金色の娘は影の中で   作:deckstick

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今回は第三者視点となります。


始動編第08話 闇の福音

 ◇◆◇ とある拳闘士 ◇◆◇

 

 

 俺がこの道に入ったきっかけは、腕っぷしが……って、違う? ああ、主君の配下になったきっかけの方か。

 どこから言ったもんか……まあ、あれだ。主君に会うちょっと前まで、俺はとある領主子飼いの拳闘士ってやつだった。一応、割と強い方だったんだぜ?

 だけどよ、ちょいとあくどい相手にあたっちまって、呪詛やらなんやら食らって片腕を無くしちまったわけだ。試合自体にはどうにか勝ったんだが、隻腕じゃ戦力ダウンなんてもんじゃねぇわけよ。

 あえなく戦力外通知を食らった上に、ケルベラス大樹林の魔物退治を命じられて、のこのこ出かけてったわけだ。

 ん? そりゃあ、俺だって馬鹿なりに相手の力量くらいは把握してるぜ。指定されたヤツは、1体相手ならどうにか戦えそうな相手ではあったさ。けどな、それは体調が万全だったら、って条件付きだ。間違っても腕一本や樹林を彷徨った後で勝てるよーな雑魚じゃねぇ。実質的には、死ねって命令だな。

 けど、元々深い位置にいたやつが町に近付いてたのは事実でな。討伐なり追い払うなりする必要があって、使い捨てにできる戦力が俺くらいしかいなかったのも確かだったんだ。

 んで、森に入って……2日目くらいだったか? 獲物を見つけて、いざって時だ。突然木が倒れてきて、獲物が下敷きになりやがったんだ。で、その木の上に、可愛いお嬢ちゃん……いやいや、見た目だけなら間違ってねぇだろうが。

 えい、やり直しだ。可愛いお嬢ちゃんに見えた主君がいたわけよ。で、第一声がこれだ。

 

「せっかく繋げられた命を、自ら捨てるのか?

 自身の価値が無くなったと思っているのかもしれんが、お前が思っているほど弱くなっているならば、そもそもここに来れていないだろうに」

 

 そりゃあ、反発したさ。

 命令の意味が捨て駒だって事とか、隻腕で元と同じ戦力があるわけがねぇ事くらいは、いくら俺がバカでも分かるしな。

 けどよ。主君はこう言ったんだ。

 

「領主が保有する捨て駒はお前だけかもしれんが、賞金稼ぎが目の色を変えてこの辺をうろついているぞ。別にお前だけが使える戦力ではない事は理解しろ。

 それに、根性が腐ったお前の居場所など、この件がなくとも無くなっていたさ。

 せっかく親切な領主サマが、お前を死んだことにしてくれたんだ。新しい人生を始めてみる気はないか?」

 

 すぐに信じたか、って? んなわきゃねーだろ。

 変装して、こっそり町の様子を見に行ってみたら、これがびっくりだ。

 俺の葬式が済んでるんだよ。

 んで、俺の資産、ぶっちゃけ剣や鎧に使うための金がちょっとあっただけなんだが、それは全部両親に渡されてたんだ。

 いや、それ自体……違うな。それだけなら納得できるんだ。けど、いつの間にか、妙に裕福な暮らしになってんのな。

 俺の家は貧乏で、身売りに近い形で領主のものになってたんだが、ファイトマネーも結構な割合で両親にわたる契約になってたらしいんだよ。その時の会話を主君も聞いてたんだが、予想以上に俺がバカで、両親があくどいと呆れられたさ。

 そんな感じで、俺は主君についていくことにしたってわけよ。OK?

 

 

 ◇◆◇ とある行商人 ◇◆◇

 

 

 次は、私ですね。

 最初に紹介された通り、私は行商人をしておりました。ロントポリスの近辺の村々を中心に……ご存知ではないですか。グラニクスやボレアから北東の方向にある港町ですよ。

 かなり辺境の地ですから知られているとは言い難いですし、この辺りと比較しても、あまり豊かとも言えません。

 そんな場所で生まれ育ったものですから、必要なものを安く売り歩こうと、色々と無理をしていたのですよ。ええ、当時は必要だと思っていたのですが、今考えると明らかに無理ですよ。

 おかげで、死にかけたのですから。

 知らぬ間に色々な人たちに睨まれていたようで、結果的に盗賊に襲われたのです。

 盗賊を擁護する気はありませんが、どうも私が安く買いすぎたせいで暮らしていけなくなった人達や、私の値段を盾に価格交渉をされて利益を出せなくなった他の行商人や、行商人が減ったせいで嘆願が増えた領主が、半ば野盗化していた人をけしかけたようです。本人たちが勝ち誇って喋ってくれましたよ。

 ある意味でその場は逃げられたと言っていいのかもしれませんが、山の斜面を転げ落ちまして。いやぁ、本気で死んだと思いましたよ。

 あの方に会ったのは、その時です。というか、あの方に助けていただかなければ、間違いなく死んでいました。動く体、武器、馬車。人の住む町までたどり着くために必要なものを、全て失っていましたからね。

 

「ふむ、都合よく怪我人が現れたな。

 とりあえずお前は、治療魔法の練習台になれ」

 

 ええ、ある意味では最悪の出会いでした。しかも、治療系魔法が苦手だという言葉の通り、とても時間がかかりましたから、苦痛もひとしおです。

 それでも、多少の傷跡が残る程度には治療していただきましたし、絶望もありましたからね。どうしてこうなったのかという質問に、私が知る全てを答えたのです。

 そしたら、私が貶されましたよ。

 

「お互いに言い分はあるだろうが、確かにお前が悪い面も大きいな。

 安く仕入れようとするのは間違いではない。だが、生産する者達の生活が成り立たないほど買い叩いて、どうやって商売を続けようというんだ。

 安く売ろうとするのも間違いではない。しかし、話を聞く限りでは買う側も安く買えて当然という勘違いをしているようだからな。そんな状態で、しかもその値段に釣られた客を満足させられるだけの組織や供給力が無いようでは、有害な自己満足でしかないぞ。

 そう言える理由? 簡単なことだ。お前は自分の目的以外、何も見ていないだろうが。

 しかも、お前が売っていたのは生活必需品を含んでいる。何らかのトラブルで品物が失われた時。生産者がいなくなった時。お前自身が倒れた時。安く買う事に慣らされ、それで生活が回っている客に誰が売りに行く。仮に行ったとしてもその取引が、その後の生活が問題なく成立すると思うか?」

 

 ええ、衝撃的でしたよ。

 その後しばらくは旅をしながら色々と教えていただきました。それはもう色々です。

 あの方が基本と言っていた計算も私から見れば高度なものでしたし、詳しくないと言いながらも教えていただいた簿記とかいう会計方法は目が覚める思いでしたよ。

 他にも色々ありましたが、気付いたらあの方に従おうという気になっていました。決して知識で買収されたわけではありません。それは強く念を押しておきますよ。

 

 

 ◇◆◇ とある娼婦 ◇◆◇

 

 

 最後はアタシね。

 アタシの場合は、働いていた娼館が火事で焼けちまってね。オーナーや同僚たちも大半が死んじまうような、大火事だよ。アタシ自身もひどい火傷を負って娼婦としてはダメになったし、元々捨て子でオーナーが育ての親だったから帰る場所も無くなった。

 文字通り、全てを失っちまったのさ。

 貴婦人キャラだったもんだから客のとこに転がり込むにも難しいし、しかもアタシにできる事なんて男をよろこばせる事と、後はオーナーの手伝いくらいなもんなんだよ。家事やらはやった事もなかったし。

 こりゃ野垂れ死にするしかないかねぇと覚悟してた時に、お嬢様と会ったんだよ。

 ただ……あれだね。声をかけたのはアタシだけど、直感でいいとこのお嬢様だと判断して働き口が無いか聞いたのは、奇跡だったよ。服装はその辺を歩いてる女の子と大差なかったし、お嬢様が喜ぶような事が何もできないのはアタシ自身が知ってるからさ。声をかけた直後に、何やってんだろとか思ってたんだよ。

 けど、お嬢様がアタシの仕事や経緯に驚きもせず、詳しい話を聞いてきたのには驚いたよ。しかも条件付きとはいえ即決で採用された時、本当にいいのか聞いちまったくらいだし。

 詳しい内容? 言える事なんて、大してありゃしないよ。やってたのなんて客の相手以外は同僚たちの体調管理がほとんどで、他は帳簿の管理とか書類の整理を少しやったくらいだからさ。

 だけどさ。アタシなりにオーナーの役に立ちたくてやってた事を評価されたのは、嬉しかったんだよ。傷がある事も含めて受け入れてもらえて、感動しちまったのさ。しかも1年くらい一緒に旅をしながら色々と教えてもらって、氷を纏うなんて技術に魅せられて、お嬢様の見てる世界の広さに夢を見ちまったのさ。

 だからまあ……この火傷の痕は、アタシの忠誠の証で、無知なアタシと決別する決意なんだよ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「色々喋ったけど、つまりなんだ。

 全員、どん底から救われた仲間って事でいいんだな」

 

「どうやらその様ですね。

 狙ったのか偶然かは問題にする気もありませんが、メガロやオスティア方面の方も幾人かは似たような感じだと本人から聞いています」

 

「アタシはこれからの打ち合わせでいっぱいいっぱいだったから、その辺は聞いてないねぇ。アタシ達は小国や中立地帯を裏から支援するのが役目だけど、あっちはあっちで大っぴらに動きにくいから、別のチームで助け合う形になるわけだし。

 けど、お嬢様の呼び方が全員で違うのは、ちと不便だね? あっちも統一してないみたいだしさ」

 

「だが、名や立場を広めないでほしいという主君の希望もある。

 役職ならいいのか?」

 

「我々が担当する組織にあの方は直接関与しないそうなので、役職がありませんよ。

 かと言って、我々の始祖や当主と呼ぶのは禁止です。

 そこで拳闘士や英雄の例に倣って、2つ名で呼ぶというのはどうでしょうか」

 

「それいいな、ちょいと考えてみるか。

 俺達は緑の大地。メガロは銀の短剣。オスティアは森の風雲。んで、眷属全体は月の一族とかいう名前にする予定らしいんだ。主君はこんな名付けが好みって事か?」

 

「だけどお嬢様から、関係組織とかの名付けは月に関係しそうなものは避けるよう言われてるからね。

 少なくとも、月と夜は駄目。ぞーぶつしゅとかいうイカレてるのがオスティアやメガロあたりに出没するらしいし、気付かれたくないそうだよ」

 

「あの方を知っているなら納得、ですが知らない人には想像もつかないような名が良いという事でしょう。

 絶望の淵で出会った希望……長いですし、しっくりきませんね」

 

「状況と名前に因んで、闇に響く福音ってのはどう?」

 

「それなら、闇の福音の方がすっきりしねぇか?」

 

「ふむ……闇の福音、ですか。

 少々悪ぶった感じですが、ご本人も自身を正義とは言えないと仰っていましたし、日の当たる道を歩かないという意味でも問題ないでしょう。

 この呼び名で美しいあの方を想像されることも無いでしょうし」

 

「正体を隠すって意味では、ありかねぇ。強制するわけじゃないし、他の連中もこの呼び方を使うか知らないけどさ。

 ところでお嬢様は今頃、ヘラスの王様のところだっけ?」

 

「いきなり使わねぇのな。

 ようやく準備が整ったとか言ってたし、俺もそう聞いてるが……あの外見でなめられねぇといいんだが」

 

「おや、知らなかったのですか? 外見年齢を偽る幻術魔法を使うそうですよ。

 必要な準備というのは、主に私たちの教育だったようです」

 

「幻術で大人の姿にってわけかい?

 お嬢様の事だからばれるようなへまはしないだろうし、ヘラス族は長寿だから理解がありそうだし……ま、人格や能力が判明した後なら問題なさそうだね」

 

「しかし、本人の触覚や視覚まで誤魔化す幻術は、本当に幻術なのでしょうか?

 いろいろと便利そうなので、ぜひ私たちにも使えるようにしてほしいものです」

 

「おいおい、やましい事に使おうって魂胆じゃねぇだろうな?」

 

「まさか。町の情報を集めるには、子供の話はバカにできないのですよ。

 釣られて噂好きな母親まで喋ってくれたら、儲けものです」

 

「噂話、か。主君も情報が大事だとしつこく言っていたが。

 子供の話があてになるのか?」

 

「なりますよ。

 危険な場所は、どこそこへ行ってはいけません、等と教えられているものです。

 比較的安全な場所は、親に連れられて行く場所でしょう。

 よく食べる物は、近くに産地があるはずです。その質や頻度が変わった場合は、何かが起きた可能性があります。

 他にもありますよ。町や村がどのように運営されているか。竜などの害獣を見たことがあるか。生活にどの程度余裕があるか。親が誰にどの程度頭が上がらないか。

 大人の話よりも正確な場合すらあります」

 

「へぇ……で、どの程度がお嬢様の受け売りだい?」

 

「全てですよ。あの方は見た目がああですからね、目の前で実践してくれました。

 ある田舎の村で見せてもらったのですが、村長の命令で、複数の行商がそれなりに来てくれる程度に取引を制限している事まで判明してしまいましたからね。

 あの方は、取引相手が1つだけなら言いなりになりかねないから、村の防衛手段として間違いとは言えないと判断されていましたよ。現実問題として、村長は商売上手として村人たちに尊敬されていたようですし。

 もっとも子供たちは不満があったようで、その愚痴という形で得た情報ですが」

 

「なるほど、ある意味ではお嬢様らしいやり方だね。

 けど、子供の真似事は無理で、子供の相手は疲れるってぼやいてたんだけどねぇ」

 

「子供としては振舞っていませんでしたよ。

 それでも、大人ぶっている子供とか、行商であちこち行ってるせいで大人っぽくなってるとか、勝手に解釈してくれるものだそうです。

 特に子供は順応性が高いですからね。何度も顔を会わせる相手でなければ問題ありません」

 

「はー、やっぱすげぇ世界だ。俺にゃ無理だな」

 

「だけど、アタシ達の腕っぷしはさっぱりだからね。

 アンタにゃ期待してるんだよ?」

 

「おう、荒事は任せろ。

 隻腕だろうとできる事があるってのは、主君に教えられてるんでな」

 

「自分の長所を生かし、相手の短所を突く。基本ですが難しいことです。

 それでは、私は部下を探しに行ってきますよ」

 

「焦るんじゃないよ?」

 

「もちろんです。あの方のやり方を見て学び、眷属として力と時間を頂いた身ですからね。

 候補は数人いるのですが、もう少し見極めたいですし」

 

「俺も手下を見繕った方がいいのか?

 荒事やら護衛やらは、数も力だ。それに、警備で待ってるだけじゃ鈍っちまうし、1日中起きてるわけにもいかねぇ」

 

「一気に増やす必要はないけど、何人かはいた方がいいかねぇ。

 食事の買い物に行くついでに、裏通りでも覗いてみるかい?」

 

「そうだな。気骨のある子供でもいるといいが」

 

「この町に居なきゃ、別の街に行ったときにでも探せばいいんじゃないかい?

 さてと、市にモノがあるうちに、さっさと行くよ」

 

「おう。主君の従者に仕込まれた料理の腕にゃ期待してるぜ」

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