういった事前準備ができないからな。追い詰められた人間が暴走すると厄介だが、ああいう逃げ道を私達が用意するわけにもいかない以上、アレに助けられる可能性はそれなりにあると思っている。

 私達の立場的には許されない手法である以上、黙認も難しいわけだが……批判しても法やらを盾に積極的な取り締まりはしない、程度になる。その辺はフェイトも納得済みだ」

 

「真っ黒な宗教法人ですか?」

 

「造物主という神に導かれ、悲しみに満ちた現世から理想の世界に行くらしいぞ?

 無暗に悲しみを増やさないためにこの世界にとどまる人になるべく迷惑をかけない、という教義も含むらしい。終末思想やらよりはだいぶマイルドで真っ当だな」

 

「真っ当……真っ当って何でしょう……」

 

「自分と他人の意見の違いを尊重し、かつ行動の結果を理解し、相手になるべく迷惑をかけないようにしながら、自分については主義を通す。

 他人を尊重し妥協点を探れるなら、真っ当と呼んでいいだろう」

 

 自分と一緒に他人の命も投げ出すイカレタ連中とか、加害者なのに被害者面する心臓に毛が生えた連中とか、お前のものは俺のもの思考などこぞのガキ大将みたいな連中とか、そんなのがうようよいる世の中だし。

 それが入れ知恵と損得計算の結果であっても、対話が可能な時点でマシ、尊重し合えるならとても良い。

 

「何だかやさぐれてるネ」

 

「一人で黙々と練習していると、ふとどうしてこんな事をしているんだろうと思う事がな?」

 

「あの、練習くらいいくらでも付き合いますよ……?」

 

「普通じゃない人間でも命に係わるレベルだぞ。

 当初の想定の上限ギリギリが確定、下手すればさらに上振れする可能性もあるからな……他人を考慮する余裕がない。

 まあ、あと少しだから、それまで位は我慢するさ……ああ、ここでアリカか。まあ、見た目が良く最も古い王国の女王というのは、いきなり人外が出てくるよりも無難か」

 

「インパクト不足でもあるけどネ」

 

「ただ、魔女裁判の裏側とか、言っちゃっていいんですか?

 最初だし、イメージって重要ですよ」

 

「後で言うよりは、だろうな。

 それに、どうして今まで裏でコソコソやっていたのかという突っ込みどころも……あー、だからここでテオドラなのか」

 

「地球世界に行くことができない、ネ。

 その状態での交流は一方的なものとなり、互いに不満が残る結果にしかならない。その状況の解決に目途が立った……まあ、間違ってはいないヨ」

 

「テオドラも王女だし、色々な組織と打ち合わせを行った上での発言だ。

 色々な国や組織と協力する態勢を見せているし、無暗に不安を煽らないための説明だろうな。陰謀論者なんかが大量に湧いて出そうだが」

 

「ある程度は仕方ないヨ」

 

「ワイドショーとかネットの掲示板が賑わいますね」

 

 さて、これで後戻りは不可になったな。後戻りは魔法世界の切り捨てだから、元々選択肢として無いも同然だったが。

 それにしても、意外に近右衛門の頭をネタにしていないが……まあ、式典でネタを盛る必要も無いか。




花粉は敵。はっきりわかんだね(鼻水的な意味で
あと、なんだかとっても眠いんだ……(春眠、及び鼻の都合による睡眠不足的な意味で

2019/05/30 追記
このところ、仕事や私事に追われ、執筆する時間がほとんど取れていません。具体的には、指摘していただいた誤字の修正に1か月とかいう有様です。
この様な状態ですので、すみませんが、投稿は不定期とさせてください。


2019/05/30 以下を修正
 超食→朝食
 ぬらりひょう→ぬらりひょん
 胡麻化す→誤魔化す
 探偵にできるのは→探偵にできることは
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