田所恵の日常を淡々と描く   作:夏ノ雪

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時は進み・・・


2品目 春休みの極星寮

◆◇ 極星寮 4月 ◆◇

 

 

極星寮302号室。

 

彼女は机から一つの紙を取り出す。

その紙を両手で持ち、見つめる。

 

「  ◇最後通告◇ 

 

 中等部3年 田所 恵

 

  上の者が授業評価が

   不可もしくは

   Eとなった場合

 

  学則により退学  」

 

紙を持つ手が震える。

この紙を初めて見た時は夜も眠れなかった。

その恐怖が蘇る。

 

「はぁ~」

 

ため息をつく彼女。

何度見てもその文字は変わらない。

もしかしたらと思い、何度も見直してみるけど・・・

変わらない。

 

退学の2文字。

 

田舎のお母さんや友達の顔が浮かぶ。

電車で町を出ていく私を見送ってくれた皆。

雪の中、私の姿が見えなくなるまで手を振ってくれた皆。

 

「はぁ~」

 

息が紙にあたり、ヒラリと揺れる紙。

 

う~ん。

だめ。

落ち込んでちゃだめ。

元気出さなきゃ。

私だって入学できたんだから。

やらなきゃ。

 

部屋に近づく足音が聞こえる。

 

そして、

 

トントンっと、ドアをノックする音。

 

「めぐみん~入っていい?」

 

とっさにポケットに紙をしまう。

 

「う、うん」

 

ガチャっとドアが開く音。

 

「おっじゃま~」

 

声と共に、ツインテールを側頭部で纏めた少女が部屋に入ってくる。

快活そうな少女。

同じ寮に住む同級生の吉野悠姫ちゃん。

彼女はスーパーの袋を両手で持っている。

 

「一色先輩が畑で収穫したトマトをくれたの。これ、恵の分。重いから気を付けてね」

「ありがと」

 

私は彼女から袋を受け取る。

ずしっとくる重さ。

 

「うっ」

 

思わず声が出る。

両腕がピクピク震える。

 

「めぐみん、大丈夫?」

 

悠姫ちゃんは心配そうに私を見る。

 

「大丈夫、大丈夫。これでも私、毎日畑仕事してるんだから」

「そ、そう・・・」

 

私は袋を受け取り、とりあえず机の傍に置く。

が、その瞬間、トマトが一つ袋から零れ落ちる。

 

「おっと」

 

悠姫ちゃんがトマトをキャッチし、私に渡してくれる。

 

「ありがと」

「これぐらい楽勝~」

 

私は手の中のトマトに目が奪われる。

 

果実部分は濃い赤色で、ヘタの部分は瑞々しい緑色。

プリッと引き締まり、底の部分からヘタの部分にかけて放射線状にスジがはっきりと出ている。

スーパーなどではお目にかかることができない、最高級の一品。

 

さすが、一色先輩。

 

先輩は寮の裏にある「極星畑」で野菜を育てている。

それを利用して何らかのビジネスをしているらしい。

早起きして時々私も手伝うけど、先輩がいつも先にいる。

 

凄いな~。

さすが十傑。

私なんかが知り合いでいいのか不安になる。

 

「ねぇ、めぐみん、どうしたの?暗い顔して」

 

悠姫ちゃんは何でもないように、私に話しかける。

まるでただの雑談の様に。

彼女はよくこうして私に話しかけてくれる。

「心配している」という気配を私に察知されないようにか、明るく話しかけてくれる。

 

「ううん。なんでもないよ」

「そう。それなら良かった。何かあったらいってね。私は先輩みたいに十傑じゃないけど、少しは役に立つんだから」

 

腕をまくり上げ、二の腕を見せつける彼女。

そんな姿を見ていると元気が出てくる。

 

「うん!」

「それじゃね」

 

手を振りながら部屋を出ていく彼女。

 

私はトマトの表面に反射する自分の顔を見る。

活力が戻った私の顔。

 

明日は始業式。

新しい生活の始まり。

生まれかわるんだ。

絶対退学しない!

 

ガブッっとトマトに噛り付く。

体中に元気が湧き出てくる。

 

 




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