当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 連続投稿一話目。頑張ります。


05 私はこうして巫女と戦う

 

 博麗霊夢は考えていた。地底に入ってから突然減った怨霊。途中に居た黒い猫の妖怪。そして萃香と同じ鬼の言葉。

 突然現れた怨霊はまあ良い。いきなり目の前に現れて『地底に原因がいるから行ってこい』と自分を地底に放り込んだ狐についてもまあ良い。

 

 けれど、地底と言うスペルカードが(・・・・・・・)普及(・・)していない(・・・・・)場所だと言うのに、今まで出てきた妖怪のほぼ全てが弾幕ごっこ用のスペルカードを用意していたと言う点だけはどうしても気になっていた。

 その事について倒した鬼に聞いてみれば、鬼は笑って『古明地さとりに言われて作るだけ作っておいた』と答える。そしてなかなか楽しかったと礼を言われ、酒を土産に持たされそうになってまだ用事があるからと断り、そして先に進んできていた。

 

「……ねえ、萃香」

『んぁ? なんだい?』

「あんた、古明地さとりって奴のことを知ってる?」

『知ってるよー。私も結構長いこと地底に住んでたからね~。頭を使う遊びでも喧嘩でも本気の戦いでも一回も勝てなかったんだよね~』

 

 あっそ、等と軽く返事をしたが、霊夢の胸中には面倒な相手が出てきたと言う思いがあった。

 相手は覚妖怪、つまり心を読み、こちらの弾幕の穴を読んで当たらないように動くと言うことが予想できる。罠として作った偽の逃げ道も機能することはなく、本物の道だけをすぐに見抜いてくるだろう。

 そしてこちらの動きを読み、逃げようとした先に弾幕を張り、逃げ切れないように封殺される可能性も十分に考えられる。

『弾幕ごっこ』と言うルールにおいて、覚妖怪ほど厄介な相手は存在しないだろう。

 また、萃香は『本気の戦いも含めて勝てたことは無い』と言った。鬼に戦闘で勝つことができる覚妖怪とはいったいなんなのか。いやむしろ、本当にそれは覚妖怪なのか?

 

 弾幕を避けながらも思考を続ける。考えることは一つ。古明地さとりについて。

 どう戦うか。どう勝つか。どんな弾幕を使うのか。そんなことばかり考えていた。

 

 そう考えている間に、霊夢は目的地である地霊殿に到着した。そこにいる数多くの動物達が霊夢を見て騒ぎ出すが、襲いかかってこようとはしない。完全に調教されていると取るか、それとも取るに足らない相手だと思われていると取るか……霊夢は『襲ってこないなら面倒がなくていい』と考えて先に進んでいった。

 ───そして、霊夢は出会った。

 地霊殿から地底を支配する、小さな大妖怪。弱く小さく偉大な強者。矛盾を呑み込み体現し、同時に確かな存在としてそこに在る、古明地さとりと言う妖怪と。

 

「貴女が博麗の巫女でしょうか?」

 

 その出会いはあまりに不意なものだった。気が付いたら、と言うのが最も適した表現だろう。『気が付いたら』霊夢の視界の真ん中に居て、『気が付いたら』近付いてきていて、『気が付いたら』話しかけられていた。

 

「ええ、そうよ」

「わかりました」

 

 ───そして、『気が付いたら』向こうからの問いに答えてしまっていた。

 

「では、今回の出来事の馴れ初めを伝えましょう───『想起・ま た 守 矢 か』」

 

 そいつがそう言うと、くっついていた目玉のような物から光が溢れ、私の脳裏に私の知らないはずの情報が流れてきた。……なるほど。原因の原因は守矢なのね。と言うかこれ、よくわからないけど便利ね。

 

「便利なのはその通りですが、今回のような面倒事も招くのですよ。……では、本当ならば早く通して解決していただきたいのですが、一応確認作業をさせてもらいます。偽物や別人を通すのはどうかと思いますし……例え本物であったとしても、私の弾幕すら越えられない程度の実力では命を無駄にするだけですからね。

 ……では───『想起』」

 

 

 

 ■

 

 

 

 博麗の巫女。見たのは初めてだったが、あれが人間だとはとても信じられそうにない。人間と言うより仙人に近い……どころか、すでに彼女は一つの自然現象のようなものだ。

 大気で表すならば嵐。海で表すならば時化。巨大なエネルギーの全てをあの小さな体に体現して見せるとは、博麗の巫女と言うのはやはり化け物の一角と言えるらしい。

 そして、やはり私のような弱小妖怪ではあの巫女には勝てそうにない。記憶にある『百万鬼夜行』と『三歩必殺』を重ねて使ったと言うのに、あの巫女は見事に避けきってみせた。強力な能力だけでなく、判断力もまた凄まじい。本当に人間かどうか怪しく思えてくる。

 

 ……あの巫女は、お空を打倒するだろう。神の力を……それも、眷属とはいえ太陽神と言う凄まじい信仰を受ける神の力を身に宿したお空であっても、弾幕ごっこと言う遊びの範囲では間違いなく勝利を掴むことはできない。

 かつて大和の國を率いて無数の神を滅ぼした建御名方。日の本の國が大和と呼ばれる以前から國を率いていた祟り神。二柱の強大な神を降すだけのポテンシャルだけでなく、あの反則じみた能力。それらが合わされば最早まともに戦って勝てる相手など見付からないだろう。

 もしかしたら居るかもしれないが、それはけして私ではない。私はできることなら二度とあれと戦いたくはないし、できることならば顔を会わせるのも控えたい。会ったとしても戦うのは嫌だ。戦闘回避のためなら地霊殿で作っている『鬼笑天血』を捧げてもいい。

 かつてこの酒を賭けた勝負で勇儀さんだけでなく地底の鬼と言う鬼が血で血を洗うような争いを起こしたこともあるが、それでも捧げてもいい。未だに予約で数年ほど埋まっているが、私が個人で飲む分は確保してあるから、そこから出そう。

 ……ちなみに、そのお酒は時々減る。こいしが飲んでいるのだろうと思うが、どうせなら私と一緒に飲もうと言ってくれればいいのに……。

 萃香さん? 前に一度霧になって入ってきた瞬間に疎密を操る能力を暴走させて意識が消滅しかねないほど散らしてから、霧になって地霊殿に近付くことは無くなった。その時の萃香さんの感じた恐怖はしっかりと本能にまで刻み付けましたので、想起させれば無力化できる。私の能力が全く効果が無いのはこいしくらいなものだ。

 

 暫くすればお空が上がってくるだろう。一応原因となったお空の力を制御できる程度まで封印し、その上で今までと変わらず生活させるように言ってくるだろう。

 彼女は優しくはないが、理不尽ではない。誰の味方でもなく、誰かにつくこともない。自分以外の全てに対して公平で、あらゆる物に近付きすぎず離れすぎない。

 八雲紫も、よくもまあこんな化物を見付け出してきたものだ。私の能力からも半ば浮いていたせいで、私も博麗の巫女の弾幕に当たりかけてしまった。痛いのは嫌いだし、服もボロボロにするわけにはいかないと言うのに……。

 

 ……今日は厄日だ。間違いない。

 

 

 

 ■

 

 

 

『……霊夢。大丈夫か?』

「大丈夫よ」

 

 珍しく本気で心配そうな声で話しかけてくる萃香にそう返し、私は飛ぶ。着ている服は全体的にズタボロになってしまっているし、ボムも残りは3つのみ。霊力自体は大して減っていないのが唯一の救いではあるが、あまり慰めにはなっていない。

 私がここまでボロボロになった理由は、今さっきまで戦っていた覚妖怪にある。私の記憶にあるスペルカードの弾幕。それをランダムに二つ抜き出して合成し、極僅かな……気付くどころかその弾幕のことを熟知していたとしてもほんの僅かな気の緩みでピチュりかねないほどにかすかな道を与えて撃ち出してくる。

 枚数自体は三枚と多くはなかったが、あんなものが五枚も六枚もあってたまるものか。

 

 初めは萃香の『百万鬼夜行』と、道中の鬼の『三歩必殺』の合わせ技。あの妖怪は『百万鬼の撃滅三歩』と呼んでいたスペルカード。あれ一つで大半の妖怪は落とすことができるだろう。

 次に紫の『二重黒死蝶』と幽々子の『反魂蝶-八分咲き-』の合わせ技らしい『二重反魂蝶-十六分咲き-』。八を二つで満開以上とは中々に嫌な技だった。

 最後の一枚。これこそが私があの妖怪を間違いなく性格が悪いと言い切る原因となった弾幕。

 

 『金閣寺の一枚天井』と『うろ覚えの金閣寺』を1.5秒差で放つ、『金閣銀閣の双天井』。あんなものまともな方法で避けられるわけもなく、ボムを幾つも使わされてしまった。

 ……しかも、カードブレイクを早めるために攻撃してもその弾幕を全て読まれて回避され、途中からは回避に集中させられ、それでなんとか抜けられた。

 

 ……正直、二度と戦いたくない相手の筆頭だ。そんな奴を相手にしてしまうなんて───。

 

「……今日は厄日だわ」

 

 私は一つ、溜め息をついた。

 

 




 
 さとりがどうして金閣銀閣の双天井を想起できたのかはまだ秘密。
 ただし、さとりが想起してみて『無理』と思った合成弾幕にはさとりから直々に解説が入る、みたいな感じで教えられたから、ってことにしておいてください。

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