金色の娘は影の中で   作:deckstick

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へい、お待ちっ!(マジで遅くてごめんなさい
敵は時間、気分はリハビリ。まだ不定期は継続中です。


魔法先生重羽ま編第23話 一歩ずつ

「暇だな……」

 

「普段屋敷に引きこもってるのだかラ、暇潰しは得意だと思てたヨ」

 

「祭りという餌が目の前にあるのにここを動けないジレンマがだな」

 

「やっぱり普段と大して変わらないネ」

 

 盛大にぶっちゃけた開会式だったが、いきなり世界がどうかなるわけもなく。

 続けて魔法に関する説明が行われているが、祭りに来ている人間でそれを重視する者は多くない。

 ただでさえ祭りで浮ついた雰囲気だから、多少の暴走すらも仕方ないと流される。

 結果として、普通に祭りを楽しんでいるような光景ばかりが見えるわけで。

 

「蝙蝠を飛ばしても、ここと大差ないからな……。

 いっそ、幻影を残して遊びに行くのもありか? もしくは、ここにあるだろうタイムマシンを使うか」

 

「前者は契約違反、後者はここに居なければならない時間自体は変化しないという問題があるネ」

 

「魔法も科学も、痒い所に手が届かんな」

 

「法や契約に反するのは、立場的に問題ヨ」

 

「人間とは面倒な生き物だな。他人との関係は煩わしく、なのに孤独では生きられない」

 

「人に限らない以前に、人じゃないネ」

 

「そうだな」

 

 鈴音とそんなことを喋っていられる程度に、店も混んでいないし、騒ぎらしい騒ぎも起きていない。国の窓口やらには問い合わせやらが殺到しているようだし、ネットの方もサーバーがやばいとか言っているようだが、それは私の管轄じゃないから無視でいいだろうし。

 というわけで、騒ぎを口実に出歩けるかと、蝙蝠も多めに飛ばしているんだが……

 

「あ、やっぱり人力飛行機のコンテストは魔法なしなんですね」

 

「ん? ああ、一般参加がメインだから、先に魔法を教えるわけにもいかんしな。むしろ魔法禁止をルールに追加すると聞いている。

 というか、琵琶湖より狭いから飛距離が問題になるのは早かったな……」

 

 ネギが見ているテレビには、壊れて落ちた飛行機が映っている。

 このコンテストではよく見る場面ではあるが、そこまで大きくない湖で長距離飛ばれるのも問題になったりしていたな。

 

「何割かはペキって落ちちゃうんじゃないですか?」

 

「その辺が一般人の限界だが、たまにいるやたら飛ぶのが問題になるわけだ」

 

「軽量化と強度の確保は、両立が難しいヨ。

 だからこそ技術者が重宝されたり、安全を確保するための設計に多くの費用をかけたりするネ」

 

「設計、材料、製造、運用。妥協するとリスクが増える以上、飛行機が高いのはある程度は仕方がないし、運賃も相応の値段になる。

 もちろん、現実的な値段にしないと使ってもらえないという問題はあるがな」

 

「格安チケットにはリスクが、という話ですか?」

 

「いや、そもそも高すぎたら乗客が集まらん。値段に見合う価値があるなら別だが、高くて遅い乗り物に金を出す客は少ないだろうという話だな。搭乗時間や空港の立地まで含めても利便性があるか、とも言い換えられるか。飛行機自体は早くても安全を確保するための時間で相殺されました、では便利と言えん。

 まあ、そこで落ちているのは好きで作った物だ。自己満足といった価値はあるだろうし、この場と本人にとっては最重要だ」

 

 じゃなきゃ、毎年こんなに落ちていない。中にはテレビに出たいからとか思っている阿呆が混じっているのかもしれんが、それだけではどうにもならんのが技術の世界だ。

 

「現実って、めんどくさいですよねー」

 

「いくら技術者から見て素晴らしくても、何かの役に立たなければ価値を生み出せないからな。

 その辺が上手かったいい例が、エジソンか。何かをするためにはどのようなものが必要か、きちんと理解し準備したからこそ実業家として成功したわけだ」

 

「でも、失敗も多いですよ?

 コンクリートの家とか、死者との通信機とか」

 

「全てが成功するなど、それこそ神以外ありえんだろう。それに、全てが真っ当なやり方だったわけでもないしな。

 それでも、偉人と言われる程度の実績を残している。その点は凄いと思うぞ」

 

「それで、エヴァさんはどの程度関わっていたんですか?」

 

「私自身は、その頃もここで引きこもりだ。

 雑談の時に銀行にスポンサーになってみたらどうだとか言ってみたり、関係者が日本に来た時に扇子を渡してみたりした程度か?」

 

「そこ、最重要なところでは……?」

 

「直接は、何もしていないぞ? 金を出す決定をしたのは銀行、電球に扇子の竹を使おうと思ったのは本人だ。金額や使い方を考えたのもな。

 ところで、この映像を見てどう思う?」

 

 机の上に置いてあったタブレットPC……外見は最近売られ始めたXPでインテル入ってる系だが中身は超の魔改造品……を取り上げ、その点滅しているアイコンをいくつかつつくと、そこには。

 

「ええと、すごく……怪しいです……というか、危なそうです?」

 

「思想や思考的には、危ないで間違ってないネ」

 

「普通に祭りに来た風で麻帆良に入って、そこで暴れ始めたら私が動けるんだが……」

 

「国境の森に潜む白装束集団の時点で、叶わぬ夢ヨ」

 

「まあ、メッセージが警備隊から来ている時点であれだしな。

 これはあれか、捕り物でも眺めて暇潰ししていろというやつか」

 

「ですけど、白装束って、死ぬときの衣装ですよね?」

 

「その意味もあるが、狭義では神事で神主やらが着る衣装だ。

 襲撃のどの辺が神聖なのか、根拠は……聞いても理解できないだろうな」

 

 はっきり言えば、こういう過激な連中の思考回路は、どこかに理解できない部分がある。本人に無い場合は、組織的な圧力や何らかの弱みなどで強制されていたりするんだが。

 

「そもそも、このタイミングで襲撃してくる理由も不明ネ。

 魔法が公表された直後に騒乱を起こすのは、敵しか作らないヨ」

 

「考えられる可能性としては、魔法を悪者とすることで、敵である私達の敵を作りたい、といったところくらいか。

 っと、連中の情報が……あー、国粋主義を標榜しながらメガロの金で活動している阿呆共じゃないか」

 

「根本的に駄目な人たちってことじゃないですか」

 

「きっと日本人の代理人経由で、外国の文化や技術にかぶれる連中は許せない、日本の伝統を重んじる貴方達をぜひ支援したい、とか言われていい気になってるネ」

 

「ありそうですね……」

 

「私の関与は500年モノなんだが、伝統って何だろうな。

 幕田の連中だと、西洋東洋なんて区別はどっちの手法が有効か、あるいは馴染みやすいか程度の扱いだぞ。中級以上だと両方の手法を組み合わせるのは普通で、それも400年以上の歴史があるが」

 

「だから、スーツ姿でお札を使ってたりするんですね」

 

「職務中の服装は所属を示す記号だからな。

 私がいることもあって、幕田には西洋系の組織もある。正装がスーツのところもあるし、外からの視点で日本や幕田の良い点を取り入れているから、お札を使う事もある。

 ほら、不思議じゃないだろう?」

 

 さすがに、カソックを着てお札を使う事はほぼないらしいが。

 絶対に、ではないあたりが日本や幕田らしいところか。

 

「いいんですか、それ。

 そういうのが、伝統がどうのとか言われるところじゃ……」

 

「身分でも違いがあるが、陰陽や神社系の組織だと狩衣が主だし、寺院系だと法衣……袈裟と言った方がわかりやすいか。キリスト教系だとカソックや修道服だろうな。それが立場を示すものであり、伝統と呼ばれるものだ。

 政治や商売寄りの組織だと会談やビジネスで問題ない服装があるべき姿であり、西洋系の文化圏ではスーツが最も適したものだろう。

 それぞれの文化を認め、尊重しあいながら、良い点を受け入れていく。盲目的に染まるのでなければ、グローバルな社会では理想的だろう」

 

「じゃあ、あの人たちの白装束もいいんですか?」

 

「神事で着用する白装束は、派閥やらの世俗的なものを持ち込まない事を示すものだ。誰が行うのかといった部分やらで軋轢があろうと、少なくとも神事の最中には表に出さない事を示す、と言い換えてもいい。死に装束の場合も、世俗から離れる意味を持つしな。

 つまり、白装束で組織がどうの歴史がどうのと世俗に関わる事ばかりぬかしている阿呆共は、伝統という名の形にしか興味がないと自白しているようなものだ」

 

「つまり、ダメ、ですね」

 

「口先だけの連中なんて、こんなものヨ。

 大事なのは、声の大きさで負けて周囲に間違った知識を植え付けさせない事ネ」

 

「一言で言えば、マスゴミとそれを煽り煽られる阿呆共うざい、だな。

 拝金主義の現代で、崇高な志なんてものがどこまで通用するのかという問題はあるんだが……っと、ティーナからのメールか?」

 

 えーと……あー、うん。ヨカッタネー。

 

「なんだか、悟ったみたいな顔になってますよ?」

 

「チベットスナギツネみたい、とも言えるネ」

 

「いや……昨今の諸々から、いわゆるテロ組織に資金や物資を提供した者や組織も共犯として扱われる法律が、ロシアで成立しているんだがな。

 この阿呆共の資金が、ロシアの秘密組織を経由していたらしく、盛大な逮捕劇が完了。ここからは見せしめ的に重罪になるのが決定済み、かつメガロの元老院に圧力をかける気満々らしい」

 

「政治的に緊張するのはお勧めしないヨ」

 

「そこはヘラスやウェスペルタティア、アリアドネーなんかもあるし、元々メガロはどちらかと言えば非協力的な勢力が強めだ。

 後で甘い汁を吸うのは許さないという方針は、地球側の総意だしな……」

 

 魔法組織だけでなく、今日の開会式に来た国や企業にもメガロの悪行が知られている。

 解禁以降は関係する組織にも情報を流すと言っていたから、メガロをスケープゴートにする気なのは間違いない。過去の実績だけで充分に悪役と言われるだけの材料が揃うことだし。

 

「つまり、自業自得、ですか?」

 

「盛者必衰、でもいいかもしれないヨ」

 

「私に対する諫言か? ある意味、元老院の老人共より蔓延っている気もするが」

 

「そのつもりはないケド、何事も程々がいいヨ」

 

「という事は、世界に喧嘩を売ろうとした経験によるものか」

 

「そうかもしれないネ」

 

 二人でハハハと笑いあっている横では、ネギが少し不思議そうな顔をしている。

 

「ん? 何かあったか?」

 

「いえ、魔法世界をどうにかする儀式って、複数の聖地を魔力で繋く、超大規模なものですよね。

 どこで行使するのが伝えていないのは、襲撃とかの対策ですよね?」

 

「そうだな」

 

「でも、もうすぐ世界樹の光学迷彩を解除して、公開するんですよね。

 ここが隠された聖地だってバレちゃいません?」

 

「元々、魔力が多めの土地ではあったし、そもそも私の本拠地だ。地球の連中にバレるのはまあ、予定通りではある。

 それに、決行までは1か月ほどしかないからな。こちらは可能な対策を行っていて、メガロの老害には突飛な情報だ。さほど大規模な妨害はできんだろう。

 何しろ、対応するゲートがあるはずのウェスペルタティアにすら、まともな情報が残っていないらしいからな。アリカ情報だから、間違いないぞ」

 

「そんな調査を依頼していたんですか?」

 

「いや、依頼はしていない。

 イギリスでお前に初めて会った時、原作(アレ)の話をしただろう? その後で、世界樹やゲートの情報が残っていないか気になったらしいぞ」

 

 結果的に、とても古い書物にゲートを示すと思える描写がある程度だったらしいが。

 伝承として伝えられてもいないし、世界樹に関してはそれらしい記録が見付からない。ゲートがいつから使われていないのかも不明。

 ウェスペルタティアがこの有様なら、メガロに信頼できる情報として残っているとは思えん。少なくとも私が日本に来てからは、一度も稼働させていないし。

 

「というか、聞いていないのか?」

 

「聞いてないです……ん? お、おー……」

 

「これは……これが、全盛期の世界樹ネ……」

 

 ああ、世界樹の公開か。という事は、ステージに陰陽風な木乃香もいるはずだが……まあ、以前から日本や幕田が関わっている事を証明するだけだから、心配もいらないか。説明は幕田の当主やら魔法関係者やらの仕事だし。

 というか。

 

「鈴音、未来の世界樹はどうなってるんだ?」

 

「人間は愚か。そうとしか言えないヨ」

 

「……そうか」

 

 調査やらで枯れたか、少なくともかなり力を落としているという事か。

 ここの世界樹は幕田が国として守護しているし、大丈夫だとは思うが……気を付けた方がいいのだろうな。




執筆も、内容も、何だか亀です。
次話は気長にお待ちください。


なお、艦これ(チラ裏)の方は、全く書けていません。現実逃避をする時間がないっ……!
艦これ(ブラウザ)は、遠征オンライン→資源溢れそう→緒方健三→まるゆストック増える→母港狭い(今ココ

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