IS学園が襲撃されている頃、綾瀬絵里は輸送機の中の座席に身を任しながら携帯端末を弄っていた。
今日の午後には学園に着くので蓮花に朝から彼の携帯端末にメールを送っているのだが、一時間しても二時間しても返信は返ってこない。
諦めて携帯をしまいこむ。
(蓮花・・・あいつ何やっているんだろ。何年ぶりかな?もう、忘れちゃった・・・)
絵里は共に青春時代を過ごし、自分自身の思いを伝えられなかった相手を思っていた。その心は今でも変わらずにあり、彼女の胸の思いは昔と何も変わらなかった。
絵里は不意に左手にある待機状態の相棒を見た。
今まで多くの修羅場を共に切り抜け、その度にお互いボロボロになった。そして、これからもその関係は続く。『よろしくね』と絵里は言いながらその相棒にそっと口づけをした。
と、次の瞬間、輸送機内にけたたましい警報音が鳴った。
「っ!」
絵里は何事かと思って身構える。
「何があったの!」
『げ、現在、後方から高速で接近してくる未確認不明機を確認』
「まさか、私を狙って。けど、一体どこの組織が・・・」
そんなことを考えている余裕がないことに絵里は気づくと、瞬時に頭を切り替えてコックピットに命令する。
「ハッチを開けて。後は私が対応する」
『りょ、了解!』
絵里にとって移動中の敵組織からの攻撃は出来るだけ避けたい事態であったが、ここでやらなければどのみち落とされてしまう。自分はISがあるが、輸送機のパイロットはそうもいかない。
敵のスペック、数、所属、兵装、情報なし。
「・・・上等じゃない」
絵里は開いたハッチに向かって走り、大空に向かってダイブする。
体は強化装備と言われる試合ではなく、戦闘用に新たに開発されたスーツ
を着ていた。
高度な伸縮性を持ちながら、衝撃に対して瞬時に硬化する性質をもった特殊保護皮膜の第一層(データスキン)と、各種装置を収納したハードプロテクター類を含めた第二層(アーマースキン)で構成されており、頚部と肩のプロテクターには主要電子機器の他、カウンターショック、圧力注射などの救命機構、生命維持装置が収められている。
耐Gスーツ機能、耐衝撃性能に優れ、防刃性から耐熱耐寒、抗化学物質だけでなく、バイタルモニターから体温・湿度調節機能、カウンターショック等といった生命維持機能をも備えている。
という、かなり特殊仕様に施されており、ISスーツのように肌を露出している面は顔以外殆どない。
「いくよ・・・」
一瞬の光の後、そこには紫のカラーペイントの一機のISが大空に躍り出た。
絵里の愛機であるチェルミナートルである。彼女は一瞬でアサルトライフル二門を展開すると、ハイパーセンサーでこちらに向かって飛んでくるISを確認した。
「お前が綾瀬絵里か」
絵里の前にはラファールが二機いた。
「ええ、そうだけど?」
「・・・悪いが、死んでもらう!」
ラファール二機は絵里に向かっていきなり発砲してきたが、敵と認識していたので即座に回避行動に移って銃弾を避ける。
逃げつつ追ってくる後ろのラファールに射撃をして、もう一機のラファールに意識を集中する。
(こいつが以外にレーダーに反応なし。武装はラファールの基本装備。腕は・・・まぁ、そこそこね)
逃げていたが、一気に反転ブースターでラファールに背面を見せながら空中ターンで丁度下を飛ぶラファールの頭上から射撃をする。
「くっ!このぉ!」
着弾したことにより、少しラファールの体制が崩れる。その瞬間を逃さないとばかりに左手の銃を収納して、左腕部のモーターブレードを出してラファールに斬りかかる。
思わず銃を盾にするが、その銃を簡単に切断する。
「ふっ!」
絵里はそのままラファールの腹部に向かって銃を連射する。そこで、ラファールのSEはどんどん削れ、パイロットも気力を無くしていく。
「死ねっ!」
そうこうしているうちに後ろからもう一人がサブマシンガンを連射しながら接近してくるが、掴んでいるラファールを思いっきりもう一人の方に向かってブン投げた。二機のラファールは正面衝突してしまう。
同時に絵里はその二機のラファールに向かって両手にアサルトライフルを構えてラッシュをかけた。
「がぁ・・・・」
「一丁あがりね」
絵里は強制解除された二人のパイロットを空中で拘束すると、少しばかり距離が空いた輸送機に向かって飛んでいった。
輸送機に戻って中にいた他の兵士にパイロットを任せ、絵里はISを解除する。戦闘終了後の戦闘データを一旦違うコンピューターに転送する。
ISのメンテも入念に行い、一旦休憩してから拘束されている二人のパイロットを見た。
デスクには俺宛に送られてきた大量の手紙が無造作に置かれていた。その殆どが女性権利団体からの抗議や誹謗中傷、殺人予告などの、常人であればうつ病にでもなってしまいそうなものばかりであった。
「また、こんなものばかりか。前はカミソリとか入っていたんじゃないのか?」
この現状に対して千冬は呆れた声を発しながらココアを淹れてくれた。
「うい、サンキュ。個人で出している手紙のカミソリなんて可愛いもんさ。この前は荷物で高性能爆弾まで仕掛けてあったからな。まぁ、それ以来は調べてからにしてもらっているけど」
「はは、そうだったな。それにしても、随分と女性権利団体の力が強くなったな」
「そうだな。少しばかり過剰な行動が多く見られる。この前もそれに反対するかのように男性権利団体が委員会と国に女性優遇政策の抗議を申し出たが、全部破れたらしい」
「そうか。今の現状では覆しようがないか」
「そうだな」
女性権利団体か。昔と比べると本当に過剰な動きが多い。それに、数機のISを保持しているし、その動きがどうも怪しいものが多い。
ISの数は限られている。限られているが故にその一機一機の行動は大きなものなのだが、同時にその全ての行動を把握出来るほどこちらも情報網が広い訳ではない。国内ならまだしも、国外でIS以外にも戦力を保持しているとなると、それはかなり厄介な出来事になる。
IS委員会は女性権利団体に掌握されたと思って間違いはない。
国の上層部も最近では女性が半分を占める。日本帝国軍IS部隊はどうかは知らないが、帝国斯衛軍は武家の人間を護るために存在している。ほぼ、独立と言ってもいいが、武家の人間が自ら前線に赴くことはない。
何かあれば協力を求められると思ったんだけどなぁ。今度話でも・・・。
「蓮花、これが今度来る転校生の資料だ。一応目を通してくれ」
「ああ、分かった」
千冬からドイツとフランスからの転校生の資料を見せてもらった。来週からはフランスの大企業であるデュノア社の息子である、シャルル・デュノア君が転校してくる。
「・・・・?」
くん?
「千冬、俺の目がおかしくなければここにはシャルル・デュノア君性別♂と書かれてあるんだが?」
そう聞くと千冬は顔に手を当てて少し唸る。
「ああ、実はなんでもフランスで男の適性検査をするとデュノア社の息子から出てきたんだそうだ」
「はぁ、けどこの子絶対女だよ」
資料の顔写真に写っているのは金髪美少年であるが、見ようによっては女にも見えてしまう。
「それは私も思っている。素でこんなに可愛い男がいてたまるか」
「?・・・・まぁ、いい。身体検査とかしなくていいのか?直ぐ分かるが?」
「いや、いい。もし、女であったならばその時はその時に任せる。もし、何も危害を加えないのであれば、その時までこいつは私の生徒だ」
「そっか・・・まっ、確証がある訳でもないしな」
もう一人の方を見た。
名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。銀髪のロリである。
ドイツのIS部隊に所属しているらしく、この年でよくやるものだ。幾つかの特別枠が書かれていたが、何も気にしないことにして彼女の資料を閉じた。