これをインフィニット・ストラトスと言い張る勇気。   作:葉巻

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『少女と白騎士 When night comes.』⑧

「ッアアアアァァァァァァ――――ッ!!!!」

 咆哮。

 夜闇を切り裂くように放たれた一撃が、飛翔する蒼穹の雫(ブルー・ティアーズ)を掠める。神速の太刀を前にして、射撃戦闘は激しく交錯を繰り返す高機動戦へと移行していた。

 4基のユニットのうちひとつ――狙いの正確さにこだわるあまり近づけ過ぎた1基を両断したことで、セシリアの絶え間ない攻撃にはわずかながら隙が生じた。そこへ付け込むようにして一撃離脱の近接を仕掛け、狙撃手の安置を打ち崩す。そこまでは箒が優勢に立ち回っていた。

 だが、精密射撃という手札を奪ってもなおセシリアは諦めない。相手への包囲網から自らの死角をカバーする戦術にシフトし、距離を広げるように飛び始めたのだ。

 追いすがる箒の軌道を塞ぐことで肉薄を避け、自らは射程外から撃っては逃げを繰り返す。長期戦の様相を見せ始めたことで、戦況は射程に優れるセシリアの側へと着実に傾きつつあった。

 

【脚部展開装甲、蓄積熱量限界(オーバーヒート)――強制冷却】

 

 慣れない状況での酷使によって、あくまで代替機構だった補助スラスターにもガタが来ていた。内部機構が輝きを失うと同時、『紅椿』の機動力が一段階落ちる。残る肩部のスラスターも、焼き切れる寸前の状態で辛うじて稼働している状況だ。

「まだだっ!」

 それでもなお、無理を承知で箒は跳ぶ。

 あと一歩、あとわずかの距離に敵のユニットを捉えながらも、その刃は届かない。それをわかっていてなお追いすがる。

「まだやれる! 応えろ『紅椿』!」

 

【『空裂』――補助射撃機構、解放】

 

 刀身が縦に割れ、内部の射出機構が剥き出しになる。箒は手の先に意識を集中させ、すぐ前方を飛ぶ敵ユニット目がけて剣を振るった。

 その切っ先が目標を捉えると同時、放出された高出力のプラズマが対象を焼き尽くす。再発射不能を示すステータスを受け取り、逆手に持ち替えた彼女は遠慮なく剣を投じる。弧を描きながら飛んでいった刃は、通りがかったもう1基の砲台を巻き込んで爆発した。

 これで残りはユニット1基とセシリアのライフルのみ。得物を失った箒は、提示されるままにもう一振りの武装を呼び出す。

 

【『雨月』展開――完了。補助射撃機構、解放】

 

「あと少し――!」

 刀身の付け根に収まったパルスショットを連射、セシリアの動きを牽制する。行く手を塞がれ停止した彼女へと、箒は一直線に突撃をかけた。

「させませんわっ!」

 進行を食い止めるために配置された最後のユニットが真正面から箒の姿を捉える。すぐ目の前に陣取ったそれは、残ったエネルギーをすべて砲身に注ぎ込み、回避不能なタイミングで最後の一撃を放った。

 とっさの軌道変更で体を逸らしたものの、退避しきれなかった左腕を放射された閃光が穿ち、過大な熱量が射線上の体組織を一瞬のうちに炭化させる。

「邪魔を、するなッ――!!」

 感覚の消失した片腕を意に介すことなく、彼女は右手に握った刃を砲台へと突き立て破壊した。

「セシリアアアアァァァァァァァァ――――!!!!」

 渾身の叫びを発しながら、箒は半壊した機体を突貫させる。構えようと回されたライフルを半ばから断ち斬り、残る短剣の展開も許さず刃を急所へと突き立てる――。

 

 ――お前は人を殺すのか?

 

 不意に手が止まった。最高潮まで熱していた感情が、氷水を浴びせられたかのように急激に醒めていく。

「あ……?」

 めぐるましく稼働していた思考が一気に鈍化し、全身が鉛に変わったかのような重さを帯びる。

 

 ――今、私は何を考えていた?

 

 手の先から『雨月』が離れる。

 自分が生きるためなら命も奪っていい。そう考えてはいなかったか。

 戦うことを、傷付くことを、傷付けることを愉しんでいなかったか。

 突き放したような自らの問いかけに、彼女は正気を取り戻した。

「違う。私は……私は、そんな……!」

 生きたいと願っただけだった。

 そのために力が欲しいと祈っただけだった。

 ――だがこれは何だ。この戦い方は、一体どういうことだ。

「私は……、どうして……?」

 

「――あらあら。肝心の詰めで仕損じるなんて、貴方もなかなかに愉快な人ですわね」

 混乱する箒の眼前に漂った状態で、セシリアは彼女の醜態を嘲笑った。

「殺しを躊躇うなんてかわいらしいですわね。けれど、そんな純真さはわたくし達に不要なもの。優しさなど軟弱の象徴、持ち合わせているだけ無駄なのですわ」

 手の中に呼び出した短剣を構え、彼女は動きの止まった箒へと狙いを定める。

 生きたくば相手を殺せ。それが『権限』を持つ者の規則。

 弱者は死に絶え、強者のみが生存を許される。その道理に従えないのなら、どこまで能力が高かろうとそれは弱者に他ならない。

「さようなら、篠ノ之箒さん。わたくしをここまで追い詰めたことだけは認めてさしあげますわ」

 彼女は刃を振り上げる。その動作に躊躇はなく、止めを刺すことに何ひとつ疑問を抱いてはいない。勝利と欲した存在の獲得を誇るかのように、高らかに声を紡ぐ。

「安心なさい。貴方はわたくしの地位を高める礎となるのですから。さあ、その血肉をわたくしのために捧げなさい」

 そして凄惨な笑顔とともに、心臓目がけ剣を下ろした。

 突き立てられた刃は無抵抗な箒の胸を穿つ――。

 

 ――――否。

 その切っ先は、横合いから伸びた手に直前で受け止められていた。

 

    ◇

 

「――間に合った」

 凶刃を握り潰して、少女は安堵の声を漏らす。

 『白騎士』――夏村唯織は、間一髪で篠ノ之箒を救い出すことに成功し、その命を奪おうとした相手を強く睨み付けた。

「ッ――!?」

「さあ、第2戦といこうじゃねぇかセシリア・オルコット。でもって一発ぶん殴らせろ」

「ヒーロー気取りとはまた……随分とわたくしを愚弄してくれますわね」

 余裕の漂う表情から一転、憤怒の表情へと変わったセシリアは唯織を睨み返す。互いに視線をぶつけ合う中、一足遅れて来た赤紫の鎧が放心状態の箒を抱きかかえた。

『よいしょっと。酷いケガしちゃってまあ……』

 黒焦げの左腕を前に複雑な表情を浮かべる少女に対し、唯織は背中を向けたまま呼びかける。

「リン、箒を頼む」

『わかった、任せといて。……ねえ、なんであたしの名前知ってんのよ』

「調べた――ってことにしといてくれ」

 詳しく説明している暇はない、と言わんばかりに答える。口ぶりから何かを察したのか、少女はそれ以上尋ねることなく後退していく。

 その気遣いに、唯織は心の奥で感謝した。

 

 退避が終わったことを確認し、唯織は武装を展開する。

 白銀の刃を備えた太刀。近接攻撃に特化したそれのみを携え、セシリアに向かい合う。

 対する彼女もまた短剣のみを手にしていた。

「手負いだからって手は抜かねぇ。全力で行くぞ」

「あら、わたくしは手負いだと一度も申していないというのに。外見で勝手に決めつけるのは早計ではなくて?」

 宣言した唯織に対し、セシリアは挑発の言葉を投げる。冷静を装いつつも、その言葉の端々には邪魔に入った『白騎士』への並ならぬ怒りが籠っていた。

 既にライフルも、背中に負っていた移動砲台すらも失っている。万全の状態と比較すれば、セシリアが満身創痍であると誰もが思うだろう。

 しかし、それでいて彼女に劣勢を感じさせる要素はない。怒気をはらんでこそいるが、その言動は未だ余裕に溢れている。

 

 ――まだ何かを隠し持っている。

 

 そう疑念を持たせるだけの気迫を未だ保っているのだ。真偽はともあれ、単なるブラフと掃き捨てるには危険過ぎる気配が漂っている。

 だからこそ、決して油断はできない。

 互いに距離は取りながら、一瞬で詰められる位置を保って睨み合う。お互いの言葉を待つように、相手の隙を見定めるかのように。

 ――そして、ついに各々の口が開いた。

 

「いざ尋常に――」

「勝負ですわ」

 

 掛け声とほぼ同時、両者は動き出す。

 正面切っての打ち合い――ぶつかった刃同士が虚空に激しく火花を散らした。

 

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