当方小五ロリ   作:真暇 日間

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68 私はこうして花を愛でる

 

 地底には花が少ない。皆無と言うわけではないけれど、とても少ない。何しろ地底であり、光が殆ど入ってこないような場所だ。そこで育つ草は基本的に影の中で生きるものばかりであり、そんな草は花を咲かせるようなことはあまりない。だからこそ、こうして花を愛でる機会はできるだけ逃したくないのだ。

 太陽の畑と呼ばれる場所で、その名の通りに太陽を浴びて育った数多くの花。植物の心はどれもがゆったりとしているが、それは長く生きた木であればあるほどに顕著になる。

 幽香さんに守られている花は、幽香さんに話しかけられている。花たちも幽香さんに言葉を返せるし、返した言葉はしっかりと通じる。

 人間が相手では残念ながらこう上手くはいかない。植物に人間の言葉を理解できるかと言われればまず不可能としか答えられないし、人間が植物の言葉を理解できるかということにも首をかしげざるを得ない。そもそも人間たちの言葉のやり取りの速度に比べて、植物の言葉のやり取りの速度は非常に遅い。香りの強さやその香りの極々僅かな変化。植物が自身の意思を伝えるためにそういった物を体内で生成して放出し始めるまで、どれだけの時間がかかるかは、私の知るところではない。けれど、少なくとも人間が言葉を発し、その声が空気を伝わって相手の耳に届き、振動が言語として相手の頭の中で結びついてその意味を理解するのよりはるかに遅いということだけは間違いないだろう。

 幽香さんはそう言った経過を経ずに植物に直接話しかけることができるし、植物たちの言葉も理解することができる。いったいどうやっているのかはわからないが、やっている当人である幽香さん自身も本能的に何となくできてしまっているだけだということが分かっている。つまり、それを真似したいのならば幽香さんのように植物から妖怪になるくらいしか方法はないということだ。

 そこまでして植物と話をしたいと思うような人は珍しいと思うけれど、絶対にいないとは限らない。人間とは本当に色々なことを考えますからね。何を考えていようと自由ですけど、それでこちらにまで被害が来たらたまったものではない。

 だからこそ、私は時々全力で私の読める範囲の全ての存在の心を読み取って、私に何らかの影響を与えられる存在を見つけ出しては牽制したり、軽く洗脳して私に影響を与えないようにしていたりするのだ。

 当然ながら失敗することもある。洗脳できない相手もいるし、心を読もうとしても読みにくい存在もいる。とある世界における機械生命体などはその最たるもので、洗脳するにはプログラミングの知識が足りていないこともあって難しすぎる。

 ただ、乱数などはプログラムに記録されているのでなんとなくわかる。私の前ではランダムはランダム足りえない。それは私以外にも頭の作りがどうなっているのか本当に不思議としか言えないような存在にも当てはまるけれど、流石に初見でどうにかできるような存在はそういない。私はわかるが、一番初めに何のデータもない状況ではいくら頭のいい存在でも思考の材料が無いので何もできない。そこをつけば、私でもある程度そういった存在との知恵比べに勝つことはできなくもない。まあ、そんな手が通じるのは一回だけでしょうけど。

 

「幽香さんっていいお嫁さんになりそうですよね」

「残念だけれど、相手がいないのよね。……もらってくれたりしない?」

「地底から地上まで岩盤を貫くのは一苦労ですし、仕事もありますから難しいですね」

「結構本気で考えてくれたことに少し驚いてるわ」

 

 幽香さんはクスクスと笑いながら淹れたばかりの紅茶を飲む。幽香さんの淹れる紅茶はとても美味しい。茶葉から幽香さんが作っている特別なものだそうだけれど、こんなにいい物を作ることができるのは本当に凄いと思う。植物系の妖怪はそういったことができるのが一つの強みですよね。

 ただ、幽香さんが植物を育てているのと同じように、私はペットたちを養っている。元々植物であった幽香さんと、元々は動物であった私とでは、一番大切に思うものが違ってくるのもまた仕方のないことだろう。そして植物を仲間としたことで多くの動物や妖怪たちから恐れられるようになってしまった幽香さんは、より植物を大事にするようになりながらも植物以外の存在との交流も求めるようになっていったと。そういうことだろう。

 人間も妖怪も、自分の意思でなく行動を禁じられるとそれをしてみたくなってしまうもの。禁じられていなければ興味を持つようなこともなかったものを、禁じられてしまったがゆえに強い興味を持ってしまうということはままあることだ。

 ……そうして好奇心につられた存在(人間)を餌にするのが妖怪という存在なのですけどね。妖怪らしくあるためには、やはり人間を食らうべきだ。私は外の世界の人間の精神を食らうことで十分な糧を得ていたりもするが、幽香さんはそう上手いことはできませんからね。実際にやってきた人間を食らうか、あるいは人間の屍に根を下ろした植物から精気を少しだけ吸い取ったりしなければいけない。それはちょっとだけ不便ではある。

 その不便さも、長い長い妖怪としての生を楽しむためには必要なものであるのだけれど。

 

 紅茶を楽しみ、会話を楽しみ、食事を楽しみ終えると、私と幽香さんの間には静かな空白が生まれる。空気が重苦しいということもなく、手持ち無沙汰というわけでもなく、その静寂に満ちた時間を楽しむことができる。ある見方をすれば老成した、また別の見方をすれば贅沢な時間の使い方。少なくとも私も幽香さんもこの時間が嫌いではない。

 ただ、なんでもない時間を、なんでもなく使う。忙しくもなく、やることもなく、何もしなくていい時間を何もしないままに過ごす。

 不意に会話が始まってそれが続くこともあれば、会話がすぐに途切れてしまうこともある。そんな適当な時間をも楽しみ、時々窓から見える妖精たちのはしゃぐ声を聴いたり、私が来る度ちょっとおめかしを頑張ったりしている幽香さんのそれを褒めたりしながら、ゆっくりと時間を潰していく。

 何もない時間。それはつまり平和な時間ということであり、平穏な時間ということでもある。

 異変もなく、大きな争いも事件もなく、ただただ平和を謳歌する。地底には荒っぽい存在が多い分、幽香さんの所に来る時にはできるだけ静かにしたい時だったりする。そして幽香さんはいつも、私のその願いに応えてくれるかのような平穏でゆっくりとした時間を提供してくれるのだ。幽香さんの本来の性質も、きっとこのように平穏を愛し、静かな時間を楽しむのが好きなのだろう。

 弱い者苛めが好きだとか、他者を苛めなければ呼吸できないとか色々なことを言われているし、そう言われるだけの実力と、不運がある。八雲紫ならば幽香さんのこの性格のことも知っていそうな気もするけれど……八雲紫は恐らく幽香さんの噂を否定することはないだろう。八雲紫が幽香さんに求めている役割は、分かりやすい妖怪の強さと恐怖を人間に見せつけること。そうすることで幻想郷の維持をしやすくしているのだ。

 そしてそれは人間だけでなく弱い妖怪に対しても効果がある。『風見幽香のような大妖怪でも幻想郷のルールに従っているのだから、自分も従おう』と思わせるのに一役買っている。そんな判断すらもできないような妖怪は……八雲の手によってひっそりとこの幻想郷からも世界からも退場することになる。

 

「……怖い怖い」

「ええ、八雲の腹黒さは怖いわね」

「本当ですよ」

 

 ああ、まったく。

 

「「怖い怖い」」

 




 
 小五エロリ製作中・・・

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