連続投稿10/12です。
「『○月×日 はれ
今日は萃香と勝負をした。同じ時間でどれだけ人間を食えるかの勝負だったが、星熊が乱入したせいでうやむやになった。酒が入るとどうしても細かい数がどうでもよくなっていけない。それでも日記は続けている辺り私も律儀だ。隣で熊と虎熊が五月蝿い。萃香と星熊に混ざってくることにする』」
「わー!? わーわーわー!!?」
「『○月△日 はれ
腰が痛い。ヤりすぎだ馬鹿。こう言う時には百薬枡が役に立つ。一日中呑んでいようと思っていたが、一杯呑んだところで金熊が突入してきて結局また宴会になった。静かに呑むことを知らんのか』」
「ちょっ!? なんで貴女がそれをっ!? やめてっ!ほんとにやめて!なんでもするから本当に!」
「ん? 今『なんでもする』って言いました?」
「言っ……たけど!やめてくれるならの話よ!?」
「では、少し外の世界に用事がありますのでそこを通していただければ」
私がそう言うと、彼女……茨木童子はぐっと口を噤む。まあ、彼女からすればできることなら私を外の世界に出したくはないだろう。彼女の心の中では今まさに、どうやって私を外に行かせないようにするのかをひたすら考え続けているようだった。
だけれどまあ、そういった思考において私を上回るなら、八雲紫や八意思兼神永琳のようないっそ異様とも言えるだけの思考能力や判断能力が必須となる。今の彼女のように自分の身の安全を第一に考えているようではまだまだ足りない。
「『○月□日 くもり
萃香の野郎、百薬升を持っていきやがった。転がしてやる』」
「わかった!わかったからそれを読むのはやめて!」
「英断ですね。ですが、私は別にそのことでこれ以上貴女を脅したりする気はありませんから、私を外の世界に放逐して戻れないようにすることで力を失わせるという策はやめておいてくださいね。面倒ですので」
放逐されたところで少しの手間でどうとでもなるけれど、その少しの手間さえ面倒臭くなるような仕事が私を待っている。全世界の人間の認識を、できる限り不自然さを感じさせないようにしながらすり替えていかなければならない。ちゃんと概念を弄るには時間が必要だし、その辺りで時間をけちると概念の改竄を世界に認識されてしまう可能性が高い。改竄されたと言う認識をされてしまうと、世界の修正力によって元の形に戻されてしまったり、あるいは近似する平行世界から以前のそれを予想して修復されてしまう可能性もある。
必要なのは、世界に私と私の行為を認識されないこと。邪魔さえなければ簡単なことだけれど、絶対に邪魔が入らないと確約されているわけでない以上は邪魔が入っても問題ないように色々と考えなければいけない。
万が一、私が外の世界に取り残されたとすれば……少しばかり幻想郷が困ったことになりそうだ。私も死にたくないし、仕方のないことだと思ってほしい。
結果的に幻想郷が賑わうことになりそうだし、許してくれると嬉しい。無理だとは思うけれど。
さて、それでは七つのオカルトボールも手に入ったことですし、結界の外へと行ってみることにしましょうか。恐らくこのオカルトボールを幻想郷の中に放り込んできた実行犯は割とすぐ近くに来ているだろうし、お仕置きするにはいいだろう。
殺しはしない。この時代の外の世界において非常に珍しい能力持ちの人間を殺してしまうようなもったいないことはするつもりはない。どうせならば利用できるところはしっかり利用して、ついでに私の端末の一つにもなってもらいましょうか。
外の世界において表層的にはどんな意識を持っているのかがわかれば、裏の方を弄るのも少し楽になる。表層と深層の乖離があまり激しくなると、色々なところで無理が出てきてしまう。そういった無理は世界に見つかりやすくなり、私が討伐されてしまうと言う事実につながってしまう可能性もある。
私はまだ死にたいわけではない。死にたいと思うほど生きて……年月としては生きているかもしれないけれど、私が心からそう思うようになってはいない。こいしもいるし、お燐やお空もいるし、まだまだやるべきこともやりたいこともたくさんある。死んでいるような暇も時間も私にはない。
結界に空いた穴を通りながら、私はこれからのことを考える。おそらくこれが今回の異変における最後の戦いになるだろうという予感をもって、空を飛び続ける。空間を隔てる結界の穴を通り抜けるのは、一瞬のような数十秒もかかるような奇妙な感覚があるけれど、少なくとも身体に負担のかかるようなことはないらしい。身体があまり強くない私としては、よかったよかったと言うしかない。身体に負担がかかりすぎると簡単に壊れてしまうのだ。意識を集中して世界をごまかしてやればまだ何とかなるのだけれど、不意打ちされるとそうもいかない。特にこういった世界の境界というのは世界の認識が非常に届きにくい場所でもある。困ったことにこう言った場所では私はあまり自身の身体の強化は扱えないのだ。
だからこそこの場にいる時間はできるだけ短くしたい。もちろん用意もあるので一瞬というわけにもいかないのだし、結界に空いた穴を通るのにそんな何分もかかるということもない。通るだけならばせいぜい一秒か二秒。私のように準備があったとしてもいいところ三秒。それだけの時間を使ってこの穴を超えれば―――
「……hello world、と言うやつですね」
初めに視界に入ったのは、結界越しに思考の中の知識を眺めて知っていた天を突くような摩天楼。しかもそれがいくつもいくつも並んでいるという信じられないような光景。昔の人間たちが突然ここに現れたら、きっと全くの別世界だと思うのでしょう。
ただ、酷く空気が汚いのがわかる。呼吸をする度に喉に絡みつくようなこの空気。幻想郷の空気に慣れている私としては全力で遠慮したい。
さらに、予想通りではあるけれど世界からの……正確には人間たちの概念からの排斥が凄まじい。誰もが妖怪の類を信じておらず、信仰もない。こんな世界では妖怪や神は生きづらいだろう。守矢神社の神が幻想郷に移住してきた理由もわかるというものだ。
……それよりも、そろそろ到着する頃ね。
「いたいた。今度来たのは……人間かしら?」
「……おや、初めまして。そう言う貴女も人間かしら」
「ええ、そうよ。人間が来たのは三人目ね」
「……そうですか」
彼女が、今回の異変の実行犯。その名は『宇佐見菫子』。自称ではあるが現世において最強の超能力者である。
まあ、
なにしろ、あの守矢の風祝ですら外の世界に居た頃は空を飛ぶことができなかったと言うのに(やらなかっただけかもしれないし、術式を使っての飛行との難易度の差はあるだろうが)、彼女は空を飛ぶことができていると言う時点でその才と力は驚嘆に値するだろう。
だが、しかし。それはあくまでも外の世界で、彼女と同じような異能を持たない者達と比べた時の話。元から保有していて、その力を鍛え上げた幻想郷の面々を相手にしてはまず間違いなく敗北するだろう。
殺しに慣れているわけでもなく、人や人に見える種族を虫けらや石ころのように見ることができるわけでもない、言ってしまえばただの女学生でしか無いわけだ。
そんな存在が、本気の殺し合いになった時に私達の相手になるかと言えば……まあ、結果は知れている。
それに、たとえ力で勝てなかったとしてもそんなものは私にとって日常と変わらない。昔やっていたことを組み換えて使えばいい。殺すだけならばそれだけで十分すぎるほどに十分だ。
さて、それでは始めよう。どうやら彼女もやる気はあるようだし、このあたりで我々に手を出した事の意味を教えてあげるのも悪くない。
少しばかり能力を借りて……それでは───
「イタダキマス」
私は目の前にいる彼女……宇佐見菫子に無造作に近寄って、その耳をぱくりと口に含む。永遠に囚われたままの彼女の耳に舌を突き入れ、そのままより脳に近い位置から直接精神に干渉していく。
そして、恐らく私以外の者にとっては三秒程度の時間が過ぎて。宇佐美菫子は私の腕の中に崩れ落ちた。
さとりんが何をしたのかを詳しく知りたい方はわっふるわっふ(ry