戦い。私の嫌いなものの一つだ。
殴られれば痛いし、殺されれば死んでしまう。私はそう言う荒っぽいことは嫌いだし、できれば無くなってしまえばいいとも思っている。
本当に世界から争いがなくなればそれはそれで色々と面倒な事になりそうだけれど、その面倒なことが私とは何の関わり合いも無いところで起き、何も関わり合いの無いうちに終息してしまうのだったらどうなっても構わないと思ったりもしている。
……つまり、何が言いたいかと言うと───
「解:圧倒的勝利」
「あんたのそれどうなってんのよ……」
博麗の巫女との弾幕格闘は私の勝ちで終わった、と言うことだ。それも、痛いのは嫌いなので、無傷で。
「どうなっているか……客に手品の種を明かしながら手品を披露する手品師がいますか?」
「世界のどこかにゃいるんじゃないの?」
「手品師がどうであれ、私はこういうネタは明かしません。最悪命に関わりますからね」
そんな感じで博麗の巫女の言葉を一蹴しつつ、縁側に座ってお茶を飲む。……初めて飲んだ時のほんのり薄緑色の色水ではなく、少々薄いと思うものも居るかもしれないが十分にお茶だと言える程度の物が淹れられている。
それに、博麗の巫女の食卓事情も大分改善されたようで、少なくとも一日に一度は肉・魚・豆等の『たんぱく質』を取ることができるようになったようだ。
……少し前まではもう……。
「……何よ?」
「いえいえ、どうやらちゃんと食べているようで結構なことだと思ったまでですよ」
食べなければ身体も大きくならないし、丈夫な身体も作れない。妖怪が生きていくには『知られていること』が必要だが、人間には食事が必要だ。食事が無ければ死ぬし、水が無くても死ぬ。ある意味人間と言うのはとても弱い存在なのだなと理解した。
そう、それが例え博麗の巫女であろうとも、人間と言うのは弱い存在だ。人間であるからこそ避けられない死と言うものが存在するし、人間であるからこそ避けられない終焉が存在する。人間らしく生き、人間らしく死んでいくのが人間の生き方。その軌跡に何かを残し、残された何かを誰かが継いで、人間と言うものは成長していく。それこそが人間が一番人間らしいと言える部分だと私は思う。
「しっかし、あんたのそれも反則よね。こっちの攻撃が全然当たらないじゃないの」
「当たらないようにしてもらっていますからね。お札のようなホーミング機能付きならば、第三の目を閉じて私の存在を溶け込ませれば追尾してこなくなりますし、針ならば投擲の時に指先をほんの少しいつもの位置からずらしてもらえれば狙ったところには飛びません。当たらないようにしているから、当たらないんですよ」
「……」
「『言っちゃってよかったの?』ですか。構いませんよ。博麗の巫女の封印があるのならばともかく、封印が無い状態で今の私の能力の効果から逃れられるものは存在しませんからね。神も仏も効果圏内ですよ」
全知全能と言われる神や、世界の全ての理を知る仏の心を読むのは……推理小説を読もうとしている時に後ろから犯人が誰だとかいう声が聞こえてきて話の内容がわかっちゃうようなやるせなさがあるから嫌いなのですが、できない訳ではないですしね。
「……じゃあ、能力を抑えられたってことで挨拶回りでもしてきたら? 今のあんたなら地霊殿に引っ込んでても外に出ていても変わらないでしょ」
「……確かにそうですね。では、そうさせてもらいましょうか。お土産とかあった方がいいですかね?」
「消え物の方がいいと思うわよ」
「では地霊殿新名物の地底うどんでも」
「……人間に食べられるの? それ」
「材料自体はありきたりな物ですからね。地底で育った小麦を使い、地底で取れた塩と湧き水で捏ねられた普通のおうどんですよ」
「……塩って具体的にどこで取れるわけ?」
「灼熱地獄跡で、罪人の肉体が焼かれた後に残る灰塩がいつしか風で灰だけ飛ばされて塩が残り、結晶化したものもありますが、基本は岩塩ですね」
「おいなんでそんな話をした。言え」
「取れる塩によっておうどんの味が変わりますので、解説は必要かなと」
「あーそうかい」
博麗の巫女は面倒臭げに溜め息をつく。畳にごろりと横になり、ぼんやりと世界から浮いている。
……これはある意味悟りの境地一歩手前だ。少し修行をすれば仙人でも菩薩にでも仏陀にでもなれるだろうに、面倒だからか自分のあり方を人間であると定めているのか人間のままあり続けている。
これだから、博麗の巫女は興味深い。実に、興味深い。
弱い人間。しかし、弱者でありながら当たり前のように強者を降すことのできる存在。化物と言う強者を、人間と言う弱者のままに打ち倒す。私の目標とする姿の片鱗と、人間の姿が僅かに一致する。
……まあ、それはそれとして……博麗の巫女の言う通りに地上探索と言うのも中々面白いかもしれない。引きこもっている間にもお燐や勇儀さん達から外の情報は読んでいたけれど、知っているだけではよくない。ちゃんと経験しなければ身にはならない。
私の能力は記憶に留まらず、当時の感情まで読み取ることができる。
しかし、記憶と感情がわかったとしても体に染みつくことは無い。そこまで深くわかってしまうと、私自身が自分を見失ってしまうからだ。
だからこそ、私は自分自身で得た経験を大切にするように心がけている。勿論、必要ならば他人から読み取った記憶で色々と判断することもあるのだけれど。
さて、それではそろそろ出発しようか。幻想郷の観光名所的な場所は……と
1、紅魔館
2、白玉楼
3、永遠亭
4、太陽の畑
5、妖怪の山
6、命蓮寺
これに人里と博麗神社を合わせておけば大体埋まると思うけど……とりあえず以前に異変を起こした順で行ってみましょうか。少し……どころではなく無駄な動きをすることになるけれど、実際にその場に行くことよりも幻想郷をこの目で見て回る方が個人的には重要ですし、問題ありません。
初めに目指すは紅魔館。吸血鬼であるレミリア・スカーレットが住む悪魔の館。悪魔と言って悪ぶりつつも、微妙に心優しいお嬢さんたちが住む場所らしい。
私の年齢からすれば、門番さん以外はまだまだ若い。500や1000なら即答で若いと言えちゃうくらい生きてきているのよね、私。
まあ、勿論神話の主神とかその辺りの存在まで若いとは言わないけれど、キリスト教の救世主さんくらいなら若いと言える。だから、もしも吸血鬼さんや魔法使いさんが色々言って来たら軽く流してあげたいと思う。まあ、別に敵対しに行くわけじゃないから変に構えられたりとか襲われたりとかはしないと思うけど。
そう思っていた時期が、私にもありました。
目の前には拳を構えた中華娘々。そして厳戒態勢を敷いている門番妖精に、普段は図書館から顔を出さないどころか根っこが生えているのではないかとすら噂される七曜の魔女に、時を操るメイド長。そして紅魔館の主でもあるレミリア・スカーレットと言うほぼフルメンバーがそこに並んでいた。
そして、明らかに全員の目に宿る敵対の意志。何もしていないと言うのにこんな目で見られるのは少しどころではなくおかしいと思うのですが、いったいなぜこんなことになっているのでしょうね?
……。
運命。妹、狂気、発狂、破壊、破滅、自殺――――――。
ああ、なるほど。そういう事ですか。
さてさてこれはどうするべきか……はっきり言って説明は納得してくれるかどうか微妙な上に納得してくれたとしても面倒臭いですし、とりあえず適当にお土産だけ置いて中を見物してから次の場所……白玉楼に向かうとしましょうか。大事な大事な妹さんは……図書館の地下室、ですか。
まあ、他の家庭の問題に首突っ込むほど無粋でもないですし、適当に逃げさせてもらいますよ、紅魔館の皆々様。