当方小五ロリ   作:真暇 日間

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13 私はこうしてオハナシをする

 

 気を失ってしまった正体不明の化身と元人間の尼入道をとりあえず博麗神社に運び込んで寝かせておく。正確には昔やっていたとある方法で気を失って無意識の塊となった肉体を外側から動かして自分の脚で寝てもらったのだけれど、そんなものは些細な差だ。別にどこかの邪仙のように死体を操ると言う方法で動かしているわけでもないし、ある意味では私が運び込んだのと何も変わらない。使うのが身体か能力かと言うだけだ。

 それに、思った以上に早く二つの出来事が終わったので料理にもあまり影響は出ていない。ご飯を炊くのも焦げ付いたりする前に終わったし、後は博麗の巫女が戻ってくるのを待つばかり。

 

 ……ああ、そう言えば尼入道は飛倉の破片を集めているのでしたか。あの魔術使いの尼を救うために。

 だったらそれを邪魔するようなつもりは毛頭ない。しかし、わざわざ私がここを離れて飛倉の破片を持って行ってやるつもりもない。あんな場所にまで行ったらご飯が焦げ付くを通り越して炭になってしまう。

 ではどうするか。簡単だ。私がここを離れるわけにはいかないのだから、私以外の誰かが持っていけばいい。幸運なことにここにちょうど無意識になっているのが二人もいるのだから、この二人に運んでもらおう。私からは用は無いし、尼入道の方は目的の物も手に入れられる。お互いに損をすることもないし万々歳と言うものだろう。

 ついでに博麗の巫女への伝言役も頼んでおこう。『依頼があって博麗神社まで行ったのですが留守にしていましたので、今晩のご飯を作ってお待ちしています』とでもしておけばいいだろう。宝船だと思って行ったところに宝を手に入れることはできず、そこで私からこういった依頼があれば……まあ、受けてはくれるだろう。神社に私のような妖怪がいては人間の参拝客が減るとか言われそうではあるが、料理と天秤にかければ受け入れてくれるだろう。ついでにお賽銭も入れておけばいきなり追い返されることも無いはずだ。

 そう言うわけで、気絶したままの尼入道と正体不明の化身の身体を操って星蓮船まで飛行させる。その手には当然、数多く集まって勝手にくっつき始めた飛倉の破片を持たせ、同時に意識の底に博麗の巫女への伝言を刻みつけた。

 そして、人形のように彼女たちは空を飛ぶ。意識のないはずの彼女たちの瞼は開かれ、しかし光を持たないままに無情に風景だけを映し出し、脳へと送る。脳はそうして得た情報をしっかりとした光景に変換し、そしてさとりがその光景から場所を割り出して方向を合わせる。

 流石にそこまで細かな制御は難しいのか、それとも慣れていないだけなのか、少しではあるがゆらゆらと飛行している身体は揺れる。自身の体を動かすのとは体格や身長などが違うために勝手が違い、それに慣れるのには少しばかり時間がかかるだろうと予想する。

 けれど、自動で動きはしないものの便利な伝言役を作ることができると言う事を知り、色々と応用が効きそうだとも思う。

 

 妖怪として生きていくには畏れが必要だ。完全に忘れ去られてしまった妖怪は、その存在を保つことができずに消え去ってしまう。

 しかし、今回見つけたこの使い方ならば、自分は地霊殿に引きこもったまま様々な場所から畏れを集めることができる。力を保ち、存在を保つだけならば正直なところ今のままでも全く問題ないのだが、古明地さとりはそういったところでは小心者で、今のままでは駄目になってしまった時に畏れを集める方法も常に考えていた。

 小心故に、備えられることには備えておく。必要なら天変地異にも備えるし、必要なら大戦にも備えるだろう。自分の心配をすると同時に未来の事も考えていなければ、古明地さとりは不安でたまらないのだ。

 

 ……と言っても、現状において全ての存在の中から古明地さとりの名が消えることはまずあり得ない。まずペットたちがいるし、付き合いの長い鬼たちもいる。幻想郷の管理者である八雲紫をはじめとした大妖怪も、さとりの事を完全に忘れてしまうようなことはまずあり得ない。

 古明地さとりと言う名は、彼女たちにとってはあまりに大きすぎる物でもあるのだ。

 

「……あ、そろそろいい時間かしら」

 

 ご飯を炊いていた釜から聞こえてくる音が非常に甲高くなったところで、一度窯を火から降ろす。完全に離してしまうわけではないが、このまま火にかけっぱなしでは焦げ付いてしまうからだ。

 後は蒸らす。火はほとんど使わず、薪の追加もしない。博麗の巫女が返ってくるのがいつになるかはわからないが、いつでもご飯を食べられるようにしておこう。

 古明地さとりはそう思い、のんびりと縁側に座って来客用らしい湯呑みから色水ほどしか出されていない茶を飲んだ。

 

 

 

 ■

 

 

 

「ああ、戻ってきたか。あれはちゃんと集められたかい?」

 

 ナズーリンは戻ってきた一輪に話しかけた。

 

「……一輪?」

「……」

 

 しかし、なぜか答えは返ってこない。確かに大きな宝の気配……ダウザーとしてそれがわかるくらいの経験はしているし、それがこちらに向かって移動してきたこともわかっていた。

 そして、その宝は誰かに運ばれてこの場にまでやってきた。ならば、持ってきたのはまず間違いなく仲間である一輪であるはずなのだ。

 ごとん、と鈍い音がする。その音がした方向に振り向くと、一か所にまとまった飛倉の破片の塊がそこにあり、一輪の姿は奥に消えていく途中であった。

 

「……待ってもらおうか」

 

 ナズーリンのその言葉に、一輪は反応を返さない。代わりに、その隣にいた左右不対象の赤と青の装飾のような翼を持った少女が足を止めて振り向いた。

 その目を見たナズーリンは、息をのんで一瞬硬直してしまう。その目には感情と言うものが全く浮かんでおらず、口の端からは唾液が零れ落ちて顎を伝い、胸に零れて服を汚してしまっている。

 そんな状況にもかかわらず、その少女は呆けたような、何かに怯えているような、何も考えていないような、どうとでも取れそうな表情のままナズーリンと一輪の間に立ち塞がっていた。

 

「君は何者だい?」

「……ほうじュう……ヌぇ……………」

 

 よだれが泡立ち、聞き取りにくい声でその少女は答えた。だが、ナズーリンはそれに納得したような顔を浮かべない。苛立ったような、腹立たしいと言う感情を隠そうともしないでもう一度問いかけた。

 

「君は、何者だい? その子の奥で、その子を操っている君だよ」

「……おドロき、デすね。きづク、にモ、まダ、かかルと……おもっテ、いタノですが」

「御託はいい。何者だ」

 

 三度問いかければ、その少女の顔をした何者かは奇妙な笑顔のような表情を浮かべ、答えた。

 

「こメイじ、サとり。コのケンの、ヒガイシゃ…です」

「……被害者だって?」

「エえ。まあ、おきにナさらズ。ちゃンと、じぶンのみはまモりましタカラ」

 

 ナズーリンは気付いた。こうして話をしている間にも、相手の口調はどんどんと流暢なものになっている。まだ少し聞き取りづらい部分もあるが、ただ話をするだけに努力をする必要は無いほどに。

 

「ごアんしんヲ。そちラの、あまノふういンをトくじゃマはいたしマセんヨ。タだ、こちラにこのカたがたガいらシたノデ、はんげきしたラこうなってしマっただけデす。ようけんをオえれバかのジョたちはおかえししまスよ」

「……要件?」

「はくレいのミコに、でんごんがアるのです。それニ、てきたいすルならはへんをワたしたりはしマせんし」

「……」

 

 初めに見た時に比べれば、遥かに流暢に話を進める目の前の少女。言い換えれば、こうして稼いだ時間は自分よりも相手に都合よく働いてしまったのだろうと思われる。

 ナズーリンは歯噛みしながらも、手に持ったロッドを下げる。攻撃の意志は無いと見せたつもりだったが、相手は何も変わらずその場に立ったままだった。

 

「でんごんがおわれば、おふたりはかいほうしマすよ。あなたハこちらのかたはしらナいようですけど」

「……ああ、そうだな」

 

 目に光を宿らせないままに笑顔を浮かべて会話する正体不明の化身と、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらもそれに応対する小さな小さな賢将。二者の間に友好なものは一切なく、形として事務的に話しをしているのだと嫌でも理解させられてしまう。

 

 ナズーリンは、星蓮船の奥に進んでいった一輪を案じながら、新たな不確定要素をここに釘づけにさせようと奮闘していた。

 


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