当方小五ロリ   作:真暇 日間

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20 私はこうして歓待を受ける

 

 その話は、私が思ったよりも長くはなかった。とある亡霊が、自分の庭に咲く多くの桜のうち、一つだけ花を咲かせない桜の気があることを気にしていて、その桜の木が満開になったところを見てみたいと思って起こした異変。それが今回私が聞いている『春雪異変』だと言う。

 西行寺の亡霊姫はそう語り、私も彼女の心の内にある当時の想いが今説明されたそれと何ら変わらないと言う事を確認した。

 

 ……お空が起こした異変ではもう本当に大変だったと言うのに……そもそもあれは山の神と呼ばれている守矢神社の神の片割れが必要もない産業革命だのなんだのを目指して核のエネルギーとある意味最も身近な核反応である太陽の化身をお空に無理矢理に突っ込んだりするから起きた事件で、そもそもの発端は春雪異変と同等かそれ以上にくだらないものだった……。

 ……なぜ、幻想郷で起きる異変は基本的に原因がくだらない割に被害が大きくなるのだろう。もう少しおとなしく過ごせないのかと小一時間問い詰めてやりたい。特に八坂神奈子に。

 

「……あら、私の話はつまらなかったかしら?」

「……いえ。異変の原因を聞いて、ちょっと以前かけられた非常に迷惑な出来事を思い出してしまい……」

「あら、あなたも異変を?」

「正確には私ではないんですが……妖怪の山に最近できた神社をご存知ですか?」

「ええ、勿論。なんだか常識に囚われない風祝と親馬鹿な神様が一柱と野心の強い神様が一柱居ると妖夢に聞いたことがあるわ」

「まあ、その表現が非常に的確に事実を捉えていることは置いておくとしまして……その二柱いる神のうちの野心が強いガンキャノンの方に色々とやられまして」

「がんきゃのん?」

「背中に大きな柱と注連縄を背負った基本的に身長の高い姿を見せている方です」

 

 つい外界に存在する物の名前で言ってしまったけれど、そう言えば幻想郷にガンキャノンはまだ存在していなかった。最近まで外界に居た本人たちなら知っていてもおかしくは無いけれど、いつからかは知らないけれどずっとこの屋敷に引きこもっていた彼女が知っているはずもない。

 彼女の能力が情報を集めたりするものならば可能性はあるけれど、彼女の能力は『死に誘う程度の能力』。最大限拡大解釈すれば『情報を自分と言う死の具現に誘う』ことで情報を集めることはできなくもなさそうだけれど、その方法で集めた情報は文字通りに『死んで』しまっているため役には立たないだろう。

 だから、たとえ彼女が私の考えたような方法で情報を集められたと仮定してもその情報が役に立つ事は無いし、そもそも彼女はそうやって情報を集められると言う使い方を考えついてすらいない。

 私たちの持つ『程度の能力』は言葉に宿った概念のようなもの。『○○程度の能力』と言う言葉から本人が連想して、その連想に一定の納得さえできてしまえば使えないはずの能力ですら使えるようになることもある。私のように。

 それがわかりやすいのは今代の博麗の巫女。『空を飛ぶ』と言う能力の拡大解釈として『浮く』ことができ、『何から』浮くかを自分で決定させることができるようになった。

 つまり、程度の能力とは自分である程度限界を越えられる能力である。

 

 ……ちなみにこの考察を他の存在に聞かせた事は無い。なにしろ能力については割と重要なことだし、もしも八雲紫が思い込みで能力を強化して、それが思い込みの結果による物だと認識してしまった場合、博麗大結界の根幹を支える『存在しなくなった存在や概念を結界内に引き込む』と言う事ができなくなる可能性がある。

 そうなれば当然結界内に居る私たちは結界の外に弾き出されたり、最悪結界に押しつぶされて消えてしまったりする可能性もある。そんな恐ろしい賭けをする気は毛頭ない。

 私は平凡な存在だ。賭け事は自分が勝つ可能性が少なくとも八割以上無ければする事は無いし、さらに賭ける物の内容によっては勝てる確率が九割九分を超えていたとしても受けないこともある。この話もその一つだ。

 私の選択次第で幻想郷を終わらせるようなことになれば、私は恐らく後悔する。今となっては幻想郷でしか存在できない妖怪も数多くいるし、妖怪を世界に知らしめたとしても、現在の外の世界の科学などによっては一方的に殺し尽くされてしまうと言う可能性もある。

 

 ……可能性があり、その結果次第では私達は滅ぶ。ならば私はこんな話を他人にすることなく、この幻想郷でのんびりと暮らしていきたい。生きている存在ならば、そう考えるのはおかしくないはずだ。

 

「……まあともかく、色々あってその神から干渉を受けて起きた異変に巻き込まれたのですよ」

「あらあら、大変ねぇ」

 

 ……結果的に死を振り撒く桜を満開にさせようとした亡霊姫と、地上を新たな灼熱地獄に変えようとしたお空。私がある程度以上詳しく知っている異変の中でもかなりの危険がある二つ。しかしお空はともかく、亡霊姫のちょっとした気まぐれから始まったこの異変がそこまで膨れ上がるとは普通は思わない。全く、本当に幻想郷は常識の通用しない場所だ。

 他に危険な異変と言えば、天界に居るとある天人の起こした気質の操作と、竹林の奥に隠れ住む薬師が起こした月の交換……くらいだろうか。

 紅魔館で起きた赤い霧は気分が悪くなる人間こそ出たものの、あまりに長い時間でなければ作物や動物にも影響はあまり出ないし、酒呑童子の起こした三日おきの百鬼夜行は実質宴会をやり過ぎるだけ。博霊の巫女の懐事情的にはあまり良くなかったかもしれないが、それは私の関与するところではない以上大した被害は無いとしか言えないし、つい最近起きたばかりの宝船の異変は実際には妖怪達が頑張って昔世話になった尼の封印を解いて恩返ししようと頑張る話だ。その解こうとした封印も尼を基点にして大きな災いを封じ込めるといった人柱のような側面を持つわけでもなく、ただただあの尼を封じることのみを目的としたもの。解けたところであの尼が出てくるだけで幻想郷に被害が出ると言うことは……まあ、無いと言ってもいい。

 要するに、基本は下らないことから異変は始まり、そのくせ最終的に多くの人妖を巻き込んで無茶苦茶な被害を出しそうになったところで博霊の巫女に止められると言うことが多いわけだ。

 初めから大きな事を目的にしていたのは、恐らく私が地上に出るよりずっと以前にあったと言う『吸血鬼異変』くらいだろう。幻想郷を支配しに外界から館ごとやって来て色々暴れ、しかし当時の博霊の巫女と八雲紫に……見事にと言うべきか無惨にと言うべきか、叩き潰され、そして幻想郷の最低限の暗黙の了解を守ることを約束させられた。

 吸血鬼はその種族自体が有名になっているため勘違いしている者も時々居るが、悪魔である。悪魔と言うカテゴリ内に存在する、吸血鬼と言う種族である。

 つまり、悪魔の在り方として『嘘をつくことができない』のだ。

 悪魔にとって契約は絶対だ。ありとあらゆる場合において、既に結ばれた契約は遵守されなければならない。ある意味で悪魔の一番恐ろしい能力は、そういった契約を自分だけではなく契約相手にも遵守させる強制力を持つことだ。その契約を自分が破れば弱体化し、契約を相手が一方的に破ればその相手の全てを奪い去る事もできる。

 

 ……契約を気分と実力で破り、平然と嘘を吐くような神よりよほど誠実な相手だと思いますね。本当に。

 

「……ところで、先程から庭師の彼女が何か作っているようですが……」

「今日のお昼よ。一緒にいかがかしら?」

 

 にっこりと笑顔を浮かべ、私を食事に誘う。まったく、八雲紫から私のことは聞いているでしょうに……。

 

「……では、お言葉に甘えさせていただきます」

「我が家の調理師が腕によりをかけた料理をどうぞ楽しんでいって下さいね」

 

 


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