当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 今日は更新しないと言ったな。
 あれは嘘だ。すまんな。


10 私はこうして厄介を招く

 

 外に出ると、他人の心の声があまりにも五月蠅い。だからこそ私は地霊殿の奥底に引きこもっていたと言うのに、なぜか今こうして地上の、それも人間の里にいる。

 こいしがやっていたように他者の無意識に入り込めばそんな煩わしいこともないのだろうが、私にはそんなことはできない。精々が第三の目に薄目をさせて気配を薄くすることくらいなものだ。

 そうやっていると自分の意識も希薄になるし、無意識に呑み込まれそうになるから本当はあまりやりたくないんだけれど……まあ、必要になってくる時もあるのが生きていく上で面倒臭くも面白いところだ。

 そういうわけで私は誰かに絡まれることがなくなる程度、かつ話しかければ無視される事は無い程度に影を薄くしつつ、人里を歩く。八百屋で野菜を買い、豆腐屋で豆腐とお揚げを買い、乾物屋で干物を買う。しかし残念ながら海の幸なんてものはこの幻想郷には存在しないし、もちろん昆布や鰹節と言った良い出汁を出す海産物など望めたものではない。

 その辺りはもう仕方ないと諦めて、別の物で代用することにした。キノコや肉からでも出汁は出るし、非常に薄くはあるが野菜からだって出汁は出る。それを理解していればある程度やっつけでもどうにかなるものだ。ペットたちのご飯を作っている私にとって、このくらいの事はできて当然。残念ながら漫画や小説に出てくるような一流を越えた超一流の料理人のような料理は作れそうにないが、才能の必要ない努力で何とかなる範囲での事なら私は大体できたりする。これも妖怪ならではの無駄に永い経験の賜物と言える。

 特に今は、他者の記憶から経験を得て行動に移すことができる。人里だけでなく、それこそこの幻想郷のあらゆる場所のあらゆる存在の記憶を覗き込み、それらの経験を統合して取り込み続け、さらに箍が緩み始めているのか『知りたい』とほんの僅かにでも考えた瞬間に世界から必要な記録が頭の中に叩き込まれてくる。

 その瞬間に分岐したあらゆる世界からの知識の吸い出しには届いていないが、このままではいずれ私は世界の過去の記録だけではなく、世界の未来の記録にすら手を届かせてしまいかねない。現に今、私は世界の未来の知識の存在に気付けてしまうところまで来てしまっているのだから。

 覚妖怪の最も多い死因は事故死だが、次に多い死因は発狂死であると言うのは、覚妖怪の中では有名な話だ。それも、優秀な覚妖怪からそうして死んでいくことが多いとなると……恐らくそう言った覚妖怪たちは今の私のような状態になり、それに耐え切ることができなくなってしまったのだろう。これだけの情報量を頭に叩きつけられ続ければ、そりゃあ発狂の一つや二つするだろう。

 私はこいしと言う先駆者がいるために可能としてはいるが、もしもこいしがいなければ今のように第三の目に薄目をさせて情報量を抑えようなどとは考えなかったはずだ。なにしろ第三の目は覚妖怪にとってはある意味心臓と同じ。なくなればすぐに死ぬか緩やかに死ぬかのどちらかでしかない。

 

 半ば無意識のうちに買い物を済ませ、博麗神社に向かう。道中で奇妙な飛行物体を見つけ、それを半ば無意識にいくつか回収しつつ飛行していく。無意識とは恐ろしいもので、私はそれが何だか知っていたはずなのに、いつの間にかそれを集めてしまう。

 そのお陰で……まあ、こうなっているわけで。

 

 目の前に浮いている巨大な飛行物体。なんなのかは知っているけれど、知っているからこそ完全に破壊してしまうわけにもいかない面倒なもの。ついでに言えば意思も無ければ記憶も無い物なので『想起』による攻撃も不可能。非常に面倒な相手である。

 けれど、とりあえず落とすだけならば十分に可能。私自身に私の記憶している何物かの弾幕を『想起』させることで、私は私の知るものと同じ弾幕を撃つことが可能となる。

 今回は、威力は低めに、しかし弾数は多めに。となると真似る相手はおのずと人間か妖精に限定される。

 私が撃つのは博麗の巫女の使う符のような弾幕。非常に高い追尾性と、かなり低い威力。どちらもいま求めている物を十分に満足させられるものだ。

 飛行物体は札の形をした弾幕に撃ち落とされ、奇妙な物を吐き出して消えた。同時に私に色々な物を残していったわけだが……流石は砕けた欠片とはいえ伝説に残る品と言う事だろう。

 

 このように私は色々なものに関わってしまうようになった。無意識での行動はそれを加速させてしまうのだが、死ぬかもしれないと言う事を考えれば安くはないが仕方のない出費だと思うことができる。

 ただ、現状でもっとも相手にしたくないのは、『正体不明』だ。その正体を知ろうとなどしてしまえば、正体不明であるのをいいことにあらゆる知識が私の頭におそいかかってくるだろうことは間違いない。正体不明だと言う事はあらゆる可能性を内包すると言う事だ。可能性がゼロでないのならばそこから無理矢理に結果を引っ張り出してくるような頭がおかしいとしか思えないような相手もいなくはない。

 そんな怪物の相手こそ、博麗の巫女にお願いしたいものだ。こんなひ弱な一妖怪でなく。

 

 

 

 ■

 

 

 

 とある妖怪は気付いていた。自分を構成する力が、少しずつ弱くなっていることに。

 その妖怪の力の源は『正体不明』である。つまり、それが覆されたと言う事であり、正体不明が正体不明でなくなったと言う事。正体不明にしたはずの物が、いつの間にやら正体不明から既知の物に変わってしまったのだ。

 その妖怪には原因がわからなかった。しかし、誰かが自分の力によって正体不明にされた物の正体を看破したと言う事だけはわかった。

 故に、その妖怪は動き出す。自分の力を保つために、自分の力を削ぎ落とさんとする何者かのいる場に飛んで行く。

 その相手がどこにいるのかは、その妖怪にはわからなかった。しかし、自分の力によって正体不明にしたものが正体を暴かれて自分の支配下になくなった場所はわかる。全ての場所がわかるわけではないが、それでもいくつも連続して消されればおよその位置を掴むことくらいはできた。

 

 正体不明を悠々と既知に塗り替えるもの。ある意味では自分の天敵。正体不明でなければ大きな力を出すことのできない彼女にとって、知られると言う事は死に直結する。

 故に、これ以上知られないようにするために。知られてしまったものを再び正体不明に戻すために。

 平安に生まれ、強大な力を得た大妖怪、『鵺』は、天敵のいるその場所に飛ぶ。

 

 向かう先は博麗神社。恐らくではあるが、そう時間はかからない。

 とある小さな妖怪と、とある強大な妖怪との争いの幕は、このようにして開かれることになる。

 

 

 

 ■

 

 

 

 とある場所。そこに立つ小さな小さな賢将は、一人頭を抱えていた。

 足りない。飛倉の破片が、圧倒的に足りないのだ。

 

 白蓮を救うために必要なもの。片方は一度どこかのバカ寅が無くしてしまったものを自分が見つけ出して預かっているため問題ないが、もう一つ……飛倉の破片の数がどうしても足りそうにない。現在星蓮船に向かっているらしい巫女の集めた物を纏めてもまだ少しだけ足りず、足りない分を自力で見つけ出そうにも何故か近場には全く存在しない。まるで破片が自らこの場所を避けてしまうようだ。

 そんなことは本来ならばあり得ない。こちらには毘沙門天の代理を勤め、同時に毘沙門天と同一視される宝物抻クベーラに合わせた『財宝が集まる程度の能力』によって財宝と感じるものは必ず寄ってくる筈だし、実際にある時間までは順調に飛倉の破片を集められていた。

 しかし、ある時間からぱったりと飛倉の破片が集まらなくなってしまった。このままでは、白蓮を法界から解き放つにはどうしても飛倉の破片の数が足りない。

 自分は法界の位置を探らなければならないためにこの船から移動することはできない。また、協力者の一人である村紗水蜜も星蓮船を動かすには必要な人材だ。一応主である寅丸星は最後に宝塔を使うに不可欠な存在であり……この時点で動かすことのできる相手は一人しかいない。―――いや、二人、だろうか。

 

「一輪。飛倉の破片の集まりが悪いから、ちょっと行って集めて来てくれないかい」

「場所はどこ?」

「そうだね……方角はあっち。何か妙に多く集まってるのがあるから、それを集めてきてくれれば多分足りると思うよ」

 

 小さな小さな賢将は、そう言って再び法界の正確な位置を探り始める。一輪はいつも自分と一緒にいる見越し入道を連れて、示された方角へ飛んで行く。

 結果、彼女たちが誰と出会い、どんな結末を迎えることになるのかを知る者は、まだ、誰もいない。

 


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