当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 連続投稿5/12です。


貴人聖者は空を舞い、白黒の魔女を撃ち落とす○

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

 

 私が聖句を唱える度に、白黒の魔法使いの顔色が悪化していく。放っていた弾幕も明後日の方向にねじ曲がり、しかし即座に矯正されて再び私を貫かんと飛翔する。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

 

 ごぼっ、と水に沈んだような音が白黒の魔法使いの口から溢れ、肌が土気色に変わっていく。口がぱくぱくと苦しげに開閉され、まるで陸上に居ながらにして溺れているかのようだ。

 苦し紛れに弾幕を新しく放とうとしているようだが、スペルカードの使用を制限されている以上今撃つことができるのは大した威力のない弱々しいものばかり。私の能力によって私が自動的に回復していく以上、私を落とすには一撃で落とし切る必要があるのだが、それはどうやらできそうもない。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

 

 ごぼごぼという音が激しくなり、白黒の魔法使いは持っていた八角形の道具を取り落として自身の首を抑える。口の端からは泡がこぼれ、その手を汚していくのがわかる。

 しかし私はどうしても勝たなければならない。どんな方法を使おうと、絶対に勝つ必要がある。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

 

 私がさらに聖句を重ねると、ついに魔法使いは白目を剥いた。しかし、それでも魔法使いは未だに空を飛んだまま私と向き合っている。

 ……ただの人間が、よく耐える。あの小さな身体で、しかし気力に満ちた目をしていた。

 その全てが意味の無いものだったとしても、私はその在り方を正しく、そして尊いものだと思う。不死の存在が短い時の中で生きることしかできない定命の者を愚かだと蔑み、嘲っても、私はその在り方を肯定しよう。

 生きる者は生ある限り生き続けようとする。死した者は再びの生を得るために裁判を受け、そして罪を洗い流されて次の輪廻を待つ。それこそが正しき生命の流れ。正しい形。

 勿論、それが途中で断ち切られることもある。寿命ではなく何者かに殺されたり、あるいは死した後の魂を無理矢理に現世に引き留めたり、あるいは喰らって力に変えたりする事もある。

 その場合、少々特殊な地獄で肉体を文字通りに消滅させ、無数に混じった魂を少しずつ分溜してある程度質の似通った魂に分け、それらをちょうどいい大きさに切り分けてから成型し、次の輪廻に戻すと言う方法がとられるらしいが……中々に過酷なものだと思う。地獄の獄卒があまり増えない理由もよくわかる。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

 

 ……漸く、白黒の魔法使いは地に落ちた。人間にしては我慢強い方だったが、人間である以上呼吸を止められれば死ぬは必然。しかし私は今回の事で加害者であり犯人である存在以外の命を脅かすつもりはない。だからこそあの白黒の魔法使いが気絶して落下した時には即座に窒息させることはやめたし、地面との接触直前に運動エネルギーを0にして被害は最小限にした。脳に障害が残るようなことがないように怪我も治したし、必要としていたオカルトボールも手に入れることができた。

 つまり、私はもう既にこの場にも、この白黒の魔法使いにも用は無いと言うことだ。

 

 私は眼下に横たわる白黒の魔法使いに向けて能力を使う。

 彼女が居るべき正しい場所。つまり彼女の家のベッドの上。彼女が眠る場所はそこであるはずなのだ。正しい場所がそこである以上、正しく眠ってもらわなければ困る。

 そういった意思を込めてみれば、白黒の魔法使いの姿はあっという間に薄れて消えていく。恐らくこれで彼女の自宅のベッドの上、あるいは床の上か最悪屋根の上にでも移動したことだろう。

 まあ、あの白黒の魔法使いが自分の家以外で眠ることを日常としているならばその場所に跳ぶことも考えなければならないが……流石にそこまで面倒を見てやる気にはならない。

 

「私には使命があるのです……申し訳ありませんが、貴女には暫く大人しくしていて頂きます」

 

 いあ!いあ! と聖者は自身の信じる神に祈りを捧げ、そして次の『正しき方角』に向けて飛行を始めるのだった。

 

 次に向かうべき正しき方角。聖者がそう定義して向かったその先には、ある寺が存在していた。

 その寺の名は命蓮寺。聖白蓮が建てた、幻想郷では数少ない寺であった。

 

「これから向かう場所には目的の物が一つ。そしてその近くにもう一つ……いあ!いあ!くとぅるふ!ふたぐん!」

 

 貴人聖者は祈りを捧げる。この場にはクトゥルフの像もなく、教会も神殿も存在しない。しかし貴人聖者の胸の奥には、常にかの神の御姿とさとりの作り上げた経典の教えが宿っている。

 神への祈りと経典の教えを胸に、貴人聖者は目的を遂げるために進み続ける。

 

 

 

 □

 

 

 

「あ゛~……頭いてぇ」

 

 霧雨魔理沙はそう言いながら身体を起こす。意識を失う前は空の上で天邪鬼と戦っていたはずだが、いつのまにか自身の家のベッドに横になっていた。

 自分でここまで移動できたとは思えないし、意識を失った時の状態から考えれば地面に叩きつけられて死んでいてもおかしくない。しかも相手はあの天邪鬼。嬉々として追い撃ちしてくる姿が目に浮かぶ。

 しかし、自身は生き延びている。それどころか自分の家のベッドの上で目が覚めたと言うことは、上空から落ちた自分を受け止め、わざわざここまで運んだ者がいると言うことだ。

 あの時、周囲には間違いなくあの天邪鬼しかいなかった。もしかしたら射命丸あたりならば自分が気付かないほど遠くから一瞬で駆けつけてくることもできるかもしれないし、あるいは八雲紫ならばスキマを使ってさっさと受け止めることもできるかもしれない。

 だが、どちらであったとしても自分を助ける理由がない。どちらにしろそれなりの付き合いはあると言えるが、しかし理由もなく助けてくれるような仲でもない。射命丸ならば新聞の記事にするためにやるかもしれないが、それなら起きたときにあの声が聞こえてこないと言うのはおかしい。

 と、言うことは。

 

「……あいつが? 助けたのか? 私を?」

 

 数日前までなら即座に『ありえない』と切って捨てていただろう推論だが、今の貴人聖者となった正邪と戦い、そのあり方を何となくではあるが理解した魔理沙はそれを捨てられずにいた。

 相手は天邪鬼。強者を嫌い、憎み、世界の強弱をひっくり返そうとした大馬鹿者だ。幻想郷における現状のルール……つまり『弾幕ごっこ』における強者である自分は天邪鬼には嫌われているはずだし、殺せる機会があったならそれを逃すはずもない。しかも今回に限ってはこちらの不注意として扱うこともできるだろう状況だ。自分の知る鬼人正邪ならば、間違いなく放置して再起不能になるのを待っていたはず。

 しかし、気絶するまで戦っていた天邪鬼は、戦いの方法はえげつなくはあったもののその目には悪意や憎悪といったものが一切存在していなかった。そのかわりに魔理沙には理解しにくい感情に満たされていたのだが、その感情も悪いものではないように思えた。

 

「……よくわからんが、更正した……ってところか? あれをどうやったら更正させられるのかはわからんが」

 

 さとりに頼まれて、地底に天邪鬼を追い込んだ。それからのことはよく知らないし、さとりからも『なんとかなった』と言うことしか聞いていなかったが……なるほど、確かにあれは『なんとかなった』と言える状況だろうよ。

 ただ、あの天邪鬼があんな顔をするようになるとか、いったいさとりはどんなことをやったのやら。あいつにかかればペットだけじゃなくて人間だろうと関係無く調教できそうだな。

 ……一応、霊夢にも伝えておくか。『鬼人正邪がなんか更正したっぽい』と。それだけであいつなら察するだろう。

 


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