当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 ……なんでこうなったし。


23 私はこうして月姫と語る

 

 永遠亭の奥にある部屋。輝夜さんの私室であるそこは、かなり綺麗に片づけられていた。

 ただ、壁には大きなブラウン管のテレビが置かれ、そこに外界から流れ着いたものであろうゲーム機が繋がれているのを見る限り、やはりこの場所は月の最高頭脳と言われた八意思兼神が手ずから作り上げられた場所なのだと理解する。

 

「あ、それ気になる? それは―――」

「―――いえ、これが何かはわかります。正確な名前は興味がなく覚えていませんでしたが……外界の家庭用ゲーム機と言いましたか」

「正解。まあ、さとりんは覚妖怪なんだし知ってて当たり前か」

「できれば『さとりん』はやめていただけませんか」

「ダメ」

「……そうですか」

 

 ため息を一つ。こうして私と向き合いながらも自分をしっかりと表現するのは鬼も同じだが、どちらにしろ真正面から相手にするのはやりにくいにもほどがある。普段ならもう少し余裕があるはずだが、今の私は交渉などをする余裕がない。

 ―――こうなれば、交渉などは考えずに純粋にこの場所を楽しむことを最優先に行動しよう。そうしていれば彼女も、この部屋の音を聞いている八意思兼神も私がどういった存在かを理解してくれるはずだ。

 そう思って行動した結果、ここの玉兎を発狂させてしまった……と言うか、私を見た途端に勝手に発狂してしまったのだけれど、きっとあれはレアケースのはずだ。少なくとも私と出会ってすぐに勝手に発狂してしまった相手の数はそう多くはない。それなりに長い時間生きてきているが、そんな相手はまだ………………多くとも両手で数えることができる。数える時に使う指の使い方は少々特殊なものになるだろうが、私の言葉は決して間違いではない。

 それに、このゲームと言うものにも興味がある。知識でその存在は知っていても、実際にやって楽しめないかと聞かれれば『そんなことはない』と答えよう。実際に見るのと誰かがやっているのを見るのとでは大きな違いがあるということは私もよく知っている。

 

「……やってみる?」

「いいのですか?」

「それ最後にやったのいつだったっけなぁ……多分スコアアタックかタイムアタック系の何かだと思うんだけど」

 

 そう言われて輝夜さんの記憶を探り、今から一番近いこのゲームをやった記憶を覗いた。

 

「……対戦ゲームを不老不滅の妖術使いとやっているのが最後のようですが」

「え、妹紅と?」

 

 そうだったっけ? などと呟きつつも、一つのコントローラーを私に渡してからゲームの電源を入れた。テレビの画面に動く絵が映り、そしてゲームが始まったようだ。

 

「まずはチュートリアル的な感じのをやったほうがいい?」

「一応技の出し方やキャラクターによって変わる技、コンボの繋げ方なども知識にはありますが、できれば少し練習させてくれるとありがたいですね」

「んじゃトレーニングモードで……」

 

 ジョインジョインジョインジョイン、と妙な音とともに矢印が動き、それに合わせていくつかの文字列の色が順に変わっていく。そして輝夜さんが決定ボタンを押すと、画面が大きく切り替わる。

 そこには何人もの人間の顔が並んでいた。この画面で顔の出ているのか今自分が使うことのできるキャラクターで、持っているコントローラーを操作して誰かを選んでそのキャラを動かす。大雑把な説明はその程度だけれど、なんとも的確でかつ大雑把な説明なのかと呆れてしまう。

 しかし、それで十分だ。私は素人だし、あまり細かく説明されても戸惑ってしまって使いこなせないだろう。

 

「それじゃ私は……」ジョインジョイントキィ

「では……」ジョインジョインジョインジャギィ

 

 お互いにキャラクターを選ぶと、また音が鳴る。

 

「じゃ、始まるわ。こっちはこっちで技出してみるから色々やってみるといいわ」

「はい、では……よろしくお願いします」

 

 お互いの使うキャラクターが向き合い、私はとりあえず出しやすそうなコンボから攻めてみることにした。

 

 ヒャッハーペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッヒャッハー ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒ ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒK.O. カテバイイ

 

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「…………初心……者?」

「実際に見たのも触ったのも初めてですよ?」

 

 そう、経験で言えば私は間違いなく初心者だ。ゲームに触って三分もない、技の出し方などを知っているだけの初心者に過ぎない。

 そんな初心者に向けられるこの疑惑に満ちた視線。実に酷いものだと思う。私は本当に初心者だというのに。

 

「……ならこっちも全力で行かせてもらうわね」

「お好きにどうぞ。私も好きにやらせていただきます」

 

 そこから暫く、ゲーム内で無数の読み合いと殴り合いの応酬。私は輝夜さんの心を読んでそれに合わせて反撃し、輝夜さんはその行動を察知して即座に手を変えようと永遠と須臾を操る程度の能力で対応してくる。お互いにかなりやりたい放題している。

 まあ、流石に私も輝夜さんも相手に直接干渉したりはしない。やろうとすれば私は輝夜さんにわざとコンボを失敗させることができるし、輝夜さんもやろうとすれば私の動きを非常に遅くして一方的に嬲り殺すことだってできる。

 それをしないのはお互いにこれが遊びだとわかっているからであり、同時に『そこまで気の許せる仲にはなっていない』という意思の表れでもある。

 

「そうそう、輝夜さん。一つよろしいですか?」ジョイヤーフンッジョイヤー!

「なに? 答えてもいいと思えることなら答えるわよ?」ナントバクセイヒカヌッコビヌッカエリミヌゥ!

「そもそも私がここに来た理由なんですが、ずっと引きこもっていて地上のことをあまり知らなかったのでいろいろ教えてもらいに来たんです」K.O. テイオウニハイボクノニモジハナイ

「ああ、それなら永琳に聞いたほうがいいわよ。私はほとんど実行には関わってないからよくわからないし」ジョインジョイントキィ

「そうなんですか……わかりました。時間ができたら聞いてみることにします。輝夜さんはどの程度までご存じで?」ジョイントキィ

「ほとんど知らないわよ。ただ、永琳が私を守ろうとしてやったことだっていうのは知ってるし、色々話を聞いてその方法が『月を偽物とすり替える』なんて言うことだったとか、八雲紫(あの胡散臭いスキマ)がそれをやらせないために一時的に月の運航を止めたのが『永夜異変』の真相だとかね」デデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニー

「十分ですよ。そもそも私は情報戦にはかなり強いですし、それなりに広い範囲から記憶という形で一般的な、あるいは裏向きの真実というものを確認できますからね」ナギッナギッナギッ

「ふーん」ナギッナギッナギッ

「……ああ、妹紅さんの貴女への奇妙な感情もわかりますね」ナギッナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッ

「……」カクゴォナギッナギッナギッ

「動揺しましたね。気になりますか?」フゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッ

「別に?」カクゴーハァーテンショウヒャクレツケンナギッ

「では、八意思兼神の内心などには興味ありませんか?」ハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケン

「え、何それすっごい気になるんだけど」K.O. イノチハナゲステルモノ

「そうですか。まあ、こちらも色々と教えていただきましたし、私からも教えてあげますよ」バトートゥーデッサイダデステニー

 

「……ただし」

「そう、ただし」

 

「「この勝負に私/貴女が勝てたらね」」

 

 ……この後、即座に有○破顔拳で私が勝ったため、八意思兼神の内心暴露は見送られ、輝夜さんにお土産まで持たされて一度地霊殿まで帰宅しました。

 




 
 …………もう一度。なんでこうなったし。

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