ベンチに座りながらボケーと空を見る。
今頃、千冬、絵里と一年生たちは臨海学校へと向かっている頃である。本当であれば俺も行かなくてはならないのだが、この身体ではどうしようもない。行ったとしても足でまといになる。
「どうしたもんかなぁ・・・」
ここ数日ずっと考えていた。
亡国の誘いを受けるか、受けないか。受けない場合は亡国と最終決戦へ。勝ったとしても、スコールの言うことが正しいとこの先人類は宇宙への進出が不可能になる。
だが、スコールはそれだけではない。他にも何か隠していることがある。
一体何を隠しているんだ・・・。
見上げた空には答えに迷っている俺を笑うかのようにギラギラと照り付けていた。
「一本どうだ?」
空を見ていると俺に影を作るように視界にウィンディの顔が映る。ウィンディからココアの缶を受け取り、礼を言って冷たく甘い液体を喉に流す。
「相変わらず甘党だな」
そういうウィンディは珈琲の缶を開ける。
「珈琲の上手さがまだ分からん」
「子供だな」
「ほっとけ。子供心を忘れないのは大切なことだ」
そのままグビグビとお互いに甘くほろ苦い液体を喉に流す。そして、ウィンディが言った。
「それで、一体何を迷っているんだ?」
その言葉にビクッと一瞬身体が震えるが、直ぐに落ち着きを取り戻して返す。
「それは・・・」
全てを裏切って亡国の、スコールの言うことに賭けるか。きっと、ここまで垣間見せた事実を俺が最後まで知りたがっていると思ってのことだ。やり方が非常にせこい。
「言えないことか?昔から隠し事が多いな」
「言うな・・・」
「まぁ、構わんがな。蓮花。これは、友人として君に言っておきたい。君が何を迷っているのか分からない。それでも、どんな選択肢を取ろうとしても絶対に後悔しないことを約束して欲しい」
「ウィンディ・・・」
真剣なその眼差しに彼女が俺に何をして欲しいか悟った。
どんな選択肢になろうと、自分で選んだのならば最後までそのミッションを完了しろと。彼女はそう言いたいのだ。
昔からそうだ。こいつは自らを律するためにミッションを達成させる。
「なぁ、ウィンディ。なんで世界はどうしようもなく歪んでいるんだろうな」
「どうした、いきなり」
「停滞しつつあるIS経済。くだらない女尊男卑。各地で頻発する抗争。俺たちは世界をどうしたいんだろうな」
「まぁ・・・確かにな。それでも、私は守らなければならない者たちのために戦うだけだ。自分が信じた道を進む」
ウィンディは今を生きる人たちのために戦う。その全てを守るために。
「そうか・・・ありがとう、ウィンディ」
「なら良かった。緩むなよ、その選択に」
「ああ・・・お前の言うとおり、後悔だけはしないさ」
それを聞いたウィンディはニヤリと笑ってみせた。
彼女と別れて寮に戻ろうとする。見れば空は赤く染まっており、随分と彼女と話し込んでいたようだ。
今日という日も終わりを迎える。いつか、こんな日のように世界に終わりが迎えるのだろうか。
変に考えるのは止めよう。
「先生、お疲れ様でーす!速く元気になってください!」
同じように寮へと帰宅しようとした生徒たちが俺に向かって手を振る。そんな元気に手を振る生徒たちを見ながら平和だなと思う。それは日常の何気ない一つ一つの世界から見受けられる。
・・・俺はどうしたらいいんだろう。やはり迷いがある。スコールの言う世界に変革をもたらして果たしてそれは正解なのだろうか。誰かを傷つけることによって得られる未来に可能性などあるのだろうか。
分からない。
一体何が正解なのか。
スコールの言うことも分かる。SOS財団でもISコアを生み出すことは出来ない。それが、篠ノ之博士にしか作れない時点で限界は決まっているのだ。
自力で第三世代機まで到達したのはいいが、それはISが更なる驚異だということを証明している。
勢いづく女性権利団体の力はもう誰にも止められない。これからは男性がもっと住みにくい世界になってくるのだろう。
大昔に男尊女卑という時代にも似たようなことはたくさんあった。幾つもの論争や、社会的背景、人々の心情、そして互いの理解によって異性による差別はなくなった。
だが、今の世界はどうだ。
ISが使えるのは女性だからといって、権利や待遇、様々な面で男性より女性の方が優遇されている。
そこに理解はない。
優れているから、ISが使えるから、そんな単純な理由で優越感に浸り、男性を貶すことによって得られた地位に一体何を期待しろと言うのだろうか。
ただ、自分たちにとって都合のいい世界を作っているだけではないのだろうか?
俺がもっと世界の中の一人なら・・・大勢の中の一人なら何も考えずに世界の流れに沿うだけだったのにな。
「どうして俺なんだ?」
篠ノ之博士の知り合いでも、千冬と特別仲が良かった訳でもない。ISとは全く無関係な人生の道を歩いていたのにも関わらず、俺は世界初の男性操縦者として祭り上げられてしまった。
いい気になっていたのだ。自分は特別なのだと。他の人間とは違う。そう思っていた。だけど、その本質は調子に乗って自分に力があると過信していた馬鹿野郎だ。
おもちゃをもらった子供のようにはしゃいでいた。
今じゃ、世界を大きく変革するかで悩んでいるのだ。
それがどれほどの行為か、どれほどの罪になるのか承知だ。知っててやるのだ。こどものような言い訳はもう通じない。
自分が今まで積み上げてきたものを全て破壊することだ。
Prprprprprprprp
「千冬?」
携帯のコール画面には千冬の文字がある。何かと思って通話ボタンを押した。
「どうした?」
『ああ・・・丁度、こっちでも休憩を取れる時間があってな。なに、私がいなくて寂しいと思っている頃だと思ってな』
「なんだよ、それ。まぁ、寂しいよ」
『そ、そうか。どうだ?怪我の具合は?』
「おかげさまで予後は良好だ。もう少ししたら復帰できると思う。何かと迷惑かけたな」
『いいさ、お前が万全の状態になってくれればそれでいいさ』
「すまんな。あ、そういえば週末行く予定だった買い物出来なかったな。悪い。臨海学校の買い物だろ?」
『ま、まぁ・・・そのつもりだったんだがな。別にいい。帰ってきたら一緒に行こう』
「いいぞ。せっかくだし、絵里たちも『あいつらは忙しいみたいだ』あ・・・そうか。じゃぁ、二人で行こうか」
『ああ・・・・二人でな。楽しみにしているぞ、蓮花』
「俺もだよ、千冬」
『それじゃぁ、私はそろそろ行かねばならない。またな』
「おう、一夏たちをビシバシ鍛えてやってくれ。あっ、そうだ千冬」
『どうした?』
「・・・・ありがとうな」
通話ボタンを切って「ふぅ」と息を吐いて前を向いてみる。
いつも千冬に助けられていた。入学して右も左も分からない時にあいつは手を貸してくれた。決闘することになったら一緒になって特訓してくれたし、練習相手にもなってくれた。時には喧嘩をして本気の殴り合いもしただろう。意見がぶつかるなんてしょっちゅうだ。
だから、俺はきっとそんな彼女に惹かれていたんだろうと思う。
そんな世界を俺は守りたいと思った。その為なら、自分の全てを壊してもきっと俺は自分を自分で赦せることが出来ると思う。
そりゃ、ウィンディの言う後悔なんてことはすると思う。嘆いて、絶望して、死ぬかもしれない。
けど、それでも彼女が生きるこの世界に少しでも可能性を残すことが出来るなら、俺はどんなことでもするだろう。
夕日に染まる空の下、カードに記された番号にコールした。
さてさて、物語も色々と展開してきました。
ご存知の通り、ラブコメキャッキャッ日常系ではなく物語重視になって話しが進んでおります。
これから主人公がどういった選択肢を選び、どのような世界の結末になるかお楽しみください。
それにしても、暑い・・・。