当方小五ロリ   作:真暇 日間

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79 私はこうして言い訳をする

 

 地霊殿に戻ってきた。何故だろう、とても久し振りな気がする。

 ……思い出してみれば、董子に付き合って数か月ほど精神世界で過ごしていたのだから久し振りと思ってもおかしくはない。数ヵ月など私が生きてきた生の中で見てみればほんの一瞬のようなものではあるけれど、それでも地霊殿に住むようになってからというものそれだけ長い時間連続して地霊殿を離れたことはない。どうやら私は随分とこの場所のことを気に入っているようだ。

 覚妖怪である私が自身の心だけは読み取ることができない。当然と言えば当然のことで、しかし同時に実に滑稽なことでもある。心を読む妖怪のくせに、自身のそれに一番無頓着であるなどと笑い話にもなりはしない。

 ……まあ、少なくとも私に心というものがあるという事実が確定しているというだけでもある意味では十分な話ではないだろうか。なにしろ私は妖怪で、色々と周囲の妖怪とは違っているらしいし、今私が感じている感情も志向もすべて作り物である可能性も存在自体はしているわけで。そんな中で私が自身の心の存在を確信できたというのは良いことなのだろう。恐らくは。事実良いことなのかは知らない。決めつけはある種の視野狭窄のもととなるからできれば控えておきたいところだけれど、それでも家族としてならばそれは悪いことではないはずだ。

 

 地霊殿の玄関から私の部屋へ向かう。途中途中にペットたちの姿があり、皆が私に正の感情を向けているのを感じる。『帰ってきてくれて嬉しい』。『私と会えて嬉しい』。そんな数多くの感情に、私の暗い感情は少しずつ少しずつではあるけれど薄められ、消されていく。

 一番は、やはりこいしだ。

 最近のこいしはとても感情豊かになった。無意識でありながらも個人の感情を持ち、自身の思いをその身で発露することに一切の躊躇いを持たない。その結果が最近の私に対する激しいスキンシップの原因の一つだと言えるだろうが、私もこいしからの触れ合いは嫌ではない。昔は私のことを意識からすべて追い出されてふらふらと外を遊びまわるのが当然であったのだから。

 そのこいしは今、私の部屋でこころと一緒にすやすやと眠っている。色々あって疲れたのか、それとも一度は起きたけれどまた私の部屋に勝手に入って布団で寝ていたのか……まあ、どちらでも構わない。

 私は布団の中のこいしを抱きしめ髪を撫でる。これからの危険を排するためとはいえ、色々と精神衛生的によろしくないことばかりしてしまった。そんな時にはこうして誰かのぬくもりがほしくなる時だってあるのだ。

 覚妖怪は寂しがり。だからこそ一度の出会いで相手のことをすべて知るために第三の目を持ち、他者の心を読み取るという能力に特化した進化をした。それが事実かどうかは知らないけれど、そういうことにしておこう。私が今こうしてこいしを抱きしめているのは、覚妖怪が寂しがりだから。それでいい。そうでなくては守れない。

 古明地さとりは強くなくてはいけない。そうでなければこいしや私のペット達も安心して暮らせない。誰より強く、などとは言えないし、私ではそんなことはまず不可能だけれど、こいしやペットたちにとって私が誰よりもすごい存在でなければいけない。少なくとも、私はそうあると決めたのだ。

 

「……えへへ……」

 

 いつの間にか、私から抱きしめていただけであったはずのこいしはその全身を使って私にすり寄っていた。眠っている間こそ本領を発揮するのか、無意識のうちに私を求めていたのか、私と同じかそれ以上に小さな身体を使って私を抱き締め、胸に頬を擦りつけていた。

 私はこいしの髪を撫でる。本能のままにこいしに求められ、それに流されてしまったあの時のようにではなく、私が私の意志でこいしの相手をする。疲労を意識せずに行動を続けることができるこいしについていくのは理性を持つ存在としてはきついものがあるけれど、そんな疲労も悪くないと思えてしまうのは私がこいしの姉であるからだろう。姉馬鹿、と言うのだろうか。今まで言われたことがないのでわからないが、今のような状態ではそう扱われることが多いようだ。様々な人間たちの記憶がそう私に言っている。

 ……間違いではない。確かに私は最後に残った血縁であるこいしを守りたいと思うし、その為なら多少の犠牲は払ってもいいと思えるからだ。実に独善的な思考ではあるが、それはある意味では仕方のないことだ。なにしろ私は妖怪で、妖怪とは基本的に独善的なものだからだ。

 時には人間を助ける妖怪も存在するが、それも多くは自身のためであったりもする。例えば雪女。あの妖怪は自身が氷でできており、同時に非常に恋に落ちやすい。また、人間に抱きしめられて溶け切ると溶けた水たまりから人間として転生を行うという実に妖怪らしくない体質も持っている。そういった妖怪が人間を助けるのは、自身が恋に落ちた相手を助けたいという自信の欲望に基づくものであり、それは相手のことを純粋に思っての行動とは大きく異なってくる。

 また、ある種の河童は死にそうになっている人間に自作の薬を塗りつけて癒してやったりすることもある。そういった河童はにとりさんのような沢河童ではなく沼河童であることが多いようだが、そういった妖怪も自身の存在を保つためにやっていたり、あるいは自身を認識してもらうことで自分が生きていける状況を作り上げるのにそういうことをする。妖怪とは、どこまで行っても自分勝手なものが多いのだ。

 

 ただ、本当に人間のために行動する妖怪というのも存在しないわけではない。非常に数は少ないが、いないわけではない。また、その妖怪は時に確率を面白くなるように弄っていくので、人間を救うと同時に陥れたりもしているのだが、それは日本という国における神の二面性のようなものだ。陽があれば陰が必要となるように、その妖怪も陰の面と陽の面の両方を持っている。

 そんな非常に珍しい妖怪。その名を、『一足りない』と言う。

 ……かなりふざけた名前だが、その能力は非常に強力だ。何しろ弱点らしい弱点が存在しないうえに、その能力を封じる方法が『やることに対して必要以上に余裕と実力を持って行うこと』以外にはほぼ存在しない。

 自身と同程度の存在との間にはほぼ毎回出現しては確率を操り、優劣をつけたりつけさせなかったり、勉強の時間の足りない学生を赤点地獄に突き落としたりしていく。そしてその妖怪に影響を受けた者たちの『一足りねぇ』という感情を糧にその存在を確たるものとしていくのだ。

 ……とはいえ、一足りないがその存在を確立されたのは非常に最近のこと。現代において発生した妖怪であり、その存在の特異性からそうそう消滅することもないだろうし、幻想郷に入ってくることもない。と言うか、そもそも幻想郷に入らなくとも幻想郷の内部に干渉できるのが『一足りない』という妖怪なのだ。

 確率そのものに潜む妖怪。ちょっとした失敗によってほんのわずかに足りなくなった物ならば、それを糧にすることができてしまうのがこの妖怪だ。

 

 …………非常に話がそれたが、無理矢理に戻すとしよう。ともかく、そんな妖怪であろうとも基本は自身のために動くものであり、その本能に逆らうことのできる妖怪は多くない。当然、普通の覚妖怪である私もその妖怪としての本能に逆らうことなどできるはずもなく、当然、自身の大切な存在であるこいし達に比べれば幻想郷の存続なんて天秤にかけようとした途端に天秤自体があまりの重量差にひっくり返ってしまう程の差がある。

 ここまでのことで何が言いたいかといえば……私は悪くない。妖怪としての本能が、つまり妖怪をそういうものとして作り上げてしまった人間の総合的な知識が悪い。つまり人間が悪くて私は悪くない。よし理論武装終了。

 

 さて、それではそろそろ眠るとしよう。実際には眠る必要はないとはいえ、疲労を回復するにはやはり眠るのが一番だ。

 


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