投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
実は私、ちょっと倒れてました。風邪で。動きたくても立てず、脱水が酷くなりそうだったのに近くには酒しかなかったので仕方なくそれ一口飲んでなんとかアルコールエンジンかけてやること全部終わらせて寝込みました。おみずおいしい。
頭痛い喉痛いで投稿が遅れたことをお詫び申し上げます。
また、最近クトゥルフ成分が濃すぎるという指摘を頂き、自分でも正直そう思っていましたので、次話あたりから薄めていこうと思います。
私に向けて跪く貴人聖者。彼女は私をクトゥルフの化身か何かだと思っているようだけれど、実際には私がそんな邪悪なものであるはずがない。まあ、確かに覚妖怪という妖怪だということを考えれば邪悪な存在である、と言うか負の存在であるということには間違いはない。光と闇であれば闇。清と濁で言えば濁。基本的に妖怪と言うのはそういうモノだ。
だが、だからと言って妖怪が全てにおいて害になるというわけでもない。どうしても力が強くならない妖怪は人間に益を与えることで小神と成ることで生を繋ぐこともあるし、それすらもできない妖怪であってもやろうとすれば自分のできることを別の何かに結び付けることで畏怖や存在感を得て生き永らえることもできなくはない。
人間や動物は、一度死んでしまえば二度と蘇ることはない。それは実のところ妖怪も同じであり、一度死んでしまうと全く同じ存在は決して生まれない。その点で言えば『死なない』能力を持つ蓬莱人達がどれほど異端な存在であるかということがわかる。
しかし、この地球という星はいつか消える。太陽に呑まれて消えるかもしれないし、逆に太陽が爆発して太陽系というものが存在しなくなり、遊星として宇宙を漂うことになるかもしれない。人間が死のうがこの星はいつまでも存在し続ける、という話があるが、そんなものはまやかしだ。形あるものはいずれ壊れるという言葉が正しいように、この星もいつの日にか壊れて消える。
それがいつになるかはわからないし、原因もわからない。さっき言ったように太陽に呑まれるかもしれないし、隕石がぶつかって直接的に崩壊するかもしれない。あるいは太陽よりも遥かに重力の強い恒星が太陽系を掠める遊星として表れて太陽系事飲み込んだり、太陽系そのものがその星の惑星あるいは衛星として宇宙を巡るようになることもあるかもしれない。
可能性は非常に低い。だが、それもあり得ないとは決して言えないことだ。私だって未来はわからないし、世界が記録したことも現在についていくように読むことはできても未来のことまで見通すことはできそうにない。
……けれど、八雲紫はその事を知っているだろう。八雲紫が一体いつまで生きるのかは誰も知らないし、隙間妖怪と言うのが一個体のみの妖怪である以上その種族の平均寿命などから割り出すこともできるわけがない。文字通りの意味で、八雲紫とは孤独な妖怪なのだから。
そんな八雲紫は、そんなことになったら一体どうするだろうか。この星を捨てて別の人間が住めそうな星を見つけるために努力するかもしれないし、多くの妖怪たちの力を結集してスキマの中に星の寿命の存在しない新しい世界を作り上げるかもしれない。
そうなったらそうなったでまた私は家族を連れてそちらに移り住むか、あるいは八雲紫が勝手に私たちを丸ごと持っていくかするだろう。その世界では八雲紫が文字通りに創造神となっている世界でありそうだが、そうなったら『私は創造神の知り合いだ』と自慢できそうだとひっそり考える。まあ、それが実行される頃には普通の覚妖怪である私は死んで……待てよ?
私は、今、幾つだった?
いったい私は何時から存在していた?
自身の記憶を想起する。過去へ。過去へ。ひたすら過去へ。私自身の源流を見つけ出すために、記憶の海を逆流し、堆積し、殆ど思い出すこともなかった古い古い記憶を断片から少しずつ発掘して解析し、自身の知識に還元する。
ただ、記憶を漁った時の手応えから言って、私はどうやら相当長く生きているらしい。数十年、数百年で起きるレベルの堆積ではないし、重量もそれに見合った異常なもの。その量だけで言えば、私が知る限りもっとも古くから生きている存在―――この世界の創造神の記憶を漁った時にも匹敵する。
八意思兼神も確かに相当な年月を存在しているが、少なくとも現在においては八意思兼神よりも創造神の方が長く存在している。創造神が死んで久しいならともかく、存命ならば珍しくもない。
だがしかし、私の記憶の中には
そして当然、世界が生まれるより前の事も、私は知っていた。
理由はわからない。そして、そのころの自身の姿は思い出せない。いや、むしろ私はそのころに自身の姿なんてものを持っていただろうか? 私がこうしている以上持っていたはずだと思うのだが、どうしてもそれが思い出せない。
そしてある程度時を進めていくと、ある時間から私は異様な感覚を得ていた。それまで何をしても何を見ていても何も感じることがなかった私が、突然に感覚という物に襲われたからだ。嫌な感覚だったとかそうでないとかではなく、何も感じないところから突然に何かを感じ始めるというのは、異様なものだ。恐らくそれが私が『古明地さとり』として生まれた時のことなのだろうが……それ以前の記憶はいったい何なのだろうか。
人間の中には、原初の記憶として母親の羊水に浸かっている記憶を持つ者がいるし、それよりも遥かに少なくはあるが前世という物の記憶を持つ存在もいる。私のこれも似たようなものかと考えたが、そうだとすると私の記憶の根源はいったい何になるのだろうか。
世界を創造した神は当時の私に気付くことはできなかったが、私は当時の創造神を知っていた。
これまで世界に生まれた神に私のことを知って生まれてきた者はいなかったが、私はそれらの神のほとんどを知ることができていた。
私は、世界の多くの存在から目を背けられて生きてきた。私が『古明地さとり』として生まれてきてからはそうでもないが、それ以前に私に気付くものは存在しなかった。
それはまるで、蟻が象を生き物と認識できないように。蜥蜴がちょっとした岩と山の区別がつかないように。人間が、大きな島と大陸の区別がつかなかったように。あまりにも大きすぎる存在の本質を、掴めていなかったようにも思える。
……まあ、私は私だ。私が私として今ここに存在している。今までもそうやって過ごしてきたし、これからもそうやって過ごしてくればいい。
今まで通り、家族と一緒にのんびり、ゆっくり……できることなら大きな異変には関わらないようにしたい所ね。
……無理そうだけれど。
あと、そろそろ何か言っておいたほうがいいだろう。
「貴人聖者」
「はい、教祖様」
私は教祖ではないのだけれど、予想したとおりに勘違いしているようだ。
ただ、貴人聖者が信仰している狂気神話は不完全なものだ。彼女が信仰しているクトゥルフに対しての情報はほぼ完璧に知っていることだろうが、代わりにクトゥルフと敵対していたり中立の関係にあったりする他の神々に関しては全くと言っていいほど知識が存在しない。まあ、知識の元となっているのがクトゥルフに関する呪文その他しか書いていない水神クタアトが殆どで、極々僅かに他の神話生物(ただし従者級に限る)のことを知っている程度ならばこんなものだろう。
それを利用して、私は彼女を私の都合のいい駒に仕立て上げる。そしてその力を、必要な時に必要な場所に使えるようにさせておかなければならない。それが、私と地上の有力者たちの間で行われた契約だ。妖怪である私は別に契約は守らなくても構いはしないのだけれど、一度契約を破ってしまうとそれから後のことに差し支える。
これから私はこころのやるせない思いとの擦り合わせをしなければいけない。それに並行していつもの地霊殿の業務と、貴人聖者のことと……ああ、仕事は山のようだ。
だが、貴人聖者についてはこれから私が言う言葉でかなり楽になる。
「貴女は教会を建てなさい。そしてその教会でひたすらに罪を濯ぎなさい。かの神は信仰を求めない。ただ、その在り方で示すのです」
「―――はい、教祖様」
「土地はこちらで用意します。おそらくかなり不便な場所になりますが、構いませんか」
「問題ありません。私は罪人。その罪を晴らすまで、私が貴女様に異を唱えることなどできましょうか」
貴人聖者は静かに頭を下げ、そして祈り続ける。
……まったく、狂信者というのは使いやすいものですね。こんなに簡単に扱えてしまうとは……。
私はこっそりとそんなことを考えながら、地底に新しく建てる建物について思考を回し始めた。