当方小五ロリ   作:真暇 日間

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24 私はこうしてお客を迎える

 

 地霊殿に戻ったのはいいのだけれど、時間がかなり遅くなってしまった。妖怪として夜に行動して昼にも行動するというあり方は実は結構正しかったりするのだけれど、私はそんな中で割とよく眠る。一日に十二時間の睡眠を基本とする上に、当たり前のように冬眠までする八雲紫のような妖怪ほどではないが、とりあえず嗜好品として睡眠を取ることがある。

 勿論体力や妖力などの消費が激しければ回復を促進するために眠ったりもするし、大きな傷を負えば気絶したりもする。そもそも妖怪として普通に過ごしていれば睡眠をとる必要はない。

 それでも私が睡眠をとるのは、それがとても気持ちのいいものだからだろうか。

 疲れていようがいまいが柔らかなベッドに身を委ねて瞼を閉じるのは安らぐものだし、同時に気持ちのいいものでもある。目覚めた時に十分な睡眠が取れていれば疲労なども吹き飛び、僅かに固まってしまった身体を解せば気分もよくなる。眠る必要がないからと言って眠らないのは勿体ない。

 勿論、今にも消えてしまいそうな妖怪ならば眠ることで妖気の回復や傷の回復を早めることもあるが、眠っている間に消滅してしまう事もある。眠らずに行動を続け、血肉を喰らった方が効率がいいと思ってその通りに行動する者もいる。そんな輩は眠るようなことをあまりしない。

 

 何が言いたいかと言えば、私は寝ることがそれなりに好きだと言う訳なのだが……では、ここで一つ私の目の前で起きているある出来事について質問てみましょう。

 

 Q.私の目の前にお客さんがいます。誰でしょう。

 

 1.「来ちゃった♪」と笑顔ではにかむフランドール・スカーレット

 2.「ちょっとお話いいかしら?」とにっこり笑顔(ただし弓矢持ってる)で話しかけてくる八意思兼神

 3.「ちょっと時間いいかしら?」とスキマから現れた八雲紫

 4.「よう!」と酒の匂いを振り撒きながら笑う勇儀さん

 

 考える時間はあまりありません。それでは皆さん気合い入れなくてもいいので考えてみてください。

 シンキングタイム三行!

 

 

 

 ……はい時間です。答えは───

 

「……まあ、構いませんよ。疲れているので早めにお願いしますね……八雲紫」

「ええ。わかっているわ」

 

 はい、八雲紫でした。

 突然空中にスキマが開いて中から八雲紫が出てくると言うのはどうかと思いますね。いつでもどこでも覗きができる能力……ある意味実に恐ろしい。

 

「それで、何用ですか?」

「あら、貴女ならば何も言わなくても理解できるのではなくて?」

「理解できるからと言って会話をしない理由にはならないと思いますけどね。少なくとも私はそれなりに会話を楽しむタイプですよ」

「会話と本音の食い違いを……ではなくて?」

「違いますよ。……それで、話をしに来てくれたのでしょう?」

 

 ───月の入れ替わりと言う異変を妨害するために、『永夜異変』を起こした犯人として。

 私の言葉に、八雲紫はクスクスと笑いながら扇で口許を隠す。境界で一応私に本心を探らせないようにしているらしいが……どうやら私の能力はその程度では防げないようですよ、八雲紫。

 と言ってもわざわざそんなことを本人に伝えようとは思わない。防げていると思わせておいた方が色々と便利ではあるし、例え本人が『この程度で防げているわけがない』と思っていればそれはそれで悪くない。

 

「今日、竹林に行って話を聞いたのでしょう?」

「ええ。外界のゲームを楽しみながらね。話もゲームも中々面白かったわ」

 

 ちなみに貰ったお土産は月見団子だったので、夕食の後に皆で少しずつ食べた。記憶を確認してみた限り誰も妙な薬や術を仕込んだりはしていないようなので安心して食べることができた。

 あちらではどうやら私が持っていったうどんを食べたようで、まあ好評であった。月の存在だったと言うことも考慮してできるだけ浄罪済みの材料を使って穢れのない食べ物にしてみたのだが、その辺りもしっかり評価されていた。

 ただ、玉兎はまだ目覚めていないようだ。一応加減はした筈なのだが、どうやら身体ではなく精神面に問題があるらしい。相当精神を酷使したのか、正気と狂気とが入り雑じっている。確かにこれでは中々起きないだろうと納得できる病状だ。

 彼女の『狂気を操る程度の能力』……正確には『波長を操る程度の能力』。これにより、彼女は何事に対しても過剰な反応を示す。それが恐怖や狂気を示すものならより大きな反応を見せるだろう。

 ……その結果があれだ。もう少し気を強く持たなければ宝の持ち腐れと言うものだと思うけれど……それもまた個人の特徴か。

 

「……考え事はそれで終わり、と言うことでいいかしら?」

「ええ、まあ。あと三分あれば玉兎を起こしてあげられたのですが」

「もう夜よ。起こすなら朝にしてあげなさいな」

「では、朝に起こそうとしても起きないんですと八雲藍に愚痴を聞かされたこともありますし毎朝私が起こしてあげますよ?」

「……聞きたくないけれど方法は?」

「自分が寝ていて気付かない間に幻想郷が崩壊して妖怪達が外界の科学に鏖され、楽園が崩壊した所で目を覚まして起きた現実に愕然とし、暴れようとしたものの幻想を否定する概念に満ちた世界では妖力を思うように使えず、一方的に銃撃され傷つけられ倒れ伏して『もっと早く起きていればこんなことには……藍……ごめんなさい』と言い切ることもできずに粉々にされた……と言う夢を『想起』すればいくら貴女でも起きるでしょう?」

「その代わり寝起きが最悪なものになりそうね」

「実はその寝起きというのも夢で、その日を平穏無事に過ごしたと思ったら今度は八雲藍の視点から同じ夢を見てまた飛び起きたら同じように幻想郷が崩壊していて、人間に殺されて、起きて、平穏に暮らして、起きて、幻想郷が崩壊していて――――――千回もやれば起きるでしょうか」

「精神を病んで私が死ぬわよ? 何の混じりけもない本気で言わせてもらうけれど流石にそれは精神的に死ぬわよ? 妖怪の精神が死んだらそれは本当に死ぬわよ?」

 

 八雲紫はかなり本気で私に詰め寄ってくる。心の中でも間違いなく本気だ。どうやらそれは本当にきついらしい。

 なら、他に何か考えなければ。冗談で殺すには惜しい相手だし。

 

「はいはい、わかりましたよ八雲紫。安心してください、冗談ですから」

「本当ね? 本当に冗談ね?」

「ここで言葉を濁したりしてはいろいろと洒落にならないことになりそうですからはっきりと言わせてもらいますが、本当に冗談ですよ。敵対関係にでもならない限りはやりません」

 

 私はあまり動かない表情を自分なりに笑顔に近づけ、笑みの形をとらせた。何故か八雲紫は戦慄しているようだったが、さっきの話は冗談ということにしたので安心してほしい。

 

「それよりも、私に話があってきたのでしょう? 何の話ですか? 私が最近起きた異変の話を聞いて回っているという話を聞きつけて永夜異変のもう一人の首謀者として色々と聞かせてくれるのですか?」

「……ええ、そうよ」

 

 八雲紫はやけに疲れたような顔でそういった。なぜそこまで疲れているのかはわからないが、幻想郷の管理人として色々あるのだろう。つい先日も異変扱いされた事件が起きたばかりだし、そう言うところでも苦労しているのかもしれない。

 ……今日は泊っていってもらうことにしよう。そして私が能力を使って精神的に癒してあげよう。その後は紅魔館に残した手紙の通りに妹の方……フランドールの夢の中に入って話をしてこなければ。

 まったく、本当にいろいろと忙しい。日帰り小旅行に知り合いの精神のケアに怨霊管理。旧灼熱地獄の火の管理にペット達の面倒も見てやって……仕事は尽きない。

 けれど、そういう忙しい日常もまた悪くはない。つまるところ、そういう日常を幸せなものだと思うことができることが大切なのだ。

 

 私は八雲紫に彼女が知った永夜異変の裏側のことを色々と質問しながら、そんなことを考えていた。

 


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