金色の娘は影の中で   作:deckstick

57 / 59
魔法先生重羽ま編第24話 夕暮れ時

「何事もなく終わってしまった……」

 

 既に景色は赤くなり始めている。

 私がここに居る事になっている時間はもうすぐ終わるが、それは祭りの主だった展示やらの終了時間でもある。

 屋台やらは暗くなっても営業しているから、食べ歩きは可能だが……

 

「平和が一番ヨ。想定ギリギリの人出だたけどネ」

 

「忙しかったですよね。でも、無暗に騒動を起こされるより、よっぽどいいです」

 

 そういえば、結局この2人もずっとこの辺にいたんだな。鈴音は屋台の手伝いや管理もあるから仕方ない面があるのかもしれんし、ネギは屋台の手伝いが1日の契約だったのかもしれんが。

 

「だが、お前たちは良かったのか?

 ここに居ることを強制されていたわけでもないだろうに」

 

「屋台の仕事は放置できないヨ。

 明日は休憩時間を確保してあるかラ、全然見れないわけでもないしネ」

 

「ボクは、明日からちょっと雲隠れする予定ですけどね。

 その前に、エヴァさん分を補充しておかないと」

 

「マテ。いや、鈴音の方は真っ当だからいいが、ネギの主張がおかしいぞ」

 

 そもそも、私はシュークリームとかじゃない。

 

「まあ、ここにいるのも、居場所を気付かせる目的も兼ねていますし。

 エヴァさんといればテレビにも映るし、とかなんとか」

 

「……何回かテレビ局の車が近くを通っていたのは、私が目的、だったのか?」

 

「そういうのも含んでいたはずです。

 まあ、何かあったら対処するために強い魔法使いが待機してますよー、って紹介する時に使うと聞いてますけど」

 

「私は聞いていないぞ。というか、大人の姿だから少しはマシだろうが、強いという表現に相応しい外見とは思えん」

 

 そもそも、女だからという理由で甘く見られる事も多々あるんだ。

 腕力は魔法に関係なくても、戦闘力という意味では無視できない要素にはなるしな。体力面は重要だ。

 

「外見と実態の乖離は、魔法のある世界では深刻な問題ヨ」

 

「どこかの筋肉バカのように、見てわかりやすいのもいるんだがな。

 で、ネギがわざわざ姿を見せた上で雲隠れするのは、アリカも納得しているのか?」

 

「発案は別の人だそうですが、了承済みなのは間違いないです。邪魔になるゴミに集まってもらうとかなんとか。

 もちろん幕田その他の関係組織との連携もありです」

 

「その辺もしっかりしているなら何も言わんが、お前自身はいいのか?

 悪く言えば、害虫駆除の餌役だ」

 

「ボク自身にもメリットのある話なので、問題ないです。

 あれです、ボス前で強くなって再登場する味方キャラの、描かれない修行パートみたいな感じで」

 

「強くなるのはいいんだが、この現実にボス戦は恐らく無いぞ?」

 

 いやまあ、強くなるとか何かしらの技術を得るとか、そういう方向なのは理解できるが。

 ただ、このタイミングで必要かと言うと……ボスになる可能性があるのは造物主くらいだろうし、今の様子を見る限り特に敵対する要素もない、はずだ。

 

「言葉の綾ですよ。ボスじゃなくて、雑魚処理を請け負う要員でも、こんな事もあろうかととか言っちゃう技術者でもいいです。

 今の研究は少なくても一時的にストップしますから、その面では迷惑をかけちゃいますけど……こんな事もありそうだと思ってましたから、支援とか避けてたんですけどね」

 

「某技術者の真逆になったか。まあ、支援者の思惑を伝えた私の責任もあるし、そもそも連中の負担になるような支援内容ではないと思うが」

 

「それでも、契約には反しますし……」

 

「あの契約に、研究を続けることという文言は入っていたか?

 進捗や状況の報告と成果の共有あたりは入っていると思うが」

 

「え? えーと……ない、気がします?」

 

 そこは疑問形だと問題が……いやまあ、技術者に契約書の全文を暗記していろと言うのは無茶な話だし、私だって覚えていないんだが。

 

「とりあえず確認して書かれていなかったなら、そこはイギリス系の、書いてないことはやっていい精神で行ったほうが、気が楽だぞ。

 少なくとも、一時的に研究が停止するという報告をすれば、契約には反しないはずだ。研究の継続が困難だと判断したら破棄も選択肢のひとつだし、研究開発なんて失敗をゼロにするのは不可能な分野だからな」

 

「そうですね……確認してみます」

 

「それにしても、こんなに上司してるのに上に立つ自覚がないと言われるのは、どういうことネ?」

 

「上司ではあっても、組織を引っ張る気が無いからだろう。

 根拠と指針は示すが、基本的にそれぞれがどう動くかまでは口を出さないしな。そこから誰がどう動くかまでは管理しきれん」

 

「それでも大雑把には把握しているシ、普通の社長やらも似たようなものネ。

 長としての職務は全うしてるのニ、その自覚がないのはおかしいヨ」

 

「その辺はまあ、あれだ。私なりに考えてはいるんだ」

 

「周囲の期待とは、大きなずれがあるネ」

 

「私は私の小ささを知っている。

 寿命や老化を理由に逃げることができない事も知っている。

 期待に応えようとして潰れたり、権力に溺れて盲目になったりするよりは、やる気がないと言われる方がまだマシだ」

 

「マシ、ですか?」

 

「期待値を上げすぎると、永遠の奴隷のようなものになるぞ? やることが当たり前になると、やらなくなった時の反動が大きいしな。

 それに、本気で私が邪魔になれば、やる気がない事を理由に引きずり下ろすことも可能だ。反動で感情的な騒動が起きるより、まだ穏便に済むだろうさ」

 

 むしろ、少なくとも今回の件が終わった後は、とっとと肩書を持っていってほしいものだが。

 当分働きたくないでござる、と言いたくなるのは確実だ。

 

「やる気に関する点はともかく、地位を奪うのは無意味ヨ。

 権力の源泉は肩書や組織でなく、個人に依存しているように見えるネ」

 

「それでも、組織が割れれば影響力は下がる。

 そもそも組織の離脱や二股を止める決まりはないから、私をどうこうするよりも別の組織ができる方が先だろうがな。現実的には……難しいか」

 

 月の一族の魔力は、月の……つまり私のもの。その事実がある以上、私を頂点とする構造が残り続けるのは間違いない。

 それでも、権力や影響力に関しては、別の要因も働くはずなんだ。

 

「まあ、無理ネ」

 

「無理でしょうね」

 

「そこまで断言しなくてもいいじゃないか。

 ところで、私は事が終わったら当分働かない気でいるが……お前達はどうするんだ?」

 

 2人とも、基本的に今までと変わらないとは聞いているが。

 いつまでとか、気が変わっていないかとか、その辺は気になる。

 

「ダレカサンが働かない分、世界の安定に貢献するヨ」

 

「帰る、とは言わないんだな」

 

「見届ける頃には魔力が少なくなってるネ。

 少なくとも諸々の条件が揃うまでは、手助けするヨ」

 

「この世界の世界樹は、発光する前に魔力を抜いているぞ?

 次は儀式で必要だから抜かないが、その次からはまた発光する前に抜くと思うが」

 

「おお、それは困った、帰れないネ」

 

「まあ、抜いた魔力の一部は溜めてあるから、必要な魔力量次第だがいつでも帰れる可能性もあるがな。

 いや、そもそも並行世界を移動しないと元の世界に帰れない問題があるから、当面はこの世界にいるしかないのか」

 

「そうそう、その問題もあたネ」

 

 ふむ。鈴音はそれなりの期間いる予定、と。

 こいつの事だから並行世界を移動する道具もあっさり作りそうだが、今の口ぶりだと急いで作る気は無さそうか。

 

「えーと、ボクは、目標は変わりません。

 エヴァさんと幸せになりたいです」

 

「そこはブレないんだな。だが、行動は変わるのか?」

 

「んー、どうでしょう?

 世界の情勢とかも変わっていくでしょうし……というか、エヴァさん!」

 

「ん?」

 

「あのアニメの最後、本当じゃないんですよね!?

 儀式の人柱みたいな感じだったんですけど!!」

 

「人柱?」

 

 いや、あのアニメってリリカルなノアの事だよな?

 最終という事は、とりあえず完結したのか。魔法世界を救って云々という流れだと思っていたんだが……

 

「あー、これは見てないですね。視界に入れたくないとか言ってましたっけ。

 えっと、最後に儀式魔法を使うシーンがあるんですけど、そこでエヴァさんがモデルのエヴァちゃんが姿を消しちゃうんです。

 そんな事……ない、ですよね?」

 

 こ、この不安そうな上目遣いは……あざとい、で済ましてしまえたら楽なんだが。

 儀式魔法を最後に姿を消す、か。権力構造という意味ではそうしたいという気持ちがあるし、最悪の場合は死なないまでもしばらく休眠のような状態になる可能性も考えてはいる。それに、失敗した場合の保身として消滅したように見せかける手順も用意してある。

 ネギの心配は、計画が問題なく機能しているから発生しているとも言えるし、ネギが国の上層部又は計画に直接参加する者という条件を満たしていないことを理由に詳細な説明をしてない私の責任でもある、か。

 ネギは国政に関わっていないから王家であっても上層部とは言えず、権力を持たないから計画にがっつり関与しているわけじゃないのは事実だが。保身云々はそもそもごく少数しか知らないし。

 

「んー、多分、アレはあくまで振りヨ。

 本当の最後のシーンで振り向いた時の表情ハ、生きてることを暗示してると思うネ」

 

「でも、決定的じゃないんです。

 不安になるじゃないですか……」

 

 鈴音もアレを見てるのか。

 だがまあ、不安を解消しておくことは必要そうだな。

 

「姿を隠す可能性はあるが、少なくとも私が死ぬ予定はない。

 アニメは恐らく、私が儀式以降に表立って何かするわけじゃないという方向で作ったのだろう……たぶん」

 

「政治的なドタバタに巻き込まれてヒーヒー言ってる可能性もあるネ」

 

「……それは何としても回避したいぞ」




話が進んでる気がしないッ……
このままずるずると間延びしていくよりは、完結させる方向で進めたいと思います。終わり方は当初のプロットのままなので、端折りはしても打ち切りではありません。というわけで、次話は少し時間が飛ぶ予定です。
魔法公開後の色々や各キャラの掘り下げなどについては、リクエストと書く余裕があれば、小話などで補完する事にします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。