当方小五ロリ   作:真暇 日間

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15 私はこうして狐をもてなす

 

 博麗の巫女に伝言を伝え終わり、尼入道の身体を放棄し、ついでに正体不明の化身と尼入道に簡易的ながら精神の安定化を行った。少なくともこれで起きたとたんに発狂したりする事は無くなっただろう。

 ……正体不明の化身の方は、炎を見ただけで体の震えが止まらなくなったりしそうな気もするが、その辺りはもう諦めてもらうしかない。なにしろあちらから向かってきた結果に起きてしまったことだし、あちらもあわよくば私を殺してしまおうと企んでもいた。ならばこうして反撃されても文句は言えないはずだ。あちらが先にそうしてきたのだから。

 そんなわけで最低限の後始末を終わらせつつ、博麗の巫女が戻ってくる時間にちょうど出来上がるように料理の仕上げを行う。そして、今回の晩餐にはもう一人、呼ばなければならない者がいることも忘れてはならない。

 

「想起『八雲藍。夕餉の支度ができました。博麗の巫女が戻ってくるのに合わせてもう一度呼びますので、その時になったらスキマでいらしてください。あと、主の方に「今度つまみ食いしようとしたら爪の付け根に焼き鏝」と伝えておいてくださいね』」

 

 とは言っても焼き鏝なんて物があるのはここではなく地霊殿だ。あそこには灼熱地獄で使われていた拷問道具がいくつか拾い上げられて転がされているので焼き鏝も普通にあるのだが、この神社にそんな物騒な物があるわけもない。もしやるとしても熱した包丁の背を叩きつけるくらいだ。

 私の肉体的な能力ははっきり言って低い。一部の鍛えられた人間にも負けるし、妖力を使って強化しようとしても身体能力で強化されるのは思考速度くらいなもの。さとり妖怪として相手の心を読み、そしてそれを利用すると言う形でしか自分の身体を強化できないのだ。

 だから私は今でも全速力で走ったりすると筋肉痛に襲われて動けなくなったりもするし、一度に多くの相手に能力を使おうとすると失敗してしまうこともある。

 ……何が言いたいかと言うと、そんな非力な私が八雲紫に熱した包丁の背を爪の付け根に叩きつけたところで大した被害は出ないと言う事だ。八雲紫ほどになれば、薪で熱した程度で火傷をしてしまうような事は無い。つまり、薪で熱した程度の熱しか持たない包丁を、あまり鍛えていない人間程度の私の力で全力で叩きつけたところで、八雲紫は何の痛痒も感じないだろうと言う事だ。

 

 これを解決するなら、実際に焼き鏝を当てるのではなく精神的に焼き鏝を当ててやればいい。具体的には、迦楼羅炎なり三昧真火なりで溶け落ちない限界まで熱されて白熱した神鋼製の焼き鏝でも想像して、それを当てたと言う感覚を何重かに想起しながら軽く熱した包丁でも当ててやればいい。そうすれば意志の力に作用して身体の方が勝手に火傷を作り出すだろう。

 そういった使い方はあまり好きではないのだけれど……守りたい物のためなら仕方ない。弱い私は、手段なんて選んでいられないんだから。

 

「来たぞ、古明地さとり」

「私が言うのもあれだけれど、いらっしゃい、八雲藍。家主の知らないところではあるけれど歓待するわ」

「……まあ、いい。それと、伝言だが確かに伝えておいた。聞くかどうかはわからないがな」

「聞かなければ聞かないでそれなりの事をするだけですので構いませんよ」

 

 八雲藍を勝手に通し、前菜のようなものとしてお揚げを短冊切りにしてゆでたほうれん草と一緒に胡麻和えにしたものを出しておいた。ほうれんそうも胡麻も、地底特産の物。地底では雪が降らないので甘みはあまり強くないけれど、決して不味いものではない。

「……中々、美味いな」

「家事万能の九尾の狐にそう言っていただけるとは、私も成長したものです」

「うむ。だが、紫様の味付けに似ているな」

「八雲紫の記憶から調理法を知りましたからね。好きでしょう?」

「……いやまあ好きだが」

「式神化して初めてあの方に作ってもらった時にあまりの美味しさに放心して───」

「頼む、やめてくれ」

「……駄目ですか?」

「駄目だ。やめてくれ。心を読むにしても隠そうとしているところまでは読まないでもらえるとありがたい」

「今の私には少し難しい話ですが、一応努力はいたしましょう。これ以上は(・・・・・)能動的に探ることはしませんよ」

「……どこまで探った?」

「暴れる→強くなる→さみしんぼ藍ちゃん→人に紛れる→退治されそうになる→八雲紫の式になる→ご飯作ってもらった→放心→泣きながら食べる→藍「私、紫様のために頑張r」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!?」

「そしてとある冬の夜、人恋しい八雲藍は八雲紫の床にこっs───」

「まてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?!?!」

「私、覚ですので。他者の記憶を思い出させ、そして沸き上がる罪悪感や羞恥心、狂気や殺意、そういった感情を糧にして生きる妖怪です。……あ、喜びや恐怖も糧にできますよ?」

「だからと言ってそれを出すか!?」

「どこまで読んだかと聞いてきたのは貴女でしょう? 私はあくまでも聞かれたから答えただけで……おや……ふむ」

 博麗の巫女から意識が届いた。私の奢りの食事と言うことで、友人を一人連れてくるそうだ。

 ……能力の封印をお願いしたいほどに能力が強くなってしまっている私に、仮にも友人を近付けようとは……人間の友情と言うものはわからない。ただ知らないだけかもしれないが……それは私が気にするようなことではない。

 わざわざ今の状態で他人のトラウマをほじくり返したりはしない。暇があれば他人のトラウマや黒歴史をほじくり返して愉悦するような私も違う世界のどこかには居るようだけれど、少なくとも私は相手が非常に高確率で壊れるとわかっているのに壊れかねないようなことはしない。

 

 ……あ、八雲藍にやった事に能力を使ったのは知るところまでであり、それ以降は単に言葉で記憶を刺激して勝手に思い出させただけだ。あまりに恥ずかしがりすぎた場合でも頭を壁に叩きつけるくらいで死ぬようなことはないだろう。本人からすればいっそ殺して欲しくなる程に恥ずかしいようだが。

「そんなに恥ずかしいなら思い出すのをやめてください。さっきからピンク色の記憶が流れてくるんですよ」

「ぬぁっ!? す、すまん……だが、考えないようにと考えると逆に考えてしまってだな……」

「……まあ、そう言うものだと理解はしています。頑張って押さえてみてくださいね」

 

 わたしはそう言いつつ立ち上がり、恐らくもうすぐ到着するだろう博麗の巫女とその友人の白黒の魔女を含めた三人分の料理を皿に盛って適当に並べる。お櫃にご飯をある程度取り、博麗の巫女がいつも使う箸と来客用の箸を出して並べる。地霊殿では料理自体はともかく、こういう仕事はお燐やお空がやってしまうから……久し振り、と言っていいくらいの時間やっていない。

「……ほう、これは誰の料理だ?」

「人里、妖怪の山、隙間の中、太陽の畑、地底、天界、三途の川、冥界、魔界、冥府、外界、異星に渡る広範囲。その過去全てと現在までの全ての生命体によって作り上げられた料理を読み取り、博麗の巫女の口に合うだろう味を再現しました。ですので『誰』と聞かれてもちょっと……」

「……お前の能力はそこまで強力なものだったか?」

「地底での異変からどんどんと強くなってきているんですよ。このままでは自滅しかねませんし、自滅した場合覚妖怪の本能に従って能力の届く範囲の全ての存在に恐怖と絶望と羞恥etcを振り撒いて精神的にぶち壊しかねないのでちょっと博麗の巫女に頼んで一時的に封印で能力だけ弱体化させてもらおうかと」

「……成程。それは不味いな」

「ええ。自分でも止める方法がちょっと思い付きませんから、先に対処してしまおうと思いまして」

 

 ……ちょうど、ここまで話して、ちょうど博麗の巫女が戻ってきた。それでは、ご挨拶と行きましょうか。

 


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