二人の鬼   作:子藤貝

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さて、本年初めての投稿でございます。


第三話 考察、行方

グレート=ブリッジでの戦闘から数日。

『赤き翼』はメセンブリーナ連合の首都、メガロメセンブリアにて表彰を受けていた。

帝国から見事重要拠点であるグレート=ブリッジ要塞を奪還し、帝国側の攻勢にも動じず

守りきったその武功は並々ならぬものと称され、特にリーダーであるナギは、連合から

贈られた『千の呪文の男(サウザンドマスター)』の異名が瞬く間に広まっていった。

今、彼らは連合側で最も篤い注目を浴びる、正に連合を救う英雄といった雰囲気だった。

ただ、当の本人達は迷惑そうな顔をしており、余計な期待を背負わされるのが気に食わな

いといった感じであった。まあ、ナギは『千の呪文の男』の呼び名を気に入ったらしく、

以降自分から名乗っていくのだが。

 

「んで、俺らに合わせたい奴って誰だよ」

 

「連合側の人間で、俺らに協力したいって奴らがいるんだとさ」

 

と、ラカンが言う。詠春もナギも、一体どこの誰だと疑問符を浮かべていた。アルビレオは

いつも通り不敵に微笑んでおり、ゼクトはこれ以上面倒な奴が増えないことを祈っていた。

 

「お、来たみたいだぜ」

 

「どれどれ・・・何だおっさんかよ」

 

ナギの言葉を聞いて、その視線の先を見てみるが。いたのは中年齢ほどの男性と、

まだ10歳ほどであろう少年。それを見て、ラカンは著しく興味を失せていった。

 

「おいおい、今まで俺達のことを元老院に売り込む手助けをしてくれてた人たちだぞ、

もう少し敬意を持ってだな・・・」

 

「構わんさ、『サムライマスター』。これから暫く共に行動することになるんだ、堅苦し

いのは抜きにしたい」

 

「・・・ガトウさんがそうおっしゃるのなら」

 

詠春がナギ達を叱責しようとしたのを止めた男。ガトウと呼ばれたこの男こそ、

後に『赤き翼』においてその人ありと言われた人物、

ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグであり、

 

「は、初めまして! ぼ、僕はタカミチと言います!」

 

幼いながらも礼儀正しく、されど緊張しているのか所々たどたどしい喋りの少年の名は、

タカミチ・T・高畑。ガトウの直弟子でもある人物だ。

 

「ハッハッハ! ぼうず、俺達が行くのは戦争だぜ?覚悟はできてんだろうな?」

 

「も、勿論です! これ以上、戦争を黙ってみていられません!」

 

少年の力強く、決意の篭った言葉と視線に、質問をしたラカンはいい目をしているなと、

内心で少し評価を上げた。

 

「さて、無駄話は省くとするかの。ガトウ殿・・・いやガトウ。

お主に少し聞きたいことがあるのじゃが」

 

「ん? ・・・なにか重要な話のようだな。ここで話すのも何だ、近くに

俺が借りてる家がある。詳しくはそこで聞こう」

 

 

 

 

 

「成る程・・・その謎の少女について心当たりはないか、と」

 

ガトウの借家にやってきた一行は、リビングにてソファに座り、ナギ達が聞こうとした

話題について触れていた。タカミチ少年はキッチンでコーヒーを淹れている。

 

「ええ、彼女ほどの実力者が名も売れていないなんてはずがありませんから」

 

「帝国側の人間かと思ったが、だとすれば帝国の精鋭である隠密部隊を回収しないまま

逃げていったのは不自然だからな」

 

と、詠春なりの考察を述べる。

 

「俺らに恐れをなして逃げ出したんじゃね?」

 

「バカモン、お前が疲労と油断をしていたとはいえ、終始有利を保っておったあ奴が、

そんな一筋縄でいく相手であるはずが無いじゃろうが」

 

ナギの馬鹿な回答に、ゼクトが叱責する。

 

「ナニモンか分からねぇうえに、俺の『気合防御』を抜く攻撃と、

魔法を消滅させる能力持ちだぜ? やべぇどころじゃねぇな」

 

と、いつもより真面目に話をするラカン。

 

「私から見れば、むしろ彼女は『消滅』を行ったのではなく、魔法を『吸収』

したようにも見えたのですよ」

 

そして、アルビレオがいつもの笑みを浮かべず、

なにか納得がいっていないような表情で見たことを話す。

 

「あー、大体分かった。そいつは紫の民族衣装みたいな服を着てて、長い黒髪をした、

魔法を無力化するような能力を持つ少女というわけだな?」

 

彼らの今までの話を統合し、結論を出したガトウは確認するように彼らに聞く。

 

「正確には、俺の祖国で昔女性が着ていた"着物"だが」

 

訂正を加える詠春。彼としても、彼女の正体を知っておきたかった。

なにせ、恐らくは自分と同じ日本人。彼女がもし、祖国の魔法団体であり、

今回の戦争に参加する折に人員を借りてきた『関西魔法協会』の人間であれば、

彼女と詠春は無関係という訳にはいかない。

彼女が何故、あのような行動をとったのか、その真相を知りたかったのだ。

ガトウは暫し唸った後。

 

「・・・心当たりはないわけでもない、が」

 

「本当か!?」

 

「いや、正直半信半疑なんだ・・・。もしお前たちが出会った人物があの少女で

あった場合・・・非常に厄介なことになっていると言わざるをえない」

 

「・・・一体どんな人物なので?」

 

急かすメンバーたち。まあ待てとガトウが一旦皆を落ち着かせると、

その人物について語りだす。

 

「お前たち・・・『狂刃鬼』という人物を知っているか?」

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、鈴音」

 

「・・・マスターもお元気そうで・・・」

 

「フ、吸血鬼である私が不調になどならんよ」

 

「・・・失言でした・・・」

 

「別に構わん。お前のそういうところも私は好きだからな」

 

「・・・有難う御座います・・・」

 

グレート=ブリッジでの戦闘を離脱してから、鈴音は再び海上を走行し、

自らの主人であるエヴァンジェリンと事前に取り決めていた集合場所にて、

1ヶ月ぶりの邂逅を果たしていた。

まあ、ちょくちょくエヴァンジェリンからの指示や、雑談などで念話をしていたので、

互いにさほど長い別れとは思ってはいないのだが。

 

「さて、『赤き翼』の面々はどうだった?」

 

楽しそうに、エヴァンジェリンはそう聞いてくる。

まるで、もう聞く結果など分かっているというかのように。

 

「・・・はい。"十分"かと・・・」

 

「ククク・・・そうか・・・! そりゃあ良かった」

 

薄く笑い声を出す、エヴァンジェリン。三日月のように釣り上げられた口元は、

少女という外見でありながら恐るべき艶めかしさを演出し、

彼女の美貌を引き立たていた。

 

「『英雄の卵』は順調に育っているか・・・。他にはよさそうなのは見かけたか?

奴らだけでは不安もあるんでな」

 

「・・・いえ。・・・私に反応できたのは、彼だけです・・・」

 

「そうか、それは残念な話だ。・・・ナギ・スプリングフィールドは、想像以上に

有望なようだな? お前に反応できるとは」

 

「・・・正直、驚きました・・・」

 

初見だったとはいえ、600年も生き、魔法、体術共に最強クラスである真祖の吸血鬼。

そのエヴァンジェリンを二度も致命傷を負わせ、更に本人さえ知らなかったが、

彼女の魔法さえ能力で防いでみせた鈴音を、疲労していた身でギリギリ

ではあるが反応して見せ、なおかつ魔法を当ててみせた人物に、

エヴァンジェリンはますます興味と期待を抱く。彼ならば、彼ならば二人の目的を

達成できるのではないかと、エヴァンジェリンは思う。

 

「楽しみだ・・・ああ、楽しみだなぁ・・・!」

 

「・・・私もです、マスター・・・」

 

二人の狂気的な笑みは、邪悪さと危機感を感じさせるものであり、

なおかつそれは、とても美しくも見えるのであった。

 

 

 

 

 

「『狂刃鬼』、ねぇ・・・聞いたことねぇぞ」

 

「だろうな、此処1ヶ月ほどで名を挙げてきた人物だ」

 

「んで、どんな奴なんだ?」

 

ガトウはナギの少し期待を含んだ目を見て若干言うべきか迷ったが、言わねば

どちらにしろ調べるだろうと判断し、口に出す。

 

「・・・正直、話すべきか一瞬迷ったが・・・。まあ、問題はないだろう。彼女はな、

ただ名を挙げてきたんじゃない。恐るべきはその実績だ」

 

「実績?」

 

ラカンの疑問を含んだ声。ガトウは話を続ける。

 

「彼女は誰かと組んだという噂が全くない。だというのに、戦争中に彼女は常に大軍を

相手にしているんだ」

 

「そりゃあ、まあすげぇと思うがよ・・・。別に自信があっての行動だってことだろ?」

 

当然とばかりのラカンの反応。だが、ガトウは首を振って、

 

「確かに、お前たち・・・いや今は俺も含めるか。俺達『赤き翼』であればそれも可能

だろうよ。だが、それを実行できるような人物は非常に少ないだろ? まあ、いるには

いるんだろうが、そいつらは既に有名所ばかりだ。それにな、彼女の恐ろしい所は

大軍を相手にできるような実力だけじゃあない」

 

そう言うと、一旦懐からタバコを取り出そうとするが、仲間になったとはいえ、まだ

少ししか経っていない相手方が来客している時に部屋の中でタバコは失礼かと思い、

ポケットから手を離して話に戻す。

 

「んで? その恐ろしいところってのは何なんだよ?」

 

勿体つけずに早く言えと、ナギが暗に急かす。

 

「そうだな・・・単刀直入に言おう。お前たち、2000の軍勢を皆殺しにできるか?」

 

「「「は?」」」

 

「・・・どういうことじゃ?」

 

「・・・もしや、いやしかしそれならば・・・」

 

何を言ってるんだコイツとばかりに呆ける3人と、それらを無視して正直な感想を言う

ゼクト。そして、何かに納得したかのような、されど疑問が晴れないような表情の

アルビレオ。ガトウはまず、ゼクトの質問に対し、

 

「言ったままの通りだ。2000人の訓練された兵士を皆殺しにできるかって」

 

「・・・無理じゃな。ワシらはあくまで戦争を終わらすのが目的であって、殺戮が

したいわけではないからの」

 

しかし、ゼクトのその返答にそうじゃないと首を振るガトウ。

 

「単純に考えて欲しいだけだ。お前たちの戦力で、出来るのかってことだ」

 

ガトウのその真剣な表情を見て、ゼクトも暫し押し黙る。そして。

 

「・・・うむ、できんな。ワシら全員であっても、不可能じゃろう」

 

「・・・そうか」

 

2000人の抹殺。これがどれほど大変なことか。人は死を恐れ、そしてそれに対する

直感はとてもよく働く。逃げるのであれば散り散りに、予測もつかないような、

正に蜘蛛の子を散らすような様であろう。そんな状況で、いくら前線にて名を上げ続ける

『赤き翼』であれど、そんな状況で皆殺しなと不可能だろう。だが。

 

「出来る人物が、いるとすればどうする?」

 

「・・・なんじゃと・・・?」

 

 

 

 

 

「ほう、帝国の連中とも遊んできたのか」

 

「・・・はい。・・・正直、期待外れが過ぎました・・・」

 

「ま、仕方ないだろうな。お前が相手では、な」

 

実は、鈴音はグレート=ブリッジでの戦闘から離脱した後、その足で帝国が駐留している

野営の陣地にも侵入し、戦闘を行なっていたのだ。だが、あまりにも相手が弱すぎると、

鈴音は落胆する気持ちで戦い、やがて帝国軍は完全に崩壊した。我先にと逃げ出すさまを

眺めていた鈴音は、せっかくだからと暇つぶしも兼ねて逃げる兵士たちを次々と

虐殺し始め、命乞いをされようが泣き喚こうが殺し続けた。結果。

 

「・・・まさかあの程度で、殲滅できてしまうなんて・・・」

 

「ああ、うん・・・お前は少し自重というものを覚えるべきだな」

 

一人残らず殺し尽くしてしまった。辺りには血で彩られた真っ赤な大地が広がり、

その上には無数の骸が、あるものはバラバラに、あるものは三枚に下ろされ、

酷いものでは原型すら留めていないものさえもあった。

 

「・・・一応、苦しまないように・・・皆一撃で殺しました・・・」

 

「・・・お前なりの優しさなんだろうが、その優しさは余計すぎるな。下手をすると、

帝国に目を付けられる可能性だってある」

 

「・・・迂闊・・・でした・・・すみません・・・」

 

「な、泣くな! 別にお前を責めているわけではないぞ!?」

 

目に涙を浮かべて涙目な鈴音。その様子を見て慌てるエヴァンジェリン。

会話の内容がこんな物騒なものでなければ、実に微笑ましい光景なのだが。

 

 

 

 

「・・・つーと何か、帝国側が何もして来なかったのは既に全滅してたから、か?」

 

「・・・そういうことだ」

 

あまりの内容に、さすがのラカンも目が点にならざるを得なかった。

グレート=ブリッジでの奇襲を受けた日。その後全く帝国の兵士は現れなかったのだ。

それ以前は、連合の戦力を削るために波状攻撃を仕掛け続けていたというのにだ。

それを不審に思っていた『赤き翼』の面々であったが、帝国側もさすがに疲弊しきって

士気が持たず、撤退したのだろうと結論づけていたのだが。

 

「おいおい・・・帝国兵2000人をたった一人で殺し尽くした?

・・・冗談にしても笑えやしねぇ」

 

「だが事実だ。帝国側から何の音沙汰もないから気になって調査隊を派遣したんだが、

帝国が駐留していた野営は酷い有様だったらしい。・・・何なら詳細を聞くか?」

 

「やめてくれ、多分気分が悪くなるような内容だろ?」

 

詠春のその言葉に、そうかと一言呟いて話を戻す。

 

「何故全滅したのかが分かったのかは、敵方の司令官が有能な人物であったが故だ。

兵士一人一人の情報を記載した資料があってな、毎日朝と夜に兵士と資料が一致するかを

確認していたようだな。お前たちが捕えた、若しくは死亡した人物たちを除けば、駐留

していた兵の死体の数がぴったり一致した。人員が増減する度にやっていたようだから、

よほどマメな人物だったらしい」

 

「恐らくは、敵方のスパイが潜入したり、兵士の脱走を危惧してのものだったのでしょう」

 

「つまり、ガトウが言っていることは誇張表現でもなんでもないということか・・・」

 

その通りだと、ガトウは頷く。

 

「・・・以上が彼女に関する比較的大きな情報だ。正直、情報が少なすぎてどんな

人物なのか、何かの組織に所属しているのか。全く全貌が見えてこない」

 

苦虫を噛み潰したような顔。彼からすれば、帝国兵を皆殺しにできるような戦力を有する

危険人物の情報がこれほど少ないことに、危機感を感じているのだ。

 

「先程も言ったが、彼女が相手をするのはいつだって大軍だった。そしてその尽くで、

彼女は連合、帝国問わずに大殺戮を展開している。彼女が有名になった理由、それは

戦争の『英雄』としてではなく、『殺人鬼』としてのものだ」

 

「おいおい・・・」

 

「ついた異名が『狂刃鬼』。あまりに狂的な殺戮劇を展開するところから

つけられたらしい」

 

あんまりな内容に、さしもの『赤き翼』の面々も沈黙する。

ガトウも最初はそうであった。なにせ、自分よりも遥かに年若い少女がたった1ヶ月で

数千人規模の殺戮を行なっていたなど、正気の話ではない。

年齢で言えば、弟子であるタカミチとだいたい同じかそれよりも下。そんな彼女が

一体何を理由に無差別殺戮を行なっているのか。ガトウとしてもその理由を解明し、

その背後に潜む恐るべき何かを探ろうと模索していたところだ。

だが、今は大戦の真っ只中。あくまで相手は規格外なだけの殺人鬼でしかなく、戦争に

大きく関わるほど重要な話ではないため調査を本格的に行うことができず、元老院からも

帝国を優先して調べるように言われていたのだ。元捜査官としては、犯罪者を見逃す

ような真似はしたくないのだが、状況が状況である。諦めるほか無かった。

だが、戦争を早く終わらせるために『赤き翼』を裏方から支援し、今日からは表舞台で

直接仲間として、共に戦っていこうと思っていた矢先のこの話。

ガトウにとっては、正に行幸とも言える話であった。

 

「しかし気になるのう・・・あのような幼い少女が何故・・・」

 

「生活に困って・・・。ねぇな、だったらもっと動きが素人なはずだしな」

 

少女の目的が分からず、首をひねるゼクトと、とりあえず尤もらしい理由を上げては

みるものの、即座にそれを否定するラカン。

 

「・・・正直、俺でもあれほどの動きは初めて見る。『本家』でもあれだけの動きが

できる者はいないだろうな」

 

「剣術なら俺達で一番強い詠春でも無理、か。本格的によく分かんねぇ嬢ちゃんだ」

 

グレート=ブリッジでの死闘を思い出し、見事なまでの動きと効率的な殺しの技術を

魅せつけた少女に、詠春は背筋にうすら寒いものを感じ。

ナギは詠春が言ったことを真剣に受け止めつつも、少女の目的を思いつかない。

すると、今まで沈黙を保っていたアルビレオが。

 

「・・・彼女の姿を見た時、一つだけわかったことがあります」

 

「「「!」」」

 

たったそれだけ。それだけの言葉を発しただけで、彼に嫌というほど視線が集中する。

『赤き翼』で長く頭脳労働を担ってきた彼ならば、自分たちでさえ気づかなかった事実を

見つけてくれたのではないかと。

 

「さすがアルだ! で、何が分かったんだ!?」

 

「はい、さすがに迷ってしまいましたが・・・。一番しっくりくる答えが見えました」

 

「そうか。して、お主が見出した答えとは何じゃ?」

 

「それは・・・」

 

「「「それは・・・?」」」

 

緊迫する空気。アルビレオの、彼の言わんとする事をしっかりと耳にせんと、この場に

居合わせる全員が息を呑む。そして、アルビレオの口から、衝撃の言葉が放たれる。

 

「彼女はメイド服が非常に似合いそうであるということです!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

「それもミニではありません・・・。ロング(スカート)こそが至高ですね」

 

「・・・・・・こ」

 

「色は白よりも黒を基調としたものがよいですねぇ。あと」

 

「「「「この変態があああああ!」」」」

 

「コーヒーはいりましたよー!」

 

 

 

 

 

「さて、冗談はここまでにしておきましょうか」

 

ホクホクとした笑顔のアルビレオと、疲れきった面々。それもこれも、全ては

アルビレオの悪ふざけのせいである。

 

「・・・で? お前がわかった事実ってのは何だ?」

 

「先程も言ったじゃないですか、彼女はめいd分かりました、真面目にやりますから

斬岩剣を放とうとしないで下さい。ラカンも『千の顔を持つ英雄(それ)』を仕舞って

下さい。話が進みません」

 

「「誰のせいだと思ってる、誰の!」」

 

冗談めかした言い方をしながら、詠春とラカンを弄ぶアルビレオ。魔法使いとして

この世界でも指折りの実力者である彼だが、惜しむらくはその性格であろう。

さて、ようやく大人しくなった二人を見て、アルビレオも真剣な表情を見せる。

 

「彼女は、我々を相手にした際、わざと逃亡していたように思えました」

 

「ああ、そりゃ俺も感じてたな。なんで逃げたのか分かんねぇけど」

 

とはナギの談。彼自身、大きな違和感を抱いていたらしい。

アルビレオは続ける。

 

「思うに、彼女は何らかの条件を満たす人材を探しているのでは。

そんなふうに思えたんですよ」

 

「人材探し? 何故そんなことをわざわざ・・・」

 

と、疑問の声を出すガトウ。彼女の目的が何なのかをこの半月ほど調べていた彼では

あるが、彼女と接触したこともなく、そもそも彼女と出会って生き残れた人物が

少なすぎたこと、そして生き残れた人物に話を聞いてみても、皆あの地獄を思い出したく

ないと口を閉ざしてきた。そんな中、彼らは彼女に出会い、それも疲労している中

ほぼ対等に戦ってみせた。実際には、彼女が手加減している可能性もあったがそれは今

論じる点ではない。彼らが彼女を見て、どう思ったのかを聞きたかったのだ。

そして、アルビレオは彼女の行動の確信とも言えることに気づいているのかもしれない。

しかし、それが単なる人材探しとあっては、疑いを抱かざるをえない。

人材が欲しいのであれば、わざわざ相手を殺すような真似はする必要がないからだ。

 

「ええ、その点は私も疑問に思っていましたが・・・。彼女の求める人材の条件を仮定

した場合、彼女の行動にも納得がいくのです」

 

「目的ねぇ・・・さっぱり分かりゃしねぇ」

 

「強い奴を探してるとかそんなんか?」

 

「はい、ナギ。正解です」

 

「え、マジ?」

 

当てずっぽうで言ってみたことが、よもや正解だとは思いもよらずに少し驚く。

 

「彼女は私達『赤き翼』に対しては、まるで私達の力量を試すかのような戦い方をして

いました。恐らく、元々それが目的でグレート=ブリッジへとやってきたのでしょう。

そして、一手手合わせを行った後に、実力を十分把握したため撤退。

帝国側も探ってみたが、見合うような実力者がいなかったため、恐らく自身という

情報の秘匿をするために皆殺し・・・こんな具合でしょうかね?」

 

「情報の秘匿・・・する意味はあるのか?」

 

「自分が行動しやすくなる、相手に警戒されづらい。これだけでも実力者探しには

十分なメリットになります。そして、それは誰かが指示している可能性が高い」

 

「指示・・・やっぱり背後に組織的なものが関与している可能性があるか?」

 

とはガトウの疑問。確かに、アルビレオの言葉通りであれば、そういった辻褄が合う。

少し戦って即離脱した理由も、こちらの実力を確かめに来たのなら納得だろう。

帝国兵を皆殺ししたことも、理由がかなりぶっ飛んでいるが可能性はある。

そして、彼女がああもあっさりと引いたのは、何者かに予め指示されての行動であると

判断すれば、その背後に何らかの組織的な存在が見え隠れするようにも見えてくる。

 

「そこまではなんとも・・・。ですが、相手は少なくとも二人以上で連携をとっている、

油断のならない人物たちであるということです」

 

「まあ、俺達ですらまともに反応できない速さで剣を振るう少女に、それに指示を出す

未だその姿を見せない謎の人物。警戒しすぎるといったことはないな」

 

詠春としても、彼女の正体が未だ不明である以上、何としてもその正体を突き止め、

可能であればその凶行を止めたいと考えている。

 

「厄介なことにならねばよいが・・・」

 

ゼクトの、戦争の行方を心配する呟きは空気に溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ次へ行くとするか」

 

「・・・人材探しは、・・・もうよいのですか・・・?」

 

「あらかた探し終わったからな。とはいえ、まさか対象が『赤き翼』位しか

おらなんだとは、連合も帝国も腑抜けが多いようだな」

 

「・・・マスターが・・・相手では・・・」

 

事実、エヴァンジェリン相手では一国の大軍を相手にすることに匹敵しうる。

なにせ、不死身にして600年を生きる膨大な知識を有する存在であり、老人特有の

老獪な思考さえも簡単に看破してみせる。そこに魔法という巨大な対抗手段を

完全に封殺する鈴音が加われば、正に鉄壁の布陣だろう。

 

「・・・行き先は・・・」

 

「そのことなんだが。実はな、鈴音。お前のあの『能力』について調べていたのだが」

 

「・・・お手数をかけてしまい・・・申し訳ありません・・・」

 

「私が好きでやっているだけだ。お前のことをもっと知っておく必要があるしな」

 

「・・・・・・ポッ・・・」

 

「頬を染めるな! というか口で言ってるだろ!?」

 

「・・・マスターは・・・いけず・・・です・・・」

 

「・・・一体どこでそんな知識を学んだんだ・・・。まあいい、話を戻すぞ。お前の

能力と類似した効力を持つ『魔法無効化(マジック・キャンセル)』能力を

持つ人物が、ある国家にいることが判明した」

 

「・・・ウェスペルタティア・・・?」

 

「そうだ、やはりお前も調べていたか。アリアドネーに真っ先に向かわせたのは、

どうやら正解だったようだな。お前は要領がいいからすぐにその結論を出せると

思っていたぞ」

 

 

ぐしぐしと、鈴音の頭を強めに撫でる。褒められたことが嬉しいのか、はたまた

撫でられるのが恥ずかしいのか。先ほどの茶化すようなのとは違って、熱を帯びた

頬の染め方をしている。

 

「で、だ。ウェスペルタティアでは、そのある人物(・・・・)が兵器として利用

されているらしい」

 

「・・・黄昏・・・」

 

「お、そこまで辿り着いていたか。流石、私の従者だよお前は」

 

誇らしげに、エヴァンジェリンは微笑む。自分を理解してくれる従者が、思った以上に

優秀であることに喜びを感じているのだ。そんなエヴァンジェリンを見て、

 

「・・・かわいい・・・」

 

「な!? べ、別に褒めても何もでないぞ! ええい、この1ヶ月でお前に何があったと

いうのだ!?」

 

「・・・本を、読んで・・・?」

 

「元凶はアリアドネーかっ!? ・・・今度行った時にあの都市を丸々凍りづけに

してやるか? ・・・いや、それよりも鈴音を再教育すべきか・・・」

 

鈴音は、よくも悪くも純粋だ。学んだことを貪欲に吸収し、昇華させる。

戦闘訓練を行った時も、エヴァンジェリンのスパルタな特訓にも数日で慣れていき、

半年で及第点を出せるレベルまでに至った。ただ、知識で知らないことは基本的に

なんでも学ぼうとするため、無駄な知識まで増えていくのは困りものであった。

そんな彼女がアリアドネーに行けば、当然学ぼうとする真剣な姿勢に歓迎されるだろうと

彼女を真っ先に向かわせたのだが、悪い部分も如何なく発揮されたようで、

エヴァンジェリンは頭を抱えてしまった。うんうん唸っている彼女を見つめ、首を傾げる

鈴音。実に可愛らしいが、彼女が己が主人の頭痛の種であることは理解できなかった。

エヴァンジェリンは、とりあえず鈴音の教育ことは保留にしようと結論を出し、中途で

あった話を続けはじめた。

 

「は、話が脱線し過ぎたな・・・。ウェスペルタティアの、人間兵器として扱われて

いる存在・・・。正に人間としての尊厳など考えられてはいないのだろう。

・・・実に面白いと思わないか?」

 

「・・・仲間・・・」

 

「ああ。私達はまだ『少なすぎる』。『英雄』を見出すというのなら、それこそ巨大で、

強大な力が必要だ。ならば、私達と志を同じくする同志を集めればいい。その点、かの

『黄昏の姫巫女』ならば我々と同じくバケモノ同然の扱い。勧誘対象には十分だ」

 

「・・・王国の、妨害・・・」

 

「死にかけの国家1つ程度が、私と鈴音(バケモノ)を止められると思うか?」

 

「・・・否、無駄な・・・抵抗・・・」

 

「ククッ! さあ、向かおうか・・・新たな同志を求めてな!」


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